西尾治子 のブログ Blog Haruko Nishio:ジョルジュ・サンド George Sand

日本G・サンド研究会・仏文学/女性文学/ジェンダー研究
本ブログ記事の無断転載および無断引用をお断りします。
 

第22回「女性作家を読む研究会」の 報告 

2012年12月13日 | 女性文学・女性



皆さま、寒い日が続きますが、お元気にてお過ごしでしょうか。
大変遅くなってしまいましたが、第22回「女性作家を読む研究会」の報告を以下にアップいたします。

ーー
「女性作家を読む」研究グループは、10月6日、慶應義塾大学日吉キャンパスDB112番教室にて第22回研究会を開催しました。
今回は講演者としてマルチニック出身でクレオール文学に造詣が深く、ラフカディオ・ハーンの研究でも知られるソロ・マルチネル氏をお招きしました。

 「シモーヌ・シュヴァルツ=バルト女史の『奇跡のテリュメに雨と風』を読むー創始者となる女性の神話の構築 小説舞台のダイナミズムからヒロインの運命までー」と題した講演でマルチネル氏は、まずシモーヌ・シュヴァルツ=バルトの略歴を紹介され、次いでカリブ海文学の最高傑作に数えられ、クレオール作家のパトリック・シャモワゾーが「汲み尽くされず汲み尽くしえぬベストセラー」と形容する『奇跡のテリュメに雨と風』について詳しい解説を展開されました。

 この小説は、1635年以来フランスの植民地であったカリブ海アンテイーユ諸島の島グアドループを舞台とする女系一族の物語だが、他のクレオール作家のようにクレオール語を混在させずフランス語のみで書かれている。しかしながら全編を通し、独特の言い回しとリズム、フランス語の表現には存在しないクレオール的表現や呼びかけ、点在する諺といった独自の表現に満ちており、クレオールの伝統的な口承性が息づいている。物語は1848年の奴隷制廃止の年に始まる。父親の死後、母親に捨てられた少女テリュメが「名前なき女王」という名前をもつ祖母に引き取られ、結婚や別れを繰り返した後、白人に雇われ労働するが、遂には老いて死を迎える直前までが描かれている作品である。

 マルチネル氏はとりわけ、100を超える引用を駆使しつつ、作中人物における名前とアイデンティティの問題の重要性を強調された。
ヒロインの住む小さな共同体の住民達は渾名やプレノンをもっているが、僅かな例外を除き彼らには姓がない。また同じ人物に異なる渾名がつけられ、時にその名は流動的に変化する。渾名は共同体の一員として認められていることを示す父権的な名前の代替であり、ゆえに価値が高い。この小説の特徴は男や父親の影が薄いことだ。共同体は女たちによって維持され子供は彼女らに育てられる。この女系共同体一族は、父権的な父の姓を辿って家族の歴史を知ることはない。女たちは男の祖先から乖離したデラシネ(根無し草)の生を生きる。この物語では渾名が姓を嘲笑し、姓が存在しないためにプレノンと渾名の力が強力に作用し名誉ある位置を享受している。名前は文化規範の多様性に従っているのだ。

 S・シュヴァルツ=バルトは小説舞台の随所に象徴的な装置や小道具を鏤めているが、これらの手法を通し、最後には「奇跡のテリュメ」と呼ばれ神秘に包まれた神話と伝説の女王となったヒロインの物語を美事に現出させることに成功している。マルチネル氏はこのような指摘をもって講演を締めくくられたのでした。
 
 講演後にはクレオール文学を研究中の複数の院生、会員とソロ氏との間で活発な質疑応答が交わされ、充実した内容の研究会となりました。午後から日仏会館で開催されるシンポジウム「3.11以降のフェミニズムを問う」を考慮し午前中の早い時間に設定したにも拘らず、関西始め首都圏から20名近い参加者を得て、懇親会にも多くの方が参加され、和やかな歓談の時を持つことができました。参加くださいました皆さま、お疲れ様でした。次回の集まりにつきましては、追ってご連絡申し上げます。
      
ーーー
第22回「女性作家を読む研究会」
日時:2012年10月6日 10時半~12時 
場所:慶応義塾大学・日吉キャンパス・DB112番教室(地図④最新の建物)
講演:ルイ=ソロ・マルティネル氏
シモーヌ・シュヴァルツ=バルト女史の『奇跡のテリュメに雨と風』を読む
  ー創始者となる女性の神話の構築
 小説舞台のダイナミズムからヒロインの運命までー
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする