漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

「動物の食からみる現在の食生活へのヒント」(中川志郎著)

2013年08月24日 19時56分13秒 | 食育
芽ばえ社、2005年発行。

「食養生」をテーマに探してたどり着いた本の一つです。
育児も食生活も迷ったら動物に聞け、というのが私のポリシーの一つであります。

著者は言わずと知れた元上野動物園園長で、著作もたくさんあります。
この本は動物と長年付き合ってきた立場から人間の食生活を考える内容です。
啓蒙書と云うよりエッセイで、読みやすく興味深いエピソードがたくさん並んでいてあっという間に読み終わりました。

中でも「動物のおっぱい成分は育児方法により濃度が異なる」という項は興味深い。ヒトの母乳は薄い方に属し、お母さんが抱っこしていつでも哺乳できるように育てるタイプ、と分析されています。
また、「動物の睡眠はいかに寝ないかに主眼が置かれている」という逆説的な説明に目から鱗が落ちました。確かに自然界で熟睡なんかしていると天敵に襲われて命を落としかねませんね。私は不眠症気味で丑三つ時を過ぎる頃から何度も目が覚めてしまうのですが、動物の本能に戻ったと捉えることも可能かもしれません(笑)。

ただ、専門的なことは途中で端折る傾向があり、私としては少々不満が残る箇所もありました。
まあ、楽しく流し読みするには格好の本ではあります。

メモ

フラミンゴのおっぱい
 哺乳類はおっぱいで赤ちゃんを育てますが、鳥の仲間にもおっぱいを出すものがいます。フラミンゴとハトです。
 ハトはピジョンミルク(鳩乳)を出します。食道の一部が乳腺になっていて、そこからチーズのようなものを分泌するのです。
 フラミンゴはフラミンゴジュースというものを出してヒナに与えます。これはお母さんが自分の消化器の中で作る特殊な液体で、これを口移しでヒナに与えます。食道の末端にある嗉脳(ソノウ)という膨らみから乳に近い成分を分泌するのです。これはプロラクチンというホルモンの刺激によるものですが、雌ばかりか雄でも同じようにジュースを分泌できます。フラミンゴジュースはまるで血液のように真っ赤な液体です。
 フラミンゴジュースの成分は哺乳類の乳の成分とよく似ています。脂肪15%、蛋白質8-9%、炭水化物0.1-0.2%で、血のような赤さはカンタキサンチンという色素によるものです。このジュースの中には、本物の血液が1%含まれています。

おっぱいの成分からみる多様な食生活
 動物のおっぱいの乳成分の濃さは、種類によって大きく違います。赤ちゃんをいつも抱いているような種類の動物は薄いのです。人間、ゴリラ、チンパンジー、ニホンザルなどのように常に赤ちゃんを抱きしめていて、いつでもおっぱいが飲める動物の母乳には、大体2.8-3.2%の脂肪しかありません。
 しかしアザラシやアシカなどのように、一日魚を追いかけて子どものそばにいつ戻れるかわからないという動物は、おっぱいは腹持ちがよくなる必要があり、脂肪は30%以上にもなります。
 お母さんのおっぱいは、赤ちゃんの空腹の度合いによって濃さが変わります。飲み始めと飲み終わる時では、濃さ、特に乳糖の量が変わるのです。飲み始めのおっぱいは甘いのですが、3分後になると乳糖がほとんど出なくなりますから美味しくなくなります。それで赤ちゃんはおっぱいを飲むのを止めるのです。
 ところが人工のミルクの場合は、最初から最後まで乳糖の量は変わらず3%ですから、赤ちゃんは太るわけです。

小犬が口をペロペロ舐めるわけ
 野生のオオカミの場合、お父さんは狩りで捕まえた獲物を胃袋の中にしまい込んで穴に戻ってきます。そして、子どもたちがお父さんの口の周りを舐めると、お父さんは胃袋の中の食べ物を全部吐き出すのです。これは半分消化された状態にある離乳食と云えます。
 イヌを飼っている方はご存じかもしれませんが、小犬は抱き上げると口の周り、特に唇の辺りをペロペロなめるような仕草をします。これは吐き戻し給餌を求めているのです。イヌはオオカミの子孫ですから大昔の名残です。

Sweet is good, Bitter is bad.
 木の実や果実を食べるサルなどを見ていると、あるものをやたら食べるのではなく、青い実は敬遠し、完熟して赤や黄色になったものを選んで食べていることがわかります。未熟な果実や木の実は青酸など有毒物質を含んでいることがあり、中毒のおそれがあることを知っているのです。甘くなったものは安全で、苦味のあるもの、酸っぱいものは危険であることが食性として根づいています。

動物における育児分業
 動物の世界でも育児のスタイルは種類によって千差万別、その種類にとって最も都合のよい形に収まっており、原則などと云うものは存在しません。
 例えば、育児をする魚の60%はオスが役割を担っており、鳥類では実に90%以上がオスとメスの共同作業、哺乳動物では70%がメスによって為されています。

動物の睡眠
 動物たちの世界では、よりよく眠る、というよりも、いかに眠らずに(熟睡せずに)すますか、ということに主眼があるように思われます。
 キリンやシマウマのような大型動物でさえ、熟睡している時間は1日のうちわずか20分前後と言われ、あとの眠りは、緊急の場合に備えてのうたたねの時間を過ごしているのです。狐のような肉食動物でも、連続睡眠時間は18分に過ぎないといいます。
 一瞬油断が生命に関わる野生の世界では、感覚という情報のルートを閉ざしてしまう熟睡は、そのまま死につながるからです。眠っていても、情報ルートとしての感覚は働いており、すぐに行動に移れるように筋肉にも常時エンジンがかかっているのです。
 最近不眠症が人間の精神医学では大きな問題となっているようですが、眠りの本質というものを突き詰めて考えていくと、意外な展開があるのかもしれません。熟睡だけが眠りだ、と言うことで悩むのは、どうやらお門違いのようだからです。
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「味覚の授業」(内坂芳美著)

2013年08月24日 06時00分13秒 | 食育
表紙の文言:「しょっぱい。すっぱい。にがい。あまい。」子どもの五感をめざめさせる『味覚の授業』
合同出版、2007年発行。

「子どもの味覚」について調べる過程で出会った本です。
内容は、1990年にフランスで生まれた「ルソン・ドゥ・グァ(=味覚の授業)」を紹介するもの。
それは五感を使って味を知り、食を楽しむことを子どもたちに教える授業です。

以下のようにしっかりプログラムされた授業であり、全国味覚週間に行われる事業化されたものでした。

対象年齢:9~10歳(小学3~4年生)・・・子どもたちはこの年齢になって初めて、舌で感じた味を言葉で表現できるようになるため。
4つの味を教える:「しょっぱい」「すっぱい」「にがい」「あまい」の4つの味を五巻で体験し、味の違いを自分の言葉で表現する力をつけていく(4つの味を知る食材:塩、酢、チョコレート、砂糖を使用)
・塩:海水から作られたにがり成分の入っている自然塩・天然塩(例:伯方の塩など)がおすすめ。
・酢:米酢(ヨネズ)がおすすめ。
・チョコレート:カカオ70%くらいが適当で、これより純度が高いとただ苦いだけで不快な印象しか残らない。
・砂糖:なんでもよい。グラニュー糖はニオイがないが、白砂糖や黒砂糖はニオイがある。
食事の楽しさを教える:「心を込めて作られた食べ物をみんなで一緒に味わうことは正しい」ということを体験する(味見用食品:小さいサイズのお菓子や食べ物を試食)


 美食というイメージのあるフランスでは自然に身につきそうな味覚ですが、このような授業が生まれたことはちょっと意外。
 そこにはフランスに於いても女性の社会進出に伴い家庭料理で「おふくろの味」を伝えられなくなりつつある現状も垣間見えてきます。

 この授業の肝は、基本的な味を確認してそれを言葉で表現することを訓練する、という視点です。
 「味を言葉で表現する」に目から鱗が落ちました。

 自分の印象を言葉で表現することにより、他人とは微妙に違うことに気づかされます。
 同じものを食べても、美味しいと感じる友達とそうでもないと感じる友達がいることにも。
 そこで「みんなの感じ方が違うのは当たり前のことですよ」と指導者が声をかけます。
 嫌いな食べ物があってもいいんです(子どもたちはホッとした表情になります)。
 でも、嫌いだからと言っていつもそれをよけていたり、絶対に口に入れないというのはおかしな事。
 「これは嫌いな食べ物だけど、いつかは好きになるかもしれない」と思いながら少しずつ試してみましょう。
 お友達だって同じです。
 「あの子は嫌い、だから口もきかない」といって一緒に遊ばなかったら、お友達が1人減ってしまいますね。それは寂しいし残念なことです。


 味をきっかけにいろんな事が学べそうです。
 官能的なお菓子の味に毒されている日本の子どもたちにも必要そうです。

メモ
 自分自身のための備忘録。

チョコレートの話
 チョコレートの原料は熱帯でとれる植物の実、カカオです。長さ15~30cm、直径5~10cm、硬い殻でおおわれたラグビーボールのような形をしたカカオの実の中には、20~60個の白い種(カカオ豆)が入っています。この種を発酵させ、ロースト(焙煎)し、皮などを除いたものをつぶしてペースト状にすると、チョコレートの原料(カカオマス)になります。
 チョコレートは初めは薬として飲まれていました。泥泥状のとても苦いものでしたが、19世紀にミルクや砂糖を混ぜておいしい固形の食べ物になりました。
 栄養価の高い食品ですが、心身への軽い興奮作用があるので取り過ぎには注意しましょう。

