漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

江部先生、「糖質制限は危ない」って本当ですか?

2016年11月15日 08時55分46秒 | 養生
江部康二著、洋泉社、2015年発行。



分野違いかと思われる方もいらっしゃるでしょうが、糖質制限はいずれ子どもの食育にも導入されていくと考えられ、このブログに入れました。

さて、私が「糖質制限」をはじめてから約1年が経過しました。
子ども向けに何かよい栄養指導法はないものかと探していたときに目に留まり、「悪くなさそうだ、とりあえず自分ではじめてみよう」程度のきっかけです。

体調はというと・・・体重は少し増えました(^^;)。
疲れやすさはやや軽減。
血液検査ではHbA1cの数値が改善しました!
体重が増えたにもかかわらず、HbA1cが低下したということは、体の組成が脂肪→ 筋肉へ変化したということですかね。
脂肪の摂取量は増えているはずなのに不思議です。

ただ、糖質制限食を実行する中で、漠然とした疑問がフツフツと湧いてきました;

1.体脂肪になるのは油(脂質)ではなく糖質(炭水化物)というのは本当か。
2.必然的に高脂肪食になるが、高脂血症が問題にならないのか。
3.脳の活動にはブドウ糖が必要とされており、糖質制限は脳活動を低下させるのではないか。
4.糖質制限に反対する人たちは「ボーッとして頭の回転が鈍る」と訴えるが、これはどういうことか。
5.糖質制限食は安全性が数年間しか保障されていないとされてきたが、現状はどうか。

等々。

さて、本書は「糖質制限」の第一人者による解説本です。
一般向けというより、疑問を持っている医療関係者向けレベルの内容です。

江部先生は、糖尿病学会の主流派ではなくアウトサイダーです。
まず、
・血糖値を直接上げるのは糖質だけである
・脳はブドウ糖だけでなくケトン体も利用できる

という、世界的にはごく基本的な生理学的知識が日本の医療関係者に根付いていないことを嘆いています。

え? 
そう理解している医師はむしろ少数派では?
日本の医学会では、戦後何十年にもわたって「脂肪代わり、炭水化物は悪くない」ということが常識になっていて、これを誰もが信じ込んでしまい、疑う人はほとんどいませんでした。
この結果「糖質60%、たんぱく質20%、脂質20%」という比率の食事が糖尿病食の常識として指導され続けてきました。

・・・わたしも昨年まではその一人でした(^^;)。
近年、糖質代謝に関して新しいエビデンスが続々と公表されています。医師自身も知識・情報をアップデートする必要がありますね。

先日、NHKで「血糖値スパイクが危ない」という番組が放映されましたが、そのネタ本にさえ思えてきました。
この番組は「糖尿病と診断されなくても食後高血糖がいろいろな病気の原因になり得る」という内容でしたが、気になったのが「血糖値スパイクを認める患者はインスリン過剰である」とコメントされたこと。このメカニズムの説明が不十分だったのが残念です。
その後、やはりNHKのあさイチの「血糖値スペシャル」(2016.11.16)で説明していました。
間食を頻回にしていると、その都度インスリンが分泌されてしまい、メインの食事の際に分泌すべき量が確保できずに不十分になりがちで、その結果として血糖値スパイクが発生する、とのこと。

なるほど。

本書では血糖値スパイクをグルコーススパイク(食後高血糖)と呼び国際糖尿病連合による「食後高血糖の管理に関するガイドライン」から引用しています。
そこには「グルコーススパイクは、糖尿病合併症、がん、動脈硬化をはじめとする様々な疾患のリスクになる」ことがはっきりと述べられており、酸化ストレス(活性酸素の発生)リスクとなるのは以下の順です;
① 平均血糖変動幅の増大
② 食後高血糖
③ 空腹時高血糖
・・・日本の健康診断でチェックしているのは③だけなのが現状です。

読了して、感じたこと。
・日本の医学教育には「栄養学」が欠如している。
・日本人が弥生時代にコメを作り始め、主食にしたのは誤った選択だったかもしれない。
・糖尿病治療食は、はじめは血糖の元を減らす「糖質制限食」だったが、インスリンを治療として使うようになってから糖質を取らないと低血糖になってしまうため「カロリー制限食」「バランス栄養食」へ変化するという本末転倒の経緯。
・米国糖尿病学会(ADA)はエビデンスに基づき糖質制限食を再認識しガイドラインにも取り入れているが、日本の学会は動きが鈍く一部の権威筋が頑なに導入を拒んでいる。
等々。

そして、この本は私の疑問のいくつかに答えてくれています。

1.インスリンは血液中のブドウ糖を筋肉や肝臓や脂肪細胞に取り込ませて血糖値を下げるよう働きます。さらにインスリンは余った血糖を専ら脂肪細胞に取り込ませて中性脂肪にして蓄えさせる働きがあります(このためインスリンは「肥満ホルモン」とも呼ばれています)。

2.人間の体は食事で脂質をたくさん摂れば、それだけ血中の脂質の状況が悪くなる、といった単純なシステムにはなっていません。食事で摂った脂質はそのまま中性脂肪として血中に残り続けるのではなく,ほとんどが一旦脂肪酸とグリセロールに分解されます。蓄えられるのはエネルギーとして利用されなかった余剰分だけであり、血中の中性脂肪を増やしてしまうのは糖質の取りすぎによるものです。

3.糖質量の少ない食事を摂り続けても、肝臓が糖新生を行うので低血糖を起こしません。脳はブドウ糖だけではなくケトン体もエネルギーとして利用できますので、まったく心配いりません。

4.(「ガッテン」より)糖質制限食をはじめる人は、主食だけ抜くという方法に陥りやすい。すると摂取総カロリーが足らなくなるためフラフラしたりボーッとしたりという症状につながります。ご飯を食べない分を他のもので補う必要があるのです。

5.2006年の「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に掲載された報告;
 82802人を20年間追跡した研究において、「炭水化物摂取比率が最も少ないグループでは冠動脈疾患のリスクは無く、炭水化物摂取比率が多いことが冠動脈疾患リスク増加に関連している」



**********メモ/備忘録**********

□ 米国糖尿病学会(ADA)の見解
・2008年:糖質制限食の肥満解消効果と血糖改善効果については最も高いエビデンスレベルAで認め、安全性についても1年間の実践を保障。
・2011年:有益性の保障を2年に延長
・2013年:すべての糖尿病患者に適した唯一無二の食事パターンは存在しないと明言し、患者ごとに様々な食事パターン(地中海食、ベジタリアン食、糖質制限食、低脂肪食、DASH食)が受容可能〜つまり有益性の保障制限を撤廃して正式に糖質制限食を受容した。
※ ADAが低炭水化物食(=糖質制限食)と定義しているのは「1日糖質量130g以内の食事」
※ 著者が推奨している糖尿病治療食は「1日糖質量30〜60g」(スーパー糖質制限食)。

・・・一方の日本では・・・
 2012年7月27日の読売新聞で、日本糖尿病学会理事長の門脇孝氏(東京大学教授)は以下のようにコメント;
 「炭水化物を総摂取カロリーの40%未満に抑える極端な糖質制限食は、脂質やたんぱく質の過剰摂取につながることが多い。短期的にはケトン血症や脱水、長期的には腎症、心筋梗塞、脳卒中、発がんなどの危険性を高める恐れがある」
※ 日本において推奨されている「糖尿病食」は、糖質60%、たんぱく質20%、脂質20%です。

□ 人間の体のエネルギー産生システムは2つ存在する。
1.ブドウ糖ーグリコーゲンシステム
2.脂肪酸ーケトン体システム
そしてメインシステムは2であり、1はサブシステム。

人間のエネルギー供給源の時間経過は、
・食後2時間まで:食事由来の糖質を分解して得られる血液中のブドウ糖を利用
・生後数時間まで:肝臓のグリコーゲン分解によるブドウ糖
・食後数時間以降:糖新生へ切り替わる。
 糖新生とはアミノ酸や中性脂肪の分解物であるグリセロール、ブドウ糖の代謝物である乳酸などから造られるブドウ糖を血液中に放出してエネルギー源とするもの、つまり糖新生には糖質は必須ではなく、人間の体は糖質以外からブドウ糖を生み出すことができる。
※ 糖新生には3つのプロセスが存在;
①脂肪組織→ グリセロール(中性脂肪の分解物)→ 肝臓→ 糖新生→ 筋肉及び脂肪組織
②筋肉→ アミノ酸→ 肝臓→ 糖新生→ 筋肉及び脂肪組織
③ブドウ糖代謝→ 乳酸→ 肝臓→ 糖新生→ 筋肉及び脂肪組織

聞き慣れない2は、食事や体脂肪の中性脂肪を分解して得られる脂肪酸と、脂肪酸をさらに分解して得られるアセチルCoAから造られるケトン体をエネルギー源とするもの。
ケトン体は脂肪酸の分解・合成によって得られる物質で、β-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトンの3つを総称した名称。ケトン体は、肝臓の細胞内で「脂肪酸→ β-酸化→ アセチルCoA→ ケトン体」という経路で日常的に造られ、肝臓以外の臓器にエネルギー源として供給されている。こうしてケトン体は、細胞のミトコンドリアでエネルギー源として利用されている。

ふだんの食事で糖質を大量に摂取している人であっても、日常生活の中でエネルギー源としてブドウ糖を利用している時間よりも、ケトン体を利用している時間の方が長い。食後3〜4時間までは真菌や骨格筋の主たるエネルギー源はブドウ糖だが、それ以降は主たるエネルギー源はケトン体に切り替わる。睡眠時や日中の空腹時は、心筋や骨格筋はケトン体や脂肪酸をエネルギー源として使っている。
体内においては脂肪酸とケトン体は中性脂肪の形で蓄積され(9万キロカロリー)、ブドウ糖はグリコーゲンの形で蓄積されている(1000キロカロリー)。その比率からいうと、人間の主なエネルギー源は脂肪であり、グリコーゲンは激しい運動の際に使われる非常用のエネルギー源と考えられる。

□ 2005年に厚生労働省と農林水産省が合同で策定した「食事バランスガイド」はバランスが悪い。
これは日本人の平均的な食事を調査して作成したモノであり、バランスの取れた食事を科学的に究明し、その結果を示しているのではない。あくまでも、日本人の日常的な食事の平均値を提示しているにすぎない。

□ 食べた油・脂の行方・・・血液中には残らない?
食物として脂質が摂取されると、小腸上皮から吸収される。
→ 食物中の脂質はほとんど中性脂肪であるが、小腸でグリセロールと脂肪酸に分解される
→ 吸収されると再び中性脂肪に再合成され集合する(キロミクロン・・・中性脂肪が積み荷)
→ キロミクロンはリンパ液に瞬時に入り、リンパ管に拡散し、他の場所へ輸送される。キロミクロンは胸管を上行し鎖骨下静脈内に移行する
→ 鎖骨下静脈に入ったキロミクロンのほとんどは、肝臓、あるいは脂肪組織・筋肉組織などの毛細血管を通る際に、毛細血管壁にあるリポタンパクリパーゼにより、その積み荷の中性脂肪は、脂肪酸とグリセロールに分解され、その分、中性脂肪は血液中から取り除かれる
→ 脂肪酸は筋肉細胞などでエネルギー源として利用される

□ 糖質が中性脂肪となって脂肪細胞に蓄積されるメカニズム(「糖尿病治療のための糖質制限パーフェクトガイド」より)
単純ではなく4つのプロセスが存在します;

