漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

long-covid(コロナ後遺症)の漢方治療 ~倦怠感・ブレインフォグ

2022年12月25日 14時29分33秒 | 漢方
引き続き日本漢方臨床医会の動画配信から、
long-covid で一番多い訴えである疲労感・倦怠感を取り上げます。

当院は小児科ですが、
COVID-19罹患後、半年にわたり、
倦怠感、頭痛、咽頭痛が続いた患者さんを経験しました。

しかし西洋医学では、頭痛に解熱鎮痛剤を処方するくらいで、
対応ができないのが現状です。

以前から漢方薬を使用してきたわたしにとっては、
long-covid の諸症状に対する方剤が用意されているので、
治療薬に困ることがありません。

COVID-19後遺症としての疲労感・倦怠感
・診断時から退院時まで:80%
・診断後3ヶ月:20%
・診断後6ヶ月:20%

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)
・長期間疲労感が続き、全身の脱力、少し動いただけで寝込んでしまう(post-exertional malaise)、不眠、記憶障害、集中力障害など多彩な症状により、日常生活が送れなくなる。
・ブレインフォグ(集中力低下、記銘力低下、読字障害、処理能力低下)
・原因は不明だが、風邪症状に続いて起こることがあるので、ういるすかんせんが原因になると考えられている。
・治療法が確立していないため、治療に難渋する。

<参考>
(NPO法人「筋痛性脳脊髄炎の会」)

疲労倦怠感の漢方治療
・気虚(気の不足)・血虚(血の不足)を補う(=補剤)

【気虚】
・根元の気が全身的に不足している状態。
・元気が出ない、気力がない、体がだるい、疲れやすい、食欲・意欲がない。
・日中の眠気(特に食後)
(方剤)人参湯、六君子湯、四君子湯、補中益気湯、小建中湯

【血虚】
・血液が栄養を運べなくなる
・爪がもろい、貧血、集中力低下
・こむら返り、過少月経
・皮膚のかさつき、白髪、脱毛。
(方剤)四物湯、芎帰膠艾湯

気虚+血虚 → 十全大補湯、人参養栄湯
気虚<血虚 → 大防風湯(痛みを目標)

▢ 三大補剤
補中益気湯】気虚に対する補気
十全大補湯】気血両虚に対する補気・補血
人参養栄湯】十全大補湯のバリエーション:+遠志(中枢へ作用)+五味子(呼吸器に作用)

long-covid における自律神経異常(腹部動悸)
・ブレインフォグの主座が視床下部のミクログリアとマスト細胞の相互の活性化により種々のサイトカインが放出され、認知機能の低下をもたらすという報告がある。
・さらに、長引く倦怠感で回復の道筋が見えないストレスで、交感神経の亢進状態が続く可能性もある。
・腹部動悸が著明であれば、まずは自律神経のバランスを整える。
(方剤)柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯
    抑肝散、抑肝散加陳皮半夏

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

long-covid(コロナ後遺症)の漢方治療 ~咳・呼吸困難

2022年12月25日 11時54分49秒 | 漢方
引き続き、日本臨床漢方医会の動画シリーズから、
新型コロナ感染症の後遺症としての、
咳・呼吸困難の漢方治療についてまとめてみます。

わたしの従来の風邪に対する治療法と、
あまり変わらない印象です。

▢ 咳・呼吸困難の診察ポイント
・感染時の重症度、現在の肺損傷の程度(CT)を把握する。
・呼吸器系基礎疾患(間質性肺炎、COPD、慢性気管支炎、気管支喘息)の影響を評価する。
・痰の有無(気道炎症が残存しているかどうかチェック)
・呼吸困難が肺損傷だけによるものか、長期療養による筋力低下の影響がないかを評価。

▢ 咳・呼吸困難の時間経過を評価する
① 急性期:発症から4週間
② 亜急性期:4週間〜3ヶ月
③ 慢性期:3ヶ月以上

<long-covid の咳・呼吸困難に対する漢方治療>

◇ 解熱したが咳と痰が残る(① 急性期と② 亜急性期

小柴胡湯
・感染における呼吸器症状に対する処方。
・咽頭痛があれば小柴胡湯加桔梗石膏を考慮。
・1〜2週間投与。
・薬剤性間質性肺炎の副作用に留意(短期間投与ではまれ)。
柴胡桂枝湯
・小柴胡湯より体力がない人に適用。
・頭痛・関節痛などが残る(遷延する)。
・咽頭痛があれば桔梗石膏を併用する。

◇ 1か月以上遷延する咳と痰(② 亜急性期と③ 慢性期

麦門冬湯
・一度咳が始まると顔が真っ赤になるまで咳が止まらない(大逆上気)。
・乾いた痰が絡みつき、痰を出すのに苦労する。
【麻杏薏甘湯】
・痰があまり多くない咳で気道狭窄を伴う、喘鳴がある。
清肺湯】痰が多い例。
・痰が多い慢性気道炎症に対して用いる。
・気管支拡張が強く痰が多い場合には第1選択薬となる。
【竹筎温胆湯】
・咳・痰だけが残り、夜横になると咳き込む。

◇ 1か月以上遷延する咳と痰(② 亜急性期と③ 慢性期
全身状態(疲労倦怠、体重減少、筋量の低下)を評価して補剤を追加する。
補中益気湯
・疲労倦怠が強い例。
・ほかに微熱、寝汗、食欲不振など。
十全大補湯
・(補中益気湯の使用目標)+皮膚のつやがない、脱毛。
人参栄養湯
・(十全大補湯の使用目標)+呼吸器症状が強い、動悸がして眠れない。

◇ 3ヶ月を超えて呼吸困難が持続する例(③慢性期
・補剤治療(補中益気湯、人参養栄湯)を主とする。
・食欲がなければ四君子湯・六君子湯などで体重を戻す。

・咳の症状が残る場合は麦門冬湯、清肺湯などを適宜加える。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

long-covid(コロナ後遺症)の漢方治療 ~嗅覚障害・味覚障害

2022年12月24日 08時17分46秒 | 漢方
先日、「日本臨床漢方医会」なるものに入会しました。
定期的に啓蒙動画配信をしており、
その動画をアーカイブしてあるので閲覧できるのが魅力です。

今回、新型コロナ後遺症として有名になった、
「味覚障害」と「嗅覚障害」を扱った動画を視聴しましたので、
そのポイントをメモしておきます。

▢ 嗅覚障害の分類
・呼吸性:鼻炎・副鼻腔炎等により臭い物質が嗅細胞に届かない。
・末梢性:嗅粘膜の炎症・障害、嗅糸の炎症・障害・断裂(頭部外傷時)。
・中枢性:嗅球・嗅索より中枢側の障害(単純ヘルペスなど)。
 → COVID-19の嗅覚障害は末梢性が主体で、一部中枢性の可能性がある。

▢ COVID-19後遺症としての嗅覚障害
・1ヶ月後までの改善率は、
(嗅覚障害)60%
(味覚障害)84%
 → コロナ感染症の治癒に伴い大半の人で早急に消失。
・多くの味覚障害例は、嗅覚障害に伴う風味障害の可能性が高い。

▢ COVID-19後遺症の嗅覚障害の経過
          (診断後退院まで)(診断後3ヶ月)(診断後6ヶ月)
(嗅覚障害残存率)    37%       10%      6%
(味覚障害残存率)    38%       9%       9% 

▢ 嗅覚障害・味覚障害の特徴
・COVID-19の重症度とは無関係に起こる。
・女性の方が多いとされるが、女性の方が匂い・味に敏感。
・味覚障害は嗅覚障害による風味障害で起こることが多いが、単独で残る場合もある。
・味覚・嗅覚が低下するだけでなく、異臭症や味覚異常もある。

▢ 嗅覚障害の漢方治療
・急性期から用いることで嗅覚障害の回復は早まる。
・使用される方剤例:荊芥連翹湯(50)、小柴胡湯加桔梗石膏(109)、葛根湯(1)/葛根湯加川芎辛夷(2)、五虎湯(95)、柴陥湯(73)、五苓散(17)、参蘇飲(66)、竹筎温胆湯(91)、麦門冬湯(29)、当帰芍薬散(23)

<嗅覚・味覚障害の漢方治療>

①上気道に炎症が残っている場合(発症後2ヶ月くらいまで
葛根湯/葛根湯加川芎辛夷】急性期で用いる。解熱しても鼻炎症状/鼻閉が残る場合
麻黄附子細辛湯】高齢者/体力がない人で鼻炎症状が残る場合
※ 2週間以上継続処方が必要な場合は桂枝湯と併用する(桂姜棗草黄辛附湯)
小柴胡湯/小柴胡湯加桔梗石膏】咳・痰などが残る場合
柴胡桂枝湯】小柴胡湯より体力がない場合

②嗅覚・味覚障害のみが残存する場合(2ヶ月を超えて症状が固定
 → 漢方的見方で全身状態を改善する
補中益気湯】倦怠感・食欲不振
十全大補湯】倦怠感+脱毛、皮膚のつやがない
四君子湯/六君子湯】食欲不振、胃腸虚弱
柴胡加竜骨牡蛎湯/桂枝加竜骨牡蛎湯】自律神経の乱れ(腹部動悸)
加味逍遥散】不安・不眠
当帰芍薬散】体力がない・冷え・むくみ・・・嗅覚障害診療ガイドラインに掲載されている

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ニキビの漢方(谷川聖明Dr.)

2022年12月03日 21時32分18秒 | 漢方
WEBセミナーで「肌のトラブルに対する漢方治療」(谷川聖明Dr.)を視聴しました。
その中で、ニキビの治療にも言及していたので、
気になった点を備忘録としてメモしておきます。

勉強になった点として、
ニキビへの漢方薬を虚実で使い分けるという視点です。
私は今まで、
・急性期の赤ニキビ中心→ 清上防風湯
・元々アレルギー体質あり→ 荊芥連翹湯
・女性、月経困難症経口→ 桂枝茯苓丸加薏苡仁
くらいの使い分けでした。

<参考>
・医学雑誌「治療・2022年4月号」 p501-509

▢ ニキビの経時変化
 白ニキビ
  ⇩ 表面の酸化
 黒ニキビ
  ⇩ 炎症化
 赤ニキビ
  ⇩ 化膿
 黄ニキビ

▢ ニキビを訴える女性の虚実と対応する方剤
 虚証 荊芥連翹湯
 ⇩  十味敗毒湯
 ⇩  桂枝茯苓丸加薏苡仁
 実証 清上防風湯

▢ ニキビ4処方の特徴
荊芥連翹湯:どす黒いニキビ
十味敗毒湯:化膿したニキビ
清上防風湯:思春期ニキビ
桂枝茯苓丸加薏苡仁:月経に伴うニキビ

桔梗+甘草・・・化膿を止める
柴胡   ・・・炎症を抑える
防風+荊芥・・・祛風解表
黄連解毒湯+四物湯・・・清熱+補血

▢ 清上防風湯
・12種類の生薬からなる
(排膿)連翹、枳実
(排膿)桔梗、甘草、川芎
(清熱)黄連、黄岑、山梔子
(祛風解表※)荊芥、防風
 ※ 祛風解表:肌表のトラブルを改善する
・瘀血2、気滞2、気逆2、血虚1、気虚1、水毒1
・比較的体力が充実した人(実証)向け
・顔面頭部の皮疹で発赤が強く化膿しやすい場合に
・炎症を伴い赤く腫れ上がったいわゆる赤ニキビに
・思春期ニキビにしばしば用いられる

▢ 生薬としての“桔梗”
・宣肺作用:肺の呼吸運動をゆっくり大きくすることで、肺の気、津液の流れを円滑にして、胸部の仕えをスッキリさせる作用。この作用により、せきを鎮め、痰を除く。
・膿を出す作用:化膿性皮膚疾患の他、咽頭炎、扁桃炎、中耳炎などに用いられる。
・「船楫(せんしゅう?)の剤」:薬効をある部分へと誘導するという意味:他の薬の作用を上部の病変部に導く性質をもつ。

▢ 十味敗毒湯
・10種類生薬で構成
(排膿)桔梗、甘草、川芎
(祛風解表)荊芥、防風
・・・以上2つは清上防風湯と共通
(清熱・疏肝)柴胡
(その他)独活、茯苓、生姜、撲樕
※ コタロー漢方のエキス剤では、防風は浜防風、撲樕は桜皮を使用
・気滞3、気虚2、水毒2、瘀血1、血虚1、気逆1
・体力中等度(虚実間証)の人向け。
・諸種の皮膚疾患で、患部が化膿を伴うか化膿を繰り返す場合に用いる。
・散発性の皮疹に適応し、広い範囲に多発するタイプではない。
・柴胡剤であり、ストレスなどの肝の高ぶりにより悪化するニキビに用いられる。

▢ 荊芥連翹湯
・森道伯が創案した一貫堂処方の一つで、「万病回春」にある同名処方の加減方。
・温清飲(黄連解毒湯:黄岑、黄連、黄柏、山梔子と四物湯:地黄、芍薬、川芎、当帰)を含む。
・瘀血3、血虚3、気滞3、気逆2、気虚1、水毒1
・青年期の解毒症体質(≒アレルギー体質)に用いる。
・皮膚が浅黒く、精神的に敏感であり、手のひらや足の裏に汗をかきやすい人で、とくに炎症が慢性化した場合に用いる。

▢ 四物湯を包含するエキス製剤
・芎帰膠艾湯(金匱要略)
・七物降下湯(修琴堂創方)
・当帰飲子(済生方)
・温清飲(万病回春)
・猪苓湯合四物湯(本朝経験方)
・十全大補湯(和剤局方)
・大防風湯(和剤局方)
・疎経活血湯(万病回春)
・荊芥連翹湯(一貫堂創方)
・柴胡清肝湯(一貫堂創方)
・竜胆瀉肝湯(一貫堂創方)・・・コタロー製薬

▢ 解毒症体質
・皮膚の色は浅黒く、皮膚のキメが粗い。
・小児期から中耳炎、鼻炎、蓄膿症、扁桃腺炎など身体丈夫の炎症性疾患に罹患しやすい。
・筋肉質、やせ型で神経質の人が多い。
・手掌や足の裏は神経性発汗により湿潤しやすい。
・脈は緊で、腹は腹筋の緊張が強く、くすぐったがり屋である。

▢ 一貫堂医学 森道伯先生の「三大証と五方」
①解毒症体質:
・柴胡清肝湯(小児期):横隔膜周辺から中焦
・荊芥連翹湯(青年期):上焦から顔面
・竜胆瀉肝湯(壮年期):下焦
②瘀血証体質:
・通導散
③臓毒証体質:
・防風通聖散

▢ 生薬としての“荊芥”
・シソ科植物。シソに似た香りがあり、芳香が強いものほど良品とされる。
・発汗作用:体表の風邪を除く。
・風寒、風熱いずれの熱性疾患にも利用が可能。
(荊芥+防風)→ 風寒
(荊芥+薄荷)→ 風熱
・悪寒、発熱、頭痛、鼻閉、咽頭痛、関節痛などの風邪の諸症状や、鼻炎、扁桃炎、咽頭炎、結膜炎などに用いられる。
・かゆみ止め、透疹作用:失神や皮膚掻痒症に用いられる。
・止血作用:鼻出血、痔出血、下血などの出血症状に用いられる。

▢ 桂枝茯苓丸加薏苡仁
・実証向け。
・月経に伴うニキビに適応。
・桂枝茯苓丸(桂皮・芍薬・桃仁・茯苓・牡丹皮)+薏苡仁(利水・排膿)からなる。
・瘀血5、水毒3、血虚2、気逆2、気滞1、気虚1
・瘀血に対する代表的治療薬である桂枝茯苓丸に、消炎・排膿作用をもつ薏苡仁を加えた方剤。
・のぼせ、頭痛、肩こり、めまい、月経異常など瘀血徴候に加え、肌荒れ、肝斑、ニキビ、疣贅など皮膚症状を伴う場合に用いる。

▢ 生薬としての“薏苡仁”
・利水薬
・排膿作用
・四肢のむくみを取り除き、筋をゆるめる作用・・・関節や筋肉が腫れて痛むときの除湿にも用いられる。
・いぼを取る民間薬として知られている。
・いぼの治療に関する記載で最も古いものは貝原益軒が著した『大和本草』。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする