漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

小児の起立性調節障害に対する漢方薬

2024年07月08日 08時11分56秒 | 漢方
私は診療に漢方を取り入れている小児科医です。

日々の診療で、受診された思春期の患者さんが、
捉えどころのない体調不良(医学的には“不定愁訴”と呼びます)を訴えると、
まずは漢方薬の内服を提案します(カラダの不調メンタルの不調)。
1〜2週間試して手応えがなければ、
総合病院へ紹介して基礎疾患がかくれていないか検査をしてもらっています。

先日(2024.7.7)、日本小児漢方懇話会をWEBで視聴しました。

何人かの医師が、様々な視点から起立性調節障害について語りました。
が、聞き終わっても、全体像が見えないほど内容がバラバラ…。
これは、起立性調節障害という病名がつけられる患者さんの病態が、
単一ではなく多岐にわたっていることも理由の一つと思われます。

参考になるポイントを、備忘録としてメモに残しておきます。


▢ 惠紙 英昭Dr.の講演

■ フクロウ型(山本巌Dr.提唱)
・体がしんどい、疲れやすい、体力がない、頭が痛む、肩がこる、胃が痞える、重ぐるしい、吐き気がある、胃が痛む、めまいがする、手足が冷える。
・体力がなく、粘りがきかず、力仕事に向かない。
・「朝寝の宵っ張り」で寝ていたい。日曜日は昼まで寝ている。
・朝はボーッとしているが、夕方から夜にかけて最も元気。
・朝食は欲しくない。夕食が美味しいし、よく食べられる。
・早く寝ても頭がさえて眠れない。
・階段や山登りで、一番に行くが、すぐに息切れ、ハアハアいって先にへばる。
・女性は結婚して最初の子どもを出産した後に多い。
30歳代が最もつらく、40歳を過ぎるとだんだん訴えが少なくなり、60歳を過ぎればほとんど元気、70-80歳も元気で長生きをする
・スロースターター。
・世の中に2-3割いる。
・器質的疾患なし&不定愁訴だらけ・・・怠け?気分障害と診断されかねない。

■ 現代のフクロウ型体質(症候群)
・西洋医学的病名:起立性調節障害、Meniere症候群、不登校、睡眠障害(睡眠相後退症候群)、自律神経失調症・不定愁訴、気分障害・適応障害、頸椎・脊椎異常

■ フクロウ型の漢方治療

基本処方:
 → 苓桂朮甘湯(39)、あるいは五苓散(17)、あるいは39+17
 …効果が少ないときは増量、桂皮末追加

倦怠感(気虚)が強い、軽度無気力:
 → 補中益気湯(41)、十全大補湯(48)、人参養栄湯(108)、加味帰脾湯(137)、コウジン末追加

不安が強い
 → 半夏厚朴湯(16)、茯苓飲合半夏厚朴湯(116)、柴胡桂枝湯(10)、柴胡桂枝乾姜湯(11)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、加味逍遥散(24)、柴朴湯(96)、桂枝加竜骨牡蛎湯(26)、等

抑うつ気分
 → 香蘇散(70)、半夏厚朴湯(16)、茯苓飲合半夏厚朴湯(116)

過敏性腸症候群
 → 小建中湯(99)、桂枝加芍薬湯(60)、柴胡桂枝湯(10)、加味逍遥散(24)など

打撲の既往
 → 治打撲一方(89)、葛根加朮附湯(141)など

瘀血・打撲(便秘)
 → 駆於血剤:桂枝茯苓丸(25)、桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)、桃核承気湯(61)、通導散(105)などを併用。61と105は少量でよい。

・一貫堂解毒症体質
 → 柴胡清肝湯(80)、荊芥連翹湯(50)、竜胆瀉肝湯(76)

※ 以上の方剤に西洋薬(低血圧治療薬)、向精神病薬なども少量併用

■ 重症度(こじれ具合)による使い分け

軽症
 苓桂朮甘湯(39)、五苓散(17)など

中等症
 苓桂朮甘湯(39)、五苓散(17)、真武湯(30)など
  +
 半夏厚朴湯(16)、補中益気湯(41)、十全大補湯(48)など

重症・こじれた例
 苓桂朮甘湯(39)、葛根加朮附湯、柴胡剤など
  +
 駆於血剤:治打撲一方(89)、一貫堂医学
 西洋薬、眠剤、抗うつ薬、抗精神病薬(アリピプラゾールなど)

<方剤解説>

苓桂朮甘湯
(構成)
茯苓・蒼朮・桂皮・・・利水
桂皮・・・血行をよくする、軽度強心作用、抗不安作用
茯苓・桂皮・甘草・・・心悸亢進(動悸)を鎮める
(ポイント)
・朝起きが苦手、浮腫(体が重い)、めまい、頭痛、立ちくらみ、倦怠感、冷え、神経質など。
(適応)…山本巌Dr.による
・めまい、眼前暗黒、立ちくらみ
・頭痛、肩こり
・心悸亢進
 ✓ 立ちくらみと同時に心悸亢進
 ✓ 不安・驚きなどの精神的原因による心悸亢進
・倦怠感および疲労感
・フクロウ型
・腹診で振水音

【柴胡清肝湯】
(構成)
黄連・黄岑・黄柏・山梔子(=黄連解毒湯)・・・消炎解熱作用、止血作用
当帰・川芎・芍薬・地黄(=四物湯)・・・補血作用、止血作用
桔梗・括楼根・甘草・・・去痰、排膿作用
括楼根・地黄・甘草・・・滋潤、清熱作用
薄荷・柴胡・牛蒡子・・・辛涼解表作用
(ポイント)
・小児の解毒症体質改善(扁桃炎、扁桃周囲炎、咽頭炎、中耳炎など)
・慢性炎症、再発性炎症、腎炎の予防、神経過敏、湿疹


▢ 網谷真理恵Dr.の講演

■ 起立性調節障害は身体症状&不安&生活の乱れ
・身体症状だけに着目するのではなく、生活・行動に着目してゴールを設定する
  ← 症状だけに着目していると、終日ふとんの上から出られない。
・問診は必ず本人から丁寧に(親に内緒の夜の行動)
・子どもたちは自分の「不安」に気づいていない(失感情症傾向)
・親の焦燥感をコントロール(親と子どもは見ている視点が違う…親は“将来”、子どもは“今”)

体位性頻脈症候群(Postural tachycardia syndrome, POTS
・起立性調節障害のサブタイプの一つ。
・起立時の血圧低下はなく、起立時頻脈とふらつき、倦怠感、頭痛などの症状
・起立時の心拍数115以上、または起立10分以内の平均心拍増加が30以上
 (30以上と定義している論文もある)
不安障害パニック障害と併存することが多く、診断がつきにくい。
慢性疲労症候群の40%がPOTSに罹患している。
・米国人口の0.2-1.0%、中央値17歳、最頻値発症年齢は14歳(2019年の調査)

■ POTS臨床症状を漢方的にとらえると…

交感神経過剰型Hyperadrenergic):不安、冷え、四肢の自汗、震え、頻尿
 → 気逆柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、抑肝散(54)

神経性Neuropathic):脱力、起立時の足色の変化、神経因性疼痛、頭痛、不眠
 → 気虚補中益気湯(41)、加味帰脾湯(137)

低血液循環量性Hypovolemic):疲労、運動不足、めまい、集中困難・思考困難(ブレインフォグ)
 → 水滞五苓散(17)

・その他;
 気うつ → 半夏厚朴湯(16)
 気虚+水滞 → 半夏白朮天麻湯(37)
 気逆+水滞 → 苓桂朮甘湯(39)

■ 起立性調節障害の漢方治療(講師案)
・・・五苓散を基本に“気”に作用する方剤を併用
苓桂朮甘湯 ← 窮迫しためまい(突き上げられる、引っ張られる)、動悸
苓桂朮甘湯  十全大補湯 ← 疲労とめまい(気虚・血虚・めまい)
半夏白朮天麻湯 ← 冷えて気力がなく頭痛を伴うめまい
五苓散 + 補中益気湯 ← 朝方の疲労感
五苓散 + 柴胡加竜骨牡蛎湯 ← 外や場所に不安(不安障害・パニック障害、教室に入れない)、手が震える、過呼吸を伴う
茯苓飲合半夏厚朴湯 ← 悩みが多く吐き気を伴う
五苓散 + 半夏厚朴湯友人関係に悩む(自分より友人の心配事を優先)、胸のモヤモヤ、咽喉頭閉塞感
五苓散 + 加味帰脾湯 ← ブレインフォグ、集中力低下を伴うとき、Long-COVID
五苓散 + 柴胡桂枝湯 ← 頭痛、腹痛など痛みがあるとき
五苓散 + 抑肝散 ← 朝の癇癪 …対人関係ストレスによる怒り、けんかっ早い
小建中湯 ← 骨格が細く、自己主張苦手、腹直筋緊張緊張・不安 …感受性豊かでIQ高い、予期不安にとらわれる


▢ 小川恵子Dr.の講演

■ 起立性調節障害診断基準を再確認
(11項目中3つ以上が当てはまる場合、起立性調節障害を疑う)
1.立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい       …水滞
2.立っていると気分が悪くなる。ひどくなると倒れる    …水滞
3.入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる …水滞、肝・心の異常
4.少し動くと動悸あるいは息切れがする          …水滞
5.朝なかなか起きられず午前中調子が悪い         …水滞
6.顔色が青白い
7.食欲不振                       …脾虚
8.臍疝痛をときどき訴える                …脾虚?
9.倦怠あるいは疲れやすい                …気虚
10.頭痛                         …水滞
11.乗り物に酔いやすい                  …水滞




■ 主体となる症状で方剤を決めると…
1-5・10・11(水滞)→ 五苓散、苓桂朮甘湯、半夏白朮天麻湯
9(倦怠感)→ 補中益気湯、黄耆建中湯
7(食欲不振)→ 半夏白朮天麻湯、六君子湯、四君子湯、二陳湯
8(腹痛) → 建中湯類(小建中湯、黄耆建中湯)、柴胡桂枝湯(心腹卒中痛)、腹痛が強い場合は芍薬甘草湯の頓服
3(心身症の要素)→ 柴胡桂枝湯、四逆散、抑肝散(加陳皮半夏)、甘麦大棗湯、加味逍遥散

■ 江部経方理論の気血津液の定義
・広義の血:拍動する、温かく、流れる水と血
 =狭義の気+狭義の津液+狭義の血
・広義の気:狭義の気+狭義の津液
 温かく流れる水
・狭義の津液
 液体という素材

■ 経方医学における胃と胃気
・気の最大の産生場所として胃が重要
・『傷寒論』における邪正闘争を担う
・「正気」は胃気である。
・脾・肌はいつでも利用可能な形で胃気を蓄えるところである。

■ 「水」の仮想モデル上の分類

湿:陰液とほとんど性質が同じ
(生薬)白朮、蒼朮、茯苓、沢瀉
(方剤)五苓散(17)、苓桂朮甘湯(39)

:湿より粘稠
(生薬)半夏、陳皮
(方剤)二陳湯、半夏厚朴湯

:陰より粘稠で固形化したもの
(生薬)栝呂仁、括楼根、乾姜
(方剤)柴陥湯(73)、柴胡桂枝乾姜湯(11)、猪苓湯(40)

■ 湿を去る生薬
茯苓(作用部位:全身)
…尿や発汗をすることで悪い水を去り、よい津液を運ぶ。
…精神を落ち着ける作用がある。
猪苓(作用部位:膀胱)
…直接膀胱に作用し、利尿する。
沢瀉(作用部位:肌、心下、小腸、膀胱)
…湿を小腸、膀胱から尿として排泄させる。
(作用部位:胃、小腸、心下、肌、腹、肉)
…蒼朮:燥湿中に入り込んだ湿を排出する。
…白朮:気を補う作用が強い。発汗を抑制する。
薏苡仁(作用部位:皮肌肉骨節、血中、肺、胸、腸)
…湿を去る。排膿作用。
滑石(作用部位:皮、肌、肉、小腸、大腸、膀胱)
…尿や発汗をすることで熱を冷ます。
…尿排出を促進し、下痢を止める。

■ 五苓散を頭痛に使うようになったのは江戸時代から
・村井琴山(1733-1815)…「五苓散の煩は頭痛である」
・大塚敬節(1900-1980)… 三叉神経痛に効果のあった症例を報告
・矢数道明(1905-2002)… 頭痛、片頭痛に用いて多くの著効例を報告した。天候変化に伴う頭痛に著効することを報告。

<方剤解説>(江部経方理論)

【小建中湯】
…一般的には「脾を補う」とされているが、経方理論では「腎を補う」方剤として位置づけられている。
① 生気の不足(特に腎気)
・大棗、生姜、甘草で生じた胃の気津を、桂皮、芍薬にて全身に供給
・2倍の芍薬が主に腎に気を供給
② 気のベクトルの異常
・守胃機能失調 → 腎を養えず腎の気陰は不足する。
・第102条 胃気が守られず、過剰に上衡
③ 血絡の不通
・虚労による全身的な気血津液不足
 → 血絡の不通し、絡の多い腹部で「腹中痛」を起こす。

 ①②③に対して…
  ↓↓↓
 大棗、生姜、甘草で気津を産生
 桂皮<芍薬の配合により、腎に気を供給
 気血津液を正しく流す

※ 桂枝(上、外側)
 胃気 → 脈外の衛気、脈中の営血の推進
 胃気 → 肌
※ 芍薬(下、内側)
 脈中の営血を絡 → 肝、心、心下 → 小腸、膀胱
 胃気・熱の過剰な上昇を降ろす
 気津を腎に供給

【五苓散】(江部経方理論)
肌 → 心下 → 小腸 → 膀胱 → 尿
という環流路、三焦の機能を回復させ、
多量の温かい湯で胃津を補う。
・構成生薬の薬効:
 朮、沢瀉ー肌水
 茯苓ー皮水
 白朮、沢瀉ー心下の飲
 猪苓、茯苓、沢瀉ー膀胱の水飲
 猪苓ー直接膀胱に作用し、排尿
 桂枝ー全身の三焦気化作用を高め、残存する表邪を外散

【補中益気湯】
・構成生薬の薬効
人参、黄耆・・・気を補う
升麻、柴胡・・・気を持ち上げる
陳皮、朮 ・・・痰飲を去る
甘草、大棗、生姜・・・消化管機能を改善

※ 升麻
・清熱解毒消腫
・発表透疹 …肌の風邪を散じる
・昇虚陽気 …人参・黄耆・柴胡と組み合わせる
・作用する場所:口、咽喉、胃、皮、肌

【苓桂朮甘湯】
胃の守胃機能の失調、もしくは胃気の不足による胃飲が胃から心下に至り「心下逆満」する。
・さらに心下の飲のため、胃気は心下から上に昇りにくく、下方の腎に多く注ぎ込み、腎の気化の限界を超える。
・そのために腎気は心下の飲を伴って「胸に上衡」したり、頭に上り「頭眩」となる。

【柴胡桂枝湯】
・『金匱要略』第22条『外台』柴胡桂枝湯方治心腹卒中痛者
・痛み=絡不通
・膈の昇降出入が不利
 → 胆の疏泄失調、肝の疏泄不利
 → 心下・腹部の絡の不通
・心下の不利のため心下には飲を生じる可能性もある。

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漢方医学では「こころ」をどう捉えるのか?

2024年07月06日 07時13分05秒 | 漢方
漢方理論はいくつかの概念を導入して使い分けています。
初学者にはそれがピンとこなくて混乱するのですが・・・。

急性疾患には「六病位」や「気血水」
慢性疾患には「気血水」と「五臓論」
が使用される傾向にあると思います。
※ 五臓・・・肝・心・脾・肺・腎

漢方を多用する小児科医である私の最近の悩みの一つに、
・発達障害(ADHD、ASD)
・起立性調節障害(OD)
の「こころ」「気持ち」に対する処方があります。

こころは五臓論の「脳」に効く生薬を使えばいいのではないかと考えましたが、
残念ながらなぜか五臓には「脳」がありません。
因みに私が“こころの症状”よく使用する漢方は、
「肝」と「心」に分類されることが多いです。

では人間のこころの働きを、五臓論ではどう捉えてきたのでしょう。
あるWEBセミナーで、
「五臓論では“こころ“の部分部分を各臓器に分配した」
と説明されました。

なるほど!
だからわかりにくかったんだ・・・。

ではどのように分配されているのか、
チェックする必要がありますね。

こちらを参考に、
五臓の“こころ”に関する部分の抽出を試みました。


<総論>
 概要
・『黄帝内経』に「意識・思惟・精神・情緒は脳の機能である」と記載されている。
・五臓の生理機能が正常であってこそ、脳の機能も正常に機能する。
・意識・思惟・精神・情緒は五臓それぞれの生理活動と密接な関係がある。
(例)肝ー魂、心ー神、脾ー意、肺ー魄、腎ー志

<各論>
【肝】
■ 疏泄を主る・・・「情志」の調節
・中医学では人の情志活動は心とともに肝の疏泄とも密接な関係があるとしている。肝の疏泄機能が正常であれば、気機は正常に活動し、気血は調和し気持ちも明るくなる。
・肝の疏泄機能は情志に影響を与える。
・肝の疏泄機能が失調すると情志に変化(抑制と興奮)が現れやすくなる。
・肝気が鬱結すると抑うつ状態になりやすく、わずかな刺激を受けただけでも強い抑うつ状態に陥りやすくなる。
・肝気が興奮しすぎるとイライラしやすくなり、わずかな刺激でも怒りやすくなる。
・外界からの刺激を受けて起こる情志、とくに「怒」は肝の疏泄機能に影響を及ぼしやすく、これにより肝気の昇泄過多という病理変化が生じることもある。

■ 肝と五行との照応関係・・・怒は肝の志
・怒は一般的に生理活動に対して好ましくない刺激を与える感情で、気血を上逆させ、陽気を過度に昇泄させる。
・肝は疏泄を主っており、陽気の昇発は肝のはたらきによるものであることから、怒は肝の志とされている。激しく怒ると、肝の陽気の昇発が度を超すことになるので「怒は肝を傷(やぶ)る」という言い方もする。
・肝の陰血が不足すると、肝の陽気の昇発が過剰となり、わずかな刺激を受けても怒りを覚えやすくなる。

【心】
■ 心は神志を主る(心は神を蔵す、心は神明を主る)
・心には精神・意識・思惟活動を主宰する機能がある。
・「神」には広義と狭義の二通りの意味がある。
・広義の「神」・・・人体の生命活動の外的な現れを指す。
(例)人体の形象および顔色・眼光・言語の応答・身体の動きの状態など
・狭義の「神」・・・精神・意識・思惟活動を指す。
・心の機能が正常であれば精神は充実し、意識や思惟もしっかりしている。
・心が機能失調に陥れば、精神や意識・思惟活動が異常となり、不眠・多夢・気持ちが落ちつかないなどの状態になり、うわごとを言ったり、狂躁の状態になることもある。あるいは反応が鈍くなったり、健忘・精神萎靡となったり、昏睡・人事不省になることもある。
■ 喜は心の志
・外界の事物事象から受ける印象より起こる情緒の変化を「五志」という。
・「喜は心の志」とは、心の生理機能と精神情緒の「喜」との関係を言ったもの。
・「喜」は人体に対して良性の刺激を与える情緒で、心の「血脈を主る」などの生理機能に対してプラスに作用する。しかし過度になると、かえって心身を損傷することもある。

【脾】
■ 思は脾の志
・思とは思考・思慮のことであり、精神・意識・思惟活動の一つ。
・正常に思考する場合には、生理活動に対し悪い影響を与えないが、思慮が行き過ぎた場合、あるいは思念が現実化しないとしばしば生理活動に影響を及ぼす。最も影響を受けやすいのが気の運動で、気滞と気結を引き起こしやすくなる。
・脾の運化機能の失調は、思に悪影響を与え、ひいては生理活動にまで影響を及ぼす。例えば気結があるために、脾の昇清がうまく行えなくなると、思慮過度となり食欲不振・院腹の脹悶感・眩暈などの症状が現れやすくなる。

【肺】
■ 憂は肺の志
・憂と悲はともに肺志とされている。
・優秀と悲傷は、ともに人体に悪い刺激を与える情緒で、これにより人体の気は次第に消耗される。
・肺は気を主っているので、憂と悲は肺を損傷しやすい。
・肺が虚している場合には、憂と悲という情緒変化が起こりやすくなる。

【腎】
■ 恐は腎の志
・恐とは物事に対して恐れおののく精神状態。
・恐と驚は似ている。驚は意識せず突然受けるショック、恐は対象を明確に捉えた精神状態(いわゆるビクビク、おどおどした状態)。
・恐も驚もともに不良な感情で、ともに腎を損傷することがある。
・恐は腎の志であるが、心が主っている神明とも密接な関係がある。心は神を蔵しており、神が傷れると心が怯えて恐となる。恐により腎を損傷し、腎気不固となり遺尿が起こる。


・・・一読してみたものの、やはりよくわかりません。
理解するには「五志」、つまり陰陽五行説の、
 肝ー怒
 心ー喜
 脾ー思
 肺ー憂
 腎ー恐
も視野に入れてかみ砕く必要がありそうです。
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生薬(甘草・大黄・山梔子)の副作用

2024年07月06日 06時21分33秒 | 漢方
「副作用が少なそうなので漢方薬を希望」
される患者さんがいます。
でも漢方も“くすり”です。
体に一定の影響を及ぼすのですから、
それが体によいことばかりではありません。
体に不都合な作用を“副作用”と呼びます。

漢方薬を多用する小児科医である私は、
副作用に気をつけながら処方しています。

漢方の診断名である“証”に基づいて使用すれば回避できる副作用もありますが、
患者さんの体質によるアレルギー反応は西洋薬同様、完全回避不能ですし、
長期使用にてジワジワと出現してくる(用量依存性)副作用もあります。

最近私が悩んでいるのは、
・発達症に使用する柴胡剤
・月経前症候群に使用する加味逍遥散(24)
です。

柴胡剤に含まれる黄岑は抗炎症・抗アレルギー効果に優れた生薬ですが、
“効く薬は副作用もある”という暗黙のルール通り、
その生薬自体がアレルギーの原因にもなり、
まれに間質性肺炎や肝機能障害を起こすことが報告されています。
間質性肺炎は「風邪を引いたわけでもないのに咳が止まらない」という症状でチェック可能ですが、
肝機能障害は「だるい、食欲がない」と捉えどころがない症状で始まりますのでやっかいです。

私は柴胡剤を長期使用する場合、開始後1ヶ月以内に1回、
その後は半年〜1年に1回ペースで血液検査をすることにしています。

ここで問題になるのが発達症の患者さんです。
癇癪やパニックを起こす子どもがいるので、採血が大変なのです。
これは、発達症に漢方を使用している小児科医共通の悩みです。

漢方が効いているので止めたくない、でも採血はできない患者さんには、
「ヘンにだるそう、食欲がないときは中止して報告してください」
と指導するしかありません。

月経前症候群に加味逍遥散がとてもよく効いている女子がいます。
月経前のイライラ感が強く、家族も本人も困っていたのが、
この薬を飲み始めてから「とても楽になった」「この薬を手放せない」と報告してくれました。

加味逍遥散には山梔子という生薬が入っています。
この漢方を年単位で使用し、5年くらいすると山梔子による消化器障害「腸間膜静脈硬化症」が出現することが報告されています。
この副作用はアレルギー反応ではなく“使用量依存性”の副作用です。

月経は長い期間つき合っていかなければなりません。
5年以内に休薬する必要があるとすると、
別の漢方薬を探さなければなりません。
今のところ、女神散(67)が候補ですが、
果たして将来、どうなることやら…。

わかりやすい記事が目に留まりましたので、紹介します。

“甘草”という生薬の有名な副作用「偽アルドステロン症」の解説があります。
その中で、「甘草の作用はステロイドに似ている」という表現がありますが、
私は昔からそう感じています。
甘草は天然素材由来の“ステロイド様作用”が得られる貴重な生薬です。
しかし副作用はステロイド薬ほど重くはありませんので、
気をつけながら使用すればとてもよい薬になります。


■ 漢方薬の飲み過ぎで「大腸が真っ黒」になる
…医師が「副作用に注意すべき」と警鐘を鳴らす漢方薬の名前「漢方は副作用が少ない」はウソ
大脇 幸志郎:医師
2024/01/13:PRESIDENT Online)より一部抜粋(下線は私が引きました);

…医師の大脇幸志郎さんは「漢方薬に含まれる『甘草』や『大黄』、『山梔子』には頻繁に出会う副作用や重篤な副作用が指摘されている。『漢方薬だから副作用はない』と思って飲み過ぎると思わぬ健康被害にあう」という――。

▶ 本当に漢方薬は副作用が少ないのか?
・・・あるアンケート調査(※)では、回答者の7割以上が「漢方薬は副作用が少ないと思う」と答えていますが、本当に漢方薬は副作用が少ないのでしょうか。
結論から言いますと、残念ながら、漢方薬にも副作用はあります。たいていの副作用は軽い症状にとどまり、飲むのをやめれば解消するのですが、中には深刻な副作用もまれにあります。
この記事では漢方薬の副作用のうち筆者がよく出会うものや特に深刻なものをいくつか紹介します。

▶ 放っておくと大変なことになる「偽アルドステロン症」
漢方薬の副作用として特に代表的なものが「偽アルドステロン症」です。
これは出会う機会も多いし放っておくと大変なことになるので、漢方薬を出す医師は必ず知っておくべきものです。
厚生労働省の資料によると、「偽アルドステロン症」には、高血圧、むくみ、手足のだるさ、筋肉痛などの症状があるとされます(『重篤副作用疾患別対応マニュアル』「偽アルドステロン症」)。

▶ 漢方薬に含まれる「甘草」が副作用を起こす
偽アルドステロン症は、多くの漢方薬に含まれている甘草が起こす副作用です。
より詳しく言うと、甘草の有効成分であるグリチルリチン酸が偽アルドステロン症を起こします。



アルドステロンというのは人体が自然に作っているステロイドホルモンの一種です。グリチルリチン酸はアルドステロンのような作用、たとえば血圧を上げ血中のカリウム濃度を下げるといった作用を引き起こします。

▶ 「ステロイドホルモン」の作用を強めてしまう
ステロイドホルモンという言葉が出てきました。ステロイドというのはあるグループの化学物質を指す言葉で、多くの物質がステロイドに分類されます。医薬品でステロイドと言えばふつう、アルドステロンとは別の、炎症を抑えて熱や痛みなどをやわらげるタイプの薬を指します。
人体内ではコルチゾールというステロイドホルモンがこの作用を持っています。ステロイド薬は、おおまかに言って、コルチゾールの作用をまねるように作られた物質です。
アルドステロンもコルチゾールもステロイドです。それぞれ機能は違うのですが、完全に異なるわけではなく、共通の作用を持っています。それが血圧を上げるとかカリウム濃度を下げるというものなのです。
ただ、体内では、コルチゾールが代謝されてコルチゾンという物質に変わることで、アルドステロンのような作用が抑制されています。
しかし、漢方薬の「甘草」すなわち「グリチルリチン酸」を摂取すると、その代謝産物が、コルチゾールからコルチゾンへの代謝を阻害してしまいます。
するとコルチゾールが過剰になり、アルドステロンのような作用も過剰になります。これが「偽アルドステロン症」です。
簡単に言うと、漢方薬の代表的な副作用は、ステロイドの副作用とも言えるのです。

▶ 認知症に処方される「抑肝散」に注意
甘草を含む漢方薬は、天然のステロイドであるコルチゾールを介した副作用を持っています。とすれば、漢方薬の「効果」も、コルチゾールによる部分があるのではないでしょうか?
ステロイド薬はいろいろな病気や症状に使われる、とても便利でよく効く薬です。ステロイドは炎症を抑え、熱や痛み、アレルギー反応をやわらげます。なんとなく、漢方薬が出される症状に似ている気もします。

甘草を含む漢方薬の公式説明文書(添付文書やインタビューフォーム)には、必ず、グリチルリチン酸が含まれること、偽アルドステロン症に注意すべきことが書かれています。
偽アルドステロン症を起こす漢方薬としてよく目にするのは「抑肝散」です。
抑肝散は、認知症による興奮を抑えると信じられているようです。ただ、これは臨床試験のエビデンスに基づいて承認された効能ではありません。1967年と1976年に多くの漢方薬製剤が臨床試験なしで薬価収載されたため、漢方薬について知るには臨床試験を頼りにできません。
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▶ 下剤として使われる「大黄」の副作用
たいていの薬は服用をやめると効果がなくなります。
ただ、中には急にやめると困ったことになる薬もあります。ステロイド薬はその代表です。
漢方薬の中にも、しくみは違いますが、長く続けるとなかなかやめられなくなるものがあります。
代表的なものが、排便を促す作用のある「大黄」を含む処方です(排便のための漢方薬には大黄を含まないものもあります)。
大黄の有効成分はセンノシドという物質です。いろいろな植物がセンノシドを含んでいて、西洋でも伝統的に下剤として使われてきました。いまでもセンノシド製剤のアローゼンプルゼニドピムロなどがよく処方されています。

▶ 大腸の内側が黒くなる「大腸メラノーシス」
センノシドはよく効きます。スッキリするという感想もよく聞きます。
しかし長期にわたって毎日飲んでいると、だんだん効かなくなってきます。このことは添付文書で注意喚起されています。
困ったことに、センノシドが効かなくなった人は、どんな薬を使っても排便が困難になってしまう場合があります。
この状態の人の大腸を内視鏡で見ると、内側が黒ずんで見える場合があります。
これが「大腸メラノーシス」と呼ばれる状態です。
センノシドの長期服用が、「大腸メラノーシス」をもたらすとされています。

▶ よく分かっていない「いわくつきの薬」
ただ、これにはあいまいな点も残っています。
「大腸メラノーシス」になると腸の本来の機能が弱っているのではないかという説がある一方、それに反対する説もあり、よくわかっていません(『日内会誌』 108:40~45,2019)。
また、センノシドが効かない状態は、別の原因で腸の機能が弱った結果かもしれず、必ずしもセンノシドが原因とは限りません。
センノシドのような刺激性下剤は西洋では比較的人気がなく、研究も進んでいません。
学会のガイドラインなどでは一般に、センノシドのようなよく分からない薬よりも、より素性の知れた薬を優先して使うよう推奨されています。
学会も必要なときだけにしろと言う「いわくつき」の薬が、大黄を含む漢方薬の有効成分なのです。
「漢方だから安全」と単純には言えないのです。
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▶ 特に注意すべき漢方薬「防風通聖散」
最後に、特に注意すべき漢方薬をご紹介します。
それは「防風通聖散」です。
防風通聖散には、ここまで紹介してきた「甘草」と「大黄」に加え、「山梔子さんしし」が含まれています(この記事では紹介しきれませんが、ほかに「黄芩」と「麻黄」も副作用の面で「いわくつき」の成分です)。
山梔子は長期にわたって飲み続けると、「腸間膜静脈硬化症」という副作用をもたらすとされます。
厚生労働省によれば、「腸間膜静脈硬化症」で腸を切り取る手術が必要になった例もあるとのことです。
そのため、長期間にわたり服用する場合は、定期的にCT、大腸内視鏡等の検査を行うこと、腹痛、下痢、便秘、腹部膨満等が繰り返しあらわれた場合には特に注意すること、とされています。

▶ 「ダイエット目的」で飲む人は注意が必要
防風通聖散の効能・効果は「腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症:高血圧の随伴症状(どうき、肩こり、のぼせ)、肥満症、むくみ、便秘」とされています。
ダイエット目的の人に人気があるのか、別の商品名のものを含め20種類以上も出ています。
偽アルドステロン症を起こす甘草。大腸メラノーシスを起こす大黄。腸間膜静脈硬化症を起こす山梔子。
副作用をもたらす成分を3つも含んでいる「防風通聖散」は、なんと処方箋なしで買えます(というか、たいていの漢方薬は処方箋なしで買えます)。
まずは、もし「漢方だから大丈夫」とか「市販薬だから大丈夫」と思って名前も確かめずに飲んでいる薬が手元にあれば、パッケージの注意を一度読んでみてください。心配になったら店舗の薬剤師に相談することもできます。
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かぜに対する漢方薬は2つのパラメーター(経過日数と症状)で選択すべし

2024年07月03日 04時47分46秒 | 漢方
私は漢方を多用している珍しい小児科医です。
風邪患者さんにも希望する方には漢方薬を処方しています。

子どもが飲みやすい工夫も一緒に教えています。
「漢方は苦いから子どもは無理!」
と大人は思い込んでいても、飲んでくれることも結構あります。
中には効果を実感して、
「今日も漢方出してください」
とたどたどしく言う幼児もいたり…。

飲めて手応えがあったときはリピーターになってくれます。
具体的な効果は、
・風邪の治りがよかった
・夜の鼻づまりが楽になった
等の他に、体質改善の薬を使った場合は、
・風邪を引きにくくなり受診回数が減った
・保育園を休み日数が減った
という声もあります。

さて、かぜに対する漢方薬は、
その phase と症状で20種類くらいを使い分けます。
そのことにわかりやすく言及した記事を見つけましたので、
知識の整理がてら読んでみました。


■ “かぜ”の漢方、最適な処方を選ぶ2つのポイント
山内雅史(東条病院[千葉県鴨川市]副院長)
2024/06/27:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
 ウイルス感染による急性上気道炎だと考えて対症療法を行う場合、漢方薬も選択肢になり得ます。漢方薬は、味や剤型から苦手な方もいる一方で、1種類で治療が完結することが多いというメリットがあります。解熱鎮痛薬、鎮咳薬、去痰薬など複数の薬剤を使用せず、総合感冒薬のように用いることができるのです。
 例えば、麻黄湯、葛根湯などは抗ウイルス作用があるだけでなく熱産生を助けることで発汗を促し、早期に解熱させる作用があることから解熱鎮痛薬を併用する必要がありません。
・・・

▶ エビデンスで見る急性上気道炎への漢方薬の有効性
 急性上気道炎に対する漢方薬の効果を検証した研究を紹介します。

・解熱薬と漢方薬(急性上気道炎で頻用される複数の漢方薬)を比較した試験では、解熱薬群(45人)の発熱の持続時間は2.6±1.7日だったのに対し、漢方薬群(35人)は1.5±1.9日と、有意に短くなっていました1)。さらに、咽頭痛や鼻汁といった症状の持続についても、解熱薬群の6.6±3.6日に対して、漢方薬群では5.1±1.9日と有意差を認めました。

・総合感冒薬と麻黄附子細辛湯の急性上気道炎への有用性を調べた試験もあります。臨床症状の改善度を「著明改善」「中等度改善」「軽度改善」「不変」「悪化」の5段階で評価したところ、総合感冒薬群(88人)で中等度以上の改善を得られたのは60.3%、麻黄附子細辛湯群(83人)では81.9%であり、有意差が確認されました2)。発熱の持続期間も、前者は2.8±1.5日、後者では1.5±0.7日と、有意に短い結果となりました。

・5日以上持続する症状(口内不快[口の苦み、口の粘り、味覚の変化]、食欲不振、倦怠感)を伴う急性上気道炎患者に対する小柴胡湯の有効性、安全性を検討したプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験でも、症状全般の改善度、咽頭痛や倦怠感など症状ごとの改善度のいずれにおいても、小柴胡湯の方が有意に優れていました3)。

・インフルエンザにも漢方薬が使われます。中でも、よく処方されるのが葛根湯と麻黄湯です。葛根湯は、炎症細胞浸潤を増強させる作用を持つインターロイキン(IL)-1αの誘導を抑制すると共に、気道上皮のIL-12などの産生を促進することでウイルスの増殖を妨げ、炎症を軽減させるといわれています4)。麻黄湯に関しては、in vitroで抗ウイルス活性を有することが明らかになっています5)。

▶ 漢方薬選びで注目すべきは「発症からの経過日数」と「症状のパターン」
 漢方薬を選択するに当たっては、患者が受診したタイミングが発症から「3日以内か」「4日以降か」で分けて考えることをお勧めします。ウイルスによる急性上気道炎は日数の経過に伴って症状が変化していくからです。例えば、発症初期は発熱が中心だったものの、解熱後は別の症状が残存したり、増悪したりすることもあります。発症後3日以内/4日以降で区切ると、それらの症状の移ろいに合わせて、より適切な処方がしやすくなると感じています。

発症から3日以内に受診した場合
 発症から3日以内のケースでは、表1のように症状のパターンに応じて使い分けましょう。

▢ 発症から3日以内に受診した場合に選択肢となる漢方薬
(症状のパターン)    (選択枝となる漢方薬)
・悪寒 → 発熱        麻黄湯、葛根湯
・悪寒 → 微熱/発熱なし   小青竜湯、麻黄附子細辛湯
・悪寒も発熱もなし(※)  桂枝湯、香蘇散
※ 発熱後1日程度で自然解熱した例も含む

 「悪寒→発熱」という発症パターンであれば、麻黄湯、葛根湯が適応になります。これは、急性上気道炎に限った話ではなく、インフルエンザでも新型コロナウイルス感染症でも、ウイルスが原因の場合には基本的に当てはまります。いずれも、まずは発汗させて自然解熱を助ける効果に加え、抗ウイルス作用を有するからです。インフルエンザのように高熱が出やすいケースでは、解熱作用のある麻黄、桂皮を多く含む麻黄湯を、発熱に伴う頭痛や筋肉痛が目立つときには、葛根、芍薬といったそれらの症状を緩和する生薬が入った葛根湯を使用します。

 「悪寒→微熱/発熱なし」(高熱は出ないが悪寒が続いている[微熱がないものも含む])のパターンでは、細辛、乾姜といった体を温める生薬が入っており、発汗・解熱に働く小青竜湯を選びます。特に、水溶性鼻汁や湿性咳嗽を伴う場合に効果を期待できます。冷えや悪寒が強く、顔色も悪いようならば、細辛や附子といった体を温める生薬を含む麻黄附子細辛湯が最適です。

 「悪寒も発熱もなし」で適応になるのは桂枝湯香蘇散です。前者は麻黄を含まず発汗・解熱作用は強くないものの、消化器症状によく効きます。そのため、受診時には解熱している、軟便や下痢のある患者などに使いやすい漢方薬です。後者は、最初から発熱がなく、咽頭痛、鼻汁、咳や痰などの症状のみで、胃もたれしやすかったり、高齢だったりする場合のほか、香附子や蘇葉といった気分を回復させる生薬を含むため、体調不良で気分が落ち込みやすい方にも適します。

▶ 発症から4~7日で受診した場合
 受診時点で発症後4~7日が経過しているときに用いる漢方薬は表2の通りです。発熱の有無が使い分けのポイントです。

▢ 発症から4~7日で受診した場合に選択肢となる漢方薬
(症状のパターン)        (選択枝となる漢方薬)

・発熱が続く/           小柴胡湯、小柴胡湯加桔梗石膏、柴胡桂枝湯
 解熱と発熱を繰り返す
      
・悪寒も発熱もなし 
 +水溶性鼻汁、湿性咳嗽     小青竜湯 
 +乾性咳嗽           麦門冬湯
 +膿性痰を伴う湿性咳嗽     清肺湯
 +喘鳴を伴う咳嗽        麻杏薏甘湯
 +強い咽頭痛          小柴胡湯加桔梗石膏
 +膿性鼻汁           葛根湯加川芎辛夷

 「発熱が続く/解熱と発熱を繰り返す」ケースでは、小柴胡湯が適応になります。解熱・抗炎症作用を持つ柴胡、黄芩のほか、鎮咳作用のある半夏、消化機能を高める生姜や人参などから成るため、長引く急性上気道炎で、発熱と咳嗽、食欲低下を伴うときに有効です。咽頭痛が目立つならば、小柴胡湯に鎮痛・抗炎症作用のある桔梗と石膏をプラスした小柴胡湯加桔梗石膏がより適します。小柴胡湯に桂皮と芍薬を加えた処方として柴胡桂枝湯がありますが、胃腸の調子を崩しやすいタイプや下痢症状を伴う患者に使用します。

 受診時点で「悪寒も発熱もなし」という場合は、中心となる症状に応じて漢方薬を選びます。水溶性鼻汁、湿性咳嗽が主なら小青竜湯、乾性咳嗽が主なら麦門冬湯、膿性痰を伴う湿性咳嗽が主なら清肺湯、喘鳴を伴う咳嗽が主なら麻杏甘石湯、強い咽頭痛が主なら小柴胡湯加桔梗石膏、膿性鼻汁で副鼻腔炎を疑うなら葛根湯加川芎辛夷をそれぞれ処方します。
・・・

<参考文献>
1)本間行彦 日東医誌 1995;46:285-91.
2)本間行彦 他 日東医誌 1996;47:245-52.
3)加地正郎 他 臨床と研究 2001;78:2252-68.
4)白木公康 医学のあゆみ 2002;202:414-8.
5)Masui S,et al. Evid Based Complement Alternat Med.2017:2017:1062065.
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