離島にグッピーなぜ?遺伝子を調べてみた
ブラジル本土から300キロ離れた島に淡水魚が渡ってきた理由
ポエキリア・ビビパラ(Poecilia vivipara)は南米に生息する、黄色く輝くグッピーだ。
10年前、ある研究グループがブラジルのフェルナンド・デ・ノローニャ諸島を訪れたとき、このグッピーを発見した。なぜ小さな淡水魚が大西洋の離島にいるのだろう?
フェルナンド・デ・ノローニャ諸島は、ブラジル本土から300キロ以上離れた火山島。控えめに言っても、ブラジル本土の動物が島に渡り、個体数を安定させるのは難しいはずだ。そこで、グッピーを発見した研究グループは、その起源を追跡することにした。(参考記事:「海底火山の噴火、きっかけは潮の干満」)
「ポエキリア・ビビパラは主に、ブラジル本土の淡水域に生息しています。そのため私たちは、これは“不自然”なことだと思い、どうしてこんなことが起きたのか考え始めたのです」と、進化生物学者のバルジール・バーベル・フィルホ氏は振り返る。同氏は研究結果を論文にまとめ、学術誌「ZooKeys」に発表した。(参考記事:「猛毒かけ捕獲、米輸入熱帯魚の7~9割」)
バーベル・フィルホ氏はまず、遺伝情報の解析を行った。フェルナンド・デ・ノローニャ諸島のグッピーとブラジル本土のグッピーがどのような関係にあるかを知るためだ。生息地域が異なる11種類のDNAを解析した結果、フェルナンド・デ・ノローニャ諸島のグッピーはブラジル北東部ナタールを流れる川のグッピーに近いことがわかった。(参考記事:「観賞魚はどこから来るのか?」)
「フェルナンド・デ・ノローニャ諸島のグッピーは本土のグッピー、主に北東部に生息する個体群から派生したものです。これら2グループの間には、(塩基対610のうち)2つしか遺伝的な差異がありませんでした」とバーベル・フィルホ氏は説明する。
小さな魚の遥かな旅
フェルナンド・デ・ノローニャ諸島の個体群が本土で進化したことを突き止めたバーベル・フィルホ氏は、小さなグッピーがどのように海を渡ったかを解明しようと試みた。(参考記事:「凶暴なナイルワニが侵入、ルート不明、米フロリダ」)
まったく不可能とはいえないものの、グッピーが300キロ以上の距離を泳いでこられる可能性は低い。その理由はいくつかある。
まず、フェルナンド・デ・ノローニャ諸島の海流は本土に向かっているため、本土を出たグッピーは海流に逆らって泳がなければならない。また、グッピーは卵ではなく子どもを産むため、移動中に出産しても、子どもがフェルナンド・デ・ノローニャ諸島に流れ着いたり、鳥に運ばれたりする可能性は低い。(参考記事:「温暖化で魚が小型化している、最新研究、反論も」)
ナショナル ジオグラフィックの支援を受けて研究を行っている生態学者のデイビッド・レズニック氏は第三者の立場で、「グッピーは塩水にかなり強いですが、それにしても300キロはあまりにも長距離です」と述べている。レズニック氏はカリブ海の南部でグッピーを見たことがあるが、300キロ以上泳いだと思われる例はほかに知らないという。ただし、雨期の洪水によってグッピーが流され、数キロ下流の海にたどり着くことはあるとレズニック氏は言い添えている。
蚊を退治するために持ち込まれた?
自然の法則では説明できないと考えたバーベル・フィルホ氏は、歴史文献に答えを求めることにした。
第二次世界大戦中、フェルナンド・デ・ノローニャ諸島には米軍基地があった。バーベル・フィルホ氏は米軍の報告書を調べ、蚊対策のためにグッピーを送ってほしいという記述を2つ見つけた。(参考記事:「蚊は叩こうとした人を覚えて避ける、はじめて判明」)
「グッピーはナタールから持ち込まれた可能性が高いと思いました」とバーベル・フィルホ氏は言う。
米ミシガン大学の進化生物学者アンドレア・トマス氏は今回の研究には参加していないが、「歴史文献が示唆している通り、第二次大戦中に持ち込まれたのだとしたら、さらに調査し、裏づけを取らなければなりません」と指摘する。「とはいえ、私も論文と同じ意見で、人間によって持ち込まれた可能性が高いと考えています」
レズニック氏によれば、グッピーは蚊の発生を抑制する手段として、80カ国以上に持ち込まれているという。蚊の幼虫を食べてくれるという理由で、しばしば貯水池に放たれ、水族館で利用されることもある。
「ただし、蚊の抑制にどれくらい役立つかはわかりません」。レズニック氏も自身の研究室でグッピーを飼っているが、いまだに蚊を見かけるそうだ。(参考記事:「【動画】なぜ逃げられる? 蚊が飛ぶ瞬間の謎を解明」)
バーベル・フィルホ氏は今後もグッピーの研究を続ける予定だ。試料を増やし、遺伝情報の解析を進め、どのように海を渡ったかという謎のさらなる手がかりを見つけたいと考えている。
なかなか長生きしないんですよね・・・・・・