尻尾のないクジラを目撃、増えている?
漁具などにからまったことが原因か、科学者ら憂慮
尾が切れて失われたクジラの目撃例が増えている。
クジラ生物学者のアリサ・シュルマン=ジャニガー氏が最初に目撃したのは1985年のこと。メキシコ沖でコククジラと出会い、水中から堂々たる尾が現れると思ったそのとき、彼女の目に映ったのは、痛々しい傷跡だった。
「あぜんとしました」と語るシュルマン=ジャニガー氏は、米国鯨類協会でコククジラの個体数・習性調査プロジェクトを推進している。
それ以降、北米西岸沖では尾のないクジラが幾度か目撃されてきた。ところが2018年に入って、尾のないコククジラが少なくとも3頭、カリフォルニア沿岸で目撃されている。頻度が増えているようなのだ。(参考記事:「【フォトギャラリー】伊豆諸島で見つかった希少なコククジラ」)
目撃されたコククジラには、シャチに襲われたり、船と衝突したりといった形跡は見られず、怪我の原因はおそらく漁具が体にからまったこととみられる。
クジラが漁具などの人工物が多い場所で餌を食べようとすると、ロープや網が尾の付け根にからまって、尾が徐々に切り離されたり、血流が遮られて尾が朽ち落ちたりしてしまうことがある。
尾を失ったクジラの末路は悲惨なものだ。「すべてとは言いませんが、その大半は怪我がもとで死んでしまうと思われます」と、米海洋大気局でカリフォルニア座礁ネットワークのコーディネーターを務めるジャスティン・ヴィーズベック氏は言う。(参考記事:「【動画】サメとワニが一緒にクジラの死骸を食べる、前例のない動画」)
なぜ生きていられる?
尾がない状態で、餌をとるのは難しい。コククジラは尾を推進器として使いながら、泥が積もった海底に頭から突っ込んで小型の甲殻類を濾し取る。
コククジラはまた、メキシコにある繁殖場からアラスカの餌場まで長距離を回遊するが、力強い尾がなければこの長旅は極めて困難なものになる。尾のない母親は、子供をシャチから守ることもできない。(参考記事:「【動画】メス1頭+オス2頭、コククジラの求愛行動」)
一方でシュルマン=ジャニガー氏は、クジラがハンディキャップに適応する能力には驚くべきものがあると語る。