漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

2015.2.22「漢方ステップアップセミナー」に参加してきました。

2015年02月23日 07時14分05秒 | 漢方
 今回の講師は佐藤浩子先生(群馬大学 救命・総合医療センター 和漢診療科)。
 オーソドックスでわかりやすい講演には定評があります。
 実はこのセミナー、昨年の2月に企画されたモノなのですが、大雪のため中止となり、今年に延期された経緯があります。

 漢方診断学の概要を解説し、実習形式で「便秘」を主訴とする患者さんを診察し、思考過程と選択した方剤を発表するという内容がメインでした。
 スライドは寺澤先生の『症例から学ぶ和漢診療学』からの引用が多かったですね。

 私にとって、理解不十分だったところが明確化し、日頃抱いていた疑問がいくつか解消し、高崎まで出向いた甲斐がありました。

・八綱分類の「陰陽」と「六病位」は関係するのか → YES
・舌診の概要;
 寒熱:寒では青色、熱では赤、舌苔は寒では白、熱では黄色→ 茶色→ 黒色
 気虚:淡白色、大きく厚い、ときに歯根
 血の異常:血虚では淡白色で小さくしまる、瘀血では暗赤色/瘀斑
 水の異常:水滞では舌形は大きく厚く/舌苔は厚く湿った苔、陰虚では舌は薄く苔はない
 ・・・気虚と水滞の違いがよくわからない?

◇ 症候の意味するところ
・「盗汗(寝汗)」は「虚」
・「物事に驚きやすい」は「気虚」and「気逆」
・「手に汗握る」は「気逆」
・「爪のもろさ」は「血虚」
・「筋緊張(こむらがえり、腹直筋攣急)」は「血虚」
・「めまい、車酔い、立ち眩み、天候により悪化」は「水滞」
・「コロコロ硬い便」は「陰虚」(血虚を含む)・・・陰虚とは水が足りない状態
・こどもの「くすぐったがり屋」は「胸脇苦満」
・「腹部大動脈の拍動」は3種類
 → 「虚証の顕著な時(腹壁が薄く軟弱な人)」・・・補中益気湯/真武湯/桂枝加竜骨牡蛎湯
 → 「煩驚」(心肝火旺)・・・柴胡加竜骨牡蛎湯(実証)/柴胡桂枝乾姜湯(虚証)
 → 「水滞」・・・苓桂朮甘湯/五苓散/半夏白朮天麻湯
・腹壁の冷感は2種類;
 心下・・・人参湯
 臍周囲・・・大建中湯

 「便秘」患者の実習は、シナリオを佐藤先生が作り、それに合致した製薬会社の社員がモデルを務めるという形式でした。
 なので、シナリオ通りといかないところがご愛敬。
 我々のグループの前に現れた中肉中背の中年男性が「私は47歳の女性です」と言い出した時は唖然としてしまいました(苦笑)。

 「急性扁桃炎はほとんどが細菌感染症」との説明に、小児科医の私は違和感。
 現在では、白苔が付着するような扁桃炎は、溶連菌以外はアデノウイルスやEBウイルス等のウイルス感染が多く、溶連菌迅速検査が陰性の場合は抗菌薬の適応にならないというのが一般的です。

 風邪の解説では、傷寒論に限定せず、温病論も合わせて柔軟に考えていました。温病に対する方剤の一つとして小柴胡湯を取りあげ、「胃腸障害を生じにくい消炎解熱薬」として説明されました。

 最後の「疼痛疾患」では・・・睡魔に負けてしまいました。すみません。
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「ジェネラリストのための“メンタル漢方”入門」(宮内倫也著)

2015年02月19日 17時39分50秒 | 漢方
副題:抗うつ薬・抗不安薬を使うその前に
日本医事新報社、2014年発行

 最近、発達障害に漢方薬を使いたい、という相談を何件か受けました。
 それに伴い、その家族(特に母親自身)が漢方薬を希望されることも。
 しかし、私は精神科医ではないので「専門外です」とお断りせざるを得ません。
 でも何とかならないものかと、将来に向けて少しずつ本を読んでいます。

 この本は若手精神科医が書いた漢方啓蒙書です。
 前書きを読むと「漢方をかじり始めて病名漢方的に処方してきたけど限界を感じ、漢方理論を勉強し直してきた」という、私と同じような経歴。
 ただし、この著者はその勉強のスピードがすさまじい。
 医学部を卒業したのが2009年であり、研修医課程が修了したばかりなのです(私より20歳若い!)。
 ほかにも研修医向けの本なども書いており、ブログを覗くとその読書量がとてつもないことがうかがい知れます。
 ちょっとしたスーパーマンですね。

 著者が若いためか、この本の記述法も口語調です。
 漢方の大家が上から目線で書いたものではなく、漢方を勉強中の若手がその過程で出会った困ったこと/つまずきやすいこと/コツやポイントを記した、というイメージですね。
 それを、わかりやすい/読みやすいと感じるか、鼻につく/医学書らしくないと感じるかは読者次第(苦笑)。

 漢方を処方するためには、基礎知識を知らなければビギナーズラックで終わってしまい応用が利かない。
 精神科領域で漢方を処方するためには、まず精神科的診察所見をしっかりとれなければ始まらない。
 ということで、前半は漢方の生薬/方剤の解説と、西洋医学の精神疾患の最低限の解説。
 この辺は、読むのに結構時間がかかります(井齋先生の著書の何倍も)。

 それを経て、精神科にすぐ紹介するほどでもないグレーゾーンの患者さんに対して漢方薬で対処する手法が述べられており、ここはわかりやすい。
 ただし、この本を読めばすぐに処方できるようになるというものではなくマスターするにはやはり経験と時間が必要です。

 気血水理論では気滞(気が滞る)と瘀血(血が滞る)・水滞(水が滞る)も伴いやすい、とか慢性化している時は瘀血がかかわっているとか、文章の端々に参考となるヒントが隠されており、参考になりました。
 
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「女性のための自分で選べる漢方の本」(大澤稔著)

2015年02月12日 08時18分45秒 | 漢方
 PHP研究所、2014年発行

 同じ県内の先生が書いた漢方啓蒙書です。
 著者の大澤先生は、前出の井齋先生主催の「サイエンス漢方処方研究会」に属する産婦人科医です。

 この本も1日で読了しました。
 漢方理論を振りかざすことなく、現代医学用語での説明に徹しています。
 フローチャートで方剤が選択できるようになっているので、さらにわかりやすい。

 この研究会の漢方服用方法における特徴は、急性疾患にメリハリをつけて使用するところ。
 添付文書の「1日2~3回、食前に投与」なんて守っていたら効くものも効かない、急性期には数時間ごとに症状が治まるまで使う、と再三強調されています。
 まあ、これが本来の正しい投与法なのですが、添付文書に書かれてしまうと、そのルールを無視して服薬指導するのにちょっと抵抗がありますね(苦笑)。

 一つお役立ち情報を引用します;

【桔梗湯】
 漢方薬の中で最も速く効く方剤。
 これはのどの痛みに有効ですが、ちょっと変わった飲み方をします。
 湯飲み茶碗に半分くらい白湯を注いで桔梗湯を溶き、口に含んだ後に、のどをガラガラと遺糞ほどうがいして、最後はゴクンと飲み込みます。
 この時点で、のどの痛みは捕れています。しかも、甘くて美味しい味がします。
 のどの痛みであれば、風邪による痛みでも、カラオケで歌いすぎた後の痛みでも、何でも効きます。
 風邪で物がなかなか飲み込めないくらいのどが痛いときでも、1分間ガラガラとやるとスッキリします。
 もちろん、炎症は残っているのですが、痛みは取れます。
 そして、このうがいを1日3回行うと、炎症も落ち着いてきます。
 声の仕事をしているような人は、ぜひ、毎日コレでうがいをすることをお勧めします。
 口内炎にも効きます。
 もっと気軽にのどを潤したいと場合は、桔梗湯トローチも藩害されています。


 そういえば、アナウンサーや声楽家で愛用者がいるという噂を聞いたことがありますね。
 私がこの冬に風邪を引いてのどが痛くて声が枯れてしまったとき、桔梗湯を試してみました。
 ・・・しかし、残念ながら思ったほど効きませんでしたね(苦笑)。

 漢方薬の本で「この薬は○○に効く」と記載があっても「有効率は○○%くらい」という記述がないことがいつも気になっている私です。
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井齋 偉矢(いさい ひでや) 先生の著書2冊

2015年02月12日 08時17分19秒 | 漢方
 近日、この先生の講演会があることを知り、予習がてら読んでみました。

■ 「西洋医が教える、本当は速効で治る漢方」(SBクリエイティブ、2014年発行)
■ 「西洋医がすすめる、カラダが瞬時に蘇るサイエンス漢方 」(SBクリエイティブ、2014年発行)

 井齋氏は「サイエンス漢方処方研究会」の主催者の一人で、漢方理論を現代医学的に解釈するという手法で人気を博している(?)医師です。もともとは外科医で臓器移植が専門でした。
 「サイエンス漢方」というフレーズに、やや怪しさを感じながら・・・

 ひと言で云うと「漢方に対するハードルを限りなく低くしてくれる本」ですね。
 とにかくわかりやすい。1日で読めてしまう漢方本は珍しい。

 漢方理論を封印して現代医学の言葉に置き換えての解説なので、スッと頭に入り込みます。
 今まで捉えどころがなくイメージしにくかった漢方理論を、イメージできるようになるのです。
 例えば「瘀血」を「微小循環障害」へ、柴胡剤の作用を「抗炎症」へ。
 それから、私の苦手な中医学の「陰陽論」「五行論」は後付けされたものであり、処方を考える際に必須のものではない、とも。

 柴胡剤は傷寒論の時代には急性疾患が体表(表)から体内(裏)に入り込む途中(半表半裏)の病態に有効な方剤ですが、なぜ効くのかずっと?でした。
 そこに「柴胡剤は抗炎症薬」と言い切ってしまう気っぷの良さ。
 そうか・・・抗菌薬(=抗生物質)は菌をやっつけるけど、菌が起こした体の炎症を抑える力はない、そこは人体の免疫力(自然治癒力)に頼っているのが西洋医学の限界。しかし漢方薬は、抗菌作用ではなく人体に備わる免疫力を強化し、起きた炎症をも沈静化する効果があるので「体が楽になる」「治りが早い」という効果が実感できるということ。

 なるほど!

 一方の西洋医学ではどうでしょうか。
 「抗炎症薬」として有名なのは副腎皮質ホルモン(いわゆるステロイド)とNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)。
 ところが、この2つの薬は体の免疫力を低下させてしまうという欠点があります。
 衰弱している肺炎の患者さんにステロイドを使用すると、肺炎が悪化する可能性があるのです。
 というわけで、西洋医学では炎症に対して実は何もしていません。患者さんの自然治癒力に任せているのが現状です。

 漢方薬は免疫を高める一方で、過剰な炎症が起こったときはそれを鎮める働きがあります。さらに、炎症で障害された組織の修復も促してくれるのです。
 ほんと、至れり尽くせりですね。

 目から鱗だったのが「日本で使う生薬量は、中国の1/3と少ない」理由。
 漢方専門家から「中国の生薬は品質管理が甘いので、日本より多く使わないと効果が期待できない」という裏話を聞いてなんとなく納得していた私。
 この本では「昔から生薬は輸入品だったので、最低どのくらいの量で効果が期待できるかを検討した涙ぐましい先人の努力の結果」という史実で説明しています。

 それから、漢方薬を始めてどれくらいで効果が得られるかを、1~2週間とか6ヶ月間とか、具体的な期間で示しているところが新鮮であり、役立ちますね。
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