年金受給額を「42%増やす」確実な方法
「人生100年時代」にはお金の常識をアップデートしなければいけない。ファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんは「これまでより2000万円を余計に準備する必要がある」と警鐘を鳴らす。そのとき頼みの綱は一生もらえる公的年金だ。実は毎月の受給額を42%も確実に増やす方法があるという。その方法とは――。
※本稿は、井戸美枝『100歳までお金に苦労しない 定年夫婦になる!』(集英社)に著者が加筆したものです。
人生100年時代で「老後必要額」が2000万円も増加する
日本は世界トップクラスの長寿国です。男性の4人にひとりは90歳、女性の4人にひとりは95歳まで生きる時代です(厚生労働省「2016年簡易生命表」)。現在シニア世代の人はもちろん、30~50代の現役世代も、これからは「人生100年」を視野に入れて家計管理をしていく必要があります。
100歳以上の高齢者数を見てみましょう。
2016年には約6.6万人。調査開始当時の1963年は153人でした。54年間で400倍以上になっています。男性が約8000人に対し、女性は約5.8万人。9割近くを占めるのが女性です。よって特に女性のマネープランについては、いままでのお金の常識が通じなくなるかもしれません。また医療の発達により、今後さらに寿命が延びたり、健康長寿の期間が長くなったりするでしょう。女性だけでなく男性も、お金の常識をアップデートしておくべきでしょう。
▼日本人は何歳まで生きるのか?(厚生労働省2016年簡易生命表)
【90歳まで生きる人】
男性 25.6%
女性 49.9%
【95歳まで生きる人】
男性 9.1%
女性 25.2%
では、「人生100年」時代の老後資金は、いったいいくらになるのでしょうか。2017年総務省家計調査によると、高齢者夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみ)の1カ月の収支を見ると、毎月約5.5万円の赤字になっています。
実収入は約21万円ですが、食費・交通通信費・交際費・教養娯楽費などの支出が約26.5万円になっています。子供のいる家庭でも、この時点ではほとんどの場合は独立し、教育費はほぼかかっていないはずです。マイホームの住宅ローンも完済している人が多数派でしょう。にもかかわらず、年金などの収入に対して、支出が完全にオーバーしている状態なのです。
また、正確な統計ではありませんが、私がシニア世代の家計相談を受けると、年金収入だけではやっていけず、毎月8万~10万円を貯金などから取り崩している人が少なくありません。高齢者は質素な暮らしをしているイメージがありますが、実際は意外に高コストなのです。
毎月8万~10万円の赤字ということは、年間100万円前後の赤字になります。これを踏まえて、現在の寿命を80歳として、今後20年延びて寿命100歳と考えると、100万円×20年間=2000万円が、これからはさらに必要になる、ということになります。人生100年時代の到来により、老後資金をそれだけ積み増さないと生活が破綻するかもしれないのです。
公的年金の受給額を「42%増やす」方法があった
だからと言って、楽しむことを惜しみ、お金を無目的に抱え込む必要はありません。なぜなら一生涯、国から受け取れる「公的年金」があるからです。そして、この公的年金は増やすことができます。その方法は、「年金を受け取る年齢を遅くする」というものです。
この具体的な方法を解説する前に、確認しておきたいことがあります。それは、もし年金未納期間があったら「後納する」ことでも、受け取る年金を“増やす”ことができるということです。なお2018年9月までなら、過去5年分まで納めることができますが、10月以降は過去2年間になります。
また、「60歳以降も国民年金保険料を払う(任意加入)」ことでも受け取る年金を“増やす”ことができます。
以上、2点を踏まえ、お伝えしたいのは、前述の「年金を受け取る年齢を自主的に遅くする(年金受給年齢の繰り下げ)」という方法です。
▼1カ月遅らせるごとに受給額は0.7%増える
退職した後、当面の生活費に余裕があるのであれば、年金の支給開始時期を遅らせることも考えましょう。
本来は65歳から老齢年金を受け取り始めますが、「繰り下げ受給」すれば、66歳以降の希望する時点に受給開始を遅らせることができます。1カ月遅らせるごとに金額は0.7%増え、65歳を上限の70歳まで遅らせると0.7%×5年間(60カ月)=42%増額されます。増額された支給額はその後、一生続きます。ただし、現在繰り下げできる年齢は「70歳まで」です。
仮に、受給開始を66歳に繰り下げた場合。65歳からもらい始めた人と累計の受給額が同額になるのは、77歳10カ月のときです。同じように70歳まで繰り下げると、同額になるのは81歳10カ月。それ以降は差が広がり、繰り下げ受給戦略は大成功となります。ただし、病気などで死亡時期が早まってしまうと、結果的に損をします。
年金額は、物価や賃金に合わせて、調整されます。物価が上がれば(=お金の価値が下がる)、それに応じてある程度、年金の受給額も上昇します。物価が下がれば受給額も下がります。
20年後、30年後の経済状況は誰にも予測できません。年金額は今よりも実質的に目減りする可能性もあります。その時、繰り下げ制度を利用して、元の年金額を増やしておくと、目減りした年金の影響をやわらげることが期待できます。
夫65歳、妻が65歳未満なら年約40万円上乗せされる「加給年金」
さらに「年下の妻」がいる場合、ほかにも公的年金を増やす方法があります。
女性は平均寿命が長いので、夫婦の場合、夫は繰り下げずに65歳から、妻は70歳から、と受給開始時期をずらすと世帯全体の受給額が上がる場合があるのです。
ポイントは、会社員や公務員として勤めた期間(厚生年金加入期間)が20年以上ある場合に受けられる「配偶者加算」です。
厚生年金への加入期間が20年以上ある夫が65歳になったとき、65歳未満の妻がいれば、夫の年金に年額38万9800円が上乗せされます。これを「加給年金」といいます。この加給年金は、妻が65歳になるまで加算され続けます。つまり、年齢差が大きいほどもらえる期間が長くなります。
ただし、夫が先に受給開始を繰り下げると、その間の加給年金は受け取れません。5年繰り下げ、妻が65歳になっていないのであれば、38万9800円×5年=約195万円の加算年金が受け取れなくなってしまいます。
年下の妻がいる場合、受給開始を繰り下げるべきか、それとも先に加給年金を受け取ったほうがいいか、比較してから受給を決めることをおすすめします。
▼繰り下げ年齢まではiDeCoを受け取る
公的年金の受け取り年齢を繰り下げると、退職からその間の生活費が心配だ、という方もいます。その場合、「働く」「貯金をとりくずす」といった選択肢がありますが、ほかにも「確定拠出年金」でその間の収入を作るという方法もあります。
企業型の確定拠出年金や、個人型の確定拠出年金(iDeCo)に加入し、年金資産を自分で作っておくと安心です。(その具体的な方法は過去の記事を参照ください)。
iDeCoは、企業年金の規約などによって加入できない場合や掛け金が異なる場合がありますが、税制優遇もされている制度(節税可能)なので利用を検討したいところです。
自営業やフリーランスの人は、厚生年金に加入できないため、会社員の人よりも公的年金の受給額は少なくなります。年金を上乗せする金額が上限で年額81万6000円と多めです。掛け金は5000円から自由に設定できるので、無理のない範囲で60歳まで積み立てましょう。