砂糖の話
 日本に砂糖が伝来したのは奈良時代と云われています。754年、唐の僧侶鑑真が日本に渡来した際に、サトウキビから作られた「かんしゃ糖」がもたらされたと云います。江戸時代に砂糖が国内生産されるまでは、薬用として貴重品扱いされていました。
 砂糖は熱帯や亜熱帯で育ったサトウキビからつくられる「白砂糖(上白糖)」や「黒砂糖」、温帯の中でも冷涼な地域で育つサトウダイコンからつくられる「グラニュー糖」などがあります。日本では鹿児島県と沖縄県でサトウキビが、北海道でサトウダイコンが原料として栽培されています。

辛味は味ではないのですか?
 辛味を味覚の一つと数えることが多いですが、科学的には味の中には入りません。味(味覚)とは、舌の表面にある味蕾という味細胞で感じ取るものだけを指すからです。辛味は味細胞ではなく口の中にある三叉神経で感じるもので、「熱い」「痛い」といった刺激と同等のものです。
 最近は激辛とかピリ辛味が好まれて、スナック菓子にも多く取り入れられています。適度な辛味は食欲を増進させたり、味にアクセントをつけるためにも効果的です。しかし取り過ぎると口内や食道、胃などを過度の刺激で痛めてしまうので注意が必要です。

家庭科の授業からなくなる調理実習
 小学校高学年になると家庭科の授業が始まります。しかし残念なことに、調理実習で料理を作る時間が少なくなってきています。
 以前はご飯、みそ汁、ほうれん草のおひたしなどを作って、基本的な調理、包丁の使い方などを学ぶ機会がありましたが、今はほとんどの小学校で行われていないというのが現状です。
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「ヒトはおかしな肉食動物」(高橋迪雄著)

2013年08月04日 19時22分29秒 | 食育
副題:生きものとしての人類を考える
講談社+α文庫、2007年発行

人間の生き方に迷いが生じたら、動物の生き方を参考にすると解決策が導かれることがあるのではないか、と私は常々考えています。この本もその流れで手にした一冊です。

著者は元東大農学部獣医生理学教授の肩書きを持つ方。
動物と比較することにより人体の仕組みの成り立ちを推察した内容で、目から鱗の落ちるスリリングな本でした。
著者の独断ではなく科学的事実に基づいた文章は、読んでいてわかりやすく気持ちの良いものです。

中でも、消化吸収・栄養バランスからヒトは本来草食でもなく雑食でもなく「肉食動物」と断言したところは、斬新な視点にワクワクすると共に説得力がありました。
また、「ヒトは何年哺乳すればいい?」の項目では動物のメスと比較検討することによりヒトの女性では3年程度が生物学的に正しいと推論しており、現在ヒトの子育てや人口問題などいろいろな支障が出てくるのは農耕生活のはじまりをきっかけにそれを短くしてしまったため、との解説に大いに頷いた私です。

読んでいて楽しく、1日で読み終わりました。こんな経験は久しぶり。

メモ
 自分自身のための備忘録。

哺乳類は最初は食虫動物だった
 哺乳類の最古の祖先は現代の食虫類(モグラなど)に似た肉食性の動物だと言われている。初期の哺乳類は、植物の「養分」をまず「虫」に食べてもらい、その「虫」を食べていたことになる。

草食動物のウシはなぜたくさん牛乳を分泌できるのか?
 ウシ、ウマなどの現存する大型草食動物の食物の大半は、草そのもの。それで栄養の偏りはないのか。そして草だけを食べているウシが、なぜ大量の蛋白質を含む牛乳を1年に何千kgも分泌できるのか。
 答えは彼らがバクテリアというインターフェイスを導入したこと。草食動物を一言で云えば「消化管内にバクテリアを飼っている動物」と表現できる。
 植物が光合成で作り出す有機物の1/3はセルロース。セルロースとデンプンはいずれもブドウ糖がたくさんつながっている分子で、その構造式もよく似ている。しかし不思議なことにセルロースを分解できる高等動物は存在しない。そして、セルロースを分解しない限り、草の養分を十分に利用することはできない。セルロースを分解できるのは、セルロース分解酵素を持つバクテリアやカビだけである。

反芻胃
 ウシ、ヒツジのような草食動物は「反芻胃」をもっている。反芻胃は体重の1/4にも及ぶ巨大な袋状の器官である(体重400kgのウシでは100kg!)。この反芻胃がまさにバクテリアの発酵タンクなのである。
 反芻胃には数十㎏にも及ぶ莫大な数のバクテリア(嫌気性バクテリア)が、少しの原生動物と一緒に住んでいる。実は、ウシが食べた草はこれらのバクテリアのための食物である。そして一緒に住んでいる原生動物はバクテリアを食べ物にしている。
 嫌気性バクテリアが営む発酵によって作られた「有機酸」(酢酸、乳酸やプロピオン酸)がウシに必要なエネルギーの大半をまかない、増殖したバクテリア自身が反芻胃(第1胃)から第4胃(ヒトのような単胃動物の胃に相当する)以後の消化管に流れ込むことで、ウシの蛋白栄養の大部分をまかなっている。ウシはバクテリア菌体を消化・吸収することで肉食動物以上に蛋白質栄養に富んだ食物を得ていることになる。これが1年に数千kgものミルクを生産できるヒミツである。
 嫌気性バクテリアは酸素無しでセルロースをピルビン酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの有機酸へ代謝する「嫌気的代謝」でしかエネルギーを獲得できない。これらの有機酸をさらに代謝する経路をもっていないので、これらは「老廃物」としてバクテリアから排泄される。
 私たち動物細胞はこのようなバクテリアも持っている嫌気性代謝系に連なって、酸素を使う「好気的代謝系」のクレブス(TCA)サイクルも持っている。そのため、バクテリアが排泄した有機酸をクレブスサイクルを使って酸化し、二酸化炭素にまで分解することができる。
 好気性代謝は嫌気的代謝のプロセスに比べて10倍以上もエネルギー獲得効率がよい画期的な代謝過程である。そなわち、この過程を経ることで、もともと植物が光エネルギーをグルコースやデンプンなどの形で固定した化学エネルギーを、生物の細胞が等しくエネルギー源として使えるATP(アデノシン三リン酸)の形で取り出すことができる。

「盲腸」の役割
 ウマにおけるウシの反芻胃に相当するバクテリアの発酵タンクは、消化管の一番後ろ、盲腸と大腸に存在する(ウマの体重は400kg、盲腸だけで100kg!)。エネルギー源の有機酸を盲腸で吸収して体内に取り入れることまでは可能であるが、蛋白質に富むバクテリア自身は小腸で消化吸収する機会が得られぬまま糞と共に排出されてしまう。このため同じ草食動物でもウシがたくさんのミルクを生産できるのに対し、ウマは草原を走り回って草を食べ続けなくてはならない理由である。ヒトでは発酵タンクとしての老舗の盲腸はほとんど退化し「虫垂」と呼ばれている。

ヒトは肉食動物である
 草食動物とは「消化管内でもバクテリアの嫌気性発酵を、最低でもエネルギー源獲得の手段として、さらに可能であればアミノ酸の獲得の手段(蛋白質栄養)として利用している動物のこと」と定義できる。そしてヒトにはこのような枠組みは完全に欠落しているのでヒトは草食動物ではないという意味で「肉食動物」である。

必須アミノ酸というジレンマ
 動物には自分では合成できないアミノ酸、つまり必須アミノ酸と呼ばれる栄養素がある。蛋白質を構成するアミノ酸は20種類存在するが、そのうちの9種類が必須アミノ酸である。肉食であればアミノ酸バランスが似ているので問題ないが、草食ではアミノ酸バランスが異なるという問題が発生する。リジンのような植物には少ないアミノ酸を必要量得るためには過食する必要が出てくるのである。さらに過食による余剰エネルギーを捨てる必要が発生し、ウマやハムスターが疾走し続ける所以である。
 ヒトも例に漏れず、米や穀物など植物を主食とした時から必須アミノ酸を必要量得るために過食&余剰エネルギー放散という義務を背負うことになった。ヒトの体には体毛が生えていないことも、体熱の放散を助けるという意味で説明可能である。

穀物食と必須アミノ酸バランス
 農業は「穀物を栽培してその種子を食べる営み」と定義づけることが可能である。穀物由来の蛋白質は、一般にヒトあるいは高等動物が必要とする必須アミノ酸の組成と大きく異なる。例えばコムギでは必須アミノ酸の一つであるリジン、メチオニンの含有量が極端に少なく、トウモロコシではトリプトファンとリジンの含有量が著しく少ない。一方でジャガイモはバランスがとれており、コメもジャガイモほどではないがまあまあのバランス。
 コムギだけを食物にして生きていこうとすれば、たとえ炭水化物の摂取量が過剰になっても、大量の(つまりリジンの必要量に達するまでの量の)コムギを食べなければ生きていくことができない。従って、現代の先進国ではコムギから作られたパンを主食にする場合は、パンに加えて肉、卵、牛乳など、リジンが動物の要求量に近い割合で含まれている蛋白質を一緒に食べてデンプンの取り過ぎを避けることが、ごくふつうの食習慣として成り立っている。
 コメのアミノ酸バランスはムギに比べてかなり動物(ヒト)の要求に近いモノがある。だから東北アジアなどの米作地帯では、必ずしも畜産業と並立させないでも済む農業が成立した。しかし、コメの蛋白質もジャガイモのようにバランスが完全に近いわけではなく、やはりリジンが第一の制限アミノ酸である。
 1945年以降、戦後の日本人の食生活は激変し、ムギを原料にしたパン食が一般化され、それとともに畜産物の摂取が大幅に増えた。これは西欧風の食文化にならったとも云えるが、ムギに不足するリジンの補給のために畜産物を摂取するという、いわば必然のコンビネーションをそのまま輸入する必要性があったとも云える。