1.糖質摂取で血糖値上昇
→ インスリンの追加分泌
→ 脂肪細胞表面にグルット4浮上
→ 脂肪細胞が血糖を取り込んで中性脂肪に合成して蓄積

2.糖質摂取で血糖値上昇
→ インスリンの追加分泌
→ 脂肪細胞表面にグルット4(※ 1)浮上
→ 筋肉細胞が血糖を取り込んでエネルギーとして利用しグリコーゲンとして蓄積する
→ 血糖値が下がる
→ 余剰の血糖は脂肪細胞が取り込んで中性脂肪に合成して蓄積

3.糖質摂取でインスリンが追加分泌
→ 脂肪細胞の毛細血管のリポタンパクリパーゼが活性化(筋肉細胞の毛細血管とは逆の現象)
→ 血中の中性脂肪を脂肪組織の毛細血管で脂肪酸とグリセロールに分解
→ 脂肪酸は脂肪細胞に取り込まれ中性脂肪になる

4.糖質摂取で血糖値上昇
→ 肝臓が血糖の約50%を取り込んでグリコーゲンとして蓄積
→ 余ったブドウ糖は中性脂肪として合成
→ 肝臓の中性脂肪が増加すれば血中VLDL増加

※ 1)グルット4:糖輸送体(Glucose Transporter)。細胞がブドウ糖を取り込むための特別なたんぱく質で、現時点で14種類確認されている。グルット4は筋肉細胞と脂肪細胞だけに存在。

□ 高脂質食は心臓病のリスクにならない
2006年ニューイングランドジャーナルオブメディスンに掲載された「ナース・ヘルス・スタディ」「ナース・ヘルス・スタディII」が看護師8万人以上を対象に三大栄養素の摂取比率別にグループ分けを行い、冠動脈疾患などの疾病発生率を20年にわたって追跡調査して解析している。
・炭水化物比率が低く脂質とたんぱく質比率が高いグループと、最も高炭水化物食のグループとでは、冠動脈疾患発症率に有意な差がなかった。
・総炭水化物摂取量は、冠動脈疾患リスクの中程度増加と有意な関連があった。
・高グリセミック・ロード(Glycemic Load, GL)食の摂取は冠動脈疾患リスク増加と強く関連していた。
→ 高脂質・高たんぱく食は冠動脈疾患のリスクを上昇させず、糖質摂取量が多いと上昇する

□ 人類に糖尿病が増えてきた根本要因
毎日、糖質の頻回・過剰摂取
→ 毎日、インスリンの頻回・大量分泌
→ 数十年間のインスリンの頻回・大量分泌
→ 膵臓のβ-細胞が酷使されて疲弊し、分泌能力低下、ついに糖尿病発症

□ 糖質制限でイライラする人は「糖質依存症」疑い
糖質はタバコやお酒と同じように一種の嗜好品であり、依存症が起こりえる。
人間の体は血糖値が上昇すると多幸感が得られ、インスリン分泌によってそれが急激に下がると、眠気や不安感が現れやすくなる。

□ コレステロールは悪者ではない?
・脳の乾燥重量の65%が脂質であり、その半分がリン脂質、1/4がコレステロール、1/4が糖脂質からなり、コレステロールは人間の脳にとって重要な構成成分である。
・コレステロールは生体のあらゆる細胞膜を造るのに不可欠であり、男性/女性ホルモンの構成成分でもある。
・LDL(Low Density Lipoprotein)はコレステロールを末梢組織の細胞に届ける働きをしており、HDL(High Density Lipoprotein)は末梢で余ったコレステロールを回収して肝臓に運ぶ。つまり、LDLは末梢の細胞が細胞膜をつくるための材料を運ぶ重要な役割を果たしており、一方のHDLは血中のコレステロールの余剰を減少させる働きをしており、血中の脂質状況を改善していることになる。したがって、LDLもHDLも人体にとって不可欠のものであり、HDLを善玉コレステロールと呼ぶのはよいが、LDLを悪玉扱いするのは不当と言わざるを得ない。
・2007年の日本動脈硬化学会で出されたガイドラインから、総コレステロール値が脂質異常症の診断基準から外された。理由は「総コレステロールの高値と心筋梗塞とは無関係」という研究が発表されたためで、現在の医学界は「総コレステロール値が高いだけでは動脈硬化にならない」という見解である。

□ LDLコレステロールはなぜ悪玉扱いされるのか?
その理由はLDLコレステロールの中の一部に危険なものがあるからで、それが小粒子LDLコレステロール。
小粒子LDLコレステロールは酸化コレステロールに変わりやすい。酸化コレステロールは血液中でマクロファージにより異物とみなされて取り込まれ、血管内皮細胞の内部に蓄積される。これが動脈硬化の原因となり、心筋梗塞などのリスクになる。
高雄病院の患者データでは、糖質制限食を実践していると中性脂肪は正常値になり、HDLコレステロールが増え、LDLコレステロールは低下・不変・上昇と3パターンがみられ個人差が大きいが、数年以内に正常値に落ち着いている。

□ 2010年後半、日本において「コレステロール論争」勃発
・日本動脈硬化学会作成ガイドライン(2007年):コレステロールは低ければ低いほどよい
・日本脂質栄養学会作成ガイドライン(2010年):コレステロールは高い方が長生きする
・・・どちらが正しい?
→ 過去には「LDLコレステロール高値は心筋梗塞のリスクになる」というエビデンスが蓄積されたかに見えていたことがあったが、一方で製薬企業によるエビデンスの不正問題などがあり、2004年以降、このエビデンスの再検討が必要と考えられるようになった。
 米国農務省と米国保健福祉省は2015年、コレステロールを多く含む食品の摂取制限に関する文言が「米国人のための食生活指針」(米国人の栄養に関する政府ガイドライン)の草案から削除されることを明らかにした。
 これまでコレステロールの過剰摂取によりプラークが動脈に蓄積し、心臓発作や脳卒中のリスクが高まると考えられてきたが、食事から摂取するコレステロールと血清コレステロールの間に明確な関連を示す証拠がないとして、2015年のあらたな米国政府ガイドラインではコレステロール摂取の上限値が撤廃される可能性が出てきたのである。

□ 糖質制限食における「あぶら」の摂り方
・揚げ物は(糖質量が意外と少ないので)食べても大丈夫。唐揚げなら一人前で使うコム具この量は約5g、てんぷらなら衣に使う小麦粉は約10g。
・スナック菓子/ジャンクフードはNG。ポテトチップスは糖質と脂質の塊で、一袋食べたとしたら50〜100gの糖質を食べることになってしまう。
・理想を言えば、料理に使用する油は健康によいオリーブオイルなどの一価不飽和脂肪酸を中心にしたいところ。ほかには魚油に含まれるEPA/DHA(→ ω-3グループの必須脂肪酸)、エゴマ油/紫蘇油(α-リノレン酸)もよい。

□ アメリカでの糖尿病治療の歴史
・1900年代初期までは糖尿病食として糖質制限食が主流であった。尿糖(血糖値が170〜180mg/dl以上で陽性)が出ない食事療法として糖質制限食が採用されていた。この頃のI型糖尿病は、診断後平均余命6ヶ月の致死的な病気であった。
・糖尿病学の父と呼ばれるエリオット・ジョスリン医師による「ジョスリン糖尿病学」(1916年出版)には「炭水化物は総摂取カロリーの20%が標準」と記載されている。
・1921年、カナダの医師フレデリック・バンディングと医学生チャールズ・ベストがインスリンの抽出に成功し、治療に導入されて糖質摂取が可能となり、以降アメリカの糖尿病患者の糖質接種量は徐々に増えていった。

□ ADAが推奨する糖尿病食の変遷
(1950年)炭水化物30%
(1971年)炭水化物45%
(1986年)炭水化物60%
(1994年)炭水化物、脂質の規定がなくなり、総摂取カロリーに対してたんぱく質10〜20%。地中海食(オリーブオイルたっぷり)が選択しに加わる。
※ ADAでは2007年までは「炭水化物を130g以下に制限することは推奨できない」と明記していた。
(2008年)大幅な方向転換:減量が望まれる糖尿病患者には、低カロリー食または低炭水化物によるダイエットが強く推奨される糖質制限食の有益期間は1年間まで保証。
(2011年)糖質制限食の有益期間を2年間に延長。
(2012年)抵糖質食で血糖管理とインスリン感受性が改善、HDLコレステロールの有意な改善
(2013年)すべての糖尿病患者に適した唯一無二の食事パターンは存在しない(糖質制限食も正式に認められた)。

□ ヨーロッパにおける糖尿病食の変遷
(1993年) New England Journal of Medicine にDCCT(Diabetes Control and Complications Trial)において糖質管理食(カーボカウント)が成功をおさめ、これ以降欧米では糖質管理食がI型糖尿病患者を中心に広まっていった。
(2008年)スウェーデンで糖尿病や肥満の治療に関して、糖質制限食を社会保険庁が公式に認めた。
(2011年)英国糖尿病学会による食事療法ガイドラインで糖質制限食を選択枝の一つとして認めた。

□ 日本における糖尿病食の変遷
(1965年)糖質量の制限(『医師・栄養士・患者にすぐ役立つ糖尿病治療のための食品交換表』日本糖尿病学会)
(1969年)カロリー制限 ・・・「糖質量の制限」が削除されている
(2013年)カロリー制限・高糖質食を推奨し続けている
・・・欧米がエビデンスに基づき糖質制限食を受容してきたのと異なり、日本では頑なにカロリー制限食にこだわりつづけている。

□ 人類の食生活の歴史(血糖値という視点から)
1.農耕開始前:
 約1万年前に農耕が始まるまで、人類は長らく狩猟と採集で食生活をまかなってきた。穀物はほとんどなく、木の実や果物など糖質の多い食べ物は時々手に入る食材であり、糖質の少ない食生活が700万年に渡って延々と続いてきた。
 この時期は食前食後の血糖値の変動はほとんどなかったか、小さかったはずで、当然インスリンの追加分泌はせいぜい基礎分泌の2〜3倍で済んだはず。
2.農耕開始以後:
 約1万年前に農耕が始まると、小麦やコメなどの穀物を常食するようになり、農耕によって養える人口は50〜60倍になるため人類は急速に人口を増加させていった。
 穀物は糖質の多い食物であり、食後血糖値がそれまでの狩猟・採集時代よりも上がるため、インスリンの追加分泌も10倍レベルが必要となった。農耕以前と比べると、膵臓のβ-細胞は毎日数倍以上も働かなくてはならなくなった。
3.精製炭水化物以後:
 18世紀になると欧米では小麦の精製技術が開発され、より美味しく食べられるようになった。日本でも同時期(江戸中期)に白米を食べる食生活が始まった。日本人は大昔から伝統的に白いコメを口にしていたと思われがちだが、精製された白米を口にするようになってから、わずか200〜300年しか経っていない。
 精製された炭水化物は未精製のものに比べて、食後血糖値をさらに急峻に上昇させるようになる(1.5倍程度)。これに伴いインスリンの追加分泌も10〜30倍必要になり、これが長年にわたって続けば、膵臓のβ-細胞はきわめて疲弊しやすい状況となり、ついには糖尿病を発症してしまうことになる。

 700万年という長い時間をかけて進化してきた人体の機能が、わずか1万年の変化に即応するのは困難と思われる。ましてや、ほんの200〜300年の急激な変化に対応できるとはとても思えない。

□ 糖質制限食で体が本来備えている機能を取り戻し、生活習慣病を予防改善する
・血流がよくなる
・血糖値の変動幅が小さくなる
・ホルモンバランスが整って代謝が安定する
・神経系が安定する
・免疫系が正常になり自然治癒力が高まる

□ 糖質制限ダイエットのメリット
・やせ過ぎるということがない
・体に無理を強いることなく自然にやせられる
・バストやヒップなどの脂肪はちょうどいいくらいに残り、腹部や背中、腕や太腿などの脂肪が減って女性らしい本来の体形になっていく。
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