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続・FRBのインフレ目標公表の意義

2012年01月26日 17時38分22秒 | 経済関連
前の記事に追加です。

発表内容については、こちらが判り易い。

>http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPTYE81K0ML20120126

以下に引用部は『』で示す。

『長期的なインフレ率は主に金融政策によって決定されるため、FOMCはインフレの長期的な目標を具体的に定める能力がある。FOMCは、個人消費支出(PCE)価格指数に基づく年間2%のインフレ率が、長期的に見て連邦準備理事会(FRB)の責務に最も一致した水準だと判断している。』

日銀の皆様、ここ大事ですから、よく読んで下さいませ。
a)長期的なインフレ率は主に金融政策によって決定される
b)FOMCはインフレの長期的な目標を具体的に定める能力がある
c)年間2%のインフレ率が、長期的に見てFRBの責務に最も一致した水準


もう一方の雇用の問題ですけれども、金融政策は万能ではない、例えば財政・産業・労働政策など他要因の影響が大きい、という認識であろうと思われます。

参考:
11年8月>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/31f6ae1c6b89596f60cebf846d597c63
同>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/87a916536478c2a730a72a1bafda6fab
(これは、昨日のオバマ演説の核心部分でもあるはずだ)

『最大限の雇用レベルは主に、労働市場の構造やダイナミクスに影響を及ぼす金融以外の要因によって決まる。これらの要因は時間とともに変化する可能性があり、直接測定できるものではない。したがって、雇用の目標を具体的に定めることは適切ではない。むしろ、FOMCの政策決定は、雇用の最大レベルに関する評価に基づくものでなくてはならないが、そうした評価は必然的に不確実で、修正される可能性があることを認識する必要がある。FOMCはそれらの評価を行う上で、幅広い指標を検討している。』

d)最大限の雇用レベルは主に、労働市場の構造やダイナミクスに影響を及ぼす金融以外の要因によって決まる
e)要因は時間とともに変化する可能性があり、直接測定できるものではない
f)雇用の最大レベルに関する評価は必然的に不確実で、修正される可能性がある


ざっとではあるが、a)~f)について触れておきたい。

・a)に関して
当たり前の内容が書かれているが、長期的インフレ率は(おおよそ)金融政策により決まる、ということです。
これまでに「いや、中央銀行は物価を変えられない」だの「金融政策は効果がない」だの、嘘八百の出鱈目を並べ続けてきた経済学カブレだか学者だか自称専門家だかが掃いて捨てるほど存在してきたと思うが、もう一遍学校に行きなおせと言ってあげたい。
 例:
>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/9993b3f0c071e67d168f72b590c2b35c
>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/7bb2a343b7463e535d66f48e5f8b1cd5
>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/b9e89a45ce24e3672b0e338a49a3a605
>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/f1ca57279b1398e2616fcf033881cce6

こういう論外の手合いにしてみると、FOMC声明文は何を言ってるのかが全く理解できないのではないか(笑)。

・b)に関して
これもお決まりの、物価水準なんて中銀が決められるものでない、とか寝言を言ってた連中がいたが、決められるんだろ。

・c)に関して:
日銀の1%水準の中央値ということであると、低すぎるわな。CPIだと余計にそうなりやすい、ということもある。日銀総裁以下メンバー(の認識や考え方)を変えないとまずダメだわな。

・d)に関して
自然失業率というのは、金融以外の要因の影響の方が大きいという認識ではないかな、と。すなわち、金融政策で雇用を改善しろ、と過度に要求されるのはつらい、と言いたいのではないでしょうか(笑)。

・e)に関して
最大雇用からの乖離は要因が多々あり、直接測定できるものでないし、時間経過の中で変動するので難しいよね、という話。なので、失業率を目標指標とされても、中銀としては困るわね、と。
当方の思いつきですが、例えば「失業率変化の傾き」を見るとか。大きなショック(リーマンショックみたいなやつ)で急激に雇用が失われてゆくと、失業率がウナギ登りとなるわけですが、そういう時の変化率は短い時間の中で失業数が増えるのですから、「大きい」ということになりますよね。数年かけて同じだけ失業が増えたとしても、ショックの度合いは小さいという受け止め方です。後者の場合は、所謂構造要因なども関係するだろうな、と。急激な変化の場合ほど金融政策の果たす役割の度合いは増し、ショックの緩和効果は期待できるであろうな、ということですね。
失業率が高止まりしてしまうような場合(米国でいうところの2011年中)では、既に金融政策によって受ける効果は乏しくなり、他の要因による調節を考える(優先する)べき、ということになるでしょうか。1年かけて、9%→9.2%という風に変化しているとしても、変化率(変化の傾き)が小さいわけですから、金融政策による効果は必ずしも得られないかもしれない、といった考え方です(実際にそうなのかどうかは不明です、あくまで例示です)。5%→8%という変化が数カ月で起こってしまうなら、傾きは非常に大きいということで金融政策を最大限頑張れ、ということになるのでは、と。

f)に関して:

自然失業率は(時代とともに)変わるかもしれないから、それとの乖離幅は決まってないだろうね、と。まあそういうことでしょうね。


以上、ざっと概観してみました。




FRBのインフレ目標公表の意義

2012年01月26日 14時15分48秒 | 経済関連
見出し的には、インパクトのあるものとなった。
>http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE80O00W20120125?sp=true

