「フローチャート皮膚科漢方薬」(新見正則/チータム倫代著)
新興医学出版社、2018年発行。
新見先生のフローチャートシリーズの最新刊です。
今回は皮膚科領域であり、興味がある分野なので購入し読んでみました。
子どもの具合が悪くなったら、とりあえずお母さんは小児科に連れて来ます。
ケガでも火傷でも虫刺されでも・・・なので知っておく必要があるのです。
本書の前半1/3弱が新見先生、後半が皮膚科専門医のチータム先生(ペンネームではなく本名らしい・・・)の担当です。
私の興味は、もちろん後半。
皮膚科医が用いている漢方薬を広く浅く知りたいといつも思ってきました。
疾患により、「西洋医学優先」とか「漢方薬がおすすめ」とか、漢方薬の位置づけがされたコメントがあるので、イメージをつかむにはよい記述内容です。
ただし、解説が少ないので、記載されている方剤が効かなかったときは、そこでストップしてしまうのがこの類いの本の欠点です。
まあ、それ以前に、手応えがあり患者さんが喜ぶ経験を何回かすれば漢方の魅力にはまり、自分で調べる習慣が付いているはずと踏んでのことかな。
「ファーストチョイス」「効果がないとき」という順番で漢方エキス剤名が提示されています。
究極の単純化ですが、疑問に思うのは「有効率」が示されていないこと。
とくに私の専門の小児科領域では「?」と感じる記載が所々にありました。
例えば、「おむつ皮膚炎」の項目。
小児科医の漢方仲間は紫雲膏を多用していますが、この本ではそれに言及はなく、小建中湯、五苓散と内服薬のみです。
小建中湯は「おねしょにも有効」とありますが、実際に小児夜尿症をたくさん診療している先生の報告では、小建中湯のみならず漢方薬でおねしょが解決する例はまれだと聞いていますし、私も同感です。
漢方ではありませんが、意外に思ったこと。
そえは、チータム先生が「アズノール軟膏」を重用していることです。
小児科的には「ステロイド軟膏が使いづらいシチュエーションだから、とりあえずアズノールにしておこう」くらいの感覚で処方する軟膏ですが、「けっこう効く」らしい。「軽い傷、I度の熱傷、口角炎、おむつかぶれ、軽い湿疹、ヘルペスなどに有効」と書かれていますね。
<備忘録>
□ 荊芥連翹湯=十味敗毒湯+温清飲
□ かゆみに対する漢方
・特に痒いアトピー → 黄連解毒湯 ・・・ 痒みが楽になったら温清飲に変更して気長に処方する。
・落ち着いているアトピー → 温清飲 ・・・ 皮膚が粉を吹いているようなときに好まれる。
・効果がないとき → 白虎加人参湯
□ じんま疹に対する漢方
・第一選択は茵蔯蒿湯
・茵蔯蒿湯で下痢する場合は茵蔯五苓散
〜ここまでは新見先生、以下はチータム先生〜
□ 熱傷の皮膚科処方
あとに残らないように西洋医学を優先すべし(漢方はおまけ)。
まず、冷水による冷却&洗浄後、
・I度:数日のステロイド外用薬(エキザルベなど)またはアズノール軟膏、内服薬は不要。
・II度:アンテベート軟膏を1〜2日間塗布し、その後エキザルベ軟膏を4〜5日間、その後は上皮化までアズノール軟膏塗布。水疱は破らない方が望ましいが、破れてしまったら創傷被覆材(ハイドロサイト)を使用する。
体表面積の15%以下 → 外用+漢方内服または消炎鎮痛剤併用
体表面積の15%以上 → 入院、全身管理が必要
※ 2週間以内に上皮化しないと瘢痕が残るので要注意、皮膚科へ紹介すべし。
・III度:手術を考慮
□ 熱傷に使う漢方薬
・第一選択:五苓散 ・・・ 水疱・浮腫の改善&マイルドの解熱
・広汎または炎症が強い:黄連解毒湯 ・・・ 即効性のある冷却薬
以前は軽い熱傷には抗菌薬入り軟膏がよく処方されていましたが、最近は耐性菌問題の影響で使われなくなってきたそうです。
さて、私はI〜浅いⅡ度熱傷には紫雲膏を処方しています。
その昔、子どもがに熱湯を足にかけてII度熱傷となり病院の救急外来で処置(抗菌薬入り軟膏塗布)をしてもらいました。しかし痛くて痛くてずっと泣いています。私は包帯を解いて、紫雲膏を上塗りしました。すると15分くらいで本人がケロッと泣き止んだではありませんか!?
その効果に驚かされ、それ以降は「熱傷といえば紫雲膏」です。外傷後の上皮化もよくなる印象があり、擦りむいて痛い傷にも使っています。
熱傷でも擦過傷でも痔にも、とにかく「痛い皮膚病変」にはよく効きます。
□ 湿疹部から汗が再吸収されると、かなりのかゆみを引き起こす。
□ アズノール軟膏は万能薬?
・原料はキク科カミツレで、抗アレルギー効果がある(らしい)
・保険適応:湿疹、熱傷
・軽い傷、I度の熱傷、口角炎、おむつかぶれ、軽い湿疹、ヘルペスなどに有効
・プロペトと混合して、口唇の荒れにリップクリーム代わりに処方することもある。
・著効は期待できないにしても、徐々に改善することが可能。
・ごくまれにかぶれることがある。原因はラノリン。
□ 日焼けの治療&使用する漢方薬
まずはリンデロンVローション(またはトプシムスプレー)を数日間、
熱と赤身が冷めて乾燥してきたらアズノール軟膏(もしくはヒルドイドローション)
・第一選択薬は黄連解毒湯 ・・・ 強力に冷やすので熱中症対策にも有効
※ 水疱ができるほどの日焼けや繰り返す日焼けは、シミ、脂漏性角化症、もしくは日光角化症になりやすく要注意。
皮膚科医は日焼けにもステロイド外用薬を使うのですね。重症者が多いのでしょう。
私はヒリヒリする程度の日焼けには「カラミンローション」(別名“あせもローション”)を処方しています。薬効は「湿疹・皮膚炎、汗疹(あせも)、日焼け、軽い熱傷の緩和な収れん・保護」で、きちんと保険適応があります。
□ 水いぼに使用する漢方薬
・第一選択:五苓散
・第二選択:補中益気湯
私は水いぼには黄耆建中湯あるいはヨクイニン、またはこれらの併用をしています。それでも有効率は50%程度。
五苓散の有効率も知りたいところです。
□ ニキビの漢方薬の使い分け
<性別>
・男性:清上防風湯(+排膿散及湯) ・・・ 若く体力のある男子(スポーツ女子も)の赤くて化膿傾向のあるニキビに有効。
・女性:桂枝茯苓丸加薏苡仁 ・・・ 生理前に増悪する傾向のあるやや紫が買ったニキビに有効。
・小児:治頭瘡一方 ・・・ こどものニキビや小児の頭の毛包炎に有効、頭以外の小児の全身の湿疹にも有効、大人の頚部・頭の毛包炎にも有効。
<体質別>
・浅黒く、手汗をかきやすい人:荊芥連翹湯 ・・・ 経過が長く、慢性副鼻腔炎など慢性化膿性疾患を持っている人に有効。半年ほど内服を続けて、いつの間にかよくなっていたという感じ。
・色白、冷え症で体力がない人:当帰芍薬散 ・・・ 貧血気味、華奢な人のニキビに有効。便秘改善効果もある。
<ニキビの性状>
・膿疱が目立つ:十味敗毒湯 ・・・ 赤みよりも膿んだ状態が目立ち、比較的経過が短いニキビに有効。筋肉質で緊張しやすい人のニキビに。
・口のまわり:半夏瀉心湯 ・・・ 口の周りだけにニキビができる人に。とくに胃腸障害があると効果的。
□ 虫刺されによる皮膚炎
<西洋薬>
・大人にはストロング(リンデロンVなど)〜ベリーストロングクラス(アンテベート軟膏など)
・子どもにはマイルド(リドメックス軟膏、キンダベート軟膏など)〜ストロングクラスのステロイド軟膏を使用
・広範囲または蜂か織炎を起こしている場合:抗アレルギー薬、抗菌薬、消炎鎮痛薬内服。または漢方薬を追加。
<漢方薬>
・第一選択:十味敗毒湯 ・・・ 浸出液の少ない急性・慢性の湿疹や、化膿傾向を持つ湿疹に有効。
・水疱形成しているとき:五苓散 ・・・ 蚊にたくさん刺されてパンパンに腫れている子どもにおすすめ。
□ 手湿疹の漢方薬
手湿疹は、汗疱(異汗性湿疹)、主婦湿疹などで、ともに接触皮膚炎の一種と見なされている。
・第一選択:温経湯 ・・・ やや虚弱な人向き。月経困難症、口唇の渇く人にも有効。かなりおすすめ。
・第二選択:四物湯 ・・・ 皮膚が乾燥している人向き。
<ほてりを伴う手湿疹>
美容師・調理師など、とくに水やお湯を使う職業の人は手湿疹が増悪して手全体が腫れてほてってしまうことがある。
・第一選択:三物黄芩湯 ・・・ 冷やす生薬3種類のみで構成、苦いが飲める人には著効することがある。
・第二選択:黄連解毒湯 ・・・ 三物黄芩湯よりさらに冷やす薬。
新興医学出版社、2018年発行。
新見先生のフローチャートシリーズの最新刊です。
今回は皮膚科領域であり、興味がある分野なので購入し読んでみました。
子どもの具合が悪くなったら、とりあえずお母さんは小児科に連れて来ます。
ケガでも火傷でも虫刺されでも・・・なので知っておく必要があるのです。
本書の前半1/3弱が新見先生、後半が皮膚科専門医のチータム先生(ペンネームではなく本名らしい・・・)の担当です。
私の興味は、もちろん後半。
皮膚科医が用いている漢方薬を広く浅く知りたいといつも思ってきました。
疾患により、「西洋医学優先」とか「漢方薬がおすすめ」とか、漢方薬の位置づけがされたコメントがあるので、イメージをつかむにはよい記述内容です。
ただし、解説が少ないので、記載されている方剤が効かなかったときは、そこでストップしてしまうのがこの類いの本の欠点です。
まあ、それ以前に、手応えがあり患者さんが喜ぶ経験を何回かすれば漢方の魅力にはまり、自分で調べる習慣が付いているはずと踏んでのことかな。
「ファーストチョイス」「効果がないとき」という順番で漢方エキス剤名が提示されています。
究極の単純化ですが、疑問に思うのは「有効率」が示されていないこと。
とくに私の専門の小児科領域では「?」と感じる記載が所々にありました。
例えば、「おむつ皮膚炎」の項目。
小児科医の漢方仲間は紫雲膏を多用していますが、この本ではそれに言及はなく、小建中湯、五苓散と内服薬のみです。
小建中湯は「おねしょにも有効」とありますが、実際に小児夜尿症をたくさん診療している先生の報告では、小建中湯のみならず漢方薬でおねしょが解決する例はまれだと聞いていますし、私も同感です。
漢方ではありませんが、意外に思ったこと。
そえは、チータム先生が「アズノール軟膏」を重用していることです。
小児科的には「ステロイド軟膏が使いづらいシチュエーションだから、とりあえずアズノールにしておこう」くらいの感覚で処方する軟膏ですが、「けっこう効く」らしい。「軽い傷、I度の熱傷、口角炎、おむつかぶれ、軽い湿疹、ヘルペスなどに有効」と書かれていますね。
<備忘録>
□ 荊芥連翹湯=十味敗毒湯+温清飲
□ かゆみに対する漢方
・特に痒いアトピー → 黄連解毒湯 ・・・ 痒みが楽になったら温清飲に変更して気長に処方する。
・落ち着いているアトピー → 温清飲 ・・・ 皮膚が粉を吹いているようなときに好まれる。
・効果がないとき → 白虎加人参湯
□ じんま疹に対する漢方
・第一選択は茵蔯蒿湯
・茵蔯蒿湯で下痢する場合は茵蔯五苓散
〜ここまでは新見先生、以下はチータム先生〜
□ 熱傷の皮膚科処方
あとに残らないように西洋医学を優先すべし(漢方はおまけ)。
まず、冷水による冷却&洗浄後、
・I度:数日のステロイド外用薬(エキザルベなど)またはアズノール軟膏、内服薬は不要。
・II度:アンテベート軟膏を1〜2日間塗布し、その後エキザルベ軟膏を4〜5日間、その後は上皮化までアズノール軟膏塗布。水疱は破らない方が望ましいが、破れてしまったら創傷被覆材(ハイドロサイト)を使用する。
体表面積の15%以下 → 外用+漢方内服または消炎鎮痛剤併用
体表面積の15%以上 → 入院、全身管理が必要
※ 2週間以内に上皮化しないと瘢痕が残るので要注意、皮膚科へ紹介すべし。
・III度:手術を考慮
□ 熱傷に使う漢方薬
・第一選択:五苓散 ・・・ 水疱・浮腫の改善&マイルドの解熱
・広汎または炎症が強い:黄連解毒湯 ・・・ 即効性のある冷却薬
以前は軽い熱傷には抗菌薬入り軟膏がよく処方されていましたが、最近は耐性菌問題の影響で使われなくなってきたそうです。
さて、私はI〜浅いⅡ度熱傷には紫雲膏を処方しています。
その昔、子どもがに熱湯を足にかけてII度熱傷となり病院の救急外来で処置(抗菌薬入り軟膏塗布)をしてもらいました。しかし痛くて痛くてずっと泣いています。私は包帯を解いて、紫雲膏を上塗りしました。すると15分くらいで本人がケロッと泣き止んだではありませんか!?
