大急ぎで書いたもので恐縮ですが・・・
11月22日には、第35回「女性作家を読む」研究会が京都造形芸術大学にて開催され(コーディネーター・総合司会:吉川佳英子氏)、三点の発表がおこなわれました。
岡尚子氏の「『摩擦する「母」と「女」の物語』をめぐって」は、本年出版され、本学会でも村田京子氏による書評が『女性空間』(日仏女性研究学会学会誌)に掲載されていますので、ご存じの方も多いことと思いますが、本発表はこのご本人の著書『摩擦する「母」と「女」の物語』に関するものでした。本書は19世紀を代表する様々な作家、シャトーブリアン、コンスタン、セナンクール、バルザック、ミュッセ、スタンダール、フロベールから20世紀のエクトル・マロやマルグリット・デユラスまで取り上げ, これら作家の小説を嚆矢とし、さらにはG.サンドの作品に現れる母と女あるいは男性性を検証し考察した膨大な研究(文科省科研費を獲得)を礎としています。19世紀のブルジョワ社会が理想とした「家庭の天使」が、いかに男たちのファンタスムであったか、さらにイヴ・セジウイックのクイア理論や、ルネ・ジラールのミメーシス理論を駆使し、登場人物たちの男性性を丁寧に分析、解説された本書は、ご本人も知らなかったそうですが、仏文学界で非常に著名でおられる小倉孝誠による極めて好意的な書評が雑誌『ふらんす』に掲載されたとのことでした。ここに付記させて頂きます。
新實五穂氏は「京都服飾文化研究財団(KCI)の活動と所蔵品としての下着」と題する研究発表において、コルセットなどヨーロッパや日本の女性の下着の歴史的変遷を分析、検証されました。パワーポイントを使用して展開されたヴィジュアルな発表で、美しい衣装や補正下着など滅多に目にすることの出来ない非常に貴重な数々の関連資料を提示されました。とりわけ18世紀は医学的な器具、19世紀は補整下着、20世紀は自然な女性の身体表現として下着が身につけられたことなど、17世紀のボディスからコルセットを経てクリノリンに至るまで、デザイナーも多岐にわたり、それぞれの世紀の特徴を指摘されつつ発表を展開され、多くの参加者から沢山の質問が出されました。
最後に「ジョルジュ・サンドはなぜポリーヌ・ヴィアルドにかくも傾倒したのかー作家と芸術家のジェンダー意識をめぐって」と題した西尾の発表は、本年の国際女性デーのテーマとして小林氏が取り上げられた女性作曲家ポリーヌ・ヴィアルドとサンドとの知られざる関係に関する発表でした。二人の往復書簡を基に、発表者が独自に作成したサンドとポリーヌの略年表に沿い、37年におよぶ相互交流の中で最も主要な事件を中心に解説、中でもサンドが1848年の二月革命の際に、友人の政治家ルイ・ブランやルドリュ・ロランが設立した共和制の臨時政府に協力し多くの政治的な記事を書いたことは知られるところですが、その彼女が「音楽の分野でも革命を!」とサンド称するところの「ラ・ヌーベル・マルセイエーズ」の作曲をポリーヌに促し、同時に政府にも積極的に働きかけ、遂にこの曲の大合唱が劇場の開幕式でおこなわれたこと、また、ルイ・ヴィアルドとの結婚は、ポリーヌにつき纏う詩人ミュッセ(サンド若かりし頃の恋人)をやっかい払いするためにサンドが画策したものであったといった諸事例に代表されるように、二人は実際の母娘以上であるかのような繋がりを通し、何よりも芸術と文学の融合を目指し理想を実現する関係であったことを多様な角度から考察しました。次いで、女性蔑視が激しかったとされるゴンクール兄弟の小説『ラ・フォスタン』をポリーヌが批判していることに着目し、ゴンクールの言説および当時の女性蔑視を支えていた「ナポレオン法典」の各条項さらにトマス・ラカーが主張する二項対立の二元論的科学思想「ツーセックス・モデル論」に言及、サンドとポリーヌに共通する男性性こそが、両女性における社会的文化的性差であるジェンダー思想の原点をなすものであり、ハルバー・シュタムの男性性に関するジェンダー理論に通底する現象が彼女たちに検証されることを指摘、最後にポリーヌはサンドにとってアルター・エゴであったという結論をもって「盛り沢山」との感想や多くの質問を頂戴した拙発表を終えたのでした。
今後の研究会の活動に関しては、消費税の引き上げが延期されたことから、来年の秋前を最終目標としていた翻訳出版の時期に多少の余裕が出てきましたので、関西のパワフルな研究活動を鏡としつつ、関東、関西双方の研究会の連携を緊密に取り合いながら研究活動を進めていけますようにと願っている次第です。
(文責:西尾治子)
https://archive.org/stream/lafaustin00gonciala#page/n5/mode/2up
11月22日には、第35回「女性作家を読む」研究会が京都造形芸術大学にて開催され(コーディネーター・総合司会:吉川佳英子氏)、三点の発表がおこなわれました。
岡尚子氏の「『摩擦する「母」と「女」の物語』をめぐって」は、本年出版され、本学会でも村田京子氏による書評が『女性空間』(日仏女性研究学会学会誌)に掲載されていますので、ご存じの方も多いことと思いますが、本発表はこのご本人の著書『摩擦する「母」と「女」の物語』に関するものでした。本書は19世紀を代表する様々な作家、シャトーブリアン、コンスタン、セナンクール、バルザック、ミュッセ、スタンダール、フロベールから20世紀のエクトル・マロやマルグリット・デユラスまで取り上げ, これら作家の小説を嚆矢とし、さらにはG.サンドの作品に現れる母と女あるいは男性性を検証し考察した膨大な研究(文科省科研費を獲得)を礎としています。19世紀のブルジョワ社会が理想とした「家庭の天使」が、いかに男たちのファンタスムであったか、さらにイヴ・セジウイックのクイア理論や、ルネ・ジラールのミメーシス理論を駆使し、登場人物たちの男性性を丁寧に分析、解説された本書は、ご本人も知らなかったそうですが、仏文学界で非常に著名でおられる小倉孝誠による極めて好意的な書評が雑誌『ふらんす』に掲載されたとのことでした。ここに付記させて頂きます。
新實五穂氏は「京都服飾文化研究財団(KCI)の活動と所蔵品としての下着」と題する研究発表において、コルセットなどヨーロッパや日本の女性の下着の歴史的変遷を分析、検証されました。パワーポイントを使用して展開されたヴィジュアルな発表で、美しい衣装や補正下着など滅多に目にすることの出来ない非常に貴重な数々の関連資料を提示されました。とりわけ18世紀は医学的な器具、19世紀は補整下着、20世紀は自然な女性の身体表現として下着が身につけられたことなど、17世紀のボディスからコルセットを経てクリノリンに至るまで、デザイナーも多岐にわたり、それぞれの世紀の特徴を指摘されつつ発表を展開され、多くの参加者から沢山の質問が出されました。
最後に「ジョルジュ・サンドはなぜポリーヌ・ヴィアルドにかくも傾倒したのかー作家と芸術家のジェンダー意識をめぐって」と題した西尾の発表は、本年の国際女性デーのテーマとして小林氏が取り上げられた女性作曲家ポリーヌ・ヴィアルドとサンドとの知られざる関係に関する発表でした。二人の往復書簡を基に、発表者が独自に作成したサンドとポリーヌの略年表に沿い、37年におよぶ相互交流の中で最も主要な事件を中心に解説、中でもサンドが1848年の二月革命の際に、友人の政治家ルイ・ブランやルドリュ・ロランが設立した共和制の臨時政府に協力し多くの政治的な記事を書いたことは知られるところですが、その彼女が「音楽の分野でも革命を!」とサンド称するところの「ラ・ヌーベル・マルセイエーズ」の作曲をポリーヌに促し、同時に政府にも積極的に働きかけ、遂にこの曲の大合唱が劇場の開幕式でおこなわれたこと、また、ルイ・ヴィアルドとの結婚は、ポリーヌにつき纏う詩人ミュッセ(サンド若かりし頃の恋人)をやっかい払いするためにサンドが画策したものであったといった諸事例に代表されるように、二人は実際の母娘以上であるかのような繋がりを通し、何よりも芸術と文学の融合を目指し理想を実現する関係であったことを多様な角度から考察しました。次いで、女性蔑視が激しかったとされるゴンクール兄弟の小説『ラ・フォスタン』をポリーヌが批判していることに着目し、ゴンクールの言説および当時の女性蔑視を支えていた「ナポレオン法典」の各条項さらにトマス・ラカーが主張する二項対立の二元論的科学思想「ツーセックス・モデル論」に言及、サンドとポリーヌに共通する男性性こそが、両女性における社会的文化的性差であるジェンダー思想の原点をなすものであり、ハルバー・シュタムの男性性に関するジェンダー理論に通底する現象が彼女たちに検証されることを指摘、最後にポリーヌはサンドにとってアルター・エゴであったという結論をもって「盛り沢山」との感想や多くの質問を頂戴した拙発表を終えたのでした。
今後の研究会の活動に関しては、消費税の引き上げが延期されたことから、来年の秋前を最終目標としていた翻訳出版の時期に多少の余裕が出てきましたので、関西のパワフルな研究活動を鏡としつつ、関東、関西双方の研究会の連携を緊密に取り合いながら研究活動を進めていけますようにと願っている次第です。
(文責:西尾治子)
https://archive.org/stream/lafaustin00gonciala#page/n5/mode/2up