京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

「イケガキ」の生態学

2024年12月06日 | ミニ里山記録

     ヨーロッパの田園を縁取り、畑を区分する役割をはたしている生垣の大部分は、中世あるいはそれ以前から続いている完全な人口生態系である。これは現在、多様性と魅力あふれる生態系を構築している。北米と違ってヨーロッパの生垣は樹木、灌木、草、小動物、鳥、多様な昆虫や無脊椎動物が複雑にあつまって構成されている。厚生林でも完全に開かれた土地でも補償できない、ゆたかな動植物の宝庫になっている。日本でも生垣(イケガキ)は防風林としての役割だけでなく「生きた垣根」として人の生活の中で機能している。

  (ルネ・デュボス著 「地球への求愛」より 長野敬訳 思索社 )

 

追記(2024/12/06)

日本において生物多様性にかかわる人工生態系は1)神社や寺の森(鎮守の森)、2)河川敷や遊歩道、3)大きな古い屋敷の森、4)町屋の坪庭、5)街路樹の根元の空間などがある(スケールが小さいが多数あれば意味がある)。

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ミツバチの飛行速度はヒトに換算するとジェット機並!

2024年10月20日 | ミニ里山記録

 

 トーマス・シーリー (1952~)はコーネル大学神経行動学の教授である。分蜂群がどのように巣を選ぶかといったメカニズムに集合知のようなものがあることを発見した。シーリーの著『野生ミツバチの知られざる生活』(青土社)によると、ミツバチの巡航速度は時速約30kMだそうだ(蜜胃が空のとき)。ミツバチ成虫 (体長1.5cm)とヒト(計算上身長1.5mとして)を比較して、これをヒトの速度に換算するとなんと時速は約3000kmになる。これは航空自衛隊のF-15戦闘機のそれに匹敵する。ミツバチは3kmを6分で飛行するが、3kmはヒト換算で300kmである。京都を起点とするとこれは、静岡県島田市付近である。彼らは自分の大きさを考えると、恐るべき長距離を短時間で移動していることになる。

 シーリーによると、セイヨウミツバチの野外巣の最適環境は、南向き、高さ5M、入り口(12.5cm2)、底部巣口、容積40L、巣板付属といったところである。巣の形や湿度、隙間の有無はあまり入巣には影響していない。彼はさらに1871例の尻振りダンスを解析し、えさ場の距離を計測し分布をまとめている。コーネル大学の「アーノットの森」では、えさ場は再頻度0.7Km、中央値1.7Km、平均距離2.3km、最大距離は10.9kmであった。平均距離は時期によって2-5kmの間で変化した。ニホンミツバチを用いて同様の研究が佐々木らによって玉川大学構内で行われた(1993)。その結果、ニホンミツバチはセイヨウミツバチに比較して近い(2km以内)えさ場を利用しているようである。ただ、これらのデーターは資源の様態によって当然変化する事を忘れてはならない。

 シーリーは距離や方角だけでなく野外コロニーの巣を発見する方法も開発した。ある地点にエサ(砂糖水)を置き、ミツバチを誘因する。それにマークを付けて、飛んで来る直線方向(ビーライン)にえさ場を移動し、再度、ミツバチを誘因する。マークの付いた個体がえさ場に通う時間を計算しておおよその巣の位置を特定した。

シーリーは最後に「ダーウイン主義的養蜂のすすめ」を提唱している。理想とする養蜂とはミツバチをできるだけ、その自然の生き方に干渉せずに飼育するというものである。具体的には1)環境に遺伝的適応したコロニーを飼育すること。ニホンミツバチの場合は、例えば東北地方のコロニーを西日本に輸送して飼うなどは、遺伝的攪乱の可能性がある。2)適度な密度で飼育することも肝要なことである。高密度飼育は盗蜂や他巣入りを誘導する。また病気の感染が一気に広がるリスクが高い。3)巣の容積は40L以下に抑えるべきである。大きな巣は、自然分蜂を妨げ、ダニなどの感染爆発を引き起こしやすい。また資源の局所的枯渇を引き起こす。4)多様な資源の下に、ミツバチを飼育する必要がある。資源の多い場所でのコロニーは病気になりにくい。などなど....。ミツバチを飼って単純に「エコ」だと思うのは間違。

 

参考図書

佐々木正己 『ニホンミツバチー北限のApis cerana』海游舎 

 

追記2024/10/20

一秒で自身の体長の何倍移動できるかをBLPSという数値で表す。知られている限り最大のBLPS生物は長さ数ミリのカイアシで1,778だそうだ。人はせいぜい6.1。ミツバチは計算すると、おおよそ500ぐらいでハチドリの385より大きい。

参考:ジョエル・レビィ著 「デカルトの悪魔はなぜ笑うのか」創元社 2014年

 

 

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スムシがいないと地球はミツバチの巣盤で溢れる!

2024年10月16日 | ミニ里山記録

 

 スムシはミツバチに付き物の寄生者である。種類としてはハチノススズリガ(Galleria mellonella)やウスグロツヅリガ(Achroia innotata)などがいる。

ホンミツバチの巣が突然、オオスズメバチの群れに襲われて逃去した。重箱式巣箱の上段3個は蜂蜜が詰まっていたので、これを収穫し、下段2個をスムシの分解実験に使った。そこには幼虫や花粉の入った巣盤が詰まり、巣の底には、うろうろする小さなスムシの幼虫が2-3匹いる状態だった(写真 1)。

(写真1.)

 

3週間ほどたって、どうなっているか見てみると、巣盤のほとんどが解体されており真ん中は抜けていた(写真2.)

(写真2)

 

 

さらに1週間後には、中の巣盤はほぼ完全に分解されて、巣の底に黒い細かな糞が大量に溜まっているのが観察された(写真3)。おそるべき消化分解力といえる。雑食性で木材やプラスチックなども分解するらしい。庵主はスムシが発泡スチロールをボロボロにしているのをみたことがある。

(写真3)

 

肝心のスムシはどこにいっかたというと、上に重ねておいた最上段の重箱の天井に何十頭も繭を作りそこに入りこんでいる(写真4)。蟻を防御するためか頑強な繭で、ペンチで引きはがすのに苦労する。こんな数のスムシがいままでどこに隠れていたのだろ?

(写真4)

ミツバチの巣盤はワックス(炭化水素)だから、カビや微生物では分解は困難で、スムシの迅速・完全な消化がなかったら、おそらく野山の営巣場所では使いものにならない古巣がいつまでも残っているだろう。おまけにスムシの幼虫は木材に朽ちこみをいれるので、巣穴の拡大にもなる。

 スムシは養蜂の嫌われ者のように扱われているが、生態系の重要なリサイクラーなのだ。そもそも、スムシがわくからミツバチが逃げるのではなく、なんらかの理由でコロニーが弱体化するのでスムシが繁殖するのである。それまではおとなしい掃除屋として、隅のほうで共生しているのだ。ミツバチ弱体化の原因を取り除かなければ、これを排除しても解決にはならない。スムシはミツバチの有益な共生者である。

 

 

 

 

 

 

 

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ドクロの面を持つ蛾がミツバチを襲う

2024年08月21日 | ミニ里山記録

 

 学名 Acherontia styx。スズメ科メンガタスズ属。英名はdeath-head hawkmoth.

 ロンドンの郊外にあるシルウッドパークという学園都市に立ち寄った時、多くの民家の花壇に、ミツバチの巣箱が置かれているのを見た。趣味と実益といった事もあるのだろうが、ヨーロッパにおける養蜂の長い歴史文化を垣間みた気がした。イギリス人にならったわけではないが、定年後、ニホンミツバチを飼い始めた。いま住んでいる家は京都市の真如堂のそばにある。庭に待ち箱を置くと、ほとんど毎年、ニホンミツバチの分蜂群が入る。

 ある夜、巣箱でギギギ•••といった異様な音がするので、巣の蓋をはずし、懐中電灯で中をのぞくと大型の蛾がいた。ミツバチの巣を襲って蜜を盗むメンガタスズメガ(面形雀蛾)の成虫だ。背中にドクロのような不気味なマークを持っているので面形という。おまけに体のどこを振動させるのか、蛾のくせに鳴くのである。口吻は短いが強靭でミツバチの巣に入り込んで巣盤に穴をあけて蜜を盗み取る。ときどきミツバチの返り討ちにあって巣箱の傍に死骸が転がっている。

 セルゲーエフ・ボリス・フェドロヴィチという人の書いた本「おもしろい生理学」(東京図書:金子不二夫訳、1980)によるとメンガタスズメの出す音は、女王バチが巣内で出す音と同じ声色で門番バチをだますそうだ。擬態ならぬ擬声か?ただし、この話を文献検索しても、これに関する論文は見当たらなかった。ちょとあやしい。

 

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今年の二ホンミツバチ分蜂

2024年08月05日 | ミニ里山記録

2024年3月 越冬2群の二ホンミツバチうち1群はアカリンダニのために消滅。

4月22日 生き残った群から、午前11時ごろ第一回分蜂(写真1)。庭の桜の幹に蜂球を作る(写真2)。網で捕獲し、別の巣箱に取り込む。中群で順調に営巣している(写真3)。

 

(写真 1)

 (写真 2)

(写真」3)

 

  4月24日 第二回分蜂群。シロバナキンリョウヘンを傍においた丸胴の巣箱の外側サイドに自然分蜂群がきて、蜂球形成(写真4)。巣に入れるが、再びもとの場所にもどり蜂球形成。そのまま放置する。由来不明。

 

 (写真 4)

 

4月25日 翌日、13時ごろ、隣の別の巣箱に集団で移動。小群ながら順調に巣盤を作りはじめている (写真5)。

 

 (写真 5)

7月中旬

 

 

第三回分蜂 シロバナキンリョウヘンに。小群。ミカン箱の巣箱にとりこむ。由来不明。

7月中旬

 

5月11日アカバナキンリョウヘンに第4回分蜂群(中群)。重箱巣にとりいれる。、おそらく野生の他群由来。

 

8月3日重箱巣に夏分蜂

1000匹程度の小群なり。

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地球温暖化とナガサキアゲハの「江戸参府」

2024年08月03日 | ミニ里山記録

 

   ナガサキアゲハの雄(2023年8月京都市内で撮影)

 

  庭の山椒の枝に大型の黒蝶が悠然と止まっているのを見つけた(上写真)。ナガサキアゲハ(Papilio memnon)の雄である。このチョウはアゲハチョウ属に分類され成虫の前翅長は60-80mmに及ぶ。関西地方で観られる黒色系のアゲハ蝶はこのチョウの他に、クロアゲハ、カラスアゲハ、ミヤマカラスアゲハ、モンキアゲハ、ジャコウアゲハ、オナガアゲハがいる。ナガサキアゲハの雄はクロアゲハに、雌はモンキアゲハに似ているが、このチョウは後翅に尾状突起が無いことが特徴である(後述するがメスには尾を持つものがたまにいる)。雌雄とも前後翅の裏面基部に顕著な赤い斑点がある。このチョウは東南アジアインドネシアの島嶼から、中国台湾を経て日本まで広く分布しており、いくつかの亜種に分かれている。

 ナガサキアゲハは、そもそも南方系のチョウで、1980年頃までは九州全県および四国南部の平地から低い山地帯にかけてふつうに見られたが、本州では山口、広島でまれに観られる程度であった。しかし1980年代半ば頃から、近畿地方でも目撃と捕獲の記録が出始め、1990年に岐阜県、1992年に愛知県で、さらに2000年ごろには横浜や東京都内でも見られるようになった。白水隆の蝶図鑑には2006年に、三浦半島で定着し普通に見られるようになっていると記載されている。このチョウの北進は東京で止まることはなく、2007年に茨木、2009年に福島、宮城でも確認されるようになった。2012年には仙台市で、ナガサキアゲハの5齢幼虫がカラタチに定着していたというインタネット情報もある。ナガサキアゲハ以外にもモンキアゲハ、クロコノマチョウ、イシガケチョウ、ヤマトシジミなどのチョウ類も同様に分布を北に広げている。その原因は、地球温暖化により平均気温がどこも昔より高くなっているためである。急速に分布を広げるナガサキアゲハは地球温暖化の「環境指標生物」とされている。今後、青森さらには北海道でも目撃される日が来るかもしれない。          

 江戸時代、長崎出島に常駐していたオランダ人は、将軍を表敬訪問するため江戸参府を行うのを習わしとしていた。フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトも1826年2月15日、商館長のシュツルレルに随伴して長崎を出発し江戸に向かい、4月10日に到着している。こういった歴史的事実をなぞって、このチョウの東京までの北進を「ナガサキアゲハの江戸参府」とマスコミは報じた。     

 日本に棲息するナガサキアゲハP. memnon thunbergii の亜種名 "thunbergii"は、シーボルトが命名したもので、18世紀に来日した長崎のオランダ商館医で植物学者のカール・ツンベルクに敬意を表したものである。シーボルトは1823年8月12日出島に上陸し、わずか二か月後に小論文[DieDe historiae naturalis in Japonia statu(日本における自然史の現状)]をラテン語で書き上げている。これは翌年、バタビアで出版されたが、そこで紹介されたのは哺乳類5種、鳥類2種、爬虫類1種、魚類1種、甲殻類14種、昆虫2種の25種類の動物である(植物は含まれていない)。この2種の昆虫の一つがナガサキアゲハであった。もう一種はタテハチョウ科のルリタテハ(Kaniska canace)で、この蝶は北海道を含めて日本列島に広く分布している。記載された標本のいくつかは、それまで商館長であったブロムホフが集めていたものをシーボルトに託したものである。                     

 ナガサキアゲハが緯度の高い比較的寒冷な地域に分布を広げていくメカニズムが研究されている。それは、どうやら1年中の最寒月の最低気温が地球温暖化で次第に高くなり、冬眠している蛹の凍死率を下げたためのようである。化性(発生回数)や光周性(季節情報の受容能)を遺伝的に変化させるまでには至っていない。すなわち、集団として昆虫の生理生態的な形質が変化しているのではなく、温暖化にともなって冬季の生残率が高まったことで、寒冷な地方に分布が拡大していると考えらる。 チョウ類の分布拡大は、蝶の愛好家には好ましい事態かもしれないが、熱帯の感染症を媒介する昆虫も拡大・繁殖することで公衆衛生的な問題が生ずる可能性がある。例えば、重症性のマラリアを媒介するコガタハマダラカである。これは日本では、沖縄の宮古・八重山諸島にのみ分布しており、今のところ沖縄本島では見つかっていない。しかし、温暖化が進めば、沖縄から、九州南部、四国の太平洋地域まで拡がると言われている。植物は昆虫に比べて移動・分散が遅いので、このような急速な水平分布の変動は知られていないが、高山植物の生息域が温暖化で狭めらえている例がある。桜などの開花日が平均移動統計によると次第に早くなっているのも、その影響と考えられる。         

 産業革命以来、地球の平均気温は1.5℃ほど上昇している。京都では1881年以来の統計データーで約2.2℃上昇している。これは、どんなに頑迷な温暖化陰謀論者でも認めざるを得ない事実であろう。この6月中旬には、イスラム教徒がサウジアラビアの聖地メッカを訪れる大巡礼で、巡礼者1300人以上が熱中症で死亡したと報じられている。メッカでは6月17日に気温52度を記録し、おそるべき酷暑が続いていた。国連のグテーレス事務総長が、いまや「地球温暖化」ではなく「地球沸騰化」であると述べる事態になっている。その原因については諸説があるが、工業活動に伴う温暖化ガスの増加や原子炉の廃熱が、その主要原因であるとする考えが主流である。

  京都は盆地で冬は寒く、夏はことさら暑い。伝統的な町屋は夏の暑さ対策のために工夫がなされていたが、最近はどのビルや家屋にもクーラーを取り付けているので、それが出す廃熱のために街はますます暑く住みにくくなっている。温暖化に加えて、こういった都市熱の影響もあって、京都では気温が35℃以上の猛暑日が年々、増加している。ナガサキアゲハの北進で最低温度が生物の生存率を支配する例をみたが、京都の夏場における酷暑日の増加は、老人や病弱者の熱中症を増やすだけでなく、全体の平均余命の縮小を引き起こしているかもしれない。気温の平均値よりも暑さの突出日に注意しないといけない。

 このように、ナガサキアゲハは環境指標生物として有名なチョウになったが、分子生物学の分野でもスーパージーン(超遺伝子)を持つチョウとして注目を浴びている。最後にこの「超遺伝子」について簡単に述べておく。熱帯にはオオベニモンアゲハという色鮮やかな毒蝶がいる。そして、これにそっくりベーツ型擬態したナガサキアゲハがおなじ場所にすんでいる。これは全てメスで、色彩だけでなく、有尾で形態もよく似ている。しかも、ゆっくり飛ぶといった行動までまねる。非擬態型のメスもいて、これは無尾で、オスの擬態型はまったく観られない。これを発見したのはダーウインとともに進化論を提唱したアルフレッド・ウオーレスである。最初は、複数の擬態遺伝子がまとまって、性染色体に存在するのかと考えられていたが、常染色体上に逆位や組み換えの起こりにくい構造で存在することが分かった。こういった遺伝子セットを「超遺伝子」というらしい。その遺伝子構造にトランスポゾンを含むことから、ひょっとすると相手の毒蝶の遺伝子から。なんらかの仕組みで飛んできたのかもしれない。日本列島を北上するナガサキアゲハには擬態型のものは観られない。温度感受性の違いが議論されているが、出たとしても真っ先に鳥に食われてしまうからであろう。

 

参考文献

P.F Siebold(1824) De historiae naturalis in Japonia statu, nec non de augmento emolumentisque in decursu perscrutationum exspectandis dissertatio : cui accedunt spicilegia faunae Japonicae.

(日本における自然史の現状ー調査の進行に伴う増加と利益についての論文:日本動物相に関する摘録を付す)Batavia

北原正彦, 入來正躬, 清水 剛 (2001) 「日本におけるナガサキアゲハ(Papilio memnon Linnaeus) の分布の拡大と気候温暖化の関係」蝶と蛾 52 巻 4 号 p253-264

古屋政信、石井実 (2010) 「気候温暖化とナガサキアゲハの分布拡大」{地球温暖化と昆虫:  桐谷圭治、湯川淳一編}p54-105, 全国農村教育協会

藤原晴彦 (2020) 「超遺伝子」光文社新書 

 

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分蜂:連作俳句

2024年07月08日 | ミニ里山記録

 

 目出度さも知らで荒ぶる箱の蜂

 春疾風への字くの字とハチは飛び

 待箱を置けば我が家は里めきぬ

 分蜂の山越えて来る羽音かな

 楠樹の蜜蜂共に博士号

 蜜蜂の滅び行く日も梅雨やまず

 蜂の巣もメルトダウンの暑さかな

 巣の奥で面型雀蛾(メンガタスズメ)鳴く夜かな

 蜜房を割く丸く小さな背を曲げて

   廃兵となって巣を出る蜂を追う

 

 シャーロック・ホームズがそうしたように、ちょっとした庭のある英国人は、退職後、庭で養蜂を行う。ロンドン近郊のシルウッドパークという学園都市に立ち寄った時、多くの民家の花壇に、ミツバチの巣箱が置かれているのを見た。趣味と実益といった事もあるのだろうが、ヨーロッパにおける養蜂の長い歴史文化を垣間みた気がした。

 イギリス人にならったわけではないが、定年後、ニホンミツバチを飼い始めた。幸い、現役時代にミツバチの行動研究を行っていたので、飼育のノウハウは分かっている。いま住んでいる家は京都市の真如堂のそばにある。庭に待ち箱を置くと、ほとんど毎年、ニホンミツバチの分蜂群が入る。付近の吉田山や京大構内には、いくつもコロニーが存在する。それは時計台前の楠のウロ、神社の古い井戸、墓の下、民家の床下などに見られる。これらミツバチコロニーが、我が家に飛んで来る分蜂群のソースになっている。

 春先、分蜂の季節になると、待ち箱にニホンミツバチの偵察蜂がやって来る。偵察蜂は候補となる巣の位置、大きさ、巣口の広さ、内部温度などを総合的に判断して、そこが定住するのに好適であると判断すると、もとの巣や蜂球でダンスを踊り、他の仲間にアピールする。そのうち偵察蜂の数がどんどん増え、巣口の出入りだけ観察していると、すでに分蜂群が入ったのかと錯覚する程になる。これは。だいたい二〜三日かけて行われ、いい場所には占有権を主張するためか、偵察蜂の一部が夜中も居残るケースがある。同じ箱の中で違ったコロニーの蜂同士がであった場合、取っ組み合いのけんかが始まる。

 そのうち、ニホンミツバチの分蜂群がやって来る。無数の蜂の羽音で、あたりに異様なうなりが溢れる。彼等は、女王を中心に一旦集結するか、あるいはすでに入居を決定している場合は、直接そこに向かう。集結しても大抵、数時間以内に新たな巣を見つけて、全員が飛び去ってしまう。この時期のミツバチは刺さないモードになっているので、刺激を与えないで静かに見守るのがよい。殺虫剤などをかけて追い払おうとすると、かえって興奮し飛び回り収拾が付かなくなる。

 丸胴の巣に、分蜂が入居すると、日ごとに巣盤が大きくなっていく。働き蜂は毎日、半径約二〜三キロ以内に餌を探しにでかけ、花粉と蜜を集めてくる。時期によって、咲く花が変わるので、足についている花粉の色が変わる。花粉分析をすると、周囲にどのような花資源があるかわかる。

 京都の夏は、彼等の元のすみかである熱帯林よりも高温多湿である。ミツバチにとって、この暑さはまことに要注意で、巣盤が融けて崩落することがたまにある。出入り口で何匹もの働き蜂が扇風行動をおこして空冷するのだが、あまりに暑いと追いつかないのだ。こういった崩落を防ぐために、巣を二階建にして、上下の通気をよくしてやる必要がある。

 今世紀初め頃から、米国各地で養蜂用のセイヨウミツバチが、巣箱から逃亡してしまう現象が、頻繁におこりはじめ、これは CCD (蜂群崩壊症候群) と呼ばれている。この現象の特徴は、働き蜂の大部分が逃去し、しかも死骸が巣の周りに見当たらないことである。女王と幼虫が巣にとり残されているが、働き蜂がいないので、コロニーはすぐに全滅してしまう。今までのミツバチの行動に関する知識からすると、常識はずれの不可解な現象といえる。比較的病気に強いと言われるニホンミツバチでも、原因不明で、コロニーが次第に弱り消滅する事例が多くなっているそうだ。

 ミツバチは、狭い空間に密集してくらしている社会性昆虫である。このような生活形態は、迅速な情報伝達を含めた効率の良い生活を営む基盤となっているが、一方で病原体や寄生虫に感染すると、たちまち巣全体に広がるという弱点を備えている。これはヒトを含めた社会性の特質であるが、風通しの良さが災いして病気が短期間に蔓延する傾向がある。

 ある秋の夜、巣箱でギギギ•••といった異様な音がするので、巣の蓋をはずし、懐中電灯で中をのぞくと大型の蛾がいた。ミツバチの巣を襲って蜜を盗むメンガタスズメガ(面形雀蛾)の成虫だ。背中にドクロのような不気味なマークを持っているので、面形という。おまけに体のどこを振動させるのか、蛾のくせに鳴くのである。こんな不気味な特殊な蛾が、近所に生息している事が信じられなかったが、ある日、石崎先生(名大名誉教授)のお宅にうかがったとき、庭の花壇にこの幼虫が発生するとお聞きした。我が家は、白川通りをはさんで、先生宅とは五百メートルも離れていない。

 ニホンミツバチは、西洋蜜蜂に比べて温和で、取り扱やすいと言われている。テレビでも、養蜂家が素手で巣盤をさわっている映像が流されたりする。しかし、これは春や夏の季節の事で、越冬中の連中は極めて神経質になっており、少しでも巣箱に刺激を加えると興奮し、頭を狙ってブンブン攻撃してくる。野外で熊にさんざん襲われてきた種の習慣が、遺伝子に刷り込まれているのだ。

 京都美山町の里山でフィールド調査したことがある。このあたりの農家は、ミツバチの巣箱を置いてくらしている。孫が来たときに、瓶に詰めてもたせるぐらいしか蜂蜜は、とれないそうだが、分蜂群の飛来を吉兆として大切に保護している。筆者のように、京都の街中でも、ニホンミツバチの自然群を飼育できるのは、たいへん幸運なことと思う。

 

追記(2024/07/08)

セルゲーエフ・ボリス・フェドロヴィチという人の書いた本「おもしろい生理学」(東京図書:金子不二夫訳、1980)によるとメンガタスズメの出す音は、女王バチが巣内で出す音と同じで、門番バチをだます声色だそうだ。擬態ならぬ擬声?

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生きとし生ける物すべて意味あり。

2024年06月03日 | ミニ里山記録

 

 

<生きとし生ける物すべて意味あり>

 チャールズ・エルトン(Charles Sutherland Elton :1900-1991)は、イギリスの動物学者で動物の個体群生態学を確立させた。長い間、オックスフォード大学の動物個体群研究所所長を勤め、自然史博物学を生態学に高めた人物とされているが、現在の個別解析的な生態学者には、どちらかと言うと忘れられた存在である。

 そのエルトン氏には、大学敷地の広大なワイタムの森の自然を記述した「The pattern of Animal Comunities(1966)」(日本語の訳本は「動物群集の様式」思索社:1990)がある。日本語訳本で約650頁もあり、ワイタム丘陵の生物の子細な記述が延々と続く。一部の野外研究家にとっては、たまらない自然叙事詩だが、大抵の読者には、とんでもない退屈な読み物である。「生態調査の究極の目的は、ある地域に棲むすべての種についてある一定の期間にわたってその個体群とその動的関係を確かめかつ測定することである」(訳本p36)といった自己の主張を、具体的に示したイコン的著作といえる。

 

 ともかく点や線でしか考えなかった関係が面で考えるようになった。そうなると関係も極めて複雑になり「飛び越えた関係性」が問題になる。いわば”風が吹けば桶屋がもうかる”といった構造を考えなければないなくなる。地球の エコシステムはバランスを保ちながら動的に成立しているように見える。存在する物がすべて関係して、このバランスがなりたっていると仮定すると、人類の災禍であったペスト菌やインフルエンザ、コロナウイルスも地球にとってなんらかの意義が存在するのではないかと考えたくなる。彼らは人類にとって、とんでもない”悪玉”(悪い関係)ではあるが、異常に繁殖しすぎた人類の人口調整に地球(ガイア)が遣わした”善玉”(他の種にとって良い関係)ではないのか?コロナウイルスはヒトに感染発病させるのに他の動物は感染しても発病しない事実はこのことを暗示している。

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蜂類におけるシャーマン戦車とティーガ戦車の闘い

2024年01月25日 | ミニ里山記録

 

 巣盤から採ったボールの蜂蜜の残りに、ニホンミツバチとオオスズメバチが集り、そこで乱闘が起こった。しばらくして見てみると、オオスズメバチ5匹にニホンミツバチ約50匹が死んでいた。まさにドイツ軍の重量戦車ティーガに、アメリカ軍のシャーマン戦車が集団で襲いかかるような戦いである。ブラッド・ピット主演の映画「フューリー」でも、ティーガ1台にシャーマン戦車4台で戦い、3台がやられてしまう、最後に主人公の戦車がティーガを仕留める。ここの闘いではオオスズメバチの1匹は、なんとか生き延びたようであるが。

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ノシメトンボ(熨斗目蜻蛉)

2023年12月03日 | ミニ里山記録

 

 

ノシメトンボ Sympetrum infuscatum

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カブトムシ

2023年07月08日 | ミニ里山記録

 

 スリッパに入り込んだカブトムシ(甲虫、兜虫、Trypoxylus dichotomus)

夜中の12時ごろ書斎の灯りにやったきたカブトムシの雄。

まだまだこの辺り(京都市浄土寺地区)は自然がある。

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外来侵入種による感覚のかく乱被害

2023年07月06日 | ミニ里山記録

 

    

 

         新入りの朝顔葛を追ひ払う 楽蜂                                 

 近所の空き地の崖を外来性のマルバアメリカアサガオがすっかり覆い尽している(上の写真)。今までは葛(クズ)がこの場所を優占していたが、おそらく誰かがそれを除去した後に、この朝顔が急激にはびこったものだろう。この朝顔は日本古来の朝顔と花はよく似ているが、葉っぱが厚くて広く遠慮会釈もなく増えるので、まったく趣がない。おまけに花季が長く、遅いものでは12月になっても咲いていたりする。花色はやぼったい濃い紫である。インターネット情報では、これが一部の農地に侵入して被害をもたらしているそうだ。

日本伝来の朝顔は、俳句で夏の季語として、さわやかさ、すずしさ、しずかさ、せつなさを表す代表的な夏季の風物であった。筆者の好きな朝顔の俳句五句。

 朝顔に我は飯食ふ男かな 芭蕉 

 あさがほの花はぢけたりはなひとつ 暁台

 朝顔や一輪深き淵の色 蕪村 

 朝貎や咲いた許りの命かな 漱石

 朝顔の紺の彼方の月日かな 波郷

この外来種の朝顔ではとてもこんな句を作る気にならない。日本の自然はどんどん外来の侵入種のために変化してきたが、最近の花屋の店頭に並ぶ花もほとんど外国産のものだ。野外フィールドだけでなく、感覚フィールドでの侵入種による撹乱も「日本人の遺伝子」にとっては問題である。

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オオイヌノフグリ(大犬ノ陰嚢)

2023年05月02日 | ミニ里山記録

 

 

オオイヌノフグリ(Veronica persica)はオオバコ科、クワガタソウ属の野草。水色の小さな花をつける。在来種イヌノフグリはうすピンクの花をつけるが、これは今やあまり見かけない。

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ナミスジフユナミシャク

2023年05月02日 | ミニ里山記録

 

 

 

若葉がしげる紅葉の樹からぶらさがる尺取虫。おそらくナミスジフユナミシャクではないかと思う。首を振りながら糸を巻き付けてグルグルからだを回しながら上昇していく。糸が外れてずり落ちる事もあるが、途中で止まって、また糸まき運動をつづけ、ついには元の枝に達する。たまには、糸がはずれて地上に落下する事もあるだろう。そうなるといっかんの終わりなのか、幹を見つけて這い上ってくるのか?昔は子供の観察記録だったが、最近はどうなんだろう?

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コバノミツバツツジ(小葉の三葉躑躅)

2023年04月06日 | ミニ里山記録

コバノミツバツツジ

(学名: Rhododendron reticulatum D.Don.)

 

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