ずいぶん昔に読んだことがあったが詳細を思い出せない短編を本棚にみつけ、読んでみた。
書かなければならない原稿がいくつかあるのだけれど、春休みなのでちょっとだけ一休み・・・
『脂肪のかたまり』
30歳のモーパッサン(1850―1893)が彗星のように文壇に躍り出た記念すべき中篇小説.普仏戦争を背景に,人間の愚劣さと醜さに対する憤りを,ユーモアとペーソスをまじえた客観描写で定着させたこの作品は,社会の縮図を見事なまでに描き切った.師フローベールからも絶賛され,その後の作家活動を決定づけた作品.新訳.
ギー・ド・モーパッサン (著), Guy De Maupassant (原著), 高山 鉄男 (翻訳)
出版社: 岩波書店 (2004/3/16)
ブール・ド・スゥイフとは、この小説の主人公につけられたあだ名(丸々とした太いソーセージがつながっている様を連想させる体つきからつけられたもの)
非常に太っているが魅力的で性格がよく男たちにもてる売春婦。彼女は娼婦という社会的地位ゆえに、ブール・ド・スゥイフ(脂肪のかたまり)とさげすまれ、軽蔑される。自己中心的でこざかしい連中にとことん利用され、利用価値がなくなった瞬間から、かれらに冷酷で残酷な仕打ちを受けるのだった。
注記:
・この短編小説には、子どもの言葉あそび(ロワゾー・ヴォル遊び)が登場する。動物の名前を言い、飛ぶことのできる動物の場合、すかさず vol (ヴォル)と言うフランスの子どもの遊び 詩作なども嗜む鋭い頭脳の持ち主の地方名士トゥールネル氏がパーティで提案する遊び(p.20)
・ブール・ド・スゥイフが、乗合馬車でタンタロスよろしく飢えた9名の上流階級の乗客たちにふるまう食べ物。あまりに美味しそうなので、以下に転記:
二羽の若鶏 葡萄酒4本 レジャンス* フォワグラのパテ 雲雀のパテ 牛の舌のくんせい きゅうりと玉葱の酢漬け ポン・レヴェック産の角形チーズ 洋梨 ケーキ (pp. 30−39)
* ノルマンディ地方で「レジャンス」と呼ばれる小さなパン
訳者解説より
(・・・)人々の俗物性と偽善、残酷さとエゴイズムがいかんなきまでにあらわに描かれている。他人に対する優しさを少しでも持ち合わせているのはブール・ド・スゥイフだけで、ほかの人間の頭にあるのは自分たちのことだけだ。しかもこうした利己主義に、自分たちの社会的地位や財産を鼻にかけた優越感と満足感が加わっているのだから救いようがない。六日間の旅を通じて暴かれた人間性の本質は、まったく惨めなものでしかない。モーパッサンのあらゆる作品の基調となっている人間性への絶望が、この作品においてすでにはっきりと表現されている。(p.105)
ーーー
次の写真は先週末に上演されたフランス劇『マクベス』の舞台です。大学で教鞭を執っておられる知り合いの先生方も熱演しておられました。