漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

新型コロナに清肺敗毒湯

2020年08月02日 22時16分22秒 | 漢方
西洋医学では決定的な治療薬が存在しない COVID-19(新型コロナウイルス感染症)。
発祥の地である中国では西予言う医学とは別系統の伝統医学である中医学があります。

日本の漢方は、昔々中国から伝来した医学が、鎖国状態の江戸時代に日本独特の発展を遂げたもので、本家本元の中医学とはちょっと異なります(まあ、兄弟というか親戚というか)。

私も独学で漢方をかじっており、今回の新型コロナに中医学はどういう方剤を用いたのか、大変興味があります。
最近、情報が集まってきました。

どうやら、主に清肺敗毒湯という方剤が使われたらしい。
しかし日本には同名のエキス剤は存在しません。
生薬をオリジナルで調合する煎じ薬なら可能ですが。

さて、日本で清肺敗毒湯は普及するのでしょうか?
問題は単純ではなく、日本東洋医学会は逆に警告を発しています。
「新型コロナ陽性=清肺敗毒湯」という構図は困る、と。

ここに漢方医学と西洋医学の治療の考え方の違いが隠されています。
西洋医学では感染症に対してピンポイントで病原体をやっつけるので単一処方。
一方の漢方医学では、病態・病期に対する治療なので、ひとつの感染症でも初期・中期・後期で薬が異なるのです。

ですから、新型コロナ陽性でも、その患者さんの体質(虚証・実証)や病期(初期・中期・後期)により複数の方剤を使い分ける専門医でないと効果が期待できず、かえって悪化させる可能性もあるのです。

昔、小柴胡湯を肝炎に処方することが流行した時期がありました。
小柴胡湯は、体力がそこそこある患者さんへ使う方剤です。
しかし西洋医学しか知らない医師達が、体力が亡くなった巨匠の患者さん達にも使用したため、間質性肺炎という重篤な副作用が現れる例がたくさん経験されました。
それが漢方専門医のトラウマになっており、二度と繰り返してはならないという意思が今回の警告につながっていると思われます。

▢ 新型コロナの重症化を防いだ「漢方薬」とは? 専門学会が注意喚起も
 新型コロナウイルスの治療薬の開発が世界中で期待されているが、中国では武漢での流行初期から、感染患者に漢方薬を用いて重症化を抑えたという。果たしてどんな漢方薬なのか? 日本での処方は可能なのか? 専門医に取材した。 
 中国・武漢での発生に端を発する、新型コロナウイルス感染症。日本で現在使える薬剤は、重症例に対するレムデシビルとデキサメタゾンのみ。そのほかは、まだ臨床試験で有効性・安全性を確認できていないため、承認されていない。 
 一方、中国では、西洋医薬に加え、漢方薬を用いることで、早期に新型コロナウイルス感染症を鎮圧したとされている。  3月23日、武漢での記者会見で、国家中医薬局・余艶紅氏は、同薬はコロナ感染患者の91.5%に当たる7万4187人に用いられ90%以上の患者に有効だったと報告した。軽症もしくは中等症の患者に有効で、重症化するのを防ぎ、死亡者を少なくしたということだ。  東海大学医学部付属東京病院で漢方外来を持ち、国際東洋医学会理事の永井良樹医師はこう説明する。 「中国で新型コロナウイルス感染症に対して用いられたのは『清肺排毒湯(せいはいはいどくとう)』という漢方薬です。中国では有史以来、数限りない流行性感染症に見舞われてきましたが、その病気を『傷寒』と呼び、古人の教訓や薬方を集めて、約2千年前に『傷寒卒病論』が作られました。清肺排毒湯はそこに根拠を置く薬で、新型コロナウイルス感染症も『傷寒』と考えたわけです」 
 清肺排毒湯は、大青竜湯(だいせいりゅうとう)、小柴胡湯(しょうさいことう)、五苓散(ごれいさん)、射干麻黄湯(やかんまおうとう)、橘皮枳実生姜湯(きっぴきじつしょうきょうとう)の五つの漢方方剤を合わせ、それに幾つかの生薬を去加したもの。日本でも保険で使える生薬の組み合わせでほぼできる。 「清肺排毒湯を処方することで湖北省の複数の仮設病院のなかには、入院患者564人のうち一人も重症化しなかった院もあり、他院も重症化率は2~5%だったというのです」(永井医師)
 4月17日、北京中医薬大学王偉副校長は国務院での記者会見で、「清肺排毒湯は新型コロナウイルス感染症の特効薬だと考えている。国内外の研究者が他の治療方法と比較研究することを歓迎する」と述べている。  日本では、こういった漢方薬は用いられないのだろうか。 「日本ではPCR検査で陽性と診断されたら、隔離されますが、隔離先の大きな病院ではほぼ漢方薬は処方されないでしょう。医療従事者の多くが西洋医学に基づいて診療しており、漢方という選択肢がないからです」(同) 
 西洋医学では臨床試験で有効性・安全性を確認できて初めて薬剤の使用が承認される。こうした科学的根拠(エビデンス)に基づく考え方は、新型コロナのような人類が初めて遭遇する感染症に対しては通用せず、遅きに失する可能性がある。漢方は「傷寒」に対して用いられ、西洋医学の対応できない部分に対応したといえる。 
 そんななか、日本でも一部の医療者は中国の対応に注目し、清肺排毒湯を処方する医師もいたようだ。日本感染症学会のホームページには、2月以来、新型コロナ感染症に対する中国のガイドラインの日本語訳が掲載されている。そこには清肺排毒湯についても記されている。 
 また、5月、日本東洋医学会のホームページに「中国発の新しい生薬製剤使用に関する注意喚起のお知らせ」と題する告知が掲載された。 
 その経緯について、日本東洋医学会会長の伊藤隆医師はこう説明する。 「私たちは中国のガイドラインや清肺排毒湯を否定するものではありません。むしろその効果を検討する立場にいます。ただ、実際に中国のガイドラインのやり方を踏襲すると幾つかの問題点があることも確かなのです」
  伊藤医師はこう続ける。 「中国で清肺排毒湯が作られた背景には、急激に増えた患者さんに対応する必要があったからです。可能性のある処方を組み合わせ、目の前の患者さんの重篤化を防ぐため急場をしのぐ目的の処方と言うこともできるのです」 
 清肺排毒湯は、日本で常識的に使う5倍程度の分量であること、3日おきに処方継続の要不要を考慮するべきこと、2週間が処方の限度であるということ、この3点を留意しないと安全性を担保できないという。「ですから、経験豊富な漢方専門医や薬剤師のもとできちんと管理して処方するべきなのです」(伊藤医師)
 実際、伊藤医師も漢方医学的な診断のもとにエキス剤などを使い、結果として清肺排毒湯に類した処方によって治療にあたった例があるという。 「コロナ流行初期のころ、37度5分以上が4日以上続かないと検査が受けられなかった時期に、そういう患者さんを診たことがあります。おそらく漢方専門医のなかには清肺排毒湯を使ったり、参考処方で治療した医師がいる可能性があります」(同) 
 現在、日本東洋医学会は、「COVID-19一般治療に関する観察研究ご協力のお願い」という告知をホームページに掲載している。軽症から中等症の新型コロナウイルス感染症患者(疑いも含む)に対する、西洋薬、漢方薬治療による症状緩和、重症化抑制に関する多施設共同の観察研究への協力のお願いだ。日本感染症学会、日本プライマリ・ケア連合学会、日本病院総合診療医学会、日本救急医学会、日本呼吸器学会といった学会にも協力を求めている。 「東北大学病院漢方内科の高山真医師が中心となっておこなう研究です。これまで処方した事例を集めて分析する観察研究ですが、重要な研究と言えます」(同)
  新型コロナの第2波への備えが注目されるが、今後、別の新たな感染症が流行することも想定しておかねばならない。その対処法の一つとして、西洋医学だけでなく漢方も選択肢に入れておくべきで、漢方専門医の育成も重要になってくると伊藤医師は強調する。 「現在、日本に30万人いる医師の中で、日本東洋医学会が認定する漢方専門医はわずか2千人程度です。より多くの医師が漢方医学の学習をされて対応できるようになることが望まれます」 
 前出の永井医師はこう話す。 「医学部における漢方教育は少しずつ進んでいますが、医師国家試験に漢方の問題が出ていないため、漢方の普及は望めません。和漢薬という日本の宝を持ちぐされにするのは残念です。今回のコロナを機に、新しい医療体系を模索すべきです」 
 来たるパンデミック(世界的大流行)時代に対処する医療の構築が急務であることは間違いない。(ライター・伊波達也)

★ 記事中の「傷寒卒病論」は「傷寒雑病論」の間違いだと思います。
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