漢方を勉強中の私ですが、時々混乱して立ち止まってしまうことがあります。
その原因の一つは「診断体系」が一つではなく複雑なこと。
基本的には、
1.八綱分類(陰陽虚実表裏寒熱)
2.気血水
3.六病位
4.陰陽五行説
などを用いるのですが、目の前の患者さんにどの理論を当てはめるべきなのかの判断が最初のハードルであり、これが初学者には結構高くて越えられない。
浅学の私は、急性疾患には六病位、慢性疾患には八綱分類や気血水が役立つというイメージを持っていますが、それが正しいのかどうか・・・。
陰陽五行説は近代の中国で発達した理論であり、鎖国時代の日本は影響を受けにくかったので、日本漢方と中国漢方(=中医学)は同じ理論体系ではありません。私は陰陽五行説の解説を読んでもピンとこなくて困るんですよねえ。
さて、テーマの「漢方医学の診断体系」は漢方医学界の重鎮であるあきば伝統医学クリニックの秋葉哲生先生がHP内にアップしている解説です。
私の悩みに答えてくれるありがた~い内容。
これを読むと、私の思考体系に欠けているものが見えてきます;
・腹証を他の診断体系と同列に扱うこと
・やはり陰陽五行説
・(あれ?秋葉先生の記述に八綱分類が見当たらない!)
さあ、精進精進。
★★★メモ★★★
自分自身のための備忘録。
■ 『漢方診断系』9項目
1) 出典の条文=症状群
2) 腹診所見
江戸時代のわが国の先人が、中国医学を批判し、当時流入してきた西洋医学の解剖学なども意識した上で開発したのが腹診という診断技術です。腹診は『難経』という中国の古文献にそのヒントが記されていますが、中国では発展することが無かった診断技術です。
日本ではもともと鍼灸家の間で行われていた技術でした。17世紀の江戸時代から湯液を用いる漢方家、なかでも後に古方派と呼ばれるようになった学派でもっとも広く行われました。
腹候という診断技術は、古方派の尊重した『傷寒論』と『金匱要略』に書かれた処方を用いるための診断技術であったことに留意してください。これらの処方は古方(Ancient prescription, which was written in Shang han lun and Jin kui yao lue)と呼ばれます。
したがって漢代以後に作られた後の時代の薬方(後世方と呼ばれます)には原則として当てはまらないことに注意してください。古方には、大柴胡湯、柴胡加龍骨牡蛎湯、小柴胡湯、柴胡桂枝湯、柴胡桂枝乾姜湯、桃核承気湯、大黄牡丹皮湯、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、苓桂朮甘湯、八味地黄丸など、日常頻用する有名な処方が含まれます。
しかし、近年では古方も後世方も混同して論じられる傾向が生じており、抑肝散加陳皮半夏のように後世方であっても江戸期より腹診所見が重視される方剤もあります。
腹候が診断系として成り立つのは、慢性疾患での長期投与を前提とした場合であって、急性期や短期間の適用については当てはまりません。急性期には体表に現れた症候(外証と呼びます)と脈候がもっとも重視されます。
・胸脇苦満:
この所見は肝鬱とよばれ、肝炎などの炎症性疾患に由来する変化と、うつ病などの精神のある種の病的な変調に由来する変化とが含まれるとされています。漢方的な対処方法には、肝鬱を改善するために、肝気を疎通する作用を期待して柴胡という生薬を含む方剤を用います。柴胡の作用には、抗炎症作用や精神緊張の緩和作用があってそれらの状態を改善すると考えられています。
・腹皮拘攣:
腹直筋の強い緊張は、病的な程の精神的緊張をしめすと考えられています。強い腹力にともなってみられることもありますが、意外に痩せ型の体形に多いものです。この場合は腹壁も薄く張っている例が多く、腹力自体も把握しにくいものです。そのときは肋骨弓のなす角度が90度以下で痩せた症例ならば、腹力は5分の2くらいに取っておくのがコツです。つまりより虚しているととらえるのです。
