漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

「高齢者の低栄養化」を考える。

2017年01月28日 06時38分24秒 | 漢方
 葛谷 雅文先生(名古屋大学大学院医学系研究科 地域在宅医療学・老年科学分野教授)によるMedical Note掲載記事を読みました。
 もともと動脈硬化とコレステロールの関係性など「過栄養」を中心に研究をしていた葛谷先生。しかし、世間で過栄養への啓発が活況になる中、低栄養で苦しむ高齢者がたくさんいることに気がつき、「高齢者の低栄養」について研究するようになったそうです。

 最近糖質制限食に興味を持ち、プチ糖質制限をしている私の中に「和食は本当に健康によいのだろうか?」という素朴な疑問が生まれつつあります。
 記事は私の疑問の一部に答えてくれる内容でした。
 葛谷先生は「粗食が過ぎると低栄養化し、健康を損なう」「65歳まではメタボ対策を、75歳以上から低栄養対策を推奨」と記しています。

<備忘録>

■ 「飽食の時代」に忍び寄る高齢者の低栄養2017.1.24
・高齢者が低栄養化してしまう原因の1つは、高齢者が何らかの理由で十分な量の食事を摂れていないこと。
・加齢によって消化管の動きがやや鈍る程度のことはあっても、「慢性胃炎」などの消化器疾患を持たず、健康な方であれば消化機能が極端に弱まるということはない。
・1人暮らしの高齢者や、要介護認定を受けた配偶者の介護をしている高齢者の場合、自分の健康にあまり意識が向かず、食事がおざなりになってしまうことも多い。
・理由はわからないけれど「食べれない・食べる気がしない」という食欲不振から、クリニックなどを訪れる高齢者が多い。しかし、「食欲不振」の原因を解明するのは思いのほか難しく、地域の開業医の先生方も頭を抱えている。
・入院して検査すると、癌やうつ病などの「隠れた病気」が見つかったり、ふだん飲んでいる「薬の副作用」が見つかることがある。

■ メタボリックシンドロームと低栄養2017.1.24
・「お年寄りは高カロリーなものより粗食を食べる方が長生きする」という主張に医学的な根拠はない。むしろ、粗食を続けていると十分な栄養を摂れず低栄養化し、むしろ不健康になってしまう可能性がある。
・メタボリックシンドローム(過栄養)と低栄養は対極にあるが、メタボ対策の食事が低栄養の原因になり得る。
・「コレステロール恐怖症」も問題である。近年、「コレステロールは怖くない」と以前と反対の考え方に変わってきた。日本動脈硬化学会は「冠動脈疾患の無い75歳以上の方にとってコレステロールを低下させる意義があるかは明らかでない」という報告をしており、高齢になると、たとえコレステロール値が高くても、動脈硬化を起こすリスクそのものが下がる可能性がある。つまり「コレステロール値が高いから肉や卵を控えなさい」というアドバイスは最新医学のエビデンスによると間違いである。
 ただし、既に動脈硬化性疾患(狭心症や、心筋梗塞など)に既に罹患した方は、後期高齢者になってもコレステロールを下げる必要があり話が別。
・65歳まではメタボ対策を、75歳以上から低栄養対策を本格的に意識することを推奨。
・サプリメント信仰はほどほどに。栄養剤・ビタミン剤をはじめとするサプリメントの服用が栄養状態を改善するのかというと、必ずしもそうとはいい切れない。サプリメントのように純化した栄養素と違って、食材に含まれる栄養素は他の複数の栄養素と互いに相互作用を起こして、体に効果を発揮している可能性もある。一番理想的なのは食材から栄養を摂ること。

■ 高齢者にとってベストな栄養状態とは?-低栄養化を防ぐセルフチェック2017.1.25
・毎日の体重チェックを習慣づけ、心当たりのない増減に遭遇したら医師に相談すべし。
・BMI(Body Mass Index)の過信は禁物。高齢者はは若いときに比べて身長がちぢんでいることが多い。
・入院すると以下のような「栄養アセスメント」が行われる;
「主観的包括的アセスメント(SGA=subjective global assessment)」
「簡易栄養状態評価(MNA=Mini Nutritional Assessment)」
 ・・・残念ながら外来で行う便利な栄養アセスメント方法はない。
・生命予後は「やや小太り」がベスト-「オベスティパラドックス」。厚生労働省が5年ごとに出している「日本人の食事摂取基準」では生命予後がもっともよい状態をBMIの数値で表現すると日本人の場合、下記の通り:
 18〜49歳:18.5〜24.9
 50〜69歳:20〜24.9
 70歳以上:22.5〜27.4
※ BMIはBMI=体重(kg)÷(身長(m)×身長(m))で算出。
・肥満の基準は国によって異なり、日本の肥満学会では、成人の場合BMIが25以上の方を肥満であると定めている。欧米諸国の場合は30以上を肥満といい、25以上は単に「過栄養」と呼ばれる。
・BMIを過度に気にして上記の範囲であるのにダイエットする必要はないが、脂肪を減らし、筋肉をつけ、身体の素性を変えるようなダイエットであればむしろ望ましい。具体的には、食事を減らして減量するのではなく、食事はそのままに、運動をきちんと行うダイエット。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