オバマ大統領の演説は注目に値するものだった(*1)が、日銀あたりにとってみればこちらの方がより重大事だったのではないだろうか。

(*1):参考までに、今年の大統領選の結果は、オバマ再選ではないかな。未来を予言できるわけではないが、今上がっている共和党候補者たちに勝てそうな要素が見い出せない、という感触だからである。大統領選の候補者選びというのは不思議だな、と思う。だって、あんなに互いを罵倒し貶めているのに、その中で誰か一人が残ったとしても、その人物に投票したいなどとは到底考えることができないから。まるで、共和党候補の「嫌なところ広報キャンペーン」みたい。優れた人物かどうかが分かるというよりも、欠点やあくどい部分だけが強く印象づけられ、記憶されるからだ(笑)。○○さんは外交に強いな、とか△△さんは財政や雇用政策に強いな、といった長所の部分を、ぼくは殆ど知らないもん。けど、悪い点だけなら、思い出せる。


今回のFRBが示した金融政策の考え方などについて、私見を述べておきたい。


①説明責任

米国の政治システムの背景としてあるのが、業界、政治ポストや学界の垣根が低い、というものだ。回転ドアと呼ばれるように、金融界にいた人が政治的に重要なポジションに就くことは普通にあるということだ。そういう「仲間内」の世界で好き勝手にやってるんじゃないか、というような疑念を抱かれることを危惧したのかもしれない。そのような疑念を払拭しておかねばなるまい、ということを意識したのではないかということである。
米国金融業界の都合のいいように金融政策を実行している、と看做されれば、(FRBや政策に対する)国際的な信頼を毀損しかねないから、ということでもある。これは同時に、「ドルという通貨への信認」問題ということでもある。基軸通貨としての地位を維持するには、透明性の信頼というものが欠かせない、ということであろう。その為の責任を果たすべく、外見的に分かりやすいものを示すことにしたものと思われる。


②判断基準となる指標

学問の世界で定義される、所謂「インフレ・ターゲット政策」なのかどうかはとりあえず措いておく。
日銀ではCPIと明示しているが、FRBでは”PCE価格指数”(以下、単にPCEと呼ぶ)ということであるようだ。薬物でいうところの「血中濃度」に匹敵する指標が、このPCEである、としている。CPI(コアCPI)はターゲットの指標としては選択されなかったが、これには若干の理由があるものと思われる。

CPIは以前から言われてきたように、「上方バイアス問題」というものがあった。ボスキン・バイアスとして日本でも話題に上ったが、1.1%の乖離があるというものであった。日銀では、日本の統計指標の算出方法等から「バイアス幅は小さい、0.5%より小さいかもしれない(=バイアスは殆ど存在してないかもしれない)」といった見解をレポートで公表していた。なので、今でもCPIに基づく数値を公表しているわけである。ラスパレイス指数としてのCPIは5年毎の基準改定があり、GDPデフレータとの乖離幅は無視できない程度に大きいという面もある。

参考:
05年11月>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/e9ad82833300f7065952a5e90d19cb97
06年3月>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/572ba9af73c0f877ee87d5c6f224f964

BOJの採用している指数の正確性や妥当性については別として、バイアス問題とラスパレイス指数の弱点といったものを考慮してということなのか、PCEを基準として明示した、ということである。
判断する側の立場になって考えるなら、指標としては基準改定の影響を受けにくく(毎年見直しだから)、変化及びその観察という点において「連続性」が保たれていることにメリットがあると思える。
また、PCEはラスパレイス指数とパーシェ指数の幾何平均で算出されることから、喩えて言えば日本でのCPIとGDPデフレータの中間的な数字、といった性格を持つであろうと考えられ、見る指標としては偏りが是正されているとみなせるかもしれない。


③デュアルマンデート、失業率と金融政策との関係

FRBはインフレ率に対して責任を持つ、というのと同じく、雇用についても政策目的としているわけである。ただし、失業率という「単純な数字」についての具体的数値目標のようなものを設定するのは、「容易ではない」ということを明らかにしている。失業率という数字だけを見ても、金融政策での対応には「限界があるから」という面と、金融政策が直接的に失業率をコントロールさせうるものでもない、という面があるからである。

先日の二正面作戦放棄の話(*2)ではないが、FRBとしてはインフレ率と雇用を政策目標には置いているものの、主たる正面(敵)はインフレであり、金融政策の主眼的な部分はここに置くということになるだろう、ということだと受け止めた。もう一方の雇用(失業率)に関しては、目標から放棄はしないものの、数値目標のような形では明示しない、という意味合いである。

(*2):2つの大規模紛争(国家間戦争)対処の戦力を維持してきたのを変更し、一つの大規模紛争対処戦力を維持(1正面)と別な脅威(低強度紛争)についての処理能力(特殊部隊や海空統合戦力活用等)を維持するというもの。

従って、デュアルマンデートを維持しつつも、主たる目標はインフレ率とし、雇用に関しては局面ごとで柔軟に対応、ということであろう。

たとえインフレ率に関して明示的な数値目標を掲げたとしても、その数字だけで全てを判断することは難しいことに変わりはない。ターゲットがあれば外見的に判断し易いか、後付けの言い訳などではなく、説明が整合的かどうかを示し易い、といったことがあるだろう。
例えば、アルコールの血中濃度という数字には意味があっても、観察される「酔っ払っている様子」というものが、必ずしも正確に対応しているわけではないといったことがある。その日の体調とか、個人差とか、他の要因とか、色々とあるわけであり、酔いの程度を判定する外見上の評価(経済であれば、各種経済指標とか景気判断とか)が「アルコール血中濃度」と一意的に対応しているとは限らない、ということである。

なので、インフレ目標を明示することと、デュアルマンデートを維持することには矛盾はないし、金融政策が必ずしもPCEという特定の数値だけに完全拘束されるというものでもない。周囲(政策担当以外の全ての人たち)からみて、説明や選択された政策が整合的かどうか、というのが、「より判り易くなる」という効果が最も大きいだろう、ということである。不整合な言い訳など通用し難くなるし、失敗の存在も明らかになり易いですね、という話である。

どうりで日銀がこの採用を拒否するわけだ(笑)。