西尾治子 のブログ Blog Haruko Nishio:ジョルジュ・サンド George Sand

日本G・サンド研究会・仏文学/女性文学/ジェンダー研究
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ジョルジュ・サンド:部分的訳出 1 

2015年08月08日 | 手帳・覚え書き
 彼女にはこの肖像画が恐怖となる夜もあった。
「どのような絵空事の平等思想がおまえの夢をいっぱいに
しているのかえ? 愛とはおまえが信じているようなもの
ではありませぬ。男どもは決しておまえが望むような人間
ではないのですよ。彼らはもっぱら、国王や女たちそして
自分自身に欺かれるよう、こしらえられているのです」
と自分に語りかけてくるように思われたのだ。

 たまに彼女の耳に聞こえてくる声があったが、それは
彼女の遠い祖先に当たるスエーデンの公爵夫人オロール・
ド・コニグスマルクの声だった。この公爵夫人は行方不明
となったとされる弟を捜し求めザクセン地方 全域を通り
抜けたが、こうして後にポーランド王オーギュスト二世
となるザクセン選出候フレデリック=オーギュストその
人の寵愛を得たのだった。二人はお互いに好意を抱き、
お互いに夢中になり、そして、この恋愛から家族の中で
初めてモーリスと名付けられる子供が誕生したが、この
子どもがザクセン公爵となり,後にフランスの元帥と
なったのである。

 モーリス元帥の肖像画のすぐ横には母親の肖像画が
かけられていた。元帥は威厳たっぷりの鎧姿で、その紺碧
のまなざしはいつも彼を見る人に注がれているかのよう
だった。「前へ進め、太鼓を打て、火縄に点火せよ!」。
サンドの祖母の母親で若い女優だったマリー・ラントー
を魅惑したのは、元帥のこの美しい笑顔だったのでは
なかろうか。
コメント
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