人口問題と分娩間隔
 大型哺乳類で、現在のヒトのように人口の爆発的増加を続ける種はヒト以外に見当たらない。ゴリラ、チンパンジー、オランウータンなどの類人猿を完全保護下においても、彼らの数は遅々として増えていない。これは類人猿の分娩間隔が4~5年と大変長いことが最大の理由である。出産後の3~4年間の不妊期間は哺乳継続期間であり、その間は子育てに専念して妊娠しない。
 ヒトに関しても、アフリカのカラハリ砂漠で狩猟・採取生活を続けていたクン族の1970年代の調査では、分娩間隔がほぼ4年であると報告されている。彼らの哺乳様式は、昼夜を分かたず1時間に3回程度、きわめて頻回に行われ、このような頻回哺乳により排卵は完全に抑制される。その結果、かつてヒトの女性は10~15年かけて2~3人の子を産むことで一生を終えていたと考えられる。
 現代のヒトである私たちでは、年子、つまりほとんど不妊期間を持たずに子を持つことも決して珍しいことではない。
 ヒトは400万年の歴史におけるほとんどの期間にわたって、現在の類人猿と同様にほぼ静止人口を保ち、人口の倍増には少なくとも10万年を要していたとの計算がある。現在では倍増にかかる期間が50年を切ってしまった現状は、文明人が生理的「哺乳期間と哺乳様式」を維持しなくなったためと考えられる。

農耕・牧畜生活により自然生態系から外れた人類
 農耕・牧畜などによる定住生活こそが、ヒトの分娩間隔を短縮させた真の原因、つまり人口増の原因と考えられる。
 農業は女性の社会的役割、あるいは労働従事の形態を大きく変化させた。それまでの狩猟・採取生活では、人の群れにしばしば移動の必要性が生じ、群れの中の母親は必然的に乳児を抱いたり、連れ歩いたりなどして何時も子どもと離れられないで生活しており、このことが場合によっては1時間に数回にも及びきわめて短い哺乳間隔を可能にしていた。
 ところが農業の導入による定住生活が成立すれば、比較的安全な定住化屋内にしばらく乳児を置くことができるので、その間に母親が積極的に農業労働に従事することが可能になる。哺乳間隔は当然延長され、昼間の労働の疲れから夜間には乳児に添い寝せず、その間哺乳が行われないようなことがしばしば起きてきたと考えられる。哺乳間隔が延長して、排卵阻止を可能にする哺乳の頻度が保てなくなれば、例え哺乳中でも排卵とそれに続く妊娠が成立する。そのために必然的に1人の子に対する授乳期間は短縮し、ヒトの分娩間隔は短くなり、ヒトの女性が一生に生む子の数が増えていったと考えられる。
 労働への従事は哺乳間隔を延長させたため「排卵の生起を抑えるために必要だった哺乳頻度が保てなくなったのが、人口爆発の生物学的背景である」と云える。生理的な哺乳期間と哺乳様式を無視した現在あるような哺乳の仕方が多くの社会に定着してしまい、よほどのことがなければ二度と元には戻らないだろう。

哺乳期間と母子関係
 仮にヒトの生物学的分娩間隔が4年であるとすれば、4年程度の間隔で生まれてきた兄弟・姉妹においては、自然に好ましい親子・子ども同士の関係が作られていくであろう。しかし、それ以下の短い間隔で生まれてきた兄弟・姉妹に対しては、格別の、あるいは意図的な配慮が必要になることが予想される。
 「母と子がきわめて濃密な接触を3年にわたって続ける事」がヒト本来のありようだとすれば、女性の社会進出が盛んな現代社会では、私たちはこの問題にどのように対処すればよいのだろう。

「発情期」を放棄したヒトの生存戦略
 哺乳類が交尾するためには、メスが「発情」、つまりオスの性行動を許容することが前提条件となる。そしてメスに「発情」が引き起こされる唯一の理由が「卵胞ホルモン(エストロジェン)」濃度が血中に高まることである。
 この卵胞ホルモンは排卵直前の卵胞(卵巣内で卵が成長していく時卵の周囲を囲む袋)から分泌される。卵が成熟すれば卵黄は破れて卵を放出(排卵)し、自身は応対に移行、この応対からは黄体ホルモンが分泌される。
 排卵直前の卵胞から発情を引き起こす卵胞ホルモンが分泌されるのは「この時期に合わせて交尾を行えば受精卵が作られて妊娠へ至る可能性が高い」という理由から。
 ヒトを含む高等なサルの仲間は、卵胞ホルモンのレベルを維持する(黄体からも卵胞ホルモンが分泌される)ことで、多くの動物に見られる発情期・非発情期(オスを許容する・許容しない)という明確な区切りを曖昧にし、オス同士の生殖に関わる争いを回避した動物であると考えることができる。このようにして成熟オスを群れの中にとどめることにより生き残りの優位性を求めた動物なのである。

動物の性周期いろいろ
 生殖現象は様々な周期から成り立っている。
 哺乳動物のメスに妊娠が成立した時に見られる生殖活動の周期を「完全性周期」という。そこでは「卵胞発育→ 発情→ 交尾→ 排卵→ 妊娠→ 泌乳」の経過が繰り返される。卵胞発育から排卵までは、様々な動物でほぼ1~2週間に収まるが、妊娠期間はハムスターの16日からゾウの22ヶ月まで著しく大きな変異を示し、ヒトの280日も長い部類に属する。また、この周期の最後にあたる泌乳相(分娩後に乳を分泌する期間)は決していい加減な長さで設定されているのではなく、ヒトのそれは約3年間の長さを持つ。
 動物の性周期は以下の3つに分類される;
1.自然排卵動物
完全性周期動物(ヒト、ウシ、ブタ):排卵した後の卵胞が「黄体細胞」に分化して約2週間にわたって黄体ホルモンを分泌する「黄体相」が出現し、この間は排卵が起きないので性周期は必ず2週間以上、実際には3~4週間となる。
不完全性周期動物(ラット、マウス、ハムスター):交尾がなかった時に限り直ちに黄体ホルモンを活性のない物質に異化してしまう仕組みが存在する。この場合には黄体相が導入されないので性周期は短くなる。
2.交尾排卵動物(ネコ、ウサギ、フェレット、ラクダ):交尾刺激が加わらないと排卵しない仕組みであり、交尾が終了するまで発情が継続する。
 自然排卵動物では配偶オスがいてもいなくても発情は決まった時間だけ継続してすぐに(まる1日程度)消失する。だから基本的には成熟オスが常に近くにいること、つまり生殖個体が集団(生殖集団)を形成することが前提となる。一方の交尾排卵動物はふだんは生殖集団を形成しないような動物によく見られる。

ヒトの女性が生涯に産む子どもは数人だった
 もともと生殖年齢にある健康な野生動物のメスは妊娠しているか、子育てのための哺乳をしているかのどちらかであり、妊娠のない周期を回帰していることは基本的にはあり得ない。
 かつてヒトは初潮から間もなく妊娠していたものと思われ、妊娠と哺乳によって1人の子がそれなりの自立性を獲得するのは約4年間を要していたので、平均的なお母さんは2~3人の赤ちゃんを産むことで一生を終えたはずである。

父親は育児のヘルパー
 草食動物は辺り一面に草が生えて誰の助けも借りずに食物を容易に確保できる時に限って「子育て」をする。
 一方、ヒトの狩猟・採取生活では母親が自分自身と子どもの生存を書けて著しく自立性に欠ける乳飲み子を連れて、あるいは妊娠した状態で狩猟・採取に出ることは至難の業であり、育児のヘルパーとして子の父親を確保するに至ったのであろう。ヒトにおける育児のヘルパーとは集団で狩りをしてきた獲物の一部を母親に届けることが最重要課題。かくしてヒトでは社会習慣としての一夫一婦制が定着したと考えられる。言い換えれば、このような意味で一夫一婦制が定着したからこそ、ヒトは幼弱な子どもを産めるようになったのである。

乳母という戦略
 分娩後に全く哺乳をしない女性はこのような吸乳刺激による排卵阻止の仕組みから完全に免れて、分娩約1ヶ月後から正常な排卵の周期(月経周期)が回復してくることが知られている。乳母制度は、自分の直系の子を正室なり側室に生んでもらう可能性を高めるために意識的に取り入れられた経験則だったのだろう。
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「日本の食を科学する」(酒井健夫、上野川修一編)

2013年08月03日 06時03分07秒 | 食育
朝倉書店、2008年発行。

食育を考える基礎知識として、日本の食について知りたいと思い手に取った本。
日本大学生物資源科学部から全学部の学生へ遠隔授業として発信された内容です。
編集者の1人上野川先生はアレルギー学会でも時々講演される有名な方です。

実際に読んでみると・・・広く浅くの知識で大学の一般教養の範囲を出ないレベルでちょっと退屈。
統計の数字とかは使えそうですが、あまり知的好奇心を刺激される内容ではありませんでした。
まあ、基礎知識を知るためのテキストであり読み物ではないということですね。

<メモ>
先進国の食糧自給率
 オーストラリア、フランス、アメリカは100%を超えている。日本は40%弱で、先進国の中では際だって低い。
 日本は先進国の中で長期的に食糧自給率を低下させてきた唯一の国である。供給熱量自給率は、1965年度の73%から1985年度の53%、2006年度の39%へと低下してきた。穀物自給率(食用と飼料用を含む:重量ベース)は1965年の62%から1985年の31%、2006年度の27%となっている。