その効果に驚かされ、それ以降は「熱傷といえば紫雲膏」です。外傷後の上皮化もよくなる印象があり、擦りむいて痛い傷にも使っています。
熱傷でも擦過傷でも痔にも、とにかく「痛い皮膚病変」にはよく効きます。
□ 湿疹部から汗が再吸収されると、かなりのかゆみを引き起こす。
□ アズノール軟膏は万能薬?
・原料はキク科カミツレで、抗アレルギー効果がある(らしい)
・保険適応:湿疹、熱傷
・軽い傷、I度の熱傷、口角炎、おむつかぶれ、軽い湿疹、ヘルペスなどに有効
・プロペトと混合して、口唇の荒れにリップクリーム代わりに処方することもある。
・著効は期待できないにしても、徐々に改善することが可能。
・ごくまれにかぶれることがある。原因はラノリン。
□ 日焼けの治療&使用する漢方薬
まずはリンデロンVローション(またはトプシムスプレー)を数日間、
熱と赤身が冷めて乾燥してきたらアズノール軟膏(もしくはヒルドイドローション)
・第一選択薬は黄連解毒湯 ・・・ 強力に冷やすので熱中症対策にも有効
※ 水疱ができるほどの日焼けや繰り返す日焼けは、シミ、脂漏性角化症、もしくは日光角化症になりやすく要注意。
皮膚科医は日焼けにもステロイド外用薬を使うのですね。重症者が多いのでしょう。
私はヒリヒリする程度の日焼けには「カラミンローション」(別名“あせもローション”)を処方しています。薬効は「湿疹・皮膚炎、汗疹(あせも)、日焼け、軽い熱傷の緩和な収れん・保護」で、きちんと保険適応があります。
□ 水いぼに使用する漢方薬
・第一選択:五苓散
・第二選択:補中益気湯
私は水いぼには黄耆建中湯あるいはヨクイニン、またはこれらの併用をしています。それでも有効率は50%程度。
五苓散の有効率も知りたいところです。
□ ニキビの漢方薬の使い分け
<性別>
・男性:清上防風湯(+排膿散及湯) ・・・ 若く体力のある男子(スポーツ女子も)の赤くて化膿傾向のあるニキビに有効。
・女性:桂枝茯苓丸加薏苡仁 ・・・ 生理前に増悪する傾向のあるやや紫が買ったニキビに有効。
・小児:治頭瘡一方 ・・・ こどものニキビや小児の頭の毛包炎に有効、頭以外の小児の全身の湿疹にも有効、大人の頚部・頭の毛包炎にも有効。
<体質別>
・浅黒く、手汗をかきやすい人:荊芥連翹湯 ・・・ 経過が長く、慢性副鼻腔炎など慢性化膿性疾患を持っている人に有効。半年ほど内服を続けて、いつの間にかよくなっていたという感じ。
・色白、冷え症で体力がない人:当帰芍薬散 ・・・ 貧血気味、華奢な人のニキビに有効。便秘改善効果もある。
<ニキビの性状>
・膿疱が目立つ:十味敗毒湯 ・・・ 赤みよりも膿んだ状態が目立ち、比較的経過が短いニキビに有効。筋肉質で緊張しやすい人のニキビに。
・口のまわり:半夏瀉心湯 ・・・ 口の周りだけにニキビができる人に。とくに胃腸障害があると効果的。
□ 虫刺されによる皮膚炎
<西洋薬>
・大人にはストロング(リンデロンVなど)〜ベリーストロングクラス(アンテベート軟膏など)
・子どもにはマイルド(リドメックス軟膏、キンダベート軟膏など)〜ストロングクラスのステロイド軟膏を使用
・広範囲または蜂か織炎を起こしている場合:抗アレルギー薬、抗菌薬、消炎鎮痛薬内服。または漢方薬を追加。
<漢方薬>
・第一選択:十味敗毒湯 ・・・ 浸出液の少ない急性・慢性の湿疹や、化膿傾向を持つ湿疹に有効。
・水疱形成しているとき:五苓散 ・・・ 蚊にたくさん刺されてパンパンに腫れている子どもにおすすめ。
□ 手湿疹の漢方薬
手湿疹は、汗疱(異汗性湿疹)、主婦湿疹などで、ともに接触皮膚炎の一種と見なされている。
・第一選択:温経湯 ・・・ やや虚弱な人向き。月経困難症、口唇の渇く人にも有効。かなりおすすめ。
・第二選択:四物湯 ・・・ 皮膚が乾燥している人向き。
<ほてりを伴う手湿疹>
美容師・調理師など、とくに水やお湯を使う職業の人は手湿疹が増悪して手全体が腫れてほてってしまうことがある。
・第一選択:三物黄芩湯 ・・・ 冷やす生薬3種類のみで構成、苦いが飲める人には著効することがある。
・第二選択:黄連解毒湯 ・・・ 三物黄芩湯よりさらに冷やす薬。