漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

抑肝散と加味逍遥散の使い分け

2018年01月30日 08時03分12秒 | 漢方
 この二つの方剤をどう使い分けるべきなのかを考えてみました。
 先日聴講した加島雅之先生のセミナーでは、

★ 抑肝散と加味逍遥散の適応症状の違い
抑肝散自罰的、がまんが怒りへ変わる
加味逍遥散他罰的、熱として発散


 と口訣を教わり、なるほどとうなづきました。
 スライド原稿からは、抑肝散は肝風内動の項目に、加味逍遥散はその他の項目に記されています。

【抑肝散】
(組成)柴胡5.0;朮・茯苓各4.0;川芎・当帰・釣藤各3.0;甘草1.5
 柴胡    → 疏肝解欝
 蒼朮・茯苓 → 理気健脾
 当帰・川芎 → 養血疏肝
 釣藤鈎   → 清肝熄風
 甘草    → 調和
(効能)疏肝解欝 平肝熄風 理気健脾 養血活血
(症状)イライラ(怒りを我慢)、抑うつ、めまい、筋けいれん、突発的情動発作、くいしばり・歯ぎしり、電撃痛
(所見)胸脇苦満傾向、脈弦傾向
(主治)肝欝化風

【加味逍遥散】
(組成)当帰・芍薬・柴胡・蒼朮・茯苓各3.0;甘草・牡丹皮・梔子各2.0;薄荷・乾生姜各1.0
 当帰・芍薬 → 養血柔肝
 柴胡    → 疏肝解欝
 蒼朮・茯苓 → 理気健脾
 牡丹皮   → 清熱涼血
 山梔子   → 清熱除煩
 薄荷    → 清熱除煩?
 生姜    → 醒脾
 甘草    → 調和
(効能)疏肝解欝、清熱除煩、健脾養血、活血
(主治)肝鬱化熱、心煩火旺、血虚血瘀、肝脾不和、防陰虚
(症状)イライラ、抑うつ、胸脇苦満、腹痛、便秘、月経不順、月経痛、めまい、のぼせ、胸苦しい感じ
(所見)脈弦、舌紅
★ 月経周期がバラバラなときに有効。


 ツムラ漢方スクエア内にある西本隆先生の「抑肝散と加味逍遥散」を読んでみました。
 抑肝散あるいは加味逍遥散が有効であったパーソナリティー特性は、抑肝散加陳皮半夏群に「精神的に強い・打ち解けない」、加味逍遙散群では「精神的に弱い・打ち解ける」という特徴をもつという報告を紹介し、生薬構成からみると、抑肝散の釣藤鈎と加味逍遥散の山梔子がポイントであると記しています。
 また、関連処方として柴胡加竜骨牡蛎湯に触れ、抑肝散/加味逍遥散と比べると、当帰・芍薬という補血剤が含まれておらず、肝陽上亢を防ぎ心神の安定作用をもつ竜骨・牡蛎が含まれるのが特徴であり、柴胡加竜骨牡蛎湯証では未だ肝血虚の病態には至っていないと考えられ、このことは過敏・怒りに関する訴えを特徴とする抑肝散加陳皮半夏および加味逍遙散群に比べて、柴胡加竜骨牡蛎湯証では緊張に対する訴えが多い、とも。

 ふたつ(加島Dr./西本Dr.)の口訣・意見は繋がるでしょうか?

(抑肝散)  自罰的・・・精神的に強い・打ち解けない
(加味逍遥散)他罰的・・・精神的に弱い・打ち解ける

 私の素人的印象では、表面上の「イライラ・神経過敏・易怒性」は共通するものの、

(抑肝散)ガマン強いことがあだになって他人に相談することができず自分が壊れてしまう、ストレスを内にため込んで怒りに変化させるタイプ
(加味逍遥散)ガマンすることができず他人に当たり散らし、ストレスを周囲にまき散らすタイプ


 なのかな、と思いました。

【抑肝散】
□ 適応病態(証):原典の『保嬰撮要』(1554,薛鎧・薛己)には「肝経の虚熱発搐、あるいは痰熱咬牙、あるいは驚悸寒熱、あるいは木乗土して嘔吐痰涎、腹張小食、睡臥不安を治す」とある。
肝から生じる内風と類似の病態の鑑別
 肝の気血が順調に流れているとき、肝気は自然に昇発し、胆気は下降する。
 なんらかの原因によって生理的な肝気の流れが障害されると,肝気鬱結・肝火上炎・肝陽上亢・肝風内動といった病的状態が出現する。この4種の病態は教科書的には表2のように分類されるが、これらは互いに相関しており、次のような連鎖を生じている。つまり、
・肝気の鬱結が長期化するとそこに熱が生じ肝火上炎の病態へ進む。
・肝火は肝の陰血を消耗し肝血不足の状態となり、これにより肝陽が上亢し、ついには肝風を生じる。



抑肝散の証
 抑肝散証とは、元来肝気が疎通しにくい体質のものが長期間ストレスにさらされた結果、肝血不足を生じる。肝血不足は虚熱を誘発し、血燥となって、その結果、肝陽が上亢し内風を生む。また、木乗土すなわち、肝気がスムーズに運行しなくなった結果、脾を傷つけ(肝脾不和)種々の消化管症状や脾虚症状が出現してくる。このように、肝血不足それに伴う肝脾不和の病態とそこから派生した肝陽上亢および内風が抑肝散の証なのである。抑肝散の処方構成は、
・当帰:肝血を補う
・柴胡:肝に鬱滞した気を散じる
・川芎:活血し気をめぐらせる
・甘草・白朮・茯苓:補脾剤
・釣藤鈎:熄風
ーとなっている。

【抑肝散加陳皮半夏】
 抑肝散に陳皮・半夏を加えた処方が日本では経験方として用いられている。これは抑肝散と二陳湯(半夏・茯苓・陳皮・生姜・甘草)合方とも解釈でき、抑肝散の病態からさらに脾胃の虚が進んで、痰飲の生成を強めた病態に用いられる。
 日本漢方の成書(矢数道明:漢方処方解説.創元社)には「腹筋の無力化と左腹部大動脈の 動悸亢進」という特有の腹症が説明されている。

★ 精神症状における抑肝散と抑肝散陳皮半夏の使い分け;(加島雅之Dr.)
 陽性症状と陰性症状の有無で考える。
 陽性症状のみ → 抑肝散
 陽性症状+陰性症状→ 抑肝散加陳皮半夏


【加味逍遥散】
□ 原典:
 加味逍遙散の原典は『内科摘要』(1529)で、抑肝散の原典である『保嬰撮要』と同じ薛己によるもの。
□ 生薬構成:当帰・芍薬・柴胡・蒼朮・茯苓各3.0;甘草・牡丹皮・梔子各2.0;薄荷・乾生姜各1.0
 本方は丹梔逍遙散とも呼ばれるように、逍遙散に牡丹皮と山梔子を加えたものである。
□ 適応病態(証):
 原典には「血虚により労倦し、五心煩熱し、肢体疼痛し、頭目昏重し、心○頬赤し、口乾咽乾し、発熱盗汗し、減食嗜臥する。及び血熱相搏ち、月水調わず、臍腹脹痛し、寒熱すること瘧の如きを治す」とある。すなわち、血虚証とそれに付随する瘀血・鬱熱の症状および肝脾不和の病態が逍遙散証であり、これに対して、それぞれの生薬が次のような働きをしている。
・当帰・芍薬: 肝血を補い、肝血虚・血燥・血瘀・血熱を改善する。
・柴胡:肝に滞った気を散じる。
・白朮・茯苓・甘草・生姜:肝血不足および肝気鬱滞により脾の機能が障害される(肝脾不和)病態を改善する。
・薄荷:上記の病態により発生した鬱熱を辛涼解表作用により散じる。
 加味逍遙散は、上記のような逍遙散証に加えて、さらに肝血虚から血燥・血瘀・血熱状態が亢進し、また、心熱が上行する状態に、清熱涼血の牡丹皮と清心熱の山梔子を加味したものと考えられる。

■ 抑肝散と加味逍遙散の使い分け
 喜多は、抑肝散加陳皮半夏有効群と加味逍遙散有効群 について、CMI健康調査票と16PFを用いて精神的愁訴の分析とパーソナリティー特性を検討した結果、精神的愁訴に関しては両群ともイライラ・神経過敏・易怒性などの症状に差が認められなかったものの、パーソナリティー特性は、抑肝散加陳皮半夏群に「精神的に強い・打ち解けない」、加味逍遙散群では「精神的に弱い・打ち解ける」という特徴をもつことを報告している(現代社会と漢方-心理的側面から見た証の判別.日本東洋医学雑誌,Vol.49 No.5, pp760-774,1999)。
 これについて、それぞれの処方の構成生薬を比較すると表4のようになるが、抑肝散のみに含まれる釣藤鈎は「よく心肝の火をさまし熄風する」とあり、肝火を清する作用をもちながらも「広範囲な湿熱証に使用され」「鬱熱を冷まし取り去り煩熱を除き解毒する」山梔子(三浦於菟:実践漢薬学.医歯薬出版社,2004)との性格の違いが、両処方の適応するパーソナリティーに関係している可能性がある。



【柴胡加竜骨牡蛎湯】
 これも精神神経症状や更年期障害に用いられる処方である。上述の2つの処方(抑肝散と加味逍遥散)と比べて、当帰・芍薬という補血剤が含まれておらず、肝陽上亢を防ぎ心神の安定作用をもつ竜骨・牡蛎が含まれるのが特徴である。すなわち、柴胡加竜骨牡蛎湯証では、未だ肝血虚の病態には至っていないと考えられ、このことは過敏・怒りに関する訴えを特徴とする抑肝散加陳皮半夏および加味逍遙散群に比べて、柴胡加竜骨牡蛎湯証では緊張に対する訴えが多いとする喜多の報告が示唆的であり、方剤使用のうえでのメルクマールになるものであると考える。


 次にまとめとして、秋葉哲生先生の総論的解説から;

【抑肝散】
1  出典:薛鎧・薛己(父子でセツガイ・セツキと読む)著『保嬰撮要』
●肝経の虚熱、搐を発し、あるいは発熱咬牙、あるいは驚悸寒熱、あるいは木土に乗じて嘔吐痰涎、腹脹食少なく、睡臥不安なるものを治す。(急驚風門)
2 腹候:腹力中等度以下(2-3/5)。腹直筋の拘攣を認める。
3 気血水:気血水いずれにも関わる。
4 六病位:少陽病。
5 脈舌:原則的に、舌質はやや紅、舌苔は白、脈は弦細軟。
6 口訣
●(本方を用いる時は)怒りはなしやと問うべし。(目黒道琢)。
●この方を大人の半身不随に用いるのは和田東郭の経験である。(浅田宗伯)
7 本剤が適応となる病名・病態
a 保険適応病名・病態:効能または効果
虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜泣き、小児疳症。
b 漢方的適応病態:気血両虚の肝陽化風
すなわち、いらいら、怒りっぽい、頭痛、めまい感、眠りが浅い、頭のふらつき、筋肉の痙攣やひきつけ、手足のふるえなどの肝陽化風の症候に、元気がない、疲れやすい、食が細い、皮膚につやがない、動悸、しびれ感などの気血両虚の症候を伴うもの。(『中医処方解説』)
★ より深い理解のために 五臓の肝と胆の機能を考えよう。肝胆の機能は、「情報の処理と決断」である。
8 構成生薬
蒼朮4、茯苓4、川芎3、釣藤鈎3、当帰3、柴胡2、甘草1.5。(単位g)
9 TCM的解説平肝熄風補気血平肝鎮驚・理気和胃)。
10 効果増強の工夫
1 )ふるえ、ふらつきなど風動の症候が強ければ、
処方例) ツムラ抑肝散      7.5g    
    ツムラ桂枝加竜骨牡蛎湯 5.0g(1-0-1) 分3食前
2 )いらいら、のぼせ、ほてりなど肝火の症候が強ければ牡丹皮、山梔子などを加える目的で、
処方例) ツムラ抑肝散   5.0g
    ツムラ加味逍遙散 5.0g 分2朝夕食前
3 )悪心、嘔吐、腹部膨満感などの症状と、舌苔が白膩で、痰湿の症候を伴う時は、陳皮、半夏を配した抑肝散加陳皮半夏とする。
処方例) ツムラ抑肝散加陳皮半夏 7.5g 分3食前
11 本方で先人は何を治療したか?
●矢数道明著『臨床応用漢方処方解説』より
癎症・神経症・神経衰弱・ヒステリー等に用いられ、また夜啼・不眠症・癇癪持ち・夜の歯ぎしり・癲癇・不明の発熱・更年期障害・血の道症で神経過敏・四肢萎弱症・陰痿症・悪阻・佝僂病・チック病・脳腫瘍症状・脳出血後遺症・神経性斜頸等に応用される。
●龍野一雄編著『改訂新版漢方処方集』より
痙攣、驚悸、或は発熱、或は寒熱、或は嘔吐痰涎、腹脹、食欲不振、不眠のもの、或は左直腹筋緊張、心下部つかえ、四肢拘攣、或は麻痺、不眠、腹動、怒気あるもの。
●桑木崇秀著『新版漢方診療ハンドブック』より
パーキンソン病、脳出血後のふるえ、乳幼児のひきつけ、夜驚症、眼瞼痙攣、神経性斜頸、歯ぎしりなど。
<ヒント>
 怒りを外に表す患者への適応は容易だが、現代の日本人は怒りを内に秘めており、そのあまり自分が怒っていることすら自覚しない例がある。「怒り」の有無を丁寧に問うことが本方を活用する鍵であり、症例は意外に多い。メンタルヘルス外来管理の要薬の1つといってよい。


【加味逍遙散】(別名:丹梔逍遙散)
1 出典:『和剤局方』
血虚労倦、五心煩熱、肢体疼痛、頭目昏重、心頬赤、口燥咽乾、発熱盗汗、減食嗜臥、及び血熱あい打ち、経水調わず、臍腹脹痛、寒熱瘧の如くなるを治す。また室女血弱、陰虚して栄衛和せず、痰嗽潮熱、肌体羸痩、漸く骨蒸と成を治す。(和剤局方、婦人諸疾門逍遙散条)
(貧血倦怠、あちこちの熱感、身体疼痛、頭重めまい、頬赤くのぼせ、口のど乾き、発熱ねあせ、食思不振で臥せがち、月経が不順、腹痛したりする、のぼせたり冷えたりを治す。また未婚の女子、婦人科の不調により体調わるく、痰あり、咳あり、やせ細り、次第に慢性の熱病となるを治す。)
2 腹候:腹力中等度かそれ以下(2-3/5)。胸脇苦満を認めることがある。
3 気血水:気血水いずれにも関わる。
4 六病位:少陽病。
5 脈・舌:舌質は紅、舌苔は黄。脈は弦細数。
6 口訣
●老医の伝に、大便秘結して朝夕快く通せざると云ふもの、何病に限らずこの方を用れば、大便快通して諸病も治すと云う。(浅田宗伯)
●婦人いっさいの申し分に用いてよくきく。いまより十数年前は、世間の医者は、婦人の病というとほとんどこの方を用いた。男子でも癇癪持ちに適する。(百々漢陰)
7 本剤が適応となる病名・病態
a 保険適応病名・病態:効能または効果
体質虚弱な婦人で肩がこり、疲れやすく、精神不安などの精神神経症状、ときに便秘の傾向のある次の諸症:冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症(一般的に男性にも保険上の適用が認められている。病名は不定愁訴などで可である)。
b 漢方的適応病態:
逍遙散は肝気鬱結・血虚・脾虚に適応される。加味逍遙散は、これに牡丹皮、山梔子の適応状態が加わったもの。
★ より深い理解のために:
 肝気鬱結とは、ゆううつ感、いらいら、怒りっぽい、頭痛、胸脇部が張って苦しい、脇の痛み、腹痛などをいう。血虚の症候とは、頭がふらつく、頭がボーッとする、目が疲れる、四肢がしびれる、皮膚につやがない、動悸、眠りが浅い、多夢などをいう。脾虚とは、食欲がない、疲れやすい、倦怠感、浮腫、下痢傾向、あるいは下痢便秘の交代などの症候をいう。月経については、不定な周期、過少月経、無月経など。
8 構成生薬
柴胡3、芍薬3、蒼朮3、当帰3、茯苓3、山梔子2、牡丹皮2、甘草1.5、生姜1、薄荷1。(単位g)
9 TCM的解説:疏肝解欝・健脾補血・瀉火・調経(逍遙散に熱証を伴うもの)。
10 効果増強の工夫
服後の状態からの判断により、瀉肝、清熱、補気、補血のいずれに重点を置くかでさまざまな兼用方、合方がありうる。例として瀉肝には竜胆瀉肝湯、清熱には黄連解毒湯、補気には四君子湯、補血には四物湯などが考えられる。
11 本方で先人は何を治療したか?
●矢数道明著『臨床応用漢方処方解説』より
更年期障害(血の道症)・月経不順・流産や中絶および卵管結紮後に起こる諸神経症状に用いられ、また不妊症・結核初期症候・尿道炎・膀胱炎・帯下・産後口内炎・湿疹・手掌角皮症・肝斑・肝硬変症・慢性肝炎・疳癪持ち・便秘症等に応用される。
●龍野一雄『改訂新版漢方処方集』より
月経不順、血の道症、帯下、ノイローゼ、不眠症、心悸亢進症、気鬱症。
以上の状態で熱候または上部に充血症状あるもの。
●桑木崇秀『漢方診療ハンドブック』より
虚証の冷えのぼせ(上熱下寒)、更年期障害、月経不順、指掌角皮症。
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加島雅之先生のセミナー「日本漢方・中医学の英知の紐解き方」編

2018年01月28日 16時22分22秒 | 漢方
セミナー後半です。
こちらの方が私の頭には入りやすく感じました。
ポイントは「邪を中心とする中医学 vs 生体現象を中心とする日本漢方」。
聴講して気になったところをメモ。

加島Dr.による漢方診断チャート
(受験生の時に使った参考書「チャート式○○○」になぞらえたと言ってました)

      【全身状態】 【病態の位置】 【病態の情勢】 【病態の性質】
<八綱>    陽      表       実       熱
        陰      裏       虚       寒
<病因病邪>                外邪:六淫外邪
                      内邪:気滞、瘀血、痰飲、食積
<気血津液>                気・血・津液の停滞と不足
<臓腑>          五臓六腑


日本漢方の“水”と中医学の“津液”
(水)疾患の分類概念で、サブカテゴリーは水毒(水滞)しかない。
 湯本求真の『皇漢医学』(1926)の三毒説(食毒・水毒・瘀血)に由来する。吉益南涯の気血水説とは無関係。
(津液)身体の構成要素としての血以外の水分の総称。津液不足・陰虚、湿、痰飲などの病因・病態概念が存在。気血と並ぶ基本概念になったのは『漢方診療の実際』(第二版、1954年)の影響が指摘されている。

津液の病態

(津液不足)津液が不足している状態
症状:のどの渇きなどの乾燥症状
生薬:麦門冬、知母
処方:麦門冬湯、白虎加人参湯

(陰虚)津液の不足の一形態
症状:手足のほてり、組織の萎縮、
所見:脈細、舌の裂紋
生薬:地黄、ゴミシ、山茱萸
処方:六味丸

(水湿内停)津液の停滞
症状:のどの渇きがあるが、むくむ。
所見:舌水滑
生薬:茯苓、沢瀉、猪苓
処方:五苓散

(湿)津液の停滞に伴い質的変化が始まり、津液・気の停滞をつくる
症状:重酸感、口が粘る、軟便、食思低下、帯下
所見:舌苔厚、脈滑
生薬:茯苓、蒼朮、厚朴
処方:平胃散

(痰)失を背景に生成される病理産物。他の精気の阻害をする。
症状:めまい、麻痺、知覚低下、胸痛、喀痰
所見:脈滑、舌苔膩
生薬:半夏、貝母、栝楼仁
処方:二陳湯、小陥胸湯

『医心方』(丹波康頼、984年)
※ 丹波哲郎の祖先です。
・現存する最古の日本の医学書で、六朝・隋・唐の医学書を集大成した内容。直接引用は百数十書にのぼる。
理論的部分を多くは簡略化しているのが特徴。

曲直瀬流(後世派):“察証弁治”
・現在の弁証論治とほぼ同義。
・病態と症候、薬物がシステマティックに対応するような工夫が認められる(『出証配剤』)。
・日本に於いて18世紀中期まで医学界を席巻した。

“出証配剤”にみる曲直瀬道三の臨床システム
・病門を病態分類
・病態毎に指標症状・脈証などの症候を明示
・病態毎に対応する方剤および加減方を明示する

吉益東洞の医学説
・医学における理論を否定〜一切の伝統医学理論の否定、および医学における理論性の否定を試みる“医の法たるや方のみ”。
・万病一毒説:すべての疾患は分類不可の“毒”によって発症。腹診は毒の局在の確認をするもの。
・補薬の否定:補薬という概念はなく、すべての薬剤は“毒”を駆逐するための“毒薬”と規定。薬効も症候と毒の局在に応じて使用する。
・代表著作:『類聚方』『薬徴』『建珠録』『医事或問』

吉益東洞の医学・吉益東洞以降の医学
(症状・症候)→ (“毒”というブラックボックス)→ 処方
ブラックボックスに分類項目を挿入した。
(症状・症候)→ (気血水・六病位・口訣・・・)→ 処方
中医概念と類似の名をしているが症状は共有するが、病態生理は論じず、症候論文類となっている。

頭痛と五苓散
・「慢性頭痛の臨床疫学研究と移動性低気圧に関する考察-五苓散有効例と無効例の症例対照研究-」灰本元(Fuito 1999;1:8-15):「雨の前日に悪化する」ずつに五苓散が有効であるオッズ比は16.3で唯一の相関を示したという東京女子医大の研究。

★ 雨の前の日の片頭痛に対する五苓散の使用法
・頭痛が始まりそうになったら五苓散を1包内服
・少し調子が良いがまだ効果が不十分であれば、15分ごとに追加で1包ずつ内服
・次から症状が出そうになったら、必要量の半分の五苓散を一気に内服
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中医学の「肝気欝結」とは?

2018年01月28日 16時20分41秒 | 漢方
初学者のための中医用語②「肝気欝結」(別府正志Dr.:漢方スクエア)より

 別府先生による中医用語講座を読んでみました。
 肝陽上亢の次は「肝気欝結」です。
 日本漢方には「気」の異常として「気滞」「気逆」「気虚」の3つの概念のみですが、中医学にはたくさんあるのですね。

肝気鬱結
(概念)気機をのびやかにして調和させるべき肝の機能が失調し、疏泄機能が不調になった状態。
(症状)抑うつ・イライラ・胸悶・ため息、胸脇部や少腹・乳房の脹痛などが出現
(所見)脈は弦
(治法)疏肝解鬱
(処方)柴胡疏肝散が第一選択。エキス剤なら四逆散か逍遙散。
 肝気鬱結がひどくなると、気が火に変わり、肝火上炎になる。

「気」とは
 「気」には重要な性質がいくつかあるが、その1 つは運動すること。気の運動は昇降出入の4つにまとめられ、これを気機という。
  気は両親から受け継いだ先天の精と、飲食物から得られる水穀の精微、呼吸から得られる清気(両者を併 せて後天の精ともいう)から作られる。
 その働きは大きく5つ、推動・温煦・防御・固摂・気化。
 気は活力の強い精微物質で、人体の成長・発育や各臓腑などの機能を促進する。また、血液の生成・運行や津液の生成・輸送・排泄などを促進する。こういった働きを気の推動作用という。

気と臓腑の関係
 気の産生に参与するのは肺・脾・腎。
 気の運行は肝の作用。
 肝の働きは疏泄を主ることと蔵血を主ること。
 疏泄とはスムーズ に動かすことであり、その意味するところは3つ。
1.気機を調節すること
2.消化の機能を促すこと
3.情志を調節すること
 肝の気機を調節する働きが順調であれば、気血は調和し、経絡は利通し、他の臓腑器官も正常に活動する。この働きで肝は直接的に気機を調整するだけでなく、脾胃の働きを正常化して、脾が気を昇らせ、また胃が気を降ろす働きを順調にする、あるいは肺の宣発粛降の働きを順調にするなど、間接的にも気機を順調にする。
 2つ目の消化の機能を促すのは、脾胃の気機の調節を介する働きと、胆汁の分泌を順調にさせることで実現される。したがって肝の疏泄機能が不調になると、消化器系の異常がよく現れる。



気の巡りと障害に関する用語
(気機)気の運動を気機といい「昇降出入」の基本形式をとり、それは具体的には臓腑系絡の働きによって表現される。例えば肺の宣発によって気血津液などを上へ輸送することは「昇」の表現。
(気機調暢と気機失調)各種の生理活動が必ずしも昇降出入のすべてを備えているわけではないが、全体では必ずバラ ンスがとれていなければならない。バランスがとれている状態を気機調暢、崩れれば気機失調という。
(気滞)気の運動は多種多様であり、気機失調の表現も多種多様である。一般的には広い意味で気機失調のことを気 滞と呼ぶこともあるが、狭義には気があるところにとまったまま動かないことを気滞という。
(気逆)上がるべき気が過剰に上がったり、下がるべき気が上がること
(気陥)下がるべき気が過剰に下がったり、上がるべき気が下がること
(気脱)気の過剰な外出
(気結)気の外出不足
(気閉)重度の気の交流障害
ーという。これらの気の運動をスムーズに行くようにしているのが肝の疏泄ということになる。
(肝気欝結)気血は経絡によって運行される。特に肝の経絡は、肝の疏泄機能が不調になるとすぐに阻滞するため、その循行部位(乳房・胸脇部・少腹部〈下腹部の正中外側〉など)に、もっぱら「張る」感じとして異常が出る。それは単に張る感じであることもあるし、脹痛であることもある。気の痛みの特徴は、移動しやすく、場所が特定しにくく、張る感じがあること。また、気の動きが悪くなると、肺の宣発粛降作用が悪くなるため、ため息が出やすくなったり、情志の不調が出る。こういった症状が「肝気鬱結」の症状となる。ちなみに、このときは弦脈がよくみられる。

肝気欝結の治療
 気の巡りを改善する「行気(こうき・ぎょうき)薬」を中心に組み立てることとなる。代表は柴胡で、柴胡は肝胆経に入り、ずばり疏肝解鬱に働く。これを中心に陳皮や枳実、香附子などの行気薬を配合するとよい。
 肝気鬱結に対する第一選択の方剤は柴胡疏肝散。これは四逆散(柴胡・枳実・白芍・炙甘草)の関連方剤。四逆散の枳実を枳殻に変え、疏肝行気の香附子・陳皮、活血化瘀の川芎を加えている。
 逍遙散も肝気鬱結によく用いられるが、さらに木乗土で脾の働きが悪くなったり、それによって(もしくは肝気鬱結そのものが蔵血作用を侵して)血虚になった場合(肝鬱脾虚血虚)がよい適応となる。

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中医学における「肝陽上亢」「肝火上炎」とは?

2018年01月28日 16時18分53秒 | 漢方
初学者のための中医用語:①「肝陽上亢」(別府正志Dr.:漢方スクエア)より

 とにかくわかりにくい中医学用語。
 食わず嫌いを卒業する目的で「肝」に食らいついてみました。
 まずは「肝陽上亢」と「肝火上炎」。

 前者は肉体的に疲労困憊して体が火照っている状態、後者はストレスでカッカしている状態、というイメージでしょうか。
 あ、肝陽上亢は「原発で冷却水が不足し温度が上昇した状態」がピッタリですね。

「肝陽上亢」と「肝火上炎」の違い
 肝火上炎は,肝 気鬱結が長く続くなどの原因で気火が上逆して出現する病証を指すのに対し、肝陽上亢は腎陰虚によって肝陰が不足し、肝陽を抑制できずに上亢して出現する病証を指す。つまり肝火上炎は純粋な実証なのに対し、肝陽上亢は虚実錯雑証であるといえる。


 これは、「臓腑学説・肝」(大阪医療技術学園専門学校東洋医療技術教員養成学科講義ノート、奈良上眞)のシェーマがわかりやすいですね。


中医学における「虚実」
 中医学では、人を発病させうる病因を邪気と呼び、それに対応する人の力を正気と呼ぶ。人が発病するには、邪気が正気を上回って人を犯すことが必要で、そのためには邪気が強すぎる(邪実)か、正気が弱すぎる(正虚)か、もしくはその両方がある(虚実錯雑)のいずれかが存在することとなる。邪実は実証、正虚は虚証であり、日本漢方の一部とは定義が異なることに留意することが必要。


 日本漢方では、邪の存在を消して、人の力が弱いか強いかで虚実と捉えます。

病気は陰陽バランスが崩れた状態
・陰盛証(または実寒証):陰が剰余
・陽盛証(または実熱証):陽が剰余
・陰虚証(または虚熱証):陰が不足
・陽虚証(または虚寒証):陽が不足
・陽盛兼陰虚証:陽盛が陰に及んだ(これには陰虚が陽を制約しきれなくなって起きる場合もある)
・陰盛兼陽虚証:陰盛が陽に及んだ(陽虚が陰を制約しきれない場合もある)
ーなどがある。
 陰が盛んな陰盛証は、からだは寒に傾くため寒証であり、通常よりも陰が剰余な状態の実証であるため実寒証ともいわれる。




 わかりにくいけど、図と照らし合わせて見つめていると何となく頷けます。

中医学の生理学は、「蔵象学説」「気血津液学説」「経絡学説」の3つだけ。
臓象学説)身体の内部に隠れた本質的な変化は、必ず体表に象として現れるという哲学がベースになっ ている。人の体の主な働きを5つの系統に分け、その中心を体内奥深くにある「臓」に置き、かつそれに代表させる。
 消化器系であれば脾、循環器系(+精神系)を心、呼吸器系であれば肺、といった具合。この場合、肝は西洋医学 でいえば自律神経系といったところだが、東洋医学的には肝の主要な作用は蔵血と疏泄を主るこ とで、必要とされるところに血を送り、また気の流れ・消化の働き・情志をスムーズにさせる。腎は泌尿器・ 生殖器系と考えることも可能だが、主要な作用は精を蔵すること、水を主ること、納気を主ることの3つである。精の働きとして、生殖機能の促進、成長と発育を促す、血液の生成に参与する、各臓腑の陰陽の元となる、などがある。


 やはり肝の「蔵血と疏泄」という概念が一番わかりにくいですね。

肝火上炎
 心・肝・脾・肺・腎の五臓を中心とした系統は、それぞれ体表の器官や組織とも繋がっていると考える。例えば肝は目に繋がり(開竅する)、筋・ 爪などにも連なっているとされている。そのため、奥の方の本質的な肝の変化が目・筋・爪など体表の変化となって現れ、それを把握することで病気の本質をとらえることができる。肝の経絡はまた、頭頂部にも達している。
 肝は五行の木行に属しており、火が燃えやすい特徴をもっているため、肝火が抑制できないと容易に上炎し、頭に上り、頭痛や眩暈、耳鳴りなどが発生する。これが肝火上炎による病証である。
 中医学では、邪気の原因は体の外だけでなく中にもあると考える。
 代表的なのは2次的な病因である瘀血と痰飲だが、「五邪内生」と呼ばれるものもあります。これは、疾病の過程において気血津液と臓腑などの異常によって生まれた、風・ 寒・火・湿・燥の五邪と似通っている病理現象のこと。肝から発生する火は内火の1つで、内火は陽盛・陰虚・気血の鬱滞・病邪の鬱結などで発生する。肝火上炎の場合、多くはその原因は気の鬱滞にある。



肝陽上亢
 肝陽を抑えるのは肝陰であり、具体的には肝に貯蔵された肝血がその役割を担う。この肝血を化生しているのは何か? これが腎陰である。腎に蔵される精が各臓腑の陰陽の元となるということはこういう意味で、腎が肝陰を支えると同時に、肝と腎との関係は精血同源といって、お互いに化生できるという考え方があり、これからも肝陰は腎陰に大きく依存していることがわかる。
 したがって、単純に肝陽が過剰になって上炎する以外に、肝陰が不足して肝陽が上に昇る病態を考えなければならない。この背景には上述したように腎陰の不足がベースにあることになる。この状態を肝陽上亢という。
 文字には表れていないが、必ず肝腎陰虚が背景にあることを忘れてはいけない。臨床上では、頭痛・眩暈・耳鳴りなどの上半身の症状は肝火上炎とほとんど同じだが、腰や膝のだるさや無力、脈の弦細数などの腎陰虚の証が必ず現れている。肝陽上亢の場合も、内火としての肝火の存在がありる。内火の原因はこの場合は陰虚が原因の内火ということになる。
 ちなみに、肝陽上亢には天麻鈎藤飲、肝火上炎には竜胆瀉肝湯が第一選択となる。


★ (花月クリニックHPより
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加島雅之先生のセミナー「肝の要を速解」編

2018年01月21日 11時01分45秒 | 漢方
2018.1.20「東洋医学セミナー〜日本漢方・中医学の英知の紐解き方〜」(於:高崎イーストタワービル)
加島雅之先生(熊本赤十字病院総合内科・総合診療科)
を聴講してきました。

 日本漢方より、中医学の視点からのお話。
 専門用語を羅列してどんどん進むので、理解が追いついていきませんでした。
 後半の日本漢方と中医学の比較は興味深く聞けましたが・・・。

※ 前半「肝」の部分は、スライドをメモしても今ひとつピンとこないので、以下の二つの資料も参照しました;
①「臓腑学説・肝」(奈良上眞、大阪医療技術学園専門学校東洋医療技術教員養成学科講義ノート)
②「肝の弁証」(木本裕由紀)



*************<備忘録>**************

五臓
(心)意識と循環を支える。
(肺)呼吸と気の生産、津液の散布を支える
(脾)消化吸収を支え、気・津液を円滑に運行させる
(肝)気と血の流れる量・方向をコントロールすることで、感情・月経を支配する
(腎)根源的な生命力を蓄える場であり、全身の津液の代謝を調節。成長・老化、生殖、尿の産生を支配する。

六腑
(胃)初期消化をする。消化管に下向きのベクトルを与える
(小腸)必要な水分と栄養を脾の管轄下に吸収する。不要な水分は腎・膀胱に送る。
(胆)胆汁を蓄え、排泄。胆力をもたらす
(大腸)大便を排泄させる。
(膀胱)尿を貯留と排泄。
(三焦)気・陽・津液の流通路

内邪
【瘀血】
 主に血瘀を背景または脈外に血が出たために形成された病理産物。
 血・気の流通を阻害する。
症状:
・疼痛(固定性の疼痛が多い)
・腫瘤の形成
・出血
・組織の変性・破壊
・精神症状(ヒステリーなど)

【痰飲】
 津液が変性することで形成された病理産物。粘稠なものを“痰”、稀薄なものを“飲”という。
 津液・気・血の流通を阻害する。
症状:
・疼痛:固定性で“おもだるい”疼痛が多い。
・肺にあると咳嗽・喀痰・呼吸困難
・胃にあると悪心・嘔吐、腹水・胸水、腫瘤
・心に入ると精神症状・意識障害、胸痛

【食積】(しょくせき)
 消化管に長く停滞した食物。脾胃の処理能力を超えた食事のために生じる。
症状;
・上腹部がつかえて苦しい、食思不振、胸やけ、ゲップ、悪心、嘔吐、下痢など。
・舌苔は濁膩が多い。

(つぶやき)
瘀血の精神症状と痰飲の精神症状の違いと鑑別がわからない・・・。


陰陽失調論
 主に精気のバランスの崩れによる病態を論じる。
・陽(機能的存在):気・陽
・陰(物質的存在):血・津液

(つぶやき)
陽の中の陽ってなに?


“肝”の生理作用
・疏泄を主る:全身の気の流れをスムーズに調節する。
・蔵血を主る:血を貯蔵し全身の運行する血量を調節するとともに、血を涵養(=滋養)する。

※ 肝主疏泄(①)
(語意)①疏:疎通、②泄:発散
(概念)全身の気機の疎通・暢達を保持し、通(不滞)・散(不鬱)の作用。
(効能)肝主昇・主動・主散の生理学的特徴⇒全身の気機の調暢・血と津液循環の推動


※ (②)「疏泄」という言葉がはじめて使われたのは『黄帝内経素問』五常政大論篇の「土は疏泄し、蒼気達す」であり、それは「冬が終わって春になると堅く凍てついた大地が軟らかく弛み、春木の気(蒼気)が草木を生長させ枝や根をのびのびと伸ばす」ことを意味している。この軟らかく弛むさまを「疏泄」と表現したのである。

(つぶやき)
ここがいちばんわかりにくい。西洋医学の肝臓(代謝を主る)とは別物と考えるべし。「気の調節」と「血(主に月経?)の調節」という特殊な働き。


肝の病証
・「肝気欝結」と「肝血虚」が基本
・肝の病証は「」の病態になりやすい。
・常に脾胃との関係を考える。
・肝の常見症状:イライラ・抑うつなどの情緒・感情の障害、気滞の症状、情志で変化(例:イライラで悪化)する症状、月経の異常

肝と心の精神症状の違い
(肝)情緒・感情   → 他人が理解可能
(心)意識・思考内容 → 他人が理解不能(精神疾患系)


肝の治法
・疏肝:肝気の鬱血を除く
 疏肝解欝:主に疏肝を気鬱に用い、精神作用を期待する
 疏肝理気:主に疏肝により疼痛などの気滞の症状に用いる
・養肝:肝の陰血を補う
・平肝:肝気の高ぶりを主に肝血を補う・疏肝することで治療
・鎮肝:肝気の上行を鎮める
・瀉肝(清肝):肝の熱を除く
・暖肝:肝陽を補い・鼓舞する
・退黄:黄疸を除く

肝の病態の基本薬物
・肝熱(≒興奮) → 黄岑・竜胆草
・肝気欝結 → 柴胡+芍薬 ・・・抑うつを改善
・肝血を補う→ 当帰+芍薬
・鎮肝熄風 → 牡蛎
・平肝熄風 → 天麻+釣藤鈎
・館員を補う→ 熟地黄

※ 肝系病証の病態生理


肝気欝結
(概念)
 ストレスや気滞、邪による阻害のために肝の疏泄機能が阻害された状態。
(症状)抑うつ、イライラ、軽微な精神的刺激でしばしば激しい情緒的反応となる。肝経の気滞が引き起こされ、胸脇部や少腹部の膨満感や遊走性疼痛、胸苦しさ。
(所見)脈弦、胸脇苦満、舌偏から先の軽度の発赤。
(合併)
 <要因>肝血虚、気滞 
 <波及>気滞、肝血虚、肝火上炎、肝気横逆
(治法)疏肝理気
(生薬)疏肝理気薬(柴胡、香附子、鬱金、呉茱萸)
 +補肝血薬(芍薬、当帰)
 +理気薬(陳皮、蘇葉、薄荷、枳実)

※ 肝気欝結
(病態)肝失疏泄(肝の疏泄機能を失う)
(病理)気機の疎通や拡散の機能が低下→ 気の循環が鬱滞
(症状)胸・脇・少腹部の脹痛

【四逆散】
(組成)柴胡5.0;芍薬4.0;枳実3.0;甘草2.0
(効能)疏肝理脾 解欝
(主治)肝気欝結 気滞中焦
(症状)抑うつ、イライラ、胸脇苦満、腹痛、下痢、脈弦
      ・・・反応性ストレス障害によく効く

肝火上炎
(概念)
 肝気欝結が化火して生じる。火は上炎しやすいため、主として上半身に明らかな熱症を生じる。火熱が血絡を傷ると、突然吐血や鼻出血を来すこともある。
(症状)激しい頭痛、顔面紅潮、目の充血、耳鳴、難聴、口苦、心煩、怒りっぽい。
(所見)舌紅、舌苔は黄で乾燥、脈弦数あるいは弦滑数
(合併)
 <要因>肝気欝結
 <波及>肝血虚、心火亢盛
(治法)清泄肝火
(生薬)竜胆草(リンドウの根:とっても苦い)、黄岑、山梔子

竜胆瀉肝湯
(組成)木通・地黄・当帰各5.0;沢瀉・車前子・黄芩各3.0;竜胆・梔子・甘草各1.5
(効能)清瀉肝火 清泄湿熱
(病態)肝胆実熱 下焦湿熱

同系弁証名別と身体部位別症状との関係
(①)


肝血虚
(概念)
 下記の原因により肝の蔵する血が不足し肝が濡養できなくなった状況;
・邪正相争による血の消耗
・睡眠不足
・筋肉の過度な使用
・長期の肝気欝結
・出血
・腎精の不足
・長期の血瘀
・脾胃の異常による生成不足
(症状)眼精疲労、視力の減退、筋肉のこわばり、月経量の現象、爪の変形・もろくなる、耳鳴り、めまい。
(所見)舌淡、脈細やや弦
(合併)
 <要因>肝気欝結、血虚、肝火、脾虚
 <波及>肝気欝結、肝陰虚、血虚、心血虚、肝風内動
(治法)補血養肝
(生薬)当帰、芍薬、熟地黄、枸杞子(くこし)、何首烏(かしゅう)、阿膠

四物湯
(組成)当帰・川芎・芍薬・地黄各4.0
(効能)滋陰補血 喀血
(病態)陰血不足、血瘀
(症状)目がかすむ、髪がやせる、筋肉がこわばりつりやすい、浮遊感を主体としためまい、月経血量低下、月経痛、皮膚乾燥、皮膚萎黄
(所見)脈細、舌淡、舌下静脈細い

肝陰虚
(概念)肝血虚の長期化、腎陰の不足、内火による肝陰の消耗、全身の陰虚の波及により生じる。
 肝血虚に加えて、全身の陰虚内熱の症状が出現する。
(症状)肝血虚の症状+五心煩熱、潮熱、盗汗、頬部の鈍い紅潮、
(所見)舌紅裂紋
(合併)
(治法)滋陰養肝
(生薬)熟地黄、山茱萸、枸杞子、何首烏

肝陽上亢
(概念)肝陰虚により肝陽の抑制が出来なくなった状態。
 上半身の熱証と肝陰虚の症状が同時に出現する。
(症状)肝陰虚の症状+顔面紅潮、のぼせ、頭痛、動悸、精神的興奮、易怒、不眠、心煩
(所見)脈弦細数、舌紅で少津
(合併)
(治法)滋陰、平肝潜陽
(生薬)滋陰養肝の薬
    +平肝薬(釣藤鈎、天麻、シツリツシ、芍薬)
    +潜陽薬(牡蠣、石決明、篭甲、牛膝)

同系弁証名別と身体部位別症状との関係
(①)


肝風内動
(概念)
・肝気の過剰流動(肝陽化風)により生じる。
・肝気の抑制を行う?
・肝の陰血の不足により生じる場合(虚風内動、血虚生風)
・熱に煽られ風を生じる場合(熱極生風)
・鬱血した肝気が内動する場合
・脾虚に伴い相対的に肝風が生じることもある
(症状)肝風の症状:めまい、振戦、けいれん、筋肉のスパスム(例:眼輪筋けいれん)、突然の精神症状(例:歯ぎしり、くいしばり)、電撃痛
(合併)
 <要因>肝血虚、肝陰虚、肝火、肝気欝結、脾虚
 <波及>風痰
(治法)平肝熄風+背景の病態の改善
(生薬)平肝熄風薬(天麻、釣藤鈎、羚羊角:れいようかく、白檀蚕)

【抑肝散】
(組成)柴胡5.0;朮・茯苓各4.0;川芎・当帰・釣藤各3.0;甘草1.5
(症状)イライラ(怒りを我慢)、抑うつ、めまい、筋けいれん、突発的常道発作、くいしばり・歯ぎしり、電撃痛
(所見)胸脇苦満傾向、脈弦傾向
(効能)疏肝解欝 平肝熄風 理気健脾 養血活血
(主治)肝欝化風

★ 抑肝散と加味逍遥散の適応症状の違い
抑肝散自罰的、がまんが怒りへ変わる
加味逍遥散他罰的、熱として発散


★ 精神症状における抑肝散と抑肝散陳皮半夏の使い分け;
 陽性症状と陰性症状の有無で考える。
 陽性症状のみ → 抑肝散
 陽性症状+陰性症状→ 抑肝散加陳皮半夏


肝気横逆
(概念)欝結した肝気が脾胃の機能を障害した状態。脾胃の運化の低下や気滞を引き起こす。
 情調の障害やストレスにより変動する消化器症状となる。嘔吐・下痢・腹痛がしばしば見られる。
 また、肝火が胃熱をしばしば起こす。
 脾胃が虚すると相対的に肝気の横逆を生み、肝気欝結ようになる事もある。欝結した肝気が痰とともに咽喉部に停滞すると喉の閉塞感があるが、吞んでも吐いても消失しない(梅核気、咽中炙臠)。

肝脾不和
(概念)肝気欝結が脾の運化に影響した病態。
1.疏泄不足が主;
(症状)抑うつ、イライラとともに食欲不振、胸脇部〜上腹部の疼痛
(所見)脈弦
(治法)疏肝健脾
2.疏泄過多が主;
(症状)腹鳴、腹痛、下痢などが精神的緊張とともに発症する。
(所見)脈弦
(治法)抑肝扶脾

【小柴胡湯】
(組成)柴胡6.0;半夏5.0;生姜4.0;黄芩・人参・大棗各3.0;甘草2.0
(効能)疏肝解欝 清肝熱 健脾化湿
(主治)肝鬱化熱 脾虚湿盛
(症状)イライラ、抑うつ、食欲不振、嘔気、腹痛、口苦、下痢、便秘
(所見)胸脇苦満、脈弦、舌苔白〜微黄

【桂枝加芍薬湯】
(組成)芍薬6.0;桂枝・生姜・大棗各4.0;甘草2.0
(効能)温通緩急
(病態)脾虚肝旺 裏寒急
(症状)引きつるような間欠的腹痛、下痢、喜按、喜温

肝胃不和
1.肝火犯胃
(概念)肝気が欝結して化火となり胃を犯す。
(症状)胸脇部や上腹部の脹悶感や疼痛、胸やけ、ゲップ、悪心、嘔吐、煩躁
(所見)舌赤、脈弦数
(治法)泄肝和胃
(方剤)エキス剤では、黄連解毒湯2+呉茱萸湯1
★ 苦いビールが美味しい理由?
2.肝寒犯胃
(概念)患者によって抑圧された肝気が胃を犯す
(症状)上腹部痛(時に激しく痛む、あるいは下腹部から上攻する)、嘔吐があり、寒冷によって悪化する。
(所見)
(治法)安中散、呉茱萸湯

【呉茱萸湯】
(組成)呉茱萸湯:大棗・生姜各4.0;呉茱萸・人参各3.0
(効能)暖肝散寒 温中降逆 止嘔
(病態)胃寒 肝寒犯胃
(症状)
①上腹部の冷え、涎が多い、嘔気、冷えで増悪する胃の痛み、舌淡、水滑 脈弦
②激しい嘔吐、煩躁、頭頂と側頭部の頭痛、手足の冷え、脈弦無力

【安中散】
(組成)桂枝・延胡索・牡蛎各3.0;茴香・甘草・縮砂各2.0;良姜1.0
(効能)胃寒、肝寒犯胃
(病態)温中散寒、止痛、行気
(症状)刺し込むような上腹部痛、寒冷で増悪、温めると改善、嘔気、子宮の寒冷で増悪する痛み


寒滞肝脈
(概念)寒邪が肝の経絡に侵入し肝経の気の流通が障害され、肝の疏泄も失調した病態。
(症状)肝経の支配走行領域の疼痛が主体で、少腹疼痛、陰部の疼痛なども含まれ、寒冷で悪化し、温めると軽減する。
(所見)脈沈弦、舌苔白
(治法)温肝散寒
(方剤)当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)

肝経湿熱
(概念)内湿が化熱するか、外邪の湿熱が肝や肝の経絡に底流したもので、胆に及ぶこともある。
(症状)胸脇部の腸満や疼痛、腹満感、食欲不振、悪心、口苦などを呈する。湿と熱がどちらが勝るかで便秘又は下痢になる。胆に及ぶと黄疸が出現する。男性であれば陰部の湿疹、睾丸の腫脹・疼痛、女性では黄色帯下、外陰部のかゆみが出現することがある。
(所見)舌苔は黄膩
(治法)清泄肝経湿熱
(方剤)竜胆瀉肝湯、茵蔯蒿湯、茵蔯五苓散

【茵蔯蒿湯】
(組成)茵陳蒿4.0;梔子3.0;大黄1.0(適量)
(効能)清熱利湿 退黄
(病態)肝胆湿熱 黄疸
(症状)明るい黄疸、便秘、体のかゆみ、腹痛、
(所見)脈滑有力

肝火凌心
(概念)肝火が心に影響を与え心身の安定が脅かされる
(症状)イライラ・焦燥感に加えて不安、動悸、興奮、不眠
(所見)脈弦数、舌先部赤
(治法)
(方剤)柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

【柴胡加竜骨牡蛎湯】
(組成)柴胡5.0;半夏4.0;茯苓・桂枝各3.0;黄芩・大棗・生姜・人参・竜骨・牡蛎各2.5;大黄1.0(適量)
(効能)疏肝解欝 清肝熱 重鎮安神
(主治)肝火凌心
(症状)イライラ、抑うつ、胸脇苦満、口苦、動悸、不安、便秘
(所見)脈弦、舌苔白〜微黄

★ かゆみの漢方
1.内風
①気滞 → 抑肝散 ・・・皮膚に何もないのにかゆいとき。中枢性止痒薬様。
②血陰不足→ 当帰飲子(86)・・・効果不十分の時は八味地黄丸(7)/六味丸(87)を併用
③熱  → 温清飲(57)、荊芥連翹湯(50)
2.湿熱 → 茵蔯五苓散、消風散(効果不十分なら越婢加朮湯併用)
※ 痒疹結節には桂枝茯苓丸加薏苡仁
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またもや「漢方薬保険外し」

2018年01月18日 15時36分50秒 | 漢方
 しばらく前(2009年)にも話題になった「漢方薬の保険外し」。
 また再燃しているようです。
 その前に医療福祉費を圧迫している「薬剤師」「柔道整復師」など、解決すべき問題があるはずなのに・・・。

■ 漢方薬の保険外しに日本東洋学会が反論
2018年01月15日:メディカル・トリビューン
 財務省は現在、薬剤費自己負担の引き上げを検討しており、2018年度(4月~2019年3月末)までの検討結果に基づき必要な措置を講じるとしている。この動向を受け、日本東洋医学会健康保険担当委員会は昨年(2017年)12月、漢方薬の自己負担を引き上げた場合、逆に負の側面を生み出す可能性に言及。1月11日に、公式サイトで学会としての意見を発表した。

◇ 湿布、ビタミン剤、漢方薬の自己負担増を推測
 財務省財政制度審議会における論点は、
①市販品と同一成分の医薬品が処方された場合、大幅に低い負担で入手できるため、セルフメディケーションの推進に逆行し、公平性も損ねる
②諸外国では、薬剤の種類に応じた保険償還率や一定額までの全額自己負担などが設定されている
―など。
 同学会は、
①について医療用の漢方製剤と同等の成分を含有する"葛根湯の満量処方"がOTC漢方製剤にもあることから、葛根湯を標的としたものという。
②については、薬剤の種類に応じて自己負担割合が設定されているフランス(胃腸薬70%、ビタミン剤・強壮薬100%など)の事例が審議会財政制度分科会資料(昨年10月25日)に盛り込まれたことから、同学会は日本でも湿布、ビタミン剤、漢方薬の自己負担額の増加が推測されるとしている。

◇ 4つの意見を表明
 今回、同学会健康保険担当委員会では、財務省の動向を受け、以下の4つの意見をとりまとめて公表した。

1.漢方薬は保険診療で認められていて、国民の健康に寄与している
2.適切な漢方診療を行うためには、医師の正しい診断が不可欠
3.漢方薬の自己負担率が引き上げられると、患者の経済的負担が増加し、治療の機会を奪うことになる
4.漢方薬の適正な活用は日本全体で考えると薬剤費の節減につながる。自己負担を引き上げることで医療費が高騰する可能性が高くなる

 2009年に政府の行政刷新会議による事業仕分けで、漢方製剤や湿布薬などを保険適用の対象から外す案が提示されたことは記憶に新しい。このときは、同学会などによって漢方薬の保険診療枠の継続を呼びかける署名活動が行われ、そうした事態は回避された。


<参考>
漢方薬を保険から外す案が浮上しています!(日本東洋医学会)
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チベット医学は誰のもの?

2018年01月02日 09時17分55秒 | 漢方
 漢方医学の国際標準を決める際に、中国・韓国・日本の3カ国が争っているそうです。
 発祥は中国ですが、韓国・日本に伝わるとともに独自の発展を遂げただけに、統一するのは難しそう。

 もっと複雑な様相を呈しているのがチベット医学。
 独自の医療なのでしょうが、チベットという国がないので国際機関に申請できません。
 そこを狙われて、中国とインドが「自分の国の伝統医学である」と争っているようです。
 迫害した地域の伝統医学を乗っ取るなんて、中国らしい。
 人間、権力を持つとろくなことを考えません。

■ 中印争い、無形遺産でも ヒマラヤのチベット医学 「アジア発」
共同通信社2017年12月22日
 国境対立を抱える中国とインドが、ヒマラヤ山脈や周辺に伝わるチベット医学を、自国の文化として国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録しようとせめぎ合っている。
 自国領で発展したと主張する中国に対し、インドは伝統医療アーユルベーダと関連が深いと訴える。
 審査は来年パリで行われる見通しで、両国のロビー活動が激しくなりそうだ。

▽脈診
 「先祖代々のアムチ(チベット医学の医者)だ。
 60年前にはラサ(現・中国チベット自治区)で修行した」。標高約4千メートルの、チベット文化圏に入るインド北部レー近郊の村。仏画を背に香が漂う診療所で、アムチのコンチョク・チョザンさん(85)が話した。
 ラダック地方に約200人残るアムチの1人。
 手の脈や尿などから患者を診察し、ヒマラヤで採取した希少な薬草を自ら調合し処方する。謝礼として穀物などを受け取る。「チベット医学は、脈が臓器に通じていると考える。西洋医学の影響で患者は減ったが、2日に1人は来るよ」と語る。

▽注目
 チベット医学はヒマラヤやチベット高原に古来伝わる。
 中国軍の1950年のチベット侵攻や59年のダライ・ラマ14世亡命などで離散した難民が各地に伝え、近年、代替医療として欧米などで注目され始めた。
 中国の環球時報やインド紙によると、中国は3月ごろ、チベット医学の入浴法が「中国で発展した」として無形遺産の登録を申請。インドも対抗するように、アーユルベーダやインド仏教がチベット医学に影響を与えたとして申請した。インド北部でもチベット医学が伝えられ、モディ政権も保護しているからだ。
 インド国立チベット医学研究所(レー)のタシ・ストブゲス研究員(42)は「中国の遺産となれば、われわれの文化が奪われた気持ちになる」と主張する。

▽複雑
 一方、インドの保護下にあるチベット亡命政府(北部ダラムサラ)の立場は複雑だ。
 亡命政府は61年から、ダラムサラでチベット医学・暦法学研究所を始め、難民らをアムチとして教育・認定。インド内に約60カ所の診療所も開いた。ラダック地方などインドの土着アムチとも連携する。
 しかし、文化発展の立役者にもかかわらず、国でないために遺産申請は難しい。
 亡命政府職員で難民2世のテンジン・ニャンダクさん(41)は中国の申請を「チベットの独自文化を奪う行為」と強く批判
インドに対しては「われわれのこれまでの努力も認めてほしい」と言葉を選んで話した。


※チベット医学
 中国の漢方やインドのアーユルベーダのようなアジア伝統医療の一つ。
 チベット医学・暦法学研究所(インド)などによると、8世紀ごろに大きく進歩したが、1959年のダライ・ラマ14世の亡命以降、中国チベット自治区で医学書などが燃やされた
 一方、61年に亡命先のインドで同研究所ができ、ブータンやインド北部のチベット文化圏にも独自のチベット医学が残る


 昔、今から40年ほど前でしょうか。
 テレビ番組で、日本とソ連の一般市民が行ったテレビ討論が思い出されます。
 そこで北方領土の問題が取り上げられました。
 双方、独自の理論・根拠を持ち出して「ソ連の領土だ」「日本の領土だ」と主張合戦でらちがあきません。
 そのとき、日本の女子高生の一言で会場がシ〜ンとなりました。

 「北方領土は、日本の領土でもソ連の領土でもなく、そこに住んでいる人たちの土地だと思います」
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漢方にゼリー剤やOD錠を!

2018年01月02日 08時43分34秒 | 漢方
 漢方エキス剤は、他の薬になれている人にはとにかく飲みにくい。
 子どもはその味で、高齢者は顆粒なので入れ歯にくっついたり飲み込むのが大変だったり。
 錠剤も発売されていますが、ほんの一部です。

 なので、いろいろ工夫が必要になります。
 高齢者はとろみ剤をうまく使うと飲みやすくなります。

 半ばあきらめていたこの話題が、久しぶりに大きく取り上げられました。

■ 漢方にゼリー剤やOD錠を!
2017年12月25日 MedPeer News:朝日新聞
飲みやすく、高齢者やがん患者にも
 顆粒剤・細粒剤が中心の医療用漢方製剤に剤形追加を望む声が上がっています。認知症の行動・心理症状(BPSD)やがん治療の合併症に対する漢方製剤の有用性が報告されていることから、高齢者やがん患者さんにとって飲みやすい錠剤、ゼリー剤などを治療に用いたいという考えです。現行の薬事制度では西洋薬と同じ承認申請手順が必要ですが、多様な有効成分からなる漢方製剤の特性を考慮した動きも出てきました。

医師らの研究会で話題に
 12月12日に開かれた「国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会」(髙久史麿会長)で、漢方製剤の剤形追加の必要性やその承認申請手順が話題に上りました。
 薬価収載されている医療用漢方製剤148処方の2割弱では錠剤やカプセル剤も発売されていますが、多くは顆粒剤・細粒剤です。漢方製剤は近年、BPSDの治療、がん治療の合併症の軽減などに有用だとする報告が相次いでおり、実臨床でも高齢者やがん患者さん、嚥下障害のある患者さんなどへの使用が増加していると見られます。
 そこで、顆粒剤や細粒剤と比べて服用しやすい錠剤やゼリー剤、口腔内崩壊錠(OD錠)などの剤形追加が望まれています。

既存剤形との同等性証明が壁
 こうした剤形が製剤技術的に可能であっても、実際に世に出すには、承認申請時に既存剤形との生物学的同等性の証明が必要です。
 講演した国立医薬品食品衛生研究所生薬部長の袴塚高志氏によると、現在は医療用漢方製剤についても西洋薬(化学合成薬)と同じ承認申請手順が採られています。「新有効成分」「新効能」「新投与経路」などの区分に応じて、必要なデータをそろえて申請するシステムです。剤形追加であれば、臨床試験成績は不要ですが、既存剤形との生物学的同等性を示すデータが必要です。
 しかし、複数の生薬の多様な有効成分からなる漢方製剤で、「数千ある成分のすべてで(既存剤形との)生物学的同等性を証明せよと言われたらお手上げ」(袴塚氏)です。

漢方向けの承認申請GL策定へ
 現在、袴塚氏らはAMED(日本医療研究開発機構)から資金を得て、漢方薬の生物学的同等性の評価法に関する臨床研究を実施しています。その結果をもとに、2018年度は医師、薬剤師、厚生労働省、PMDA(医薬品医療機器総合機構)からなる研究班を立ち上げ、医療用漢方製剤の剤形変更に関する承認申請ガイドライン(GL)の策定に着手すると明らかにしました。
 袴塚氏は「多成分系である漢方製剤の特性に合わせた承認申請システムが必要になる。18年度末か19年度にGLを公表できればと考えている」と述べました。ただし、GLは承認申請のためのもので、申請後に審査を受けることに変わりはないとしました。


 例えば、五苓散。
 このエキス剤は、ノロウイルスによる嘔吐下痢症の特効薬と言われています。
 熱心な小児科医は、エキス剤から座剤を自分で作成して使用しています。

 以前、大手の漢方製薬会社に「五苓散の座剤を製造販売する予定はないのですか?」と聞いたことがあります。
 「新しい製剤を作るより、現行のエキス剤を普及されることを優先しています」という返答でした。
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