近代日本の米事情
 日本の米の生産量は明治前期の約400万トンから、1920年には913万トンへと約2.3倍に増加したにもかかわらず、戦前期を通じて日本は常に米不足の状況にあり、1918年には米騒動が発生している。我が国が需要を上回る米の生産をようやく達成するのは、1960年代末になり、米が所得の上昇に伴い減少する、つまり商品としては劣等財になってから。
  米の消費量は1人当たりでは1962年、総消費量では1963年をピークにして大幅に減少した。このため米は不足状況から一転して過剰となり、1969年から米の生産調整が導入され、水田に他の作物を作付けする「転作」が推進されるようになった。
 米の消費量が減少する一方で、畜産物、野菜、果実などの消費量は増大した。2006年度の国民1人当たりの品目別消費量は、1960年度と比べ、肉類や牛乳・乳製品を含む畜産物は4.3倍、油脂類は3.1倍に増加している。
 米の全供給熱量に占める割合は、1965年度の44%から2005年度の23%に減少、畜産物・油脂類の合計が全供給熱量に占める割合は1965年度の13%から2005年度の30%に増加している。
 
食生活と健康
 日本の平均寿命は明治・大正時代は42-43歳、戦前ようやく50余歳であった。戦後になり経済力・医学の発展により平均寿命が伸びてきた。
 1977年にアメリカ上院の特別委員会が発表した「アメリカ人の食事目標」(マクガバン報告)は公的機関として初めて、望ましい食事栄養の在り方についてPFCバランス(P:蛋白質、F:脂質、C:炭水化物)という明確な数字を示した。日本人の食生活は、1980年頃には平均的に見ればこの望ましいPFCバランスにほぼ一致しており、このことが日本が世界一の長寿国であることと合わせて日本食が健康的であるとの評判を高め、日本食が世界的に普及する大きな要因となっている。
 欧米における豊かな食生活は20世紀後半にようやく実現されたかに見えたが、動物性脂肪にうま味を求めた食事は、加齢に伴って循環器の機能障害など、保健上最も懸念される成人病の要因となりがちであることが明らかにされた。一般的に欧米では心筋梗塞が多く、日本ではこれまで少なかったが、WHOの調査によれば、これは米を主食にした食生活によることが指摘されている。非米食文化圏が米食文化圏に比べて肥満も高脂血症も多く心筋梗塞の死亡率は5倍近く高い。
 日本の食生活の内容を欧米諸国と比較してみると、国民の所得水準に比してカロリー水準が低く、そのなかでデンプン質比率が高いこと、動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の割合がほぼ半々であって、しかも動物性たんぱく質のうち水産物の割合が高いなどの特徴がある。
 主要国の食生活についてPFCバランスを比較すると、フランス、アメリカなどの欧米諸国では、肉類、牛乳・乳製品、油脂類の消費が多いことを反映し、脂質が4割程度を占めている。一方、ベトナム、タイ、インドなどのアジア諸国では、炭水化物が7割程度を占めている。日本では脂質の割合が3割程度まで増加しており、PFCバランスが欧米に近づきつつある。
 日本の食生活は、米、野菜、魚、大豆を中心とした伝統的な食生活のパターンに、肉類、牛乳・乳製品、鶏卵、油脂、果実が加わってきたもので、欧米諸国とは異なる「日本型食生活」ともいうべき特色のある食生活パターンを形作ってきた。

食育に関する最近の動き
・2005年:食育基本法制定、食事バランスガイド決定
・2006年:食育推進基本計画策定

プロバイオティクス(probiotics)とプレバイオティクス(prebiotics)
 両者とも腸管内に有益な微生物を増やして宿主の免疫機能を調節しようとする試み。
プロバイオティクス:消化管(腸管)微生物のバランス化以前により宿主に有益な作用をもたらす生きた微生物添加物
プレバイオティクス:経口摂取した時に生体に有益な作用が期待されている特定の腸内細菌を選択的に増やしたり活性化したりすることのできる難消化性食品成分

減農薬・無農薬・有機栽培の違い
・減農薬:農薬の使用を寒冷の5割り以下で栽培したもの
・無農薬:農作物を栽培する期間農薬を使用していないもの
・有機(オーガニック):3年以上農薬及び化学肥料を用いていない農場で栽培したもの

日本の食の特徴
1.多彩で新鮮な食材:温帯に位置し南北に長い島国、明確な四季の賜物
2.独自の伝統と中国そして西欧の食文化とが融合して世界にも例がない多様な食品を生み出している
3.うま味へのこだわり

「すし」
 にぎり寿司は文政年間(1800年頃)に江戸の華屋与兵衛が考案したといわれている。当時は魚の鮮度を保つため、塩や酢で締めたりゆでたり焼いたりという下ごしらえが必要だった。刺身をそのまま握るようになったのは時代が下って後に冷蔵庫が普及するようになってから。
 もともとの「すし」は東南アジアにルーツがある。魚を貯蔵するための保存食として考えられたもので、魚肉を塩で味付けし、ご飯の中につけ込んでつくる発酵食品だった。日本では熟れ鮨(なれずし)の中にその原型が残っている(例:滋賀県の鮒寿司)。最も古い寿司の文献は奈良時代以前に書かれた『大宝令』(702年)で、当時、すしは納税用に使われていたらしい。平安時代の『延喜式』には諸国からすしが貢ぎ物として納められたことが記録されている。
 室町時代になると現在のすしの原型が登場する。熟れ鮨は乳酸発酵による熟成に数ヶ月以上を要するいわゆるスローフードだったが、熟成が未だ十分進んでいない早い段階でも食べられるようになった。その後食酢が商業生産されはじめると乳酸発酵の代わりに食酢で味付けするようになり、これを早鮨と呼んだ。一種のファストフードである。早鮨をもとにして現在の押し寿司の原典である箱寿司がつくられるようになり、文政年間のにぎり寿司の原型へと変身し、さらに冷蔵庫の普及に伴って新鮮な材料をそのまま生かした現在のにぎり寿司へと発展してきた。
 このように、スローフードである発酵食品の元祖としながら、食酢の製法開発や冷蔵庫の普及などの技術進歩と共にファストフードとしての地位を確立してきた寿司の発展の経緯には大変興味深いモノがある。

「ラーメン」
 日本のラーメンの草分けは1910年に浅草公園に回転した「来々軒」といわれている。当初は手打ちめんであったが、昭和に入った頃から手打ちめんは次第に機会打ちへと変わり、現在の日本式ラーメンの原形が形成された。戦後になると、スープに煮干しやカツオ節などの和風だしを加える店が増え、次第に中国のめん料理から日本式のラーメンへと姿を変えていった。
 1958年には初のインスタントラーメン「日清チキンラーメン」が発売され、これを契機にラーメンは日本人の食生活に完全に定着することになった。さらに1971年には画期的な形態のカップラーメン(日清食品「カップヌードル」)が発売され、お湯さえあればどこでも短時間でできたてのラーメンを楽しむことができるという、従来では考えられなかった究極のファーストフードとして登場することになった。
 日本人がラーメンを好む理由の第一にスープの味が挙げられる。日本式ラーメンの基本となっているのは、醤油や味噌などの日本の伝統的調味料をベースに煮干しやカツオ節などの和風だしを加えたモノである。そのうま味はグルタミン酸と核酸である。日本では古来「だし」を巧みに利用してうま味を楽しむ和食文化を築いてきたが、この和風だしと中国のめんを組み合わせて生み出されたのが日本式ラーメンであり、日本で発明された食品と言ってもよいものである。

「カレーライス」
 日本人が初めてカレーに出会ったのは幕末の頃といわれている1863年幕府の遣欧使節の1人、三宅秀がフランスへ向かう船の中で、インド人がカレーとおぼしきものを食べている姿を目撃したことを記録している。その後、1872年に出版された西洋料理の本「西洋料理通」にはカレー料理の調理法が記載されており、さらに1893年の「婦人雑誌」には「即席ライスカレー」なるものの作り方が紹介されている。当時既に「カレーライス」は即席の食品と見なされ、カツオ節や醤油などの日本の調味料を使うという日本人の味覚にあったリアレンジメントが行われていたようで、この頃が「カレーライス」誕生の時期ではないかと考えられる。一方、1900年頃に横須賀で始まった「海軍カレー」が原点とする説もある。いずれにしても、群退職として利用されたことがきっかけとなり、日本全国に広まったようである。
 1914年には元祖のカレールウ「ロンドン即席カレー」が発売され、即席食品、ファーストフードとしての発展が始まった。1950年には固形カレールウが登場し、「カレーライス」は家庭料理の定番となった。ついで1969年には日本初のレトルトカレーが登場し、現在のカレーライスのスタイルが完成した。
 このようにカレーライスは、文明開化に西欧経由で伝えられたインドカレーを日本流に変形したモノで、本場のインドにも西欧にもない日本で創作された食品といってよいものである。

発酵食品
<特徴>
1.優れた保存性
・有機酸の生成による保存性向上
 乳酸菌を用いた発酵食品では、乳酸菌の増殖とともにつくられる乳酸自体が殺菌作用を示す。乳酸に限らず、発酵でつくられる有機酸は一般的に細菌類の増殖を抑制する作用がある。しかし乳酸は酢酸などの他の酸とは違い、酵母やカビなどの真菌類に対しては強い抗菌作用を示さないという特徴があるため、乳酸菌と酵母やカビの共同作用でつくり出される発酵食品成立の大きな要因になっている。
カツオ節のヒミツ
 日本のカツオ節の製造工程では、いぶして水分30%程度まで乾燥させた後にカビ付けを行う。このときに使用されるのがカツオ節カビの Aspergillus glaucus である。カビ付けは数回にわたって行われ、カビの生育に伴って水分が最終的には14%以下に達すると本枯節が完成する。ここまで水分が低下すると他の微生物は増殖することができなくなり、保存性が高まる。また、カビの酵素の働きにより、脂肪芽脂肪酸へ、蛋白質はアミノ酸へと分解され、おいしさが増す。
2.食品としての一次(栄養)・二次(おいしさ)・三次(健康の維持・増進)の機能性の高さ
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