私は小児科医ですが、
近年、西洋医学の鼻水止め(※)がだんだん使用されなくなってきていることを実感しています。
※ 抗ヒスタミン薬・・・例:ペリアクチン
理由の一つは「熱性けいれんが起きやすくなる」というデータがあること。
「市販のかぜ薬を飲むと眠くなる」人が一定数います。
これは鼻水止め成分による副作用です。
そして眠くなる状態では、熱性けいれんを起こしやすくなるのです。
ですから、そのリスクをあらかじめ避けようという考え。
もっとも、日本人で熱性けいれんを起こすのは7-8人に1人の割合、
まあ賛否両論あり、添付文書には「子どもに使ってはいけない」とは書いてありません。
代わりに抗アレルギー薬を処方する医師が増えてきました。
つまり、風邪を引いて鼻水が出て医院を受診すると、
もれなくアレルギー性鼻炎の薬が処方されるわけです。
近隣の耳鼻科医院では、抗アレルギー薬の中でも抗ロイコトリエン拮抗薬を一緒に処方しています。
これはもともと喘息の治療薬ですが、鼻閉にも効くとされています。
しかし小児の鼻閉には適応はありません。
というわけで、風邪を引いて鼻水が出て耳鼻科を受診すると、
もれなくアレルギー性鼻炎と喘息の薬が処方されます。
診断名も「かぜ」だけではなく「アレルギー性鼻炎」「気管支喘息」となっているはず。
・・・全国的かどうかは不明です。
さて、私は漢方薬が好きなので、鼻汁・鼻閉には漢方薬の使用を提案しています。
なぜって“効く”からです。
とくに鼻閉への効果は手応えがあり、西洋薬では期待できないレベルです。
私の鼻水・鼻閉に対する漢方処方を大まかに書くと、
(水様鼻汁)小青竜湯
(白色鼻汁)葛根湯加川芎辛夷
(黄色鼻汁)辛夷清肺湯
(緑色鼻汁)柴胡清肝湯
という使い分けになります。
これに随時、喉の炎症を鎮める柴胡剤を併用します。
すると、耳鼻科で抗生物質漬けになっていた子どもの半分以上がよくなります。
(残念ながら全員ではありません)。
効果を100%に近づけるため、日々研究中です。
以前から気になってきたことがあります。
それは「咳の続く子ども」で副鼻腔炎と診断される例。
風邪症状から始まり、
風邪ならふつう1〜2週間で治りますが、
その後も咳が治まらない。
最初はかぜ薬を使用するも手応えなく、
長引くとマイコプラズマを考えてマクロライド系抗菌薬を使用するも手応えなく、
さらに抗喘息薬を使用しても手応えなく…
このタイミングで結核などの病気がないかどうか調べてもらうために病院を紹介すると、
「副鼻腔炎でした」
という返事が返ってくることが少なからずあるのです。
そして治療は「抗菌薬1か月投与で解決した」との報告。
しかし患者さんは鼻汁・鼻閉症状を訴えていません。
症状が治まれば結果オーライですが、
長期の抗菌薬投与は腸内細菌叢を乱します。
ある報告では、
「抗菌薬投与により腸内細菌叢の善玉菌が1/3に減り、回復までに半年かかる」
らしいです。
このような患者を抗菌薬なしで治療できないものか…
そこで思いついたのが排膿散及湯という漢方薬です。
副鼻腔炎(=ちくのう症)とは、
鼻につながっている空洞に炎症が起きて膿がたまる状態です。
その膿を出すことができないだろうか?
ただ、単独で有効とは思えないので、
自分が処方している上記のエキス剤と併用できないかと模索していたところに、
以下の記事が目に留まりました。
私にとってのポイント;
・鼻閉が強いときは葛根湯加川芎辛夷+辛夷清肺湯の併用可
・化膿が強いときは排膿散及湯+辛夷清肺湯の併用可
・鼻汁が前に流れるときは葛根湯加川芎辛夷、後鼻漏が多いときは辛夷清肺湯がベター。
・葛根湯加川芎辛夷は温薬が主、辛夷清肺湯は寒薬が主。
・副鼻腔炎の初期は葛根湯加川芎辛夷+桔梗石膏、慢性期には荊芥連翹湯
一箇所だけ排膿散及湯が登場しました。
辛夷清肺湯との併用が可能とのこと、是非試してみたいと思います。
■ 鼻汁、鼻閉に対する漢方薬の使い方
(2024年1月17日:m3.com)より抜粋;
・・・
<Tips>
・花粉症に漢方薬を使用する場合は、冷えの有無、炎症の程度、胃腸の具合を確認する必要がある
<よく処方する漢方薬の詳細>
(↑:体を温める生薬、↓:体を冷ます生薬、㊟:副作用に特に注意する生薬)
葛根湯加川芎辛夷<出典:本朝経験方>
◆ 構成生薬
葛根(かっこん)↓、麻黄(まおう)↑㊟、桂皮(けいひ)↑、芍薬(しゃくやく)↓、大棗(たいそう)↑、甘草(かんぞう)㊟、生姜(しょうきょう)↑、辛夷(しんい)↑ 川芎(せんきゅう)↑
◆ 特 徴
・葛根湯+川芎・辛夷の構成(葛根以外は熱薬であり冷えによる悪化を改善する)
・感冒に鼻汁を伴う場合は葛根湯よりもこの方剤を選択する
・感冒やアレルギー性鼻炎による鼻閉では即効性が期待できる
・副鼻腔炎による鼻閉・鼻汁にも対応できるが、鼻汁は水様性から軽度粘稠程度である(水様鼻汁が多いときは小青竜湯)
・抗ヒスタミン薬のような眠気の誘発はないため自動車の運転も問題はない
◆ 身体所見(四診)
肩こり、水様性鼻汁
◆ 各社の漢方薬と適応症
ツムラ、クラシエ:鼻づまり、蓄膿症、慢性鼻炎
コタロー:蓄膿症、慢性鼻炎、鼻閉
◆ Tips
・熱湯に溶いて服用すると効果的
・鼻閉が強いときは桔梗石膏や辛夷清肺湯を併用する
→葛根湯加川芎辛夷3包+桔梗石膏2~3包/日
→葛根湯加川芎辛夷3包+辛夷清肺湯3 包/日(より効果が強い)
→葛根湯加川芎辛夷3包+桔梗石膏2~3包/日
→葛根湯加川芎辛夷3包+辛夷清肺湯3 包/日(より効果が強い)
・鼻閉解消のため運動前にも使用できるが、ドーピング検査の対象となるアスリートは服用できない(麻黄のためドーピング陽性となる)
・鼻汁は後鼻漏ではなく鼻腔から流れる(後鼻漏が多いときは辛夷清肺湯を使用することが多い)
・麻黄を少量含むため胃腸虚弱者や高齢者には注意
辛夷清肺湯<出典:外科正宗>
◆ 構成生薬
石膏(せっこう)↓、麦門冬(ばくもんどう)↓、黄芩(おうごん)↓㊟、山梔子(さんしし)↓㊟、知母(ちも)↓、百合(びゃくごう)↓、辛夷↑、枇把葉(びわよう)↓、升麻(しょうま)↓
◆ 特 徴
・石膏・知母で非常に強力な消炎効果、黄芩・山梔子で消炎効果があり、辛夷以外寒薬で冷やす作用が強い(葛根湯加川芎辛夷は温薬が主)
・炎症が強い副鼻腔炎に使用する
・後鼻漏が多く、膿性鼻汁(粘稠で黄色い鼻汁)。透明な粘稠痰がある場合に有効。
◆ 身体所見(四診)
・後鼻漏、粘稠痰
・膿性鼻汁、黄色い鼻汁
・口渇
◆ 各社の漢方薬と適応症
ツムラ、クラシエ、コタロー:鼻づまり(鼻閉)、慢性鼻炎、蓄膿症
◆ Tips
・化膿が強いときは排膿散及湯を併用する
→辛夷清肺湯3包+排膿散及湯3包/日
→辛夷清肺湯3包+排膿散及湯3包/日
・鼻閉が強いときは、葛根湯加川芎辛夷と併用する
→辛夷清肺湯2~3包+葛根湯加川芎辛夷2~3包/日
→辛夷清肺湯2~3包+葛根湯加川芎辛夷2~3包/日
・鼻茸にも使用できる
・原典の「外科正宗」では甘草が配合されているが、エキス剤では甘草を除いた「浅田宗伯の処方」となっている
荊芥連翹湯<出典:一貫堂創薬>
◆ 構成生薬
黄連(おうれん)↓、黄芩↓㊟、黄柏(おうばく)↓、山梔子↓㊟、当帰(とうき)↑、川芎↑、芍薬↓、地黄(じおう)↓、柴胡(さいこ) ↓ 枳実(きじつ)↓、桔梗(ききょう)、荊芥(けいがい)↑、薄荷(はっか)↓、白芷(びゃくし)↑、防風(ぼうふう)↑、連翹(れんぎょう)↓、甘草㊟
◆ 特 徴
・温清飲〔黄連解毒湯(消炎解熱)+四物湯(補血)〕+連翹で抗化膿炎症効果があり、荊芥で風熱や表の邪を除く
・鼻炎・扁桃炎・中耳炎・上顎洞化膿症に使用できる
・副鼻腔炎の慢性期に使用(初期は葛根湯加川芎辛夷+桔梗石膏を選択)
・アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患にも使用することが多い
◆ 身体所見(四診)
・手のひらや足底に脂汗をかくことがある
・皮膚が浅黒い印象
・心窩部で腹直筋が緊張
◆ 各社の漢方薬と適応症
ツムラ:蓄膿症、慢性鼻炎、慢性扁桃炎、にきび
◆ Tips
・飲みにくいときは冷やして飲むとよい
・森道伯の一貫堂医学の解毒体質(やせ型、皮膚は浅黒く乾燥)に使用
・青年のにきびや酒皶にも効果ある
・・・
越婢加朮湯<出典:金匱要略>
◆ 構成生薬
石膏↓、麻黄↑、蒼朮(そうじゅつ)↑、大棗↑、甘草㊟、生姜↑
◆ 特 徴
・麻黄+石膏で炎症と浮腫を改善する(抗炎症効果)
・花粉症で目が痒い(アレルギー性結膜炎)ときに即効性がある
・花粉症の鼻閉にも効果あり
◆ 身体所見(四診)
・アレルギー性結膜炎(眼の痒み)
・胃腸は丈夫、口渇
◆ 各社の漢方薬と適応症
ツムラ:腎炎、ネフローゼ、脚気、関節リウマチ、夜尿症、湿疹
コタロー:腎炎、ネフローゼ、湿疹、脚気
◆ Tips
保険適用病名に注意!
麻黄の含有量が多く(2 g/包)、麻黄の副作用に注意が必要。特に高齢者、心疾患、前立腺肥大症には注意
ドーピング検査の対象となるアスリートでは注意
麻黄附子細辛湯<出典:傷寒論>
◆ 構成生薬
麻黄↑、附子(ぶし)↑、細辛↑
◆ 特 徴
・麻黄・附子・細辛ともに温性であり、冷えによる症状を改善する
・冷えの強い場合のアレルギー性鼻炎に有効
・水様性鼻汁、くしゃみに対して有効
◆ 身体所見(四診)
・脈沈弱、顔色不良
・冷えが強い
◆ 各社の漢方薬と適応症
ツムラ:感冒、気管支炎
※コタローエキスカプセル:ツムラと同じ
◆ Tips
・熱湯に溶いて、1日目は4~5回温服する。カプセル剤は通常の服用で可
・効果は即効性あり(頓用で効果あり)
→小青竜湯1包+麻黄附子細辛湯カプセル1カプセル、頓用
→小青竜湯1包+麻黄附子細辛湯カプセル1カプセル、頓用