子どもの心と体を守る「冷えとり」養生(今津 嘉宏 先生)

2017年01月09日 08時18分36秒 | 漢方
2016年、青春出版社



新聞などメディアへの露出が多い先生の著書です。
小児科関係のことも書いているのですが、小児科医の私にとって今ひとつピンと来ない思ったら・・・実は彼、外科医だったのですね(^^;)。
この本は「漢方」「子ども」のキーワード検索でヒットしたので、購入して読んでみました。

子どもが体の不調を訴えたとき、そのベースに「冷え」があることが多いとし、その対処法としての温め方にはコツがあり、幼稚園児・小学生・中学生と年齢別に、日常生活の中で行える具体的な方法を示しています。

ふむふむ、こんな視点もあるんだ・・・と感心しながら読み終えました。
エビデンスレベルではなく、多くは彼の経験から語られている一般読者向けの内容です。
ちょっと物足りないと感じる一方で、日々の診療に役立ちそうな情報も豊富(^^)。

*******************<備忘録>*******************

□ 冷える部位の順番は、手足→ 下半身→ お腹
冷えは体の末端や下半身から徐々に上の方へ上がってくる。
大元は体にかかるストレスで、それに対して人体は命を守るために体温を保つべく熱エネルギーを逃がさないように交感神経を緊張させて末端の血管を収縮させる。
すると手足の冷えが出現する。
さらにストレスがかかり交感神経緊張が進むと、下半身まで冷えてくる。
さらにさらに大きなストレスが加わるとお腹まで冷えてくる。
腹部は重要な臓器(肝臓・腎臓・膵臓)がある場所なので、ここが冷えるということは人体にとって大問題である。

□ 「手を擦り合わせれば、あたたかくなる」ということを、今の子どもの多くは知らない。
衣服が体温をコントロールするためのものだと言うことをわかっていない。
世の中が便利になり、基本的なことを学習する機会が少なくなったため。親があえて教える必要がある。

□ 「爪を噛む」「貧乏揺すり」「舌打ち」「身近なものに当たる」は子どもの発するストレスサイン。
子どもはストレスを感じたときに、心の中のそのイライラを何とか大人へ伝えようと、子どもなりに様々な方法を試みる。
親が子どものストレスのサインに気づいたときは、まずは子どもの目を見て子どもの肌に触れてあげるとよい。
言葉はいらない。
毎日伊スキンシップすることで、子どものストレスは徐々に消えていく。
温めることで、リラックス時に優位となる副交感神経が活発に働き出すため、ストレスの解消につながる。

□ 幼稚園児は「消化管」と「服装」で温める。
幼い子どもたちは、筋肉も皮下脂肪もまだ未発達なため、熱をうまく蓄えることができまい。そのため「熱しやすく冷めやすい」状態にある。このため体温調節が難しく、服を着せたり脱がせたりを頻繁に繰り返す必要がある。
そのためには「重ね着」が基本になる。
重ね着させるときには「動きやすさ」にも注意を払う。
体の外から温める方法が衣類とすると、体の中から温める方法は消化管を使うとよい。

※ 大人の体は「魔法瓶」
大人は体の芯が筋肉や皮下脂肪などで守られていて、これらが断熱材の働きをしているため、熱が外に逃げにくく、また外界の気温の影響も受けづらくなっている。
例えて言えば魔法瓶で、子どもと比較して「熱しにくく冷めにくい」。

※ 汗対策としての肌着の注意点
吸水性・吸湿性のよい肌着を選ぶ。天然素材の木綿でできた肌着がベスト。
最近では発熱素材の下着も登場しているが、中には汗をほとんど吸わないために汗が籠もって、その汗で体が冷えてくるものもあるので注意が必要である。

□ 小学生は「食事」と「運動」で温める。
腸内細菌のバランスを整えるための学習が可能となるので、「食事」に重点を置き体を温める。
具体的には、単純に深部体温より温かい温度のものをとればよい。
腸内細菌のバランスを取るためには、食物線維を1日に20gを目安に摂取する。
飲む水は冷水や氷水よりも常温の水がよく、さらによいのは白湯(さゆ)。
体温よりも高い温度の白湯を飲ませて消化管をじんわりと温めるよい。

朝ご飯に温かいものを食べさせることも効果的。
よい目覚めには朝日を浴びることと朝ご飯を食べて覚醒スイッチを入れることが大切。

※ 人間と共生する細菌
ヒトの体には約150兆個以上の菌が生息している。それらの菌は皮膚や泌尿器などさまざまな場所で生息しているが、そのうち70%以上の約100兆個が腸管に住み着いており、その種類は500〜1000種類以上にも登るとされている。
子どもの腸内細菌の種類が決まるのは生後3ヶ月頃で、一度決まった腸内細菌の種類はその後一生変わらない。

※ 腸内細菌の働き
人間の力では消化吸収できないものを腸内細菌が消化吸収してエネルギーに変えてくれる。オリゴ糖やセルロースは人間の消化管では消化吸収することができず、腸内細菌の力を借りることでエネルギー源として吸収可能になる。
腸内細菌が食物線維をオリゴ糖と単糖に分解し、ここに発酵が加わって酢酸、プロピオン酸、酪酸となることで、はじめて食物線維は有効なエネルギー源となる。
腸内細菌は人間の力ではつくることのできないビタミン(B3:ナイアシン、B5:パントテン酸、B6:ピリドキシン、B9:葉酸、B12、Kなど)を造ってくれる。

※ 食物線維と食品
野菜ならどれでも食物線維が豊富とは限らない。見分けるポイントは「煮込む」こと。「煮込むと溶けてしまう野菜は食物線維が少ない」。
ほうれん草やタマネギは少なく、煮崩れしないゴボウや海藻類には豊富。

※ 水溶性食物線維と不溶性食物線維
水溶性:不溶性=1:2の摂取がオススメ。
・水溶性食物線維:当分や脂肪の吸収をゆるやかにしたり、お腹の満腹感を長続きさせる効果がある。
(例)かんぴょう、抹茶、カレー粉、ココア、豆類、ワカメ/メカブなどの海藻類
・不溶性食物線維:腸を刺激して便通を促進したり、腸内の有害物質を体の外に出す働きがある。
(例)海苔/寒天などの海藻類、シイタケ/マッシュルーム/エノキなどのキノコ類、ゼンマイ/ウド/フキなどの山菜類。

※ 味覚の日内変動
朝の味覚は1日の中で一番敏感。そのため、大人も子どもも朝食では薄味にしても物足りなさを感じることなく美味しく食べることができる。
逆に夕食時には味覚が鈍くなっているので濃い味でないとなかなか満足できなくなってしまう。

※ 朝食は大腸を動かして排便を促す。
朝食を食べることで、腸の神経が刺激を受け、腸が活発に動くようになる(「胃・結腸反射」)。
最近の調査では、朝、排便習慣のない子どもが約40%に及び、とくに朝ご飯を撮らない子どもにその傾向が顕著に見られる。

※ 便秘には朝の牛乳ではなく白湯(さゆ)が有効
子どもの便秘対策は朝食をしっかり撮ることに加えて、飲み物を白湯に変えるのがオススメ。腸を温めて動きをスムースにしてくれる、
朝、冷えた牛乳を飲ませると消化管を冷やし、子どもの体を芯から冷やすので注意。牛乳に含まれるカルシウムの吸収は朝より夜の方がよいので、カルシウム補給目的なら夜がオススメ。

□ 思春期は「睡眠」で温める。
心も体も激しい変化にさらされる思春期は、そのストレスに立ち向かう力を蓄えるために最も重要なのが睡眠である。

□ 室内の温度と湿度のコントロールの目安。
冬:温度は18〜22℃、湿度は40〜70%
ただし、大人と子どもの身長差に注意。背の低い子どもにとっての体感温度は表示温度マイナス2〜3℃と考えるべし。
湿度が40%未満になると、喉や鼻の中が乾燥してきて、ウイルスが入り込みやすくなる。
以上より、風邪の季節には室内の気温は18℃以上、湿度は40%以上に保つことが肝心。
夏:気温は25〜28℃、湿度は70%未満
室外との気温差が5℃以上になると、自律神経のバランスが崩れやすくなるので冷やしすぎには注意が必要。
湿度が70%を超えると、汗が蒸発しなくなって不快感が増し、カビやダニが発生しやすくなるので注意。

