光太郎の詩を二つ。
値(あ)ひがたき智恵子
智恵子は見えないものを見、
聞えないものを聞く。
智恵子は行けないところへ行き、
出来ないことを為(す)る。
智恵子は現身(うつしみ)のわたしを見ず、
わたしのうしろのわたしに焦がれる。
智恵子はくるしみの重さを今はすてて、
限りない荒漠の美意識圏にさまよひ出た。
わたしをよぶ声をしきりにきくが、
智恵子はもう人間界の切符を持たない。
梅酒
死んだ智恵子が造つておいた瓶の梅酒(うめしゆ)は
十年の重みにどんより澱(よど)んで光を葆(つつ)み、
いま琥珀(こはく)の杯に凝つて玉のやうだ。
ひとりで早春の夜ふけの寒いとき、
これをあがつてくださいと、
おのれの死後に遺していつた人を思ふ。
おのれのあたまの壊れる不安に脅かされ、
もうぢき駄目になると思ふ悲に
智恵子は身のまはりの始末をした。
七年の狂気は死んで終つた。
厨(くりや)に見つけたこの梅酒の芳(かを)りある甘さを
わたしはしづかにしづかに味はふ。
狂瀾怒濤(きようらんどとう)の世界の叫も
この一瞬を犯しがたい。
あはれな一個の生命を正視する時、
世界はただこれを遠巻にする。
夜風も絶えた。
(智恵子抄より)
↑智恵子・光太郎・智恵子・光太郎・智恵子・光太郎・智恵子・・・、ポチっとな。
*・゜¨゜゜・*:ランキング参加中です:*・゜¨゜゜・*
携帯からはこちら→■
値(あ)ひがたき智恵子
智恵子は見えないものを見、
聞えないものを聞く。
智恵子は行けないところへ行き、
出来ないことを為(す)る。
智恵子は現身(うつしみ)のわたしを見ず、
わたしのうしろのわたしに焦がれる。
智恵子はくるしみの重さを今はすてて、
限りない荒漠の美意識圏にさまよひ出た。
わたしをよぶ声をしきりにきくが、
智恵子はもう人間界の切符を持たない。
梅酒
死んだ智恵子が造つておいた瓶の梅酒(うめしゆ)は
十年の重みにどんより澱(よど)んで光を葆(つつ)み、
いま琥珀(こはく)の杯に凝つて玉のやうだ。
ひとりで早春の夜ふけの寒いとき、
これをあがつてくださいと、
おのれの死後に遺していつた人を思ふ。
おのれのあたまの壊れる不安に脅かされ、
もうぢき駄目になると思ふ悲に
智恵子は身のまはりの始末をした。
七年の狂気は死んで終つた。
厨(くりや)に見つけたこの梅酒の芳(かを)りある甘さを
わたしはしづかにしづかに味はふ。
狂瀾怒濤(きようらんどとう)の世界の叫も
この一瞬を犯しがたい。
あはれな一個の生命を正視する時、
世界はただこれを遠巻にする。
夜風も絶えた。
(智恵子抄より)
↑智恵子・光太郎・智恵子・光太郎・智恵子・光太郎・智恵子・・・、ポチっとな。
*・゜¨゜゜・*:ランキング参加中です:*・゜¨゜゜・*
携帯からはこちら→■
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます