先日の雪の毎日ツアーから10日ほどが経って、そんな事はもうあるわけがないと思っていた事が再びおきたのだ。夕べの会津田島の駅前はミゾレ交じりで寒さがシンシンと身に染みた。寒いので地酒の金紋会津がまたすすんでしまった。いつまで経っても意志薄弱なただの酔っぱらいガイドだ。少し落ち込む。
今日のお客様はおひとりだ。もうおひとりいらっしゃったのだが、急な風邪引きでキャンセルとなり、二人だけの静かな山旅となった。午前4時に集合して、水無川沿いの林道を車で進む。田島では雨だったが次第にミゾレとなり林道バリケードのある滝沢橋ではハンパ無い雪に変わってしまった。さて、どうしたものか?フロント硝子に降り注ぐ雪をお客さんと眺めながら思い悩む。
「まあ、最初は林道歩きだから、ダメ元で行ってみましょう」と言う事になった。
装備を調え白んできた雪降る空を恨めしく見上げながら傘をさして出発する。雪は降ったり止んだりではあったが、確実に積雪は増えていった。先日行った横川ルートに比べれば荒れた林道もまだましで、未だ雪が少ないので問題なく先へ進んだ。気温が高めで、風が無風に近いのも助かる。雪は湿った重めの雪だ。体を濡らし風が出れば、それ以上進むことはよした方が良いだろう。低体温症を引き起こす可能性があるから。
オーガ沢橋を過ぎ林道が北に折り返すと林道の状態もかなり悪くなってきた。藪と深く掘れた路面、路肩の崩壊、土砂崩れなど修復はかなり大変な状況だ。幅も広く、本来はしっかりした林道なのだが、何故このように放置され廃道と化していくのだろう?しかも大震災後、そのような林道が増えている。多額の税金を投入し、その本来の目的を果たさずに捨てられていく数多の林道を僕は歩いてきた。先日の塩那道路もそうだ。まさか本来の目的とはただ道を造ること?そうじゃないよね、お役所さん。
3時間ほどで大川峠に到着した。様子を見ながらと言う事でここまで来たのだが、何とか行けそうな雰囲気なので、アイゼンを装着し南へ折り返す様に笹の尾根に入った。笹はしばらくすると途切れたり、また現れたりするが、おおむね雪の斜面を登っていける。積雪20センチ、風は殆どない、助かる。これなら行ける。
それにしても、いったい今日は何月なのだろう?と、大雪が僕の頭を混乱させる。厳冬期の山を歩いているようなのだ。安曇野の我が家では稲の種蒔きを終えてきたばかりなのだが、芽をちゃんと出してくれるだろうかと心配になる。
広い尾根は斜度も穏やかでさほどの苦労もない。ただこういう尾根は下りに気をつけなければいけないなどと思いつつ登ること峠から約2時間で、見覚えのある男鹿岳に到達した。新たな積雪は30センチに達していた。
展望はなし。大佐飛山も雪雲のなか。ただただ雪が静かに降っている。誰も登ってくる気配などない。ここから10キロ四方にはおそらく誰もいないのであろう。しみじみと感じる山だ。
登ってきた時につけてきたトレースは所々現れる笹の中では限りなく不明瞭になる。風でもあれば雪の斜面でもそれは瞬く間にかき消され僕らを不安にさせるだろう。しかし今日はなんとか大丈夫だ。慎重に方向を見極めくだった。大川峠ではさらに5センチほどの積雪が増えていた。
これは生々しい熊の足跡。おそらく数分前に通過したものだ。弁当箱ぐらいの大きさがある。左手の山から下ってきて右手の水無川の方に降りていったようだ。子連れではなくおそらく単独のオスだろう。冬眠から醒めて忙しい生活が始まったのだ。僕らもいっしょだ。