漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

パフォーマンス漢方?

2023年09月12日 13時09分29秒 | 漢方
ってどういう意味?
という気持ちで某セミナーをWEB聴講しました。
講師は耳鼻科医の五島Dr。

漢方関連セミナーとしては型破りというか、異色の内容でした。
で、そのパフォーマンスとは…
「プラセボ効果を存分に使う」という意味でした。

同じ漢方方剤を処方する際に、ただ処方するより、
「あなたに合った特別な薬を処方して上げますよ」
と思い込ませることにより、有効率が上がるというのです。

まあ確かに、一般臨床で感じていることではありますが…。
私も今一つ乗り気でない患者さんには、
モチベーションを上げるために、
「こんなに効いた患者さんがいましたよ」
と例示することがしばしばありますね。

では五島Drから口伝されたポイントを。
といっても、彼は「パフォーマンス耳鼻科漢方」という電子書籍を出版しており、
私はすでに購入していたことに気づきました。
読んだはずなのですが…中身を全然覚えていません。

<ポイント>
・プラセボ効果とは、薬理作用のない薬が効果を示すこと。
・プラセボ効果は信頼関係によって高まり、それを最大限に高めるのがパフォーマンス、漢方の応用することを「パフォーマンス漢方」と命名。
・患者さんとの距離感は近すぎず遠すぎず~お仕事だから~
・めまいの患者さんへの使い分けは、地味(陰証)には半夏白朮天麻湯、派手(陽証)には苓桂朮甘湯
・五苓散合苓桂朮甘湯は利水効果アップでメニエール病重症例に適用するが、基本的には単剤が望ましい。
・めまい漢方の使い分け
+「暗い」患者には半夏白朮天麻湯
+「暗い不安」は分心気飲(苓桂朮甘湯+半夏厚朴湯)
+「明るい不安」には苓桂朮甘湯
+「明るい」「不安なし」は治療の必要なし?
・めまい漢方の投与期間の目安
       (効果発現まで)   (症状消失まで)
(五苓散)    1~7日       14日(2w)
(苓桂朮甘湯)  1~14日      28日(4w)
(半夏白朮天麻湯)数日~28日     84日(12w)
・めまい漢方の口訣
(古典)「立てば苓桂、回れば沢瀉、歩くめまいは真武湯」
(五島)「派手は苓桂、天気は五苓、幽霊めまいは半夏白朮天麻湯」
・小柴胡湯はPSL、桔梗湯はトラネキサム酸に相当


放送禁止用語がバンバン出てくるので書きにくい…
以降は備忘録としてのメモ書きです。


漢方処方の5段階パフォーマンス
1.まずは傾聴
2.共感、興味、承認(そなたテクニック)
3.息継ぎに集中して話を止める。
4.少し特別扱いして承認する(お仕事だから)
5.とどめの一言

(冬の)そなたテクニック
1.反応する 「そう・・・」
2.興味を示す「なるほど・・・」
3.理解を示す「たしかに・・・」

処方時に加えることで治療効果がアップする名言集
(苓桂朮甘湯)不安な時は甘いものが欲しくなりますね、この薬はシナモンロールのようなものですよ。
(呉茱萸湯)美人に効く漢方です。良薬は口に苦し。
(当帰芍薬散)美人に効く漢方。
(半夏白朮天麻湯)じっくり効かせる漢方
(牛車腎気丸)じっくり効かせる漢方
(補中益気湯)倦怠感(苦労人)、疲れた人に効く漢方
(加味帰脾湯、加味逍遙散)神(加味)処方です!

めまいの漢方治療
といいつつも、めまい治療の基本は「リハビリ」だそうです。
以下の3方剤を使い分ける。
・五苓散
・半夏白朮天麻湯
・苓桂朮甘湯

めまいの模擬患者ーその1
・静かに診察室に入室。
・こちらから話しかけてようやく話し出す人。
・下を向いていてやせ型。
・服やカバンが単色系、グレー系の人。
→ 半夏白朮天麻湯…上げる薬(時間かかる)

めまいの模擬患者ーその2
・診察室に入った瞬間、聞いてもいないのに話し出す人。
・神経質
・中肉中背でやや小太り
・服やカバンが派手な人。
→ 苓桂朮甘湯…下げる薬(早い)

めまいと(印象の)明暗による使い分け
・めまい+「暗い」患者には半夏白朮天麻湯
・めまい+「暗い不安」は分心気飲(苓桂朮甘湯+半夏厚朴湯)(中島紀一Dr)。
・めまい+「明るい不安」には苓桂朮甘湯
・めまい+「明るい」+「不安なし」は治療の必要なし?

投与期間の目安(佐藤公輝Dr2019年漢方と最新治療より)
       (効果発現まで)   (症状消失まで)
(五苓散)    1~7日       14日(2w)
(苓桂朮甘湯)  1~14日      28日(4w)
(半夏白朮天麻湯)数日~28日     84日(12w)

苓桂朮甘湯と五苓散の使い分け(佐藤Dr:岐阜県の産婦人科医)
・苓桂朮甘湯は、桂皮+甘草の組み合わせで抗不安効果がある。
→ 不安を伴った水毒には苓桂朮甘湯
・苓桂朮甘湯は甘草のため水を体内にためてしまう可能性がある。
・水毒に普遍的に、頓服的に使えるのが五苓散。
・水毒症状があるときは、五苓散を2包頓服させて効果をみる(五苓散テスト)。

▢ めまい漢方の口訣(の変遷)

(古典)
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」
 ↓
立てば苓桂、回れば沢瀉、歩くめまいは真武湯
・立ちくらみには苓桂朮甘湯
・回転性めまいには沢瀉湯(五苓散で代用)
・歩く時、浮動感があるようなめまいは真武湯
・なんとなくフラッとしたり、立ちくらみがしたり両方の症状があるときには真武湯と苓桂朮甘湯を併用することもある(稲木一元Dr)。

(現代 by 五島Dr)
派手は苓桂、天気は五苓、幽霊めまいは半夏白朮天麻湯
・苓桂朮甘湯
・五苓散
・半夏白朮天麻湯

頭痛の漢方
・五苓散:低気圧の影響を受ける
・呉茱萸湯:胃腸が弱く、胃部が冷える。血色が悪く、手足が冷える人の発作性の片頭痛、嘔吐。

頭痛漢方の使い分け
・苓桂朮甘湯:うざい患者
・半夏白朮天麻湯:幽霊
・五苓散:気象病
・呉茱萸湯:美人
・真武湯:冷えた老人
・補中益気湯:苦労人 

扁桃炎には小柴胡湯加桔梗石膏
小柴胡湯加桔梗石膏=小柴胡湯+桔梗湯
小柴胡湯は代表的な柴胡剤(急性炎症)=PSL
桔梗湯は桔梗と甘草の二剤からなる、咽頭痛・咽頭炎の漢方(トラネキサム酸


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更年期のメンタルヘルス(更年期指導士レクチャー4)

2023年09月09日 16時18分06秒 | 漢方
「更年期指導士」のWEBセミナー、4つ目はメンタルヘルスです。
小児科医の私にとっては、ピンとこない分野ですが…
講演を聞いてもやはりピンときませんでした。

わからないなりに、ポイントを拾ってみました。

<ポイント>
・心身症とは「身体疾患の中で、その発症や経過に心理・社会的因子が密接に関与し、
器質的ないし機能的障害が認められる病態」であり、精神疾患ではない。
・意外な心身症:本態性高血圧、心筋梗塞、糖尿病、甲状腺機能亢進症、腰痛症…
・「更年期におけるメンタルヘルス対策として、日頃から日常のストレスに対処できる生活環境の改善や社会的な要素にも注目した包括的な対応が求められている」って言われても何のことやら…。
・心理的ストレッサーでやっかいなのは「デイリーハッスルズ」。
・更年期障害の心理的症状と更年期うつ病とは別の病気、しっかり鑑別することが必要。


以降は、備忘録としてのメモ書きです。

▢ 更年期とは?
・閉経(12か月以上の無月経)の前後5年間が関与
・閉経の前5年間を「閉経移行期」、後5年間を「閉経後」と呼ぶ。

▢ 更年期症状と更年期障害
・更年期症状:多種多様な症状で器質的な変化に起因しない
・更年期障害:日常生活に支障をきたす

▢ 心身症とは?
・身体疾患の中で、その発症や経過に心理・社会的因子が密接に関与し、
器質的ないし機能的障害が認められる病態。
(代表的な心身症)
✓呼吸器系:喘息、過換気症候群
✓循環器系:本態性高血圧、狭心症、心筋梗塞、不整脈
✓消化器系:過敏性腸症候群、胃・十二指腸潰瘍
✓内分泌・代謝系:糖尿病、甲状腺機能亢進症
✓皮膚科系:アトピー性皮膚炎、慢性蕁麻疹、円形脱毛症
✓整形外科系:腰痛症、頚肩腕症候群
✓婦人科系:月経前症候群、月経異常、更年期障害

▢ 更年期症状・障害の増悪因子
・更年期症状の増悪に、心理社会的因子が87%関与。
・多くの更年期障害の発症・症状の強さに心理社会的因子が関与。

▢ メンタルヘルスのイメージ
・日本の一般的な認識は、メンタルヘルス=心の健康、メンタルへする対策=うつ病などの病気を予防
・WHOの定義では、メンタルヘルス対策=a state of well-being、メンタルヘルスが良好な状態とは“健康な状態”(自身の可能性を認識し、日常のストレスに対処でき、生産的かつ有益な仕事ができ、さらに自分が所属するコミュニティに貢献できる)
・更年期におけるメンタルヘルス対策として、日頃から日常のストレスに対処できる生活環境の改善や社会的な要素にも注目した包括的な対応が求められている。

▢ ストレスとは?
・ストレッサーを考えてみる
→ 分自身にとって何がストレッサーになっているのかに気づくこと。
・ストレス状態を考えてみる
→ 自分の中で、ストレス状態があるときにはどんな心身への反応が起こるのかを今一度フル返って考えること。

▢ ストレスと心身への影響
(第一段階)警告反応期→ 神経系活動上昇
(第二段階)抵抗期  → 抵抗力大
(第三段階)疲弊期  → 慢性化・再発
…ストレス耐性には限界がある。

▢ 主な心理的ストレッサー
・カタストロフィ:強い衝撃をもたらす出来事
(例)地震、津波、等
・ライフイベント:生活環境から受ける刺激
(例)家族との離別、引っ越し、等
デイリーハッスルズ:日常のちょっとした出来事
(例)流しが汚い、トイレの便座が上がっている、等
…注意すべきは「デイリーハッスルズ」で、意識しないと気付くことができない種類のストレス。

▢ 更年期障害で見られる諸症状
(血管運動症状)寝汗、ホットフラッシュ、発汗、冷や汗、暑さ/寒さの感覚、睡眠困難
(心理的症状)抑うつ、不安、イライラ、興奮しやすい、集中困難、気分の揺れ
(身体症状)肩こり、疲労感、頭痛、めまい、腰痛、胃腸の不快
(性的症状)性への興味消失、性交疼痛、膣の渇き
…「心理的症状」は「更年期うつ病」と鑑別することが重要

▢ 更年期うつ病の原因
・うつ病は神経伝達物質異常による症候群。
・卵巣機能(エストロゲン)低下により神経伝達物質の代謝に影響を与える。
・更年期の諸症状からうつ病の発症につながる。
・家庭や社会での環境変化、心理社会的ストレス
(例)子どもとの関係性の変化、夫婦の関係性の変化、同世代の友人の大病、
 親の介護・看取り・死別、定年後の経済・生活の変化
  ↓
 喪失感、人生への不満、老年を迎える実感、身近となる死、将来の生活不安

▢ リスクファクター
・女性ホルモン関連の既往/依存症:PME/PMDD、周産期うつ病、子宮摘出術
・生活習慣・健康:うつ病の既往、身体疾患の存在、喫煙、運動不足
・心理社会的:パートナーがいない、一人っ子、社会的ストレス

▢ うつ病の診断:D-SIGECAPS 5
D:Depression
S:Sleep
I:Interst
G:Guilt
E:Energy
C:Concenytation
A:Appetite
P:Psychomotor
S:Suicide
5:9項目中5項目以上
…診断項目があること、2週間以上続くことを認識すべし

▢ 更年期うつ病のtips
・更年期にはうつ病が発症しやすい。
・更年期障害の症状を合併していることが多い。
・薬物療法や精神療法が治療の中心。
・HRTは抗うつ効果があり、抗うつ薬の効果増強も見込める。
・閉経後の中高年女性にはSSRIよりもSNRIの方が効果があるという報告あり。

▢ Bio-psycho-social model
(身体的問題)頭痛、食欲不振、関節痛、動悸、等
(心理的問題)抑うつ、イライラ、不安感、不眠、等
(社会的問題)借金、留年、失業、離婚、引っ越し、人間関係トラブル、周りの理解、等

▢ 心理・社会的因子として取り上げるべき項目
1.受診の動機(本人の意思か、家族による勧めか)
2.身体症状に対する患者と家族の受け止め方・対応
3.それまでの治療・経過に対する患者と家族の反応
4.環境、家族構成、生活内容、経済状態の変化(発病時、現在)
5.適応様式(心理的防衛機制を含む)
6.幼児期からの親子関係、友人関係、性格、学歴、職歴、結婚生活など
7.精神的発達段階における出来事と対応
8.ストレスの解消のための方法(趣味、娯楽、スポーツなど)

▢ 心療内科における薬物療法の位置づけ
・ストレス状況場面を乗り越えサポートする。
・身体症状と精神症状の悪循環を断つ。
・心理療法の導入を容易にする。
・使用される薬剤:抗うつ薬、抗不安薬、漢方薬

▢ 更年期障害の精神症状に対する薬物療法
・SSRIやSNRIはホットフラッシュへの効果もある。
・Paroxetine は米国FDAでホットフラッシュに対する非ホルモン療法として認可され、HRT不能例や使用困難な例に対しても使用を考慮することができる。
・更年期女性にはSNRIの方が有効。

▢ まとめ-1
・心身症とストレス、メンタルヘルス→ストレス、心理社会的な影響を考慮
・更年期に認められやすい精神症状→更年期におけるうつ病との鑑別
・精神症状の評価の仕方→医療面接、質問紙などを活用
・女性の生涯におけるメンタルヘルストラブルの相関→PMSや周産期うつ病との関連性
・更年期障害への心身医学的マネージメント→包括的な治療につながる

▢ まとめ-2
・更年期症状/更年期障害としての形でストレスからの影響が出ているのではないか。
・その反応が出たときに、どのようにして対処するのか自分なりの方法を見つけておく。難しい場合には、遠慮せずに周囲に助けを求める。


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更年期障害の漢方治療(更年期指導士レクチャー3)

2023年09月09日 07時47分38秒 | 漢方
「更年期指導士」(日本女性心身医学会主催)
という資格取得のためのセミナー3つ目はいよいよ漢方の出番です。

…しかし期待したほどの内容ではなく、
“広く浅く”知識を得る、程度でした。

<ポイント>
・婦人科三大処方:当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸
・それぞれの方剤の特徴により使い分ける:
(血虚・水滞)当帰芍薬散
(血虚・お血・気逆・気滞・気虚)加味逍遙散
(お血)桂枝茯苓丸


以降は備忘録としてのメモ書き;

▢ 更年期障害の治療法
1.薬物療法
・ホルモン補充療法(HRT)
・漢方薬
・向精神薬(抗うつ薬、抗不安薬)
2.非薬物療法
・生活習慣の改善
・サプリメント
・心理療法

▢ 更年期に使用される三大漢方(処方薬)
(23)当帰芍薬散
(24)加味逍遙散
(25)桂枝茯苓丸

▢ 更年期に使用される市販漢方薬
・当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸、抑肝散
・命の母A、ルビーナ、中将湯…

▢ 更年期症状の出現順序
1.月経不順
2.自律神経失調症状
3.精神神経症状
(ここらへんで閉経)
4.泌尿生殖器の萎縮症状
5.脂質異常症・高血圧
6.骨粗鬆症

▢ 婦人科三大漢方の使い分け(その1)
血虚(→補血) 当帰芍薬散>加味逍遙散>桂枝茯苓丸
お血(→駆お血)桂枝茯苓丸>加味逍遙散
水滞(→利水) 当帰芍薬散>加味逍遙散>桂枝茯苓丸
気逆(→降気) 桂枝茯苓丸>加味逍遙散
気滞(→理気) 加味逍遙散
気虚(→補気) 加味逍遙散

▢ 婦人科三大漢方薬の使い分け(その2)
(23)当帰芍薬散:血虚水滞
(24)加味逍遙散:血虚お血・水滞・気逆気滞気虚
(25)桂枝茯苓丸:血虚・お血・水滞・気逆

▢ 更年期症状による漢方の使い分け例
冷え   → 温経湯、人参養栄湯、十全大補湯
多汗症  → 防已黄耆湯
肥満・便秘→ 防風通聖散
イライラ → 抑肝散
不眠   → 加味帰脾湯、抑肝散
不安感・不眠・動悸→柴胡加竜骨牡蛎湯
頭痛   → 呉茱萸湯、五苓散、戦中茶趙さん
肩こり  → 葛根湯、二朮湯、桂枝茯苓丸
腰痛・関節痛・指の痛み→桂枝か朮舞踏、牛車腎気丸
むくみ  → 五苓散、柴苓湯、防已黄耆湯
倦怠感  → 補中益気湯、人参養栄湯、十全大補湯

▢ 漢方の副作用の注意点(とくに併用の場合)
・甘草:偽アルドステロン症、高血圧、低カリウム血症、むくみ
・麻黄:不眠、多汗、動悸、脱力感
・附子末:心悸亢進、舌のしびれ
・大黄:下痢

▢ 更年期症状への効果が期待される食品・栄養素(サプリメント)
・イソフラボン、ポリフェノール、ビタミンE…
・有効性が明らかなものは存在しない(NCCIH)

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HRT(ホルモン補充療法)の基礎知識(更年期指導士レクチャー2)

2023年09月08日 14時26分55秒 | 漢方
HRTとはホルモン補充療法を意味します。
西洋医学では、更年期障害に対して薬物療法を行う場合、
HRTを検討するのが標準です。
他には精神症状がつらいとき、抗うつ薬も検討します。

さて、小児科医の私にとってなじみのないHRT、
ポイントを整理しておきましょう。

<ポイント>
・更年期障害は閉経に伴うエストロゲン低下による諸症状であり、このエストロゲンを補充して症状の緩和・諸疾患のリスク低下を目的に行うのがHRTである。
・HRTは血管運動神経症状(hot flashおよび発汗)と萎縮性膣炎・性交痛、骨粗鬆症予防・治療、脂質異常症治療にきわめて有効、更年期抑うつに有効であるが、尿失禁治療効果は期待できない。
・HRTには禁忌・慎重投与すべき事例が存在するので、事前に確認が必要。
・HRTによる以下の疾患リスクも事前に十分説明;片頭痛、乳がん、動脈硬化/冠動脈疾患、脳卒中、静脈血栓塞栓症、子宮内膜がん、卵巣がん
・子宮のある患者さんにはエストロゲン+黄体ホルモン、子宮のない患者さんにはエストロゲン単独を投与。

…HRTには血栓症やがんのリスクを高めることは有名で、それを説明されると使用を躊躇しがち、と耳にしたことがあります。その点、漢方薬にはそのようなリスクはなく、受け入れられやすいと感じました。
 それから、HRTは「更年期抑うつ」に有効であるとガイドラインに明記されていることに気づきました。つまり、女性ホルモンは精神心理症状とリンクしていることを認めているのですね。 その点、体と心を分離して発展してきた西洋医学の限界も見え隠れしてきます。
 ここでも“心身一如”という概念で発達してきた漢方医学にメリットを感じました。

 ここからは備忘録としてのメモ書きです;

▢ HRT
・更年期では閉経のエストロゲン低下に伴う症状の緩和や疾患の治療として行う。
・エストロゲン欠落に伴う諸疾患の予防(リスク低下)やヘルスケアを目的に使用する。

▢ HRT開始に際して
・更年期であることを確認する。
・エストロゲン欠落症状で困っていてHRT希望の有無を確認する。
・治療目的か、予防目的かを確認する。
・禁忌や慎重投与例でないことを確認する。
・リスクとベネフィットについて説明する。

▢ HRTの目的
・VMS(vasomotor syndrome、血管運動症状)である発汗やのぼせ症状の改善。
・外陰・膣萎縮症状の改善
・抑うつの改善
・ヘルスケアや予防も目的か。

▢ HRTの有用性とヘルスケアへの利用(ホルモン補充療法ガイドライン2017より)
(凡例)
 A+:有用性が極めて高い
 A :有用性が高い
 B :有用性がある
 C :有用性の根拠に乏しい
 D :有用ではない

・血管運動神経症状   → A+
・更年期の抑うつ    → A
・それ以外の更年期症状 → B
・アルツハイマーの予防 → B
・尿失禁の治療     → C
・萎縮性膣炎・性交痛  → A+
・骨粗鬆症予防     → A+
・骨粗鬆症治療     → A+
・脂質異常症治療    → A+
・動脈硬化の予防    → B
・皮膚萎縮の予防    → A
・口腔不快症状     → B

(保険収載)
1.更年期障害及び卵巣欠落症状に伴う血管運動神経症状(hot flashおよび発汗)
2.閉経後骨粗鬆症

▢ HRTの禁忌
・重度の活動性肝疾患
・現在の乳がんとその既往
・現在の子宮内膜がん、低悪性度子宮内膜間質肉腫
・原因不明の不正性器出血
・妊娠が疑われる場合
・急性血栓性静脈炎または静脈血栓塞栓症とその既往
・心筋梗塞および冠動脈に動脈硬化性病変の既往
・脳卒中の既往

▢ HRTの慎重投与ないし条件付きで投与が可能な症例
・子宮内膜がんの既往
・卵巣がんの既往
・肥満
・60歳以上または閉経後10年以上の新規投与
・血栓症リスクを有する場合
・冠攣縮および微笑血管狭心症の既往
・慢性肝疾患
・胆嚢炎および胆石症の既往
・重度の高トリグリセリド血症
・コントロール不良な糖尿病
・コントロール不良な高血圧
・子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症の既往
・片頭痛
・てんかん
・急性ポルフィリン症
・SLE(全身性エリテマトーデス)

▢ HRTに予想されるリスク
・片頭痛
・乳がん
・動脈硬化/冠動脈疾患
・脳卒中
・静脈血栓塞栓症
・子宮内膜がん
・卵巣がん

▢ HRTと乳がんリスク
・HRTが乳がん発症リスクを高める程度はわずか。
・HRTによる乳がんリスクは、アルコール摂取、肥満、喫煙といった生活習慣関連因子によるリスク上昇と同程度かそれ以下。
・乳がんの家族歴の聞き取りは必要。
・乳がんリスクはHRTを中止すると低下する。
・HRT施行中は毎年乳がん検診を勧める。

▢ HRTに期待されるベネフィット
・ホットフラッシュを緩和する。
・骨密度を増加させる。
・抑うつ気分・抑うつ症状を改善する。
・上腕動脈の血管内皮機能を改善する。
・アルツハイマー病発症のリスクを低下させる可能性がある。
・閉経後女性の反復性尿路感染症の予防にはエストロゲンの膣内投与が有効である。
・性器萎縮とそれに関連した性交痛に対し効果がある。
・食道がん、胃がん、大腸がんのリスクを低下させる。

▢ HRT投与前検査(ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版より)
・必須項目
 ✓血圧、身長、体重
 ✓採血:血算、生化学検査(肝機能、脂質)、血糖
 ✓内診および経腟超音波診断、子宮頚部細胞診(1年以内)
 ✓子宮内膜がん検査
 ✓乳房検査(マンモグラフィー、乳房超音波検査)
・選択項目
 骨量測定、心電図、腹囲、採血:追加の生化学検査、凝固系検査、
 甲状腺検査、ホルモン検査(FSH、E2)、心理テスト

▢ ホルモン製剤の選択
・基本はエストロゲン
・子宮のある患者には黄体ホルモンを必ず併用;
 ✓子宮体がんのリスクがあるため
 ✓黄体ホルモン投与期間:10日以上/4週間
・外陰・膣萎縮症状の診であれば極力、局所療法を選択する。

▢ ホルモン製剤の製品名
1.エストロゲン製剤
(結合型エストロゲン)プレマリン錠
(17β-エストラジオール)ジュリナ錠、エストラーナテープ、ル・エストロジェル、ディビゲル
(エストリオール)エストリール、ホーリンV膣錠
(17β-エストラジオール+酢酸ノルエチステロン)メノエイドコンビパッチ
2.黄体ホルモン製剤(子宮のある方は必ず併用)
(メドロキシプロゲステロン酢酸エステル)プロベラ
(ジドロゲステロン)デュファストン
(天然型微粒子化プロゲステロン)エフメノ

▢ HRT投与開始後に予想される有害事象…定期的なチェックが必要
・不正性器出血
・乳房痛
・片頭痛
・乳がん
・動脈硬化・冠動脈疾患
・脳卒中
・静脈血栓塞栓症
・子宮内膜がん
・卵巣がん

▢ HRT終了の目安
・HRTの継続を制限する一律の年齢や投与期間はない(HRTガイドライン2017年版)。
・漸減法が中断法よりも推奨されるという明確な根拠はない(同上)。
 …HRTをいったん中止して症状が再燃した場合には早期に再開する。
・HRT終了後も5年目までは子宮がん検診・乳がん検診を勧める。

▢ 安全にHRTを行うための注意点
・症例ごとに予防目的か、治療目的化を認識する。
・治療対象は①血管運動症状、②萎縮性膣炎、③更年期症状の一部
・投与量は最少、投与期間は最短にする。
・子宮摘出後にはエストロゲン単独投与を行う。
・閉経移行期の出来るだけ早期に治療を開始する。
・長期HRT使用例では中止にする必要はないが、
 乳がんのリスクが増えることを伝え、乳がん検診は毎年行う。
・治療中・後も毎回問診や症状を聴取し、定期的な検査管理を行う。
・長期治療などはHRTに慣れている女性ヘルスケア専門医と相談する。

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更年期障害の基礎知識(更年期指導士レクチャー1)

2023年09月04日 15時27分39秒 | 漢方
漢方のブログなのになぜ更年期?
と思われる方が多いと思われますが、
実は更年期障害は漢方薬の得意分野なのです。

思春期医療を追及すると女子の月経関連トラブルを避けることができず、
月経痛・月経困難症・月経不順・月経前症候群、等を調べていたら、
漢方治療が役立つことがわかりました。
それに派生して、更年期障害でも同じ漢方薬を使うこともわかり、
それなら手を広げてお母さん方の更年期障害も診療しよう、
と思い立ちました。

そしてタイミングよく日本女性心身医学会が「更年期指導士講習会」という資格を立ち上げたことを知り、
その資格を得るべくWEB講習に申し込みました。
5つの講習を受けて問題に解答し合格したら資格取得…
と思いきや、「ただし学会員に限る」という条件がありました。
さすがに小児科医の私は日本女性心身医学会に入会する気が起こらず、
講習を受けるだけになってしまいました。

まあ、お金も払ってしまったし、
何かで相談を受けたときに役立つと思われ、
このまま講習を受けることにしました。

第一回は更年期障害の基礎知識です。
講師は小川真理子先生(東京医科歯科大学)。

ポイントをメモっておきます。

<ポイント>
・現代社会では“更年期ロス”が問題になっており、更年期離職による経済損失は年間4200億円。
・更年期障害と思い込む前に、別の疾患が隠れていないか検証することが重要。
・とくに甲状腺機能異常、鉄欠乏性貧血、うつ病の鑑別が必要。
・更年期は女性ホルモン(主にエストロゲン)が激減することにより発症する。
・エストロゲン受容体は全身に分布するため、更年期症状も多岐にわたる。
・更年期障害は代表的な心身症の一つ。
・更年期以降は骨粗しょう症と高脂血症に注意。
・薬物療法として西洋医学ではホルモン補充療法、抗うつ薬が行われ、漢方療法も多用されている。

更年期ロス
・更年期症状のために、以下のエピソードを経験した女性は15.3%。
 ✓仕事を辞めた。
 ✓雇用形態が変わった。
 ✓労働時間や業務量が減った。
 ✓降格した。
 ✓昇進を辞退した。
・更年期症状のために、仕事を辞めたり、
辞めることを検討した人が多い。
・女性の更年期離職による経済損失は年間4200億円。

 更年期障害診断のポイント
1.更年期に発症。
2.原因となる明らかな疾患がない。
3.症状で日常生活に支障が生じている。

▢ 女性のライフサイクルと健康トラブル・疾患
(幼児期)特になし
(思春期)月経不順、月経痛、卵巣機能不全
(性成熟期)性感染症、不妊症、子宮内膜症、子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮頸がん、乳がん
(更年期)更年期障害、子宮体がん、卵巣がん
(老年期)骨粗しょう症、動脈硬化、認知症

 閉経・更年期・更年期障害の定義(産婦人科用語集・用語解説集 第4版)
閉経:12か月以上の無月経。
更年期:最終月経の前後5年、合計10年間。
※ 最終月経は12か月経過しないとわからない。振り返って判断することになる。
更年期障害:更年期に現れる多種多様な症状の中で、
器質的変化に起因しない症状を更年期症状と呼び、
これらの症状の中で日常生活に支障をきたす病態を更年期障害と定義する。
※ 海外には「更年期」という単語がないらしい。

▢ 女性ホルモンの動態(性成熟期)
(卵胞期)卵胞から主にエストロゲンが産生・分泌
(排卵)卵胞が黄体に変化する
(黄体期)黄体からエストロゲンとプロゲステロンが産生・分泌
(月経)エストロゲンとプロゲステロン産生が激減

 エストロゲン受容体の分布
・エストロゲン受容体は全身に分布している
(例)脳、心臓、肺、乳腺、副腎、腎臓、卵巣、卵管、子宮、膀胱、骨
→ このため様々な症状が発生する。

男性の更年期障害も存在する
・女性は50歳を境にエストロゲンが急減→ 更年期障害
・男性は50歳を境にテストステロンが漸減する→ 緩やかな症状発現
※ 男性でもエストロゲン、女性でもテストステロンは少量分泌されている。

様々な更年期症状
・血管運動神経症状:ほてり、汗、動悸、冷え
・精神的症状:うつ、不安、情緒不安定、イライラ、不眠、やる気が出ない
・泌尿生殖器症状:尿漏れ、頻尿、性交痛
・その他:肩こり、めまい、腰痛、頭痛
…種類は300種類以上で、症状の出るパターンは人それぞれ(表現型は無限)。

▢ 日本人女性の更年期症状評価表
1.顔や上半身がほてる(熱くなる)
2.汗をかきやすい
3.夜なかなか寝付かれない
4.夜眠っても目を覚ましやすい
5.興奮しやすく、イライラすることが多い
6.いつも不安感がある
7.ささいなことが気になる
8.くよくよし、ゆううつなことが多い
9.無気力で疲れやすい
10.目が疲れる
11.物事が覚えにくかったり、物忘れが多い
12.めまいがある
13.胸がドキドキする
14.胸がしめつけられる
15.頭が重かったり、よく頭痛がする
16.肩や首がこる
17.背中や腰が痛む
18.手足の節々(関節)の痛みがある
19.腰や手足が冷える
20.手足(指)がしびれる
21.最近、音に敏感である
※ 日本産科婦人科学会 生殖・内分泌委員会:日産婦誌,53(3)883-888, 2001

 更年期障害の鑑別診断
(症状全般)うつ病、甲状腺機能異常、心身症
(倦怠感・意欲低下)肝機能障害、貧血
(動悸)貧血
(めまい)メニエール病、貧血
(指のこわばり)関節リウマチ、変形性関節症、へバーデン結節など
(頭痛)脳腫瘍、薬剤誘発性頭痛
(腰痛)椎間板ヘルニア
(膝痛)変形性膝関節症
(ホットフラッシュ)カルシウム拮抗薬服用、自律神経失調症
※ 女性更年期外来診療マニュアルより

甲状腺機能異常
・女性に多い
(男女比)
 橋本病  1:10~30
 バセドウ 1:3~5
・海外の報告では、42~52歳女性の10人に1人が罹患
・症状
 ✓月経不順・無月経
 ✓睡眠障害
 ✓疲労感
 ✓気分の落ち込み
 ✓物忘れ
 ✓イライラ
 ✓躁状態
 ✓動悸
…etc.

鉄欠乏性貧血の多彩な症状
倦怠感、意欲低下、集中力低下、認知機能低下、活動量低下、動悸、息切れ
異食症、食氷、爪の変形(匙状爪)、口角炎、胃炎、むずむず脚症候群

うつ病
・女性のうつ病有病率は男性の2倍
・女性のうつ病好発時期:産褥期、黄体期(月経前)、更年期
・「更年期うつ」でも専門医の診療が必要
・精神科受診を勧めるポイント:
 ✓自殺念慮
 ✓うつ病の診断に迷ったとき
 ✓SSRIやSNRIで効果がない
 ✓重症のうつが考えられるとき
 ✓双極性障害が考えられる
 ✓精神病性の特徴がある
 ✓本人が精神科受診を希望

心身医学 Psychosomatic medicine
患者を身体面とともに心理面、社会面(生活環境面)をも含めて、
総合的・統合的に診ていこうとする医学

心身症 Psychosomatic disorder(PSD)
身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し、
器質的ないし機能的障害が認められる状態。
ただし、神経症やうつ病など、他の精神障害に伴う身体症状は除外する。
→ 更年期障害は、代表的な女性心身症の一つ

▢ 更年期障害の治療
・非薬物療法
 ✓生活習慣改善、サプリメント
 ✓カウンセリング、心理療法
・薬物療法
 ✓ホルモン補充療法(HRT)
 ✓漢方療法
 ✓抗うつ薬(SSRI/SNRI)

▢ 日本人の平均寿命と健康寿命(平成30年)
(女性)
・平均寿命:87.14歳
・健康寿命:74.79歳
・平均寿命ー健康寿命:12.35年
(男性)
・平均寿命:80.98歳
・健康寿命:72.14歳
・平均寿命ー健康寿命:8.84年
人生の最後約15%を要介護状態で過ごすことになる。

▢ 更年期以降の女性で特に注意したい病気
・骨粗しょう症
・高脂血症

▢ 介護が必要になったキッカケ
(第一位)認知症
(第二位)脳卒中←高脂血症
(第三位)骨折・転倒←骨粗しょう症

 女性の生涯における骨密度の変化
・生後漸増して二十歳でマックス(最大骨量 peak bone mass)
・以降、50歳までプラトー
・50歳以降に漸減
・更年期以降は骨折危険域まで低下していく
※ 若いときに痩せていて無月経の経験のある女性は最大骨量も少ないので、
 更年期以降容易に骨折しやすい、一度骨健診を!

▢ 脂質異常症の末路
悪玉コレステロール上昇
→ 動脈硬化
→ 心筋梗塞、脳卒中

▢ 更年期以降の慢性疾患予防を考えた食事
・骨粗しょう症予防:骨に必要な栄養素を摂取
 カルシウム、ビタミンD/K/C/B、マグネシウムなど
・脂質異常症予防:
 食物繊維、青魚を増やす
 総カロリー、アルコール、動物性脂肪を減らす

▢ 慢性疾患予防を考えた運動
1.有酸素運動:週150分以上
・速歩、ジョギング、スロージョギング
・自転車
・水泳
・エアロビクス
・ベンチステップ運動など
2.レジスタンス運動(筋トレ):週2回以上
・ダンベル
・マシンなど

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