超大質量ブラックホールが時速720万kmで宇宙空間を爆走中! 手当たり次第に周囲を飲み込みまくる超ヤバい事態!
■生まれたばかりの超大質量ブラックホールが大暴走!
我々の太陽系が属する天の川銀河を含めて、銀河系の中心には、まさに地元の“首領”としての超大質量ブラックホール(Supermassive black hole)が鎮座していると考えられている。
現在の最先端の天体観測技術をもってしても、ブラックホールそのものを直接観察することはできないのだが、銀河の中心部にはきわめて明るく輝いている「クエーサー」という恒星系があり、その中心に超大質量ブラックホールが構えているとされるため、居場所の特定はそれほど難しくない。
そして先日、地球から80億光年先にあるクエーサー「3C 186」をハッブル宇宙望遠鏡が観察したところ、3C 186は属する銀河の中心から3万5000光年離れた場所にあることがわかり、謎を呼んだ。銀河の“大黒柱”として中心に鎮座する超大質量ブラックホールが、中心からズレていることを示す格好となったが、そんなことが起こり得るのか?
クエーサー「3C 186」 画像は「NASA Goddard」より
そしてどうやらこの超大質量ブラックホールが物凄いスピードで移動していることもわかった。試算では秒速2000km=時速約720万kmというとてつもない速さだ。あまりに速すぎてピンとこないと思うが、例えば地球から月まで3分足らずで到達する速さである。ともあれ、このままでは超大質量ブラックホールはどんどん銀河の中心から離れていき、スピードが緩むことがなければ2000万年以内に母体となる銀河を抜け出す事態にもなる。
まさか、一家の“大黒柱”たる重責に耐えかねて失踪してしまったお父さんのような事情があるのか、あるいは直属の部下たちの謀反に遭い権力の座から引きずり下ろされて追放された王のような惨状を招いているのかわからないが(!?)、銀河の絶対的存在であるはずの超大質量ブラックホールが“王座”を離れ、しかもきわめて速いスピードで暴走している姿をどう解釈すればよいのだろうか。
NASAによれば、これまでにも母体の銀河から放り出されて宇宙空間をさまよう巨大ブラックホールの存在が指摘されていたのだが、いまだ確認には至っていない。もし今回の件が本当に銀河の中心から離れて宇宙空間をさすらう超大質量ブラックホールだとすれば、初めて確認されるケースになるということだ。
いったいどういうメカニズムで超大質量ブラックホールが“地元”から逃出してしまうのか? それは2つの銀河の融合がきっかけになっているという。
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した3C 186の画像をよく見ると、また別の楕円型の銀河と重なりあっていることが確認できるとNASAは主張している。これは、2つの銀河が融合した証しであるということだ。そしてそれぞれの銀河の2つの超大質量ブラックホールもまた融合したのだ。
宇宙望遠鏡科学研究所(Space Telescope Science Institute)のマルコ・キアベージェ博士らの研究チームの説明によれば、お互いを飲み込まんばかりの勢いで近づいていく2つのブラックホールからは、強い重力波が放出されるということだ。
引き寄せあう2つのブラックホールの質量が同規模であるケースは少なく、それぞれが同心円状に発している重力波がぶつかり合い、複雑な動きを見せることになる。それでもさらに2つは接近し、遂に衝突した際には、重力波が放出される向きに相当な偏りが生じているという。
互いに超大質量ブラックホールである2つが衝突すれば、通常の超新星爆発の1億倍という凄まじいエネルギーが放出される。そして偏りを見せて最も強く重力波が放出されていた方向とその反対方向へ、合体したばかりのブラックホールがまるでゴムを限界まで引き絞って射出したパチンコ玉のように勢い良く放たれるということだ。
こうして時速720万kmもの高速で宇宙をさまようことになったと説明された今回のブラックホールだが、こうした経緯で生まれ宇宙を“爆走”し、手あたり次第に周囲を飲み込む超大質量ブラックホールがほかにいくつもあるのだとしたら、きわめて不気味な話だろう。