※ くしゃみ・咳で飛ぶインフルエンザウイルス粒子
一度のくしゃみでインフルエンザウイルスは100万〜200万個、1回の咳で約10万個の飛沫が飛ぶといわれておりさらに飛沫は、約3mの範囲まで飛ぶことがわかっている。
室内の湿度が40%を切ると、くしゃみなどで空気中に漂ったウイルスは30分以上も空中を漂い続ける。

□ 冷えは漢方医学的には「気虚」
気虚とは気が虚しい状態、つまり、気が足りない、気がうまく働いていないことをいう。気虚は精神的にも肉体的にも元気がなく不安定で疲れやすくなっている状態。
漢方医学では、食事に関連したことや便通のトラブルといった消化機能のトラブルも気の問題に入る。味覚異常、口内炎、舌炎、食道炎、胃炎、腸炎などの病気はすべて気の異常である。そのため、気虚の人は胃腸も弱い。

□ 便秘対策は白湯+食物線維
・便の組成は、60%が水分、20%が腸の細胞、10〜15%が腸内細菌、残りが栄養を吸収された後の食物の残りカス。
・腸内細菌は食物線維を分解してさまざまなエネルギー源に変えてくれる。(例)酪酸は直腸の粘膜のエネルギー源になる。
・食物線維が不足すると腸内細菌も腸の動きも悪くなり、食べたものを運ぶことができなくなる・・・これが便秘であり、便秘とは、腸の中で便が「渋滞」している状態と言える。
・食物線維の効用;
【水溶性食物線維】腸内の余分な水分を吸収して、便を軟らかくする働きがある。
【不溶性食物線維】便のかさを増やすことで腸管を刺激し、腸のぜん動運動を促す働きがある。
・食物線維の1日の摂取量の目安は20g(水溶性:不溶性=1:2が望ましい)。

□ 睡眠に関する基本事項
・レム睡眠とノンレム睡眠(徐波睡眠):レム睡眠は浅い睡眠、ノンREM睡眠は深い睡眠で、眠りに入って最初の約3時間の間に集中的に現れる。
・睡眠時間が短すぎても長すぎても寿命が縮まる。

□ 睡眠の効用4つ
1.脳と肉体をしっかり休息させる
2.脳の中で情報を整理整頓する
3.成長ホルモンを分泌させる
4.免疫力を高める

1.脳と肉体をしっかり休息させる
 椅子に腰をかけてゆったり過ごす、入浴やアロマテラピーでリラックスする、森林浴に出かける・・・これらは完全な急速ではない、例えればパソコンのスリープ状態。完全な休息とは、電源をオフにし、コンセントを抜いてしまうこと。このオフ状態に当たるのが睡眠である。
 日中に脳が行っている情報処理は大変なもので、夜にはオーバーヒート直前になっている。起きているとき脳が消費するエネルギー量は、1日に必要なエネルギー全体の20%に及ぶ。この脳を徐波睡眠が冷やしてくれる。

2.脳の中で情報を整理整頓する
 徐波睡眠中に脳は重要な記憶を定着させ、イヤな記憶をさすれさせるという驚くべき働きをしている。

3.成長ホルモンを分泌させる
 成長ホルモンは徐波睡眠中に多く分泌される。男女差があり、女子は徐波睡眠中で、かつ、0時から2-3時の間にしか分泌されない。男子は徐波睡眠中ずっと分泌されている。

4.免疫力を高める
 睡眠誘導作用のあるホルモンであるメラトニンは徐波睡眠のときに多く分泌され、その分泌によって免疫細胞が活性化する。

■ 熟睡するためのコツ
・寝る前に一旦体温を上げておく
 睡眠の目的は脳と体をクールダウンさせることで、このとき脳音が急激に下がれば下がるほど寝つきがよくなり深い眠りを得やすくなる。
 入浴;よいタイミングは、体温が下がり出すのを待ってから(入浴後1時間弱)ベッドに入る。健康のためには42℃のお湯に5分間つかるのが最適。
 白湯:眠る直前(10分前くらい)に飲むとよい。
 睡眠中に無理矢理体温を上げることは、風邪などの病気の時以外は御法度。電気毛布は体が体温を下げる妨げになるので使わない方が賢明
・スマホの光刺激を避ける
 スマホや携帯電話が発する強い光が覚醒刺激となる。光は目を覚まさせ、頭を覚醒させる。そのため、真っ暗な中でスマホの強い光を見ていると、脳は「起きなさい」という指令を受けていると感じて覚醒しようとするので眠れなくなってしまう。
・子どもを毎朝、決まった時間に起こす&朝食
 体内時計の中枢スイッチが光とすると、末梢スイッチが朝食。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする