漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

「アトピーは中医学と薬膳で治す」

2010年05月03日 09時40分53秒 | 漢方
植松光子著、二見書房(2005年発行)

著者は薬剤師で、中医学(※)を本格的に勉強した専門家です。
「西洋医学&漢方医学ブレンドでアトピーを治療」を目指している私にとって食生活から見直す「薬膳」は究極の目標であり、このタイトルはドンピシャでした。
内容も偏らず「中庸」を行き、頷けることばかりで大変参考になりました。

この本はアトピー性皮膚炎の湿疹の状態に対応して有効な漢方薬を紹介すると共に、湿疹を和らげる食事も記載されています。例えば、赤く熱を持った状態には冷やす食材、皮膚が暗赤色となり血の巡りが悪くなっているときはそれを改善する食材など。

これからは薬による治療だけでなく、栄養・食事指導が重要になると思います。
食物アレルギーが合併しているときは除去食を指導しますが、ふだんの食生活にも適切なアドバイスの必要性を感じます。
日本人は「健康な食生活」を忘れかけているような印象があるので。

さらに一歩進んで、食材が湿疹に与える影響を考慮したり、よい状態を保つ予防医学的「薬膳」の考え方が理想ではないかと考えます。


※ 「中医学」という言葉についての著者の解説;
 漢方には「日本漢方」と「中医学」の二つが存在し、微妙に異なります。

「日本漢方」
 2000年近く前の「漢」の時代にできた「傷寒論」「金匱要略」という本の処方をもとに、江戸時代から日本で発展した独特の医学。2000年前は地球が寒かったので、寒さに傷められたときの処方が多く載っています。いわゆる一般に云われている漢方はこの頃できた処方が多く、アトピーのような「熱」がこもってできた病気には、残念ながら薬の力は足りません。

「中国医学(=中医学)」
 現代の中国で用いられている伝統医学で、人間の五臓の流れや季節との関係、体質、症状をよく見て「熱」があるか、「寒」があるかなど「弁証」し、治療方針を考えるのが特徴です。この2000年の間に中医学はさらに発展し、一方、地球温暖にともなって「温病(うんびょう)」といわれる「熱」のこもった病気が増えてきました。アトピーなどは温病に属しますので、アトピー治療には中医学が適していると思われます。

・・・ここを読んで「温病」の概念と重要性を再認識しました。

以下に「ほほう」と頷けた箇所をメモしておきます。

■ 第一章:アトピーが中医学で治った!
患者さんの経験談(治療成功例)から始まります。
まあ、読者の心をつかむありがちな設定ですね(苦笑)。

■ 第二章:中医学で治す!アトピー性皮膚炎

・西洋医学ではステロイド軟膏が中心に使用されますが、根本的な解決にはなりません。なぜでしょう? ~それはアトピーの原因が皮膚にあるのではなく、体の中にあるからです。皮膚疾患でも体の中から治さなければ解決しないのです。

・「ツーステップ美肌術」
1.「症状」を取り去る段階(漢方で云う「標治」)
 皮膚症状(発赤、ジクジク、腫れ)などのつらい症状を改善する漢方方剤と生薬、そして薬膳を活用します。
2.「体質改善」の段階(漢方で云う「本治」)
 赤みが取れたら乾燥肌を治し、皮膚炎の再発を防ぐための体作りをします。
①漢方薬、②保湿、③心と体を丈夫にする食事と運動、薬膳を生活に取り入れます。

・患者さんのつらい痒みと皮膚の赤みは、中医学では体にこもった「熱」と考えます。熱が発生する原因には「ストレス」「食べ物」「生活習慣の乱れ」があります。

・皮膚が赤いのは陰陽の「陽」の過剰と捉え、「清熱作用」のある生薬を用いて「熱」を取り去り「陽」の過剰を防ぎます。同時に、キムチやチョコレート、ケーキ、肉などの摂りすぎ(1日70g以上)、お酒などは体を熱くし「陽」を過剰にするので控え、「熱」を取り去る野菜を多く摂るよう心がることが大切です。

■ 第三章;タイプ別アトピー治療

1.ジクジクした湿気と熱がこもったタイプ→「湿熱」
{湿疹の様子}赤く腫れて皮膚が少し盛り上がり、黄色い汁がジクジク出ている状態。
{全身の症状}便秘がちで舌の色が赤く、舌苔は黄色で豆腐のようなネットリした感じ。
{望ましい食生活}食べ過ぎを避ける、食材では緑豆や小豆、スイカなど利尿作用のあるものを積極的に摂るようにしチョコレートや揚げ物などしつこいものは避けましょう。
{有効な漢方薬}生薬は苦いリンドウの根、木通(アケビの蔓)、オオバコ、クチナシ、黄柏、石膏、金銀花、連翹、山帰来、ヨクイニン、スベリヒユ(馬歯莧)など
※スベリヒユのエキスは日本では「五行草茶」という名前で販売されているそうです。

2.皮膚が真っ赤で、熱と毒がいっぱいのタイプ
{湿疹の様子}皮膚は真っ赤で鮮やかな色、赤い部分を触ると熱く、自分でも灼熱感があります。痒みが大変強くて、掻きむしった跡に血がついて乾き、ただれたところからの出血も見られます。
{全身の症状}発熱やイライラ、口の渇き、便秘、のぼせ、目の充血など。舌は真っ赤で舌苔は黄色。
{有効な漢方薬}生薬は白花蛇舌草、黄連、黄岑、牡丹皮、石膏、金銀花、蒲公英(タンポポ)、玄参など。方剤としては「涼血清営顆粒」「黄連解毒湯」「諒解楽」など。

3.カサカサと皮膚が乾燥し、ひびが入るようなタイプ
{湿疹の様子}皮膚は乾燥のため厚くてゴワゴワした感じで、その部分を掻くと白い線の跡がつきます。痒みは激しく、入浴後や眠ろうとする頃に掻かずにはいられないような痒みに襲われることがしばしば。皮疹の跡は赤黒く沈着し、そこを掻くと出血します。さらに乾燥が進むと、皮膚は萎縮して白い粉が浮いたり、産毛が無くなってテカテカと光る肌になっていきます。色素沈着して灰白色になり、目の下に斜めにしわが入ったりします。
{全身の症状}手足が火照ったり、寝汗をかいたりする、足腰が弱いなどの体質の人に多い。
{有効な漢方薬}生薬は熱を取り、しかも潤す作用のあるもの・・・生地黄、玄参、地骨皮、知母、当帰など。方剤では「温清飲」「当帰飲子」「瀉火補腎丸」など。

4.血がドロドロになって、くすんだ黒っぽい肌のタイプ→「瘀血」
{湿疹の様子}アトピーが慢性化すると肌はくすんだ黒っぽい色になってきます。全身はテカテカした暗い赤から炭のような色に変化し、黒い筋が首についたりします。ちょうど鍋が煮詰まって、中のものが焦げついたイメージですね。
{全身の症状}疲れやすく、ほてったりのぼせたり、寝汗をかくことも多いようです。
{望ましい食生活}果物(梨、リンゴ、ブドウ、メロン、桑の実)、野菜(カブ、ネギ、タマネギ、トマト、セロリ、ピーマン)、海草(ひじき)、動物性のものでは豚の赤身肉、ハマグリ、鴨肉、イカ、イワシ、サンマなどの青身の魚、ハチミツなどがよい。
{有効な漢方薬}生薬として生地黄、牡丹皮、知母、亀板、鼈甲など。

※ 漢方の軟膏;

「太乙膏(タイツコウ)」
 皮膚が赤くカサカサしているときに有効。生薬の玄参は湿気や熱が体にこもり、血が熱くなり、皮膚が赤く、しかもカサカサしているときに用いる生薬で、他の生薬と一緒にゴマ油、蜜蝋に溶かしたものがこれ。カレー粉のようなニオイがありますが、もともと切り傷や火傷、床ずれに使うもので、皮膚を再生する能力があります。

「紫雲膏」
 乾燥タイプで赤くないときに有効です。ムラサキの根の「紫根」とセリ科の植物で血行をよくする「当帰」が主成分。本来、火傷の特効薬として有名で、皮膚を修復する作用が優れています。

■ 第五章:美しい心と体を作るライフ・スタイル

<美しい肌をつくるための大切な食養生>
① 甘くてカロリーの高いものを控える:ケーキ、チョコレートなどのお菓子類(牛乳や卵、砂糖が入っていて体の中に熱をこもらせる)
② 油ものを控える:てんぷら、とんかつ、ポテトチップスなど(消化しにくく胃にもたれ、胃に熱を生じる)
③ 香辛料が強いものを控える:キムチ、カレーなどは体内で熱を生じる。
④ 加工食品を控える:ファーストフードには砂糖、油、乳製品、卵などや添加物が入っているので胃腸の負担を重くし、もたれて胃の中で熱を生じる。
⑤ 高蛋白のものを控える:牛乳(1日200ml以下)、乳製品(チーズは控える、ヨーグルトは1日100ml以下)、卵(1日1個以下)、青魚(1日5cm角以下)、肉類(1日50g以下)。
⑥ 生もの、冷たいものを控える:アイス、かき氷、冷たい飲み物(胃腸を冷やして体内の水分代謝を悪くして「湿」をためる)
⑦ 果物は寒い時間に摂るのは控える:
⑧ コーヒーは控える
⑨ 酒を控える
⑩ タバコは絶対ダメ

<体を芯から健康にする基本のメニュー>
・できればご飯を3食:お米は日本人の長い腸でゆっくり栄養が吸収され、便秘を防ぎます。小麦粉は消化がよすぎて日本人は便秘をします。日本で売られているパンは卵・牛乳・砂糖がいっぱい含まれていますので、なるべく避けましょう。
・副食は海草、魚、野菜、豆と豆製品、イモ類
・食べ過ぎない
・飲み物はカロリーのあるもの(炭酸飲料、ジュース、コーラなど)を控える
・ゆっくりよく噛む
・インスタント食品はできるだけ避ける
・牛乳は1日200ml以下、卵は毎日は食べない。

<食材の食性>
 中国の栄養学では、食べ物を温性(体を温める)、寒性(体を冷やす)、平性(どちらでもない)に分けます。

【温性】にんにく、ネギ、ニラ、セロリ、からし菜、菜の花、かぼちゃ、レンコン、ミカン、もも、パイナップル、ザクロ、クルミ、さくらんぼ、栗、杏、黒豆、牛肉、マトン、鶏肉、鯉、イカ、エビ、しそ、生姜、コショウ、シナモン

【平性】かぶら、キャベツ、もやし、春菊、里芋、ジャガイモ、大根、ニンジン、サツマイモ、山芋、しいたけ、キクラゲ、リンゴ、イチジク、びわ、ブドウ、ぎんなん、鶏卵、もち米、そば、トウモロコシ、サヤエンドウ、空豆、小豆、赤貝、アワビ、ウナギ、ハチミツ、ゴマ

【寒性】ほうれん草、くわい、トマト、クレソン、ナス、キュウリ、白菜、ワラビ、ニガウリ、ゴボウ、梨、柿、だいだい、ゆず、レモン、メロン、バナナ、パパイヤ、ハトムギ、エンドウ、豆腐、豚肉、鴨肉、はも、なまこ、牡蠣、海草

・・・食材を目にしたとき、これをイメージできると良いんですがとても覚えきれません。まだ道は遠い・・・(苦笑)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする