漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

「フローチャート皮膚科漢方薬」(新見正則/チータム倫代著)

2018年06月28日 14時52分42秒 | 漢方
「フローチャート皮膚科漢方薬」(新見正則/チータム倫代著) 
新興医学出版社、2018年発行。

新見先生のフローチャートシリーズの最新刊です。
今回は皮膚科領域であり、興味がある分野なので購入し読んでみました。

子どもの具合が悪くなったら、とりあえずお母さんは小児科に連れて来ます。
ケガでも火傷でも虫刺されでも・・・なので知っておく必要があるのです。

本書の前半1/3弱が新見先生、後半が皮膚科専門医のチータム先生(ペンネームではなく本名らしい・・・)の担当です。
私の興味は、もちろん後半。
皮膚科医が用いている漢方薬を広く浅く知りたいといつも思ってきました。
疾患により、「西洋医学優先」とか「漢方薬がおすすめ」とか、漢方薬の位置づけがされたコメントがあるので、イメージをつかむにはよい記述内容です。

ただし、解説が少ないので、記載されている方剤が効かなかったときは、そこでストップしてしまうのがこの類いの本の欠点です。
まあ、それ以前に、手応えがあり患者さんが喜ぶ経験を何回かすれば漢方の魅力にはまり、自分で調べる習慣が付いているはずと踏んでのことかな。

「ファーストチョイス」「効果がないとき」という順番で漢方エキス剤名が提示されています。
究極の単純化ですが、疑問に思うのは「有効率」が示されていないこと。
とくに私の専門の小児科領域では「?」と感じる記載が所々にありました。

例えば、「おむつ皮膚炎」の項目。
小児科医の漢方仲間は紫雲膏を多用していますが、この本ではそれに言及はなく、小建中湯、五苓散と内服薬のみです。
小建中湯は「おねしょにも有効」とありますが、実際に小児夜尿症をたくさん診療している先生の報告では、小建中湯のみならず漢方薬でおねしょが解決する例はまれだと聞いていますし、私も同感です。

漢方ではありませんが、意外に思ったこと。
そえは、チータム先生が「アズノール軟膏」を重用していることです。
小児科的には「ステロイド軟膏が使いづらいシチュエーションだから、とりあえずアズノールにしておこう」くらいの感覚で処方する軟膏ですが、「けっこう効く」らしい。「軽い傷、I度の熱傷、口角炎、おむつかぶれ、軽い湿疹、ヘルペスなどに有効」と書かれていますね。


<備忘録>

□ 荊芥連翹湯=十味敗毒湯+温清飲

□ かゆみに対する漢方
・特に痒いアトピー  → 黄連解毒湯 ・・・ 痒みが楽になったら温清飲に変更して気長に処方する。
・落ち着いているアトピー  → 温清飲 ・・・ 皮膚が粉を吹いているようなときに好まれる。
・効果がないとき  → 白虎加人参湯

□ じんま疹に対する漢方
・第一選択は茵蔯蒿湯
・茵蔯蒿湯で下痢する場合は茵蔯五苓散

〜ここまでは新見先生、以下はチータム先生〜

□ 熱傷の皮膚科処方
 あとに残らないように西洋医学を優先すべし(漢方はおまけ)。
 まず、冷水による冷却&洗浄後、
・I度:数日のステロイド外用薬(エキザルベなど)またはアズノール軟膏、内服薬は不要。
・II度:アンテベート軟膏を1〜2日間塗布し、その後エキザルベ軟膏を4〜5日間、その後は上皮化までアズノール軟膏塗布。水疱は破らない方が望ましいが、破れてしまったら創傷被覆材(ハイドロサイト)を使用する。
 体表面積の15%以下 → 外用+漢方内服または消炎鎮痛剤併用
 体表面積の15%以上 → 入院、全身管理が必要
※ 2週間以内に上皮化しないと瘢痕が残るので要注意、皮膚科へ紹介すべし。
・III度:手術を考慮

□ 熱傷に使う漢方薬
・第一選択:五苓散 ・・・ 水疱・浮腫の改善&マイルドの解熱
・広汎または炎症が強い:黄連解毒湯 ・・・ 即効性のある冷却薬


 以前は軽い熱傷には抗菌薬入り軟膏がよく処方されていましたが、最近は耐性菌問題の影響で使われなくなってきたそうです。
 さて、私はI〜浅いⅡ度熱傷には紫雲膏を処方しています。
 その昔、子どもがに熱湯を足にかけてII度熱傷となり病院の救急外来で処置(抗菌薬入り軟膏塗布)をしてもらいました。しかし痛くて痛くてずっと泣いています。私は包帯を解いて、紫雲膏を上塗りしました。すると15分くらいで本人がケロッと泣き止んだではありませんか!?
 その効果に驚かされ、それ以降は「熱傷といえば紫雲膏」です。外傷後の上皮化もよくなる印象があり、擦りむいて痛い傷にも使っています。
 熱傷でも擦過傷でも痔にも、とにかく「痛い皮膚病変」にはよく効きます。


□ 湿疹部から汗が再吸収されると、かなりのかゆみを引き起こす。

□ アズノール軟膏は万能薬?
・原料はキク科カミツレで、抗アレルギー効果がある(らしい)
・保険適応:湿疹、熱傷
・軽い傷、I度の熱傷、口角炎、おむつかぶれ、軽い湿疹、ヘルペスなどに有効
・プロペトと混合して、口唇の荒れにリップクリーム代わりに処方することもある。
・著効は期待できないにしても、徐々に改善することが可能。
・ごくまれにかぶれることがある。原因はラノリン。

□ 日焼けの治療&使用する漢方薬
 まずはリンデロンVローション(またはトプシムスプレー)を数日間、
 熱と赤身が冷めて乾燥してきたらアズノール軟膏(もしくはヒルドイドローション)
・第一選択薬は黄連解毒湯 ・・・ 強力に冷やすので熱中症対策にも有効
※ 水疱ができるほどの日焼けや繰り返す日焼けは、シミ、脂漏性角化症、もしくは日光角化症になりやすく要注意。

 皮膚科医は日焼けにもステロイド外用薬を使うのですね。重症者が多いのでしょう。
 私はヒリヒリする程度の日焼けには「カラミンローション」(別名“あせもローション”)を処方しています。薬効は「湿疹・皮膚炎、汗疹(あせも)、日焼け、軽い熱傷の緩和な収れん・保護」で、きちんと保険適応があります。


□ 水いぼに使用する漢方薬
・第一選択:五苓散
・第二選択:補中益気湯

 私は水いぼには黄耆建中湯あるいはヨクイニン、またはこれらの併用をしています。それでも有効率は50%程度。
 五苓散の有効率も知りたいところです。


□ ニキビの漢方薬の使い分け
<性別>
・男性:清上防風湯(+排膿散及湯) ・・・ 若く体力のある男子(スポーツ女子も)の赤くて化膿傾向のあるニキビに有効。
・女性:桂枝茯苓丸加薏苡仁 ・・・ 生理前に増悪する傾向のあるやや紫が買ったニキビに有効。
・小児:治頭瘡一方 ・・・ こどものニキビや小児の頭の毛包炎に有効、頭以外の小児の全身の湿疹にも有効、大人の頚部・頭の毛包炎にも有効。
<体質別>
・浅黒く、手汗をかきやすい人:荊芥連翹湯 ・・・ 経過が長く、慢性副鼻腔炎など慢性化膿性疾患を持っている人に有効。半年ほど内服を続けて、いつの間にかよくなっていたという感じ。
・色白、冷え症で体力がない人:当帰芍薬散 ・・・ 貧血気味、華奢な人のニキビに有効。便秘改善効果もある。
<ニキビの性状>
・膿疱が目立つ:十味敗毒湯 ・・・ 赤みよりも膿んだ状態が目立ち、比較的経過が短いニキビに有効。筋肉質で緊張しやすい人のニキビに。
・口のまわり:半夏瀉心湯 ・・・ 口の周りだけにニキビができる人に。とくに胃腸障害があると効果的。

□ 虫刺されによる皮膚炎
<西洋薬>
・大人にはストロング(リンデロンVなど)〜ベリーストロングクラス(アンテベート軟膏など)
・子どもにはマイルド(リドメックス軟膏、キンダベート軟膏など)〜ストロングクラスのステロイド軟膏を使用
・広範囲または蜂か織炎を起こしている場合:抗アレルギー薬、抗菌薬、消炎鎮痛薬内服。または漢方薬を追加。
<漢方薬>
・第一選択:十味敗毒湯 ・・・  浸出液の少ない急性・慢性の湿疹や、化膿傾向を持つ湿疹に有効。
・水疱形成しているとき:五苓散 ・・・ 蚊にたくさん刺されてパンパンに腫れている子どもにおすすめ。

□ 手湿疹の漢方薬
 手湿疹は、汗疱(異汗性湿疹)、主婦湿疹などで、ともに接触皮膚炎の一種と見なされている。
・第一選択:温経湯 ・・・ やや虚弱な人向き。月経困難症、口唇の渇く人にも有効。かなりおすすめ。
・第二選択:四物湯 ・・・ 皮膚が乾燥している人向き。
<ほてりを伴う手湿疹>
 美容師・調理師など、とくに水やお湯を使う職業の人は手湿疹が増悪して手全体が腫れてほてってしまうことがある。
・第一選択:三物黄芩湯 ・・・ 冷やす生薬3種類のみで構成、苦いが飲める人には著効することがある。
・第二選択:黄連解毒湯 ・・・ 三物黄芩湯よりさらに冷やす薬。
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「こども漢方」(草鹿砥宗隆・佐藤大輔著)

2018年06月28日 08時14分26秒 | 漢方
こども漢方」(草鹿砥宗隆:くさかどむねたか・佐藤大輔著)、源草社、2015年発行



以前から気になっていた本を、購入して読んでみました。
勉強熱心なDr.らしく、日本漢方のみならず中医学の知識も駆使し、はては「中医学式マッサージ法」、「おすすめ食材」にも言及し、あらゆる方法を総動員して患者さんに対峙しようという、真摯なスタンスが見えてきます。
なお、「マッサージ法」「おすすめ食材」は共著者が担当しているようです。

小児疾患を網羅するのではなく、漢方薬が効きそうな分野を中心に取り上げて解説しています。
各項目、自分が処方している漢方薬と比較でき、その背景の考え方を知るに至り、大変参考になりました。

ただ、系統的な学習には適さないと思われました。
著者の強調したいところや、経験談(症例提示)が中心となっているので、エッセイ的です。

また、患者さんの病態把握に、解説なしでいきなり中医学の弁証が出てきたりして、それを知らない人にはピンとこないでしょう。
ま、スルーすればすむことですが。

というわけで、誰を対象にした本なのかな、と素朴な疑問が発生。

私のように日本漢方をかじっているだけで、中医学は食わず嫌いな初級者レベルでは、半分納得/半分ピンとこない、ということになります。
すべてを理解し「フムフムなるほど・・・」と読みこなすには、日本漢方・中医学も学習した中級の漢方医レベル。
少なくとも一般向けではないですね。


<備忘録>

□ 小青竜湯は太陽病期虚実間証の方剤。
 悪寒、発熱、自汗、咳嗽、希薄な痰(水毒)。傷寒病で表証がまだ寛解しておらず、胸部の水飲停滞性病変が併発している状態が適応となる。

□ 便秘に使用する漢方薬。
 桂枝加芍薬湯加法を慢性機能性便秘症に処方した場合、その効果はおおよそ2〜3週間(早い場合は1週間)で得られる。
(乳幼児〜小学校低学年)第一選択:小建中湯、皮膚症状を伴う場合は黄耆建中湯
(小学校高学年以降、とくに女児)基本は小建中湯/黄耆建中湯、必要に応じて大建中湯を若干量付加する。
★ 大黄・芒哨などの瀉下剤に関しては極力使用しないことが基本。

私の印象では、小建中湯が効く患者さんのお腹と、大建中湯が効く患者さんのお腹は違うような気がしています。
体幹が薄くて平べったいお腹で、お腹の皮膚が見ように突っ張っていたり柔らかかったりすると小建中湯、
ブヨブヨ締まりのないお腹で、おへそのあたりを触ると冷えている場合には大建中湯、
という感じ。


□ 下痢に使用する漢方薬。
①水様性下痢〜風寒邪(ときに風熱)の侵襲でもたらされる症状で、
・葛根湯証でに軽度の水様性下痢を伴う  → 葛根湯
・水様性下痢に嘔吐・寒気を伴う冬季胃腸炎  → 五苓散
・上記胃腸炎から数日経過、下痢持続、往来寒熱  → 柴苓湯
・腎陽虚の下痢(口渇なし、手足の冷え、脈無力) → 真武湯
②テネスムスを伴う粘液便や膿血便状下痢〜風湿熱の侵襲でもたらされる症状で、
・湿熱邪の侵襲で粘液便やテネスムスを伴う  → 黄岑湯
・湿熱邪の侵襲で出血を伴う粘血便  → 葛根黄芩黄連湯(エキス剤では升麻葛根湯+黄連解毒湯)
★ 腹痛を伴う場合は、桂枝加芍薬湯加法を併用するとよい。

私が急性胃腸炎に頻用している半夏瀉心湯が下痢の項目には登場せず、食傷(暴飲暴食)による食欲不振の項目にあるのは意外でした。

□ 反復性中耳炎に対する漢方薬。
<標治>
・柴胡剤(主に小柴胡湯)
・炎症症状が比較的強い場合  → 清熱解毒・排膿作用を効能とする生薬を配合する方剤
(例)桔梗湯、桔梗石膏、排膿散及湯、などを付加する
・炎症が水毒傾向を強く持ち合わせている場合  → 五苓散
<本治>
・十全大補湯 ・・・ 免疫賦活・栄養状態改善が期待できる。

中耳炎は鼻風邪が長引くと併発しやすい合併症です。
ネバネバ系の鼻水がなかなか治らない子どもには葛根湯加川芎辛夷を使うと夜の鼻閉が楽になりますし、中耳炎の予防にも効果があると耳鼻科の先生から聞いたことがあります。
柴胡剤は中耳炎と言うより蓄膿症(副鼻腔炎)を繰り返す子どもに頻用しています。


□ 柴胡清肝湯と荊芥連翹湯の使い分け
 解毒証体質(結核を代表とするリンパ節炎を起こしやすい体質)に使用される方剤は、温清飲(四物湯+黄連解毒湯)の加味方であり、血虚(皮膚粘膜の乾燥萎縮傾向を伴う状態)と血熱(充血、強い炎症、出血、のぼせ、精神的興奮など)の合わさった複雑な病態に使用される。
(柴胡清肝湯)上気道・咽頭などの炎症に効果を発揮
(荊芥連翹湯)鼻・皮膚などの炎症に優位に働く

ふつう、柴胡清肝湯は幼児期、荊芥連翹湯は思春期以降に適していると書かれた本が多いのですが、ターゲットとなる部位に焦点を当てているのは新鮮です。

□ 夜泣き/夜驚症に使用する漢方薬
<夜泣き>生後半年〜1歳半あたりまで
<夜驚症>3歳頃〜小学校低学年頃までに好発
・・・およそ数ヶ月の時間経過で自然軽快する。
使用される漢方薬は、
(甘麦大棗湯)「金匱要略」の「婦人雑病・・・」に掲載されている方剤で、婦人の神経症、とくに悲哀感が強くてよく泣いたり、甚だしいと異常な言動をしたりするような急迫症状に効果的。浅田宗伯は「勿誤薬室方函口訣」に「〜また小児で、啼泣止まない者に用いて速効がある」と記されており、夜泣きなどに経験的に使用されていた。脾虚による精神的症状を改善させる側面を持つ。
(小建中湯)その甘味で急迫症状に対応可能、脾虚による身体的症状を主に改善する。
(抑肝散/抑肝散加陳皮半夏)抑肝散は明代の小児科専門書である「保嬰撮要」で、子どもの“癇”を治すために創製された方剤。五行における“肝”の気が高ぶって興奮する状態を釣藤鉤・柴胡で沈静化させる効能を持ち合わせ、朮・茯苓・甘草・当帰・川芎で気血を補うことを重視している。
 神経過敏を素地に持つ子どもに頻用される、夜泣き/夜驚症、歯ぎしり、チック症状、熱性けいれんの既往などを伴う場合によい適応になる。
(柴胡加竜骨牡蛎湯)・・・解説なし
(桂枝加竜骨牡蛎湯)・・・解説なし

□ こころの問題に使用される漢方薬
①消化器症状が特徴的な型(IBSなど) → 補脾剤
②怒り・乱暴型 → 柴胡剤(抑肝散、柴胡加竜骨牡蛎湯など)
③不安緊張型 → 安神剤、柴胡剤(甘麦大棗湯、四逆散など)


こころの問題を考えていて、いつも感じることがあります。

「不安と緊張と怒りの根っこは一つではないか?」

根源は「自己評価の低さ」「自信のなさ」であり、それがために不安になり、周囲に対して緊張し、自身のふがいなさにイライラして怒りに変容するのではないか、と。
この視点は精神科系の本を読んでいて見つけました。

不安・緊張・怒り・・・この3つの相違を自分の中で整理できないと、うまく漢方を使いこなせないような気がする今日この頃。

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