竹心の魚族に乾杯

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登場する団体名、河川名は実在のものとは一切関係ございません。

サケ・マスはなぜ赤色を好むか

2011年08月02日 21時45分17秒 | 竹田家博物誌
釣り人の間でようけ交わされる話の一つに、トラウト類は赤い色を好むというのがあり、やたらにネット上を騒がしておるようだが、是非にも考えてみねばならん問題である。しこうして…

というのは冗談ですけれども、これなどはタケダなどもいぶかしく思っていて、確かにルアーなど赤に変えた途端に飛びついてきたという経験もあるのですけど、むしろ散々嫌という程思い知らされた経験は、すれて来るとシルバーとホワイトしか反応しなくなるという意外な事実なのでした。
しかも釣れないと言われるパープルやブルーも実際には反応がよく、赤だけが特別に良いというのは濁った時だけではないかと思ってしまう程です。

アメリカやカナダのトラウト用のルアーでは金赤や赤白は一つの定番カラーとして認知されているし、北海道のサケ用のルアーでも大体赤が使われています。で、赤が入っていないとタコベイトを付けたりします。

釣り人の間でのひとつの有力な説として、赤という色は婚姻色の出た魚に特異的に効くカラーなのだと。特に蛍光の入った派手な赤系統が良く、これらの赤やオレンジに換えた途端に大物がヒットしたという実例が豊富にあるんだそうな。

曰く、これらのトラウト達の産卵する卵はイクラ同様で紅く、水に流されたそのおこぼれを口にするから赤いものに反応するのだ、云々。
確かに海外にはイクラを模したフライパターンがあるし、なんと筋子を模したルアーまで!あるという。

ルアーフィッシングでも、赤は逃げ惑う小魚のエラに見えるから単純な金や銀よりも、赤が入っている方がいい、云々。
果ては、噛みつかれた小魚が流す血に見えるから赤針がいいとか。

スジコを模したルアーなどという代物が、果たして本当に効くのかどうか、眉に唾をつけたくなる話であります。

そうかと思えば毛鉤など信ずれば釣れるなどという議論もその筋では真剣に交わされており、ここまで来るとある意味釣り界における都市伝説の感もあります。


しかしよく考えてみると一生を内水面で過ごす陸封型のトラウトでは、その卵は赤くはならず黄色いというのがこれまで確認されてきた事実であり、実際ヤマメやイワナの卵が、エビやアミといった甲殻類を食べずに釣具屋の冷蔵庫に並ぶイクラのように赤くなる道理もないのであります。
卵を食べているから赤い色を好むのだろうというのは釣り人のいかにもありそうな話題の種でしかないということになります。

それじゃあ、イクラ説に代わるもっとまともな説明はあるのかと聞かれますと、タケダなどが考えているのは「視力の低下」です。「赤いちゃんちゃんこ」じゃないですが、人間でも加齢なるものが人をして赤ばかりはっきりとかつ美しく映じ、他の色は映じ難くせしむるなりと…。魚でも同じように年をとると赤しか見えなくなるのではないか、と思うわけです。

婚姻色の出た大型のトラウトなどというのは、産卵を終えれば命果てる運命なわけで、身の方も脂が落ちて臭くぱさぱさになり、それこそ満身の栄養を腹の中の卵に移行せしめまする。眼、とてその例外ではなく、かような維持費のかかる大飯食らいの感覚器官は、早々に退役せしめられ、何か特別な理由によって赤以外の色を感知しなくなる色盲状態になるのではなかろうかと思っている次第なのであります。ようは若いときはちゃんと見えていても、産卵前には色盲になるのではないかと。

ホームページを作成する際など文字の色を指定するのにR(赤)G(緑)B(青)という3色で指定します。これはそもそも人間が可視光線を識別するのに、赤、緑、青の3種類のセンサーを組み合わせて全ての色を見分けているために、パソコンやテレビのディスプレーを、赤、緑、青の3種類の発光体を使って作っているからです。人間の光受信センサーが3種類しかないという生理をうまく利用して、3種類の発光体だけで全ての色を演出しているわけです。

青は可視光線の中でも波長の短い側に属し、エネルギーが周波数に比例する法則から、比較的エネルギーが強い、つまり細胞や膜を破壊する作用の強い光です。反対に赤は波長の長い側ですから、周波数は低く、長時間照射してもダメージの少ない光です。

ここで何らかのメカニズムによって、赤のセンサーは作りが大ざっぱで修復するコストも少なく、それ以外のセンサーは精密機械みたいにコストが高く付くということがあるとすると、子孫を残すという大事な時期に、わざわざ栄養を赤以外のセンサーにまで供給する必要はないぞ、という仕組みが働き始めるのかもしれません。それで魚類の4種類のセンサーのうちの、最も経済的なセンサーのみをもって窓辺の嘱託の如く、その最後の任を務めているのではなかろうかと考えている次第なのであります。

で、あるからして、秋口に紅いルアーやフライが特異的に効いたというのは、魚の眼の老化現象なのだと、考える次第なのであります。

とまあ、そんなわけで、赤という色が特別に魚を刺激し興奮させる色というのは正直なところちょっと…。



※参考:
《ルミコ》「魚は光に寄ってくる!!」魚の目と色の関係
Webナショジオ > 研究室に行ってみた。東京大学 色覚の進化 河村正二 > 第3回 魚の色覚はすごい!

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