臍より上が緊張しているのは通常よく観察されますが、病的であるのは臍下まで強く張っている場合です。全長に渡っての緊張はある種の衰弱をともなう、病的な精神緊張の存在を示すと考えられます。癇が強い小児で、小建中湯の適用される場合などがこれに相当します。
直腹筋の拘攣は、芍薬でゆるめるのが通常の方法で、四逆散、小建中湯、桂枝加芍薬湯、などの方剤が選択されます。治療により目的の症状が改善するにつれて、腹直筋の病的緊張が次第に緩む例もあって興味深く感ぜられます。
・臍上悸;
臍上悸は、精神的な一種の興奮状態の存在を思わせ、同時にある種の衰弱の気味を伴った状態を示すものと考えられます。臍上悸を認める症例への対応は二通りあり、竜骨、牡蛎が配剤された薬方を選択(柴胡加龍骨牡蛎湯、柴胡桂枝乾姜湯、桂枝加龍骨牡蛎湯)する場合と、苓桂朮甘湯や抑肝散加陳皮半夏のような水に関連した方剤を選択する場合とがあります。後者は、臍傍の悸を「水分の悸」と歴史的に解したことに由来しています。
3) 気・血・水
4) 六病位
急性に発熱することではじまる病気が、ある程度共通の経過をたどって進行することに先人は気づきました。そこで急性熱性疾患をその進行度に応じて6段階に分類し、各段階に応じた治療法を工夫したのです。『傷寒論』の治療原則はこのようにして確立されました。
5) 脈診、舌診
6) 経験則=口訣(くけつ)
一例を挙げますと、浅田宗伯は「補中益気湯は小柴胡湯の虚した状態に適応する」と的確にのべています。また目黒道琢(1739-1798)が「抑肝散は「怒気の存在」があれば効く」と指摘しているのも有名です。
7) 西洋医学的病名
8) 伝統的な生薬の薬理学(本草学)
9) 陰陽五行説
現在の日本の多くの臨床家は、1)、2)、3)、4)、および7)を手がかりとしていることが明らかです。
中医学派の方々は、1)、5)、8)、9)を重視しています。
■ 吉益東洞
吉益東洞(1702-1773)は山脇東洋に見出されて世に出た医人でした。彼は『傷寒論』と『金匱要略』という二冊の医学書の記述と腹診を重視するという、わが国の漢方医学の基本的な診療スタイルを確立した人物です。
東洞の唱えた医説を診断系によって検証してみますと、1(古典の記述)、2(腹診)の二つになります。3(気血水)や4(六病位)、5(脈診・舌診)などはことごとく捨て去っています。特筆すべきは、古代シナ医学の核心であった、8(本草学)と9(陰陽五行説)を採用していないことです。
その原因の一つは「診断体系」が一つではなく複雑なこと。
基本的には、
1.八綱分類(陰陽虚実表裏寒熱)
2.気血水
3.六病位
4.陰陽五行説
などを用いるのですが、目の前の患者さんにどの理論を当てはめるべきなのかの判断が最初のハードルであり、これが初学者には結構高くて越えられない。
浅学の私は、急性疾患には六病位、慢性疾患には八綱分類や気血水が役立つというイメージを持っていますが、それが正しいのかどうか・・・。
陰陽五行説は近代の中国で発達した理論であり、鎖国時代の日本は影響を受けにくかったので、日本漢方と中国漢方(=中医学)は同じ理論体系ではありません。私は陰陽五行説の解説を読んでもピンとこなくて困るんですよねえ。
さて、テーマの「漢方医学の診断体系」は漢方医学界の重鎮であるあきば伝統医学クリニックの秋葉哲生先生がHP内にアップしている解説です。
私の悩みに答えてくれるありがた~い内容。
これを読むと、私の思考体系に欠けているものが見えてきます;
・腹証を他の診断体系と同列に扱うこと
・やはり陰陽五行説
・(あれ?秋葉先生の記述に八綱分類が見当たらない!)
さあ、精進精進。
★★★メモ★★★
自分自身のための備忘録。
■ 『漢方診断系』9項目
1) 出典の条文=症状群
2) 腹診所見
江戸時代のわが国の先人が、中国医学を批判し、当時流入してきた西洋医学の解剖学なども意識した上で開発したのが腹診という診断技術です。腹診は『難経』という中国の古文献にそのヒントが記されていますが、中国では発展することが無かった診断技術です。
日本ではもともと鍼灸家の間で行われていた技術でした。17世紀の江戸時代から湯液を用いる漢方家、なかでも後に古方派と呼ばれるようになった学派でもっとも広く行われました。
腹候という診断技術は、古方派の尊重した『傷寒論』と『金匱要略』に書かれた処方を用いるための診断技術であったことに留意してください。これらの処方は古方(Ancient prescription, which was written in Shang han lun and Jin kui yao lue)と呼ばれます。
したがって漢代以後に作られた後の時代の薬方(後世方と呼ばれます)には原則として当てはまらないことに注意してください。古方には、大柴胡湯、柴胡加龍骨牡蛎湯、小柴胡湯、柴胡桂枝湯、柴胡桂枝乾姜湯、桃核承気湯、大黄牡丹皮湯、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、苓桂朮甘湯、八味地黄丸など、日常頻用する有名な処方が含まれます。
しかし、近年では古方も後世方も混同して論じられる傾向が生じており、抑肝散加陳皮半夏のように後世方であっても江戸期より腹診所見が重視される方剤もあります。
腹候が診断系として成り立つのは、慢性疾患での長期投与を前提とした場合であって、急性期や短期間の適用については当てはまりません。急性期には体表に現れた症候(外証と呼びます)と脈候がもっとも重視されます。
・胸脇苦満:
この所見は肝鬱とよばれ、肝炎などの炎症性疾患に由来する変化と、うつ病などの精神のある種の病的な変調に由来する変化とが含まれるとされています。漢方的な対処方法には、肝鬱を改善するために、肝気を疎通する作用を期待して柴胡という生薬を含む方剤を用います。柴胡の作用には、抗炎症作用や精神緊張の緩和作用があってそれらの状態を改善すると考えられています。
・腹皮拘攣:
腹直筋の強い緊張は、病的な程の精神的緊張をしめすと考えられています。強い腹力にともなってみられることもありますが、意外に痩せ型の体形に多いものです。この場合は腹壁も薄く張っている例が多く、腹力自体も把握しにくいものです。そのときは肋骨弓のなす角度が90度以下で痩せた症例ならば、腹力は5分の2くらいに取っておくのがコツです。つまりより虚しているととらえるのです。
臍より上が緊張しているのは通常よく観察されますが、病的であるのは臍下まで強く張っている場合です。全長に渡っての緊張はある種の衰弱をともなう、病的な精神緊張の存在を示すと考えられます。癇が強い小児で、小建中湯の適用される場合などがこれに相当します。
直腹筋の拘攣は、芍薬でゆるめるのが通常の方法で、四逆散、小建中湯、桂枝加芍薬湯、などの方剤が選択されます。治療により目的の症状が改善するにつれて、腹直筋の病的緊張が次第に緩む例もあって興味深く感ぜられます。
・臍上悸;
臍上悸は、精神的な一種の興奮状態の存在を思わせ、同時にある種の衰弱の気味を伴った状態を示すものと考えられます。臍上悸を認める症例への対応は二通りあり、竜骨、牡蛎が配剤された薬方を選択(柴胡加龍骨牡蛎湯、柴胡桂枝乾姜湯、桂枝加龍骨牡蛎湯)する場合と、苓桂朮甘湯や抑肝散加陳皮半夏のような水に関連した方剤を選択する場合とがあります。後者は、臍傍の悸を「水分の悸」と歴史的に解したことに由来しています。
3) 気・血・水
4) 六病位
急性に発熱することではじまる病気が、ある程度共通の経過をたどって進行することに先人は気づきました。そこで急性熱性疾患をその進行度に応じて6段階に分類し、各段階に応じた治療法を工夫したのです。『傷寒論』の治療原則はこのようにして確立されました。
5) 脈診、舌診
6) 経験則=口訣(くけつ)
一例を挙げますと、浅田宗伯は「補中益気湯は小柴胡湯の虚した状態に適応する」と的確にのべています。また目黒道琢(1739-1798)が「抑肝散は「怒気の存在」があれば効く」と指摘しているのも有名です。
7) 西洋医学的病名
8) 伝統的な生薬の薬理学(本草学)
9) 陰陽五行説
現在の日本の多くの臨床家は、1)、2)、3)、4)、および7)を手がかりとしていることが明らかです。
中医学派の方々は、1)、5)、8)、9)を重視しています。
■ 吉益東洞
吉益東洞(1702-1773)は山脇東洋に見出されて世に出た医人でした。彼は『傷寒論』と『金匱要略』という二冊の医学書の記述と腹診を重視するという、わが国の漢方医学の基本的な診療スタイルを確立した人物です。
東洞の唱えた医説を診断系によって検証してみますと、1(古典の記述)、2(腹診)の二つになります。3(気血水)や4(六病位)、5(脈診・舌診)などはことごとく捨て去っています。特筆すべきは、古代シナ医学の核心であった、8(本草学)と9(陰陽五行説)を採用していないことです。