漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

小児・思春期の片頭痛と漢方治療

2023年08月20日 15時37分28秒 | 漢方
小児の頭痛に対しては、いわゆる解熱鎮痛剤を処方します。
ずっとアセトアミノフェン(商品名:カロナール、コカール)を使用してきましたが、
近年、イブプロフェン(商品名:ブルフェン)の方が有効であるとされ、
アセトアミノフェンで効果今一つの患者さんにはイブプロフェンを処方するようになりました。

さて、成人領域では頭痛薬は日進月歩で、
発作時・予防薬ともに新薬がどんどん開発されています。

しかし残念なことに、ほとんどの薬が小児適用がなく、
目の前の困っている患者さんに処方できません。
製薬会社さん、もっと子どものことも考えてほしい…。

そこで私は漢方薬でこの閉塞状況を突破しようと、
いろいろ調べて臨床現場で使っています。

今回、日本小児漢方懇話会の特別公演で、
小児頭痛の専門家である荒木清先生の講演をWEBで視聴しましたので、
備忘録としてポイントをメモ書きしておきます。

ポイント
・小中学生の頭痛有病率は5~20%と低くない。
・小児片頭痛の持続時間は2~72時間と成人(4~72時間)より短い
・小児片頭痛は両側性のことが多い。
・小児片頭痛の家族歴は、母65%、父17%。
・小児片頭痛の乗り物酔い合併率は59%。
・片頭痛出現時には、予兆・前兆・アロディニアがある(下記参照)
・片頭痛治療では、薬物療法の前の非薬物療法(生活指導)が重要であり、
 とくに年長児以降のブルーライト制限(スマホ、パソコン、ゲーム等)が必須。
(例)3時間以内/日
・片頭痛急性期治療の第一選択薬はイブプロフェン、第二選択薬はアセトアミノフェン
・急性期治療のトリプタン製剤は、上記無効例の10歳以上、体重30㎏以上で考慮
・現時点ではトリプタン製剤の公式小児適用はない。
・片頭痛予防治療として、荒木先生はアミトリプチリン(有効率78%)と五苓散(有効率92%)を用いている。
・2021年に登場したCGRP関連薬剤は現時点で小児適用がない。

う〜ん、正直に言って、新しい情報はありませんでした。
小児適応のないトリプタン製剤をどこまで使ってよいか、
ほぼノーコメントでした。

漢方も、五苓散を紹介しているのみ。
一般に五苓散の有効率は5割と言われているので、
そのもう一歩先を知りたかったのですが…。

▢ 頭痛の有病率
・15歳以上の成人では、片頭痛8.4%、緊張性頭痛22%
・小中学生では、片頭痛5~20%

▢ 片頭痛の位置づけ(国際頭痛分類第3版)
1.1 前兆のない片頭痛
1.2 前兆のある片頭痛
 1.2.2 脳幹性前兆を伴う片頭痛
 1.2.3 片麻痺性片頭痛(家族性・孤発性)
 1.2.4 網膜性片頭痛
1.3 慢性片頭痛 
 ・・・
1.6 片頭痛に関連する周期性症候群
 ・周期性嘔吐症候群(CV:自家中毒)
 ・腹部片頭痛(AM)
 ・良性発作性めまい…

▢ 片頭痛の診断基準(国際頭痛分類第3版)
前兆のない片頭痛
A. B~Dを満たす頭痛発作が5回以上ある
B. 頭痛発作の持続時間は4~72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)(※)
C. 頭痛は以下の4つの特徴の少なくとも2項目を満たす
 1.片側性(※2)
 2.拍動性
 3.中等度~重度の頭痛
 4.日常的な動作(歩行や階段昇降など)により頭痛が増悪する、
  あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける
D. 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす
 1.悪心または嘔吐(あるいはその両方)
 2.光過敏および音過敏
E. 他に最適なICHD-3の診断がない

※1) 小児あるいは青年(18歳未満)では、持続時間は2~72時間としてよい。
※2)18歳未満では両側性であることが多い(通常、前頭側頭部)

▢ 小児の片頭痛の特徴
① 持続時間が成人に比べて短い傾向にある。
 …急に起こり、短時間で回復するので誤解されやすい。
② 小児の前頭側頭部痛は両側性のことが多い。
③ 頭痛以外の症状(顔面蒼白、嘔吐・腹部症状、突然無口になり機嫌が悪くなる、など)が前面に立つ場合が多い。
④ 周期性嘔吐症候群・腹部片頭痛からの移行例が、少なからず存在する。
⑤ 家族歴の存在:片頭痛患児の母:65%、父17%が片頭痛
⑥ 乗り物酔いする例が多い:小児片頭痛(4~20歳)の59%
⑦ 思春期例では、複数の頭痛が併存し、心理社会的要因の絡んだ慢性連日性の難治例も多い。
⑧ 成長・発達途上にある小児においては、急性期治療薬・予防的治療薬ともに一定の使用制限が存在する。

▢ 片頭痛の予兆・前兆
(予兆)生あくび、疲労感、首や肩の凝り・張り、集中力低下、過食、感覚過敏、何となく変な感じ、頭がボーっとする、など。
(前兆)視覚、感覚、言語症状があるが多くは閃輝暗点を中心とした可逆性の視覚前兆を指す。
(アロディニア:異痛症、異常感覚)眼周囲、頭皮、前腕部などに起こる痛み、不快なピリピリ感、違和感、手や腕のしびれ感、動きにくさ、など。
 …顔に風が当たると痛い、めがねがかけられない、腕時計がダメ、髪の毛をくしで…等々。

▢ 頭痛診療の順序
① 非薬物療法
② 鎮痛薬の適切な使用
③ 予防的薬物治療・トリプタン適応

▢ 片頭痛患児への生活上の留意点は非薬物療法と同等
基本は規則正しいメリハリのある生活
① 早寝・早起き・朝ごはん
② 寝すぎ、寝不足、長い昼寝に注意(適切な睡眠)
③ 誘因の回避(光・音・におい過敏など)
・スマホ、パソコン、ゲームなどのブルーライト制限(特に夜間)
・日光、明るすぎる照明を避ける(帽子、サングラス着用など)
・満員電車・バス、満員の映画館、暖房の効きすぎた部屋、暑い風呂・長湯、香水などの匂いが強いものは避ける
・気温・気圧・天候に注意(高温多湿、雨・低気圧・台風など)
・高山(2500m以上の登山には要注意)
・共存症・合併症の適切なコントロール・治療
(例)アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、虫歯、咬合不全など。
・過剰なストレス、ストレスからの解放
・食物・飲料(アルコール、ポリフェノール、カフェイン過剰、など)
④ 肩こり・緊張型頭痛のコントロール
・頭痛体操、マッサージ、適度の運動、姿勢に注意
⑤ 学校対策:片頭痛という疾患・体質を理解していただく
・診断書、札氏の活用、担任・養護教諭との密な連絡
・急性期治療薬の内服タイミング
・保健室の利用(安静臥床の確保)
・教科書に日光が直接当たる窓際の席は避ける

▢ 片頭痛の治療上大切なこと
① 緊張型頭痛の併存と急性期治療薬の内服タイミングについて
② ブルーライト制限(年長児~)
③ アレルギー性鼻炎(±副鼻腔炎)の治療
④ 学校対策

▢ 片頭痛と緊張型頭痛の比較
        (片頭痛)    (緊張型頭痛)
発作的な頭痛    +         ー
持続時間    2~72時間(※1)  30分~7日間
頭痛部位    片側~両側性     両側性
        前頭・側頭部    後頭~頭全体
頭痛の性状   拍動性       圧迫・締めつけ感
日常生活    支障が大きい    影響が少ない
運動・風呂   悪化、不可能    軽快傾向
随伴症状    前兆、悪心・嘔吐  肩こり・筋緊張
        肩こり(※2)
        光・音・臭い過敏  めまい感
家族歴     多い        少ない

(※ 1)成人の持続時間は4~72時間
(※ 2)肩こりは緊張型頭痛のみならず片頭痛の約70%に合併・前駆する。

▢ 頭痛体操(日本頭痛学会)

▢ 頭痛診療に用いる3つのツボ
(合谷)(肩井)(風池)
・緊張型頭痛、片頭痛の診断・治療・経過観察に(自己指圧・マッサージが可能)
・緊張型頭痛で圧痛・緊張・硬結を示す筋群;
 僧帽筋、前頭筋、側頭筋、内側翼突筋、咬筋、
 胸鎖乳突筋、その他の頚部・背部の筋群

▢ 大切なこと①急性期治療薬(鎮痛剤、トリプタン製剤)内服タイミング
・片頭痛出現早期!

▢ 大切なこと②ブルーライト制限
◆ブルーライトとは?
・波長が380~500nmの青色光で、可視光の中でも最も波長が短く強いエネルギーを持つ
・パソコン、スマートフォン、ゲーム、液晶テレビ、LED照明などに多く含まれ、
 近年ブルーライト暴露量は明らかに増加している。
◆メラノプシン含有網膜神経細胞
・第三の視細胞(光受容体)
・BL感知、視床下部と連結
・24時間サーカディアンリズムをコントロール
・片頭痛の光過敏に関与している可能性あり

▢ 夜のタブレット端末閲覧は睡眠リズムに悪影響を及ぼす
・睡眠リズム、生活リズム、朝の覚醒、メラトニン分泌に悪影響を及ぼす
(例)夜寝る前3時間同じ本を以下の条件で読書;
  A群:タブレット端末で 
  B群:紙媒体で
 →
 ① A群でメラトニン分泌が優位に抑制され、分泌タイミングが後方へシフト
 ② A群で寝入るまで時間がかかる、朝の覚醒障害

▢ ブルーライト制限の目安
① スマホ、ゲーム、パソコン、テレビなどの使用を合計3時間以内/日に抑える。
② 夜8時以降は使用しないのが望ましい(就寝2時間前以内)
③ ブルーライトカットメガネの着用(夜間)
④ 夜間のリビング、勉強部屋の照明の明るさを落とす
⑤ 睡眠時間最低7時間+(早寝)早起き
⑥ 可能なら朝、(短時間でも)太陽の光を浴びる
⑦ 乳幼児には絶対にスマホなどは見せない

→ 難治性の思春期慢性連日性頭痛症例、特に朝起きられずOD傾向、登校不可、睡眠相後退傾向を伴った例では、特に夜間のブルーライト制限(スマホ、ゲーム、パソコンなど)が最良かつ最短の治療であるケースが存在する。

▢ 大切なこと③アレルギー性鼻炎・副鼻腔炎の治療(共存症・合併症の治療
(アレルギー性鼻炎)
・アレルギー性鼻炎は単なる合併症ではなく、頻度の高い片頭痛共存症である。
(副鼻腔炎)
鼻副鼻腔炎はそのものによる頭痛のみならず。片頭痛の頻度も明らかに増加させる。
1.急性副鼻腔炎(~1か月)
・AMPC、CVA/AMPC
・CDTR-PI
→ 中等量~高用量を7~10日間
2.亜急性鼻副鼻腔炎(1~2か月)
・マクロライド系抗菌薬(CAM、EM)
→ 少量:1か月
3.慢性鼻副鼻腔炎(3か月以上)
・マクロライド系抗菌薬(CAM、EM)
→ 少量:1か月

▢ 学校への診断書(例)
診断:前兆のない片頭痛
内容:上記のため通院治療中です。
学校における頭痛出現時には、授業中であっても、本人持参薬の早めの内服・使用と、頭痛がひどい場合には保健室での安静臥床(最低1時間)をお願いいたします。
また席替えの時に、本人と教科書に直接日光が当たる窓際の席を避けていただけたら幸いです。
片頭痛患児は一般的に光・音・臭いに過敏な体質で乗り物酔いもしやすい傾向にあり、これらの体質にもご配慮いただけたら幸いです。

・「知っておきたい学童・生徒の頭痛の知識」(藤田光江先生作成)
・「頭痛ダイアリー」

▢ 片頭痛の薬物療法(小児・思春期)

1.急性期治療
・鎮痛剤:アセトアミノフェン、イブプロフェン
・制吐剤:ドンペリドンなど
・トリプタン製剤(10歳以上、体重30㎏以上で考慮)
 スマトリプタン(錠剤、点鼻、皮下注)
 ゾルミトリプタン(錠剤、口腔内速溶錠)
 エレトリプタン(錠剤)
 リザトリプタン(錠剤、口腔内崩壊錠)
 ナラトリプタン(錠剤)

頭痛の診療ガイドライン2021の記載
・小児・思春期の片頭痛急性期治療薬の第一選択薬はイブプロフェンである。
・アセトアミノフェンはイブプロフェンほどではないが有効であり、いずれも安全で経済的な薬剤である…

2.予防的治療
・抗うつ薬:アミトリプチリン
・抗てんかん薬:バルプロ酸、トピラマート、等
・β遮断薬:プロプラノロール
・Ca拮抗薬:塩酸ロメリジン
・抗ヒスタミン薬:シプロヘプタジン
・漢方薬:五苓散、呉茱萸湯、等
・マグネシウム、ビタミンB2
・(ロイコトリエン受容体拮抗薬)

頭痛の診療ガイドライン2021の記載
・小児・思春期の片頭痛予防薬で確立したものはなく、非薬物療法で改善しない例に対し、アミトリプチリン、トピラマート(保険適応外)、プロプラノロール、ロメリジンを副作用に注意しながら少量より開始する…

▢ 片頭痛予防治療の適応(案)
① 発作が頻回:内服を要する発作が週2回以上、または月10回以上
② 急性期治療の効果が思わしくない
③ 頭痛の持続時間が長い(半日以上)
④ 嘔吐の合併率が高い
⑤ 頻度の多い緊張型頭痛の併存
⑥ 薬物使用過多による頭痛(MOH)の合併
⑦ 心理・社会的要因の関与が大きい例
⑧ 他院ですでに単独または複数の予防薬が投与されている例

▢ 小児に対する予防的治療薬
・以前は(年少児)シプロヘプタジン、(年長児)アミトリプチリンで開始することが多かったが…
・最近は年齢問わずアミトリプチリンと五苓散の処方が多い。

▢ 新しい片頭痛薬の登場(2021年以降)
1.発作抑制(予防)
・CGRP(calcitonin gene-related peptide)関連薬剤
 抗CGRP抗体:ガルカネズマブ(2021年4月)、フレマネズマブ
 抗CGRP受容体抗体:エレヌマブ
 抗CGRP受容体拮抗薬
2.急性期治療
・Ditan:Lasmiditan
・Gepant:Ubrogepant, Rimegepant
※ いずれの薬剤も現時点では小児適応はない…

▢ 頭痛の診療ガイドライン2021に記載のある漢方薬5つ
呉茱萸湯:慢性頭痛(片頭痛・特に前兆のある片頭痛、緊張型頭痛…)
五苓散:片頭痛、気圧低下に伴う頭痛、慢性硬膜下血腫、透析に伴う頭痛…
桂枝人参湯:慢性頭痛
葛根湯:緊張型頭痛、肩こり
釣藤散:高齢者の動脈硬化傾向の慢性頭痛

▢ 小児・思春期(5~20歳)片頭痛患児に対する予防的治療
1.アミトリプチリン:有効率78%(著効48%、有効30.6%)
 投与量:体重30㎏未満は10㎎眠前、体重30㎏以上は20㎎眠前
2.五苓散:有効率92%(著効15/25、有効8/25)

▢ 五苓散の使用方法は多彩
1.片頭痛の予防的治療:連日投与で開始し、2か月で効果判定、原則6か月間は続行
※ 「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」「頭痛の診療ガイドライン2021」においても五苓散は片頭痛発症予防に対し推奨(B)
2.片頭痛時にイブプロフェン、アセトアミノフェン、トリプタン、ドンペリドンと同時内服(効果増強&持続)
3.乗り物酔い対策:バスなど乗車前に1包内服…小児片頭痛患者の車酔い合併率は59%、成人片頭痛患者では約52%、五苓散有効率は85%
4.試験、イベント、旅行などでの片頭痛発作阻止・減弱、低気圧・台風接近時、熱中症対策など…1日1回単独~1日2回など
5.腹部症状に(嘔吐・腹痛・下痢)、整腸剤として
6.二日酔いに



参考
・小児期・思春期の「頭痛の診かた」改定2版
 監修:藤田光江、編集:荒木清ほか(南山堂、2022年)
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新型コロナに対する柴葛解肌湯の効果

2023年08月15日 05時17分11秒 | 漢方
100年前のパンデミックであるスペイン風邪の際、
日本では漢方薬の柴葛解肌湯という薬が活躍しました。

今回の新型コロナにも有効ではないかと報道されましたが、
エキス剤には存在しないため、
柴葛解肌湯の類似処方となる葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏が注目され、
市場からあっという間に消えてしまい、
小柴胡湯加桔梗石膏を日常的に処方してきた私は困ってしまいました。

その組み合わせのデータが東北大学から報告されています。

<ポイント>
・軽症~中等症IのCOVID-19患者に対する漢方治療の分析において、すべての症状の評価においても各症状の評価においても、対照群よりも漢方群のほうが早く症状が消失していた。
・一つ以上の症状回復までの期間は漢方薬(葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏)併用群で2日、非併用群で3日と、1日短くなる傾向があった(有意差なし)。
・発熱期間は漢方薬投与群で短くなった(有意差あり)。
・呼吸不全への増悪率は漢方併用群で低かった(有意差なし)。

二つ目の論文ではワクチン接種の有無も加味して分析されたとありますが、
その結果の記述がわかりずらく、症例数も少なく…。

▢ 葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏でコロナ増悪抑制の可能性/東北大学ほか
ケアネット:2022/12/07)より抜粋;
 軽症および中等症Iの新型コロナウイルス感染症患者に対し、葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を追加投与することで、発熱症状が早期に緩和し、呼吸不全への増悪リスクが低かったことが、東北大学大学院医学系研究科漢方・統合医療学共同研究講座の高山 真氏らの研究グループによる多施設共同ランダム化比較試験で明らかになった。Frontiers in pharmacology誌2022年11月9日掲載の報告。
 調査は、2021年2月22日~2022年2月16日にかけて国内7施設で行われた。20歳以上の軽症および中等症Iの新型コロナウイルス感染症患者161例を、解熱薬や鎮咳薬による通常治療を行うグループ(対照群、80例)と、通常治療に加えて葛根湯エキス顆粒2.5gと小柴胡湯加桔梗石膏エキス顆粒2.5gを1日3回14日間併用するグループ(漢方薬群、81例)にランダムに割り付け、その効果を比較検討した。主要評価項目は1つ以上の風邪様症状の緩和までの日数で、副次的評価項目は各症状が緩和するまでの日数および呼吸不全への増悪であった。
 主な結果は以下のとおり。
・解析対象となったのは、漢方薬群70例(男性45例[64.3%]、年齢中央値35歳)、対照群73例(男性47例[64.4%]、年齢中央値37歳)であった。
1つ以上の風邪様症状緩和までの日数は、漢方薬群と対照群で有意差はみられなかった(p=0.43)。
・共変量調整後の累積発熱率では、漢方薬群のほうが対照群より有意に回復が早かった(ハザード比[HR]:1.76、95%信頼区間[CI]:1.03~3.01、p=0.0385)。
・中等症I患者における呼吸不全への増悪リスクは、漢方薬群のほうが対照群よりも低かった(リスク差:−0.13、95%CI:−0.27~0.01、p=0.0752)。
・両群で薬物投与に関連する有害事象に有意な差はみられなかった。

<原著論文>

▢ コロナ急性期、葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏の症状消失までの期間は?/東北大
 コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性期症状を有する患者に、対症療法に加えて葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を投与した結果、有意差はなかったもののすべての症状の消失までの期間は対照群よりも早い傾向にあり、息切れの消失は補足的評価において有意に早かったことを、東北大学の高山 真氏らが明らかにした。Journal of Infection and Chemotherapy誌オンライン版2023年7月26日号の報告。
 高山氏らが2021年2月22日~2022年2月16日にかけて実施した多施設共同ランダム化比較試験1)において、葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の併用により、軽症~中等症I患者の発熱が早期に緩和され、とくに中等症I患者では呼吸不全への悪化が抑制傾向にあったことが報告されている。COVID-19の症状や病状悪化のリスクはワクチン接種の有無によって異なる可能性があるため、今回はこのランダム化比較試験のデータを用いて、ワクチン接種の有無も加味した症状の消失に焦点を当てた事後分析を行った。
 研究グループは、20歳以上で軽症~中等症IのCOVID-19患者を対象に、通常の対症療法(解熱薬、鎮咳薬、去痰薬投与)を行うグループ(対照群)と、対症療法に加えて葛根湯2.5g+小柴胡湯加桔梗石膏2.5gを1日3回14日間経口投与するグループ(漢方群)の風邪様症状(発熱、咳、痰、倦怠感、息切れ)が消失するまでの日数を解析した。
 主な結果は以下のとおり。

・解析には、漢方群73例(男性64.4%、年齢中央値35.0歳)、対照群75例(65.3%、36.0歳)が含まれた。そのうち、ワクチン接種者は、漢方群7例(9.6%)、対照群8例(10.7%)であった。初回診察時のリスク因子や重症度は両群で同等であった。
少なくとも1つ以上の症状が消失した割合は、漢方群84.9%、対照群84.0%であった。消失までに要した日数の中央値は漢方群2日(90%信頼区間[CI]:2.0~3.0)、対照群3日(90%CI:3.0~4.0)で、有意差は認められなかったものの漢方群のほうが短い傾向にあった(ハザード比[HR]:1.28、90%CI:0.95~1.72、p=0.0603)。ワクチン接種の有無別では、ワクチン未接種の漢方群のHRは1.31(90%CI:0.96~1.79、p=0.0538)でほぼ同等であった。
・すべての症状が消失した割合は、漢方群47.1%、対照群9.1%であった。消失までに要した日数の中央値は、漢方群9日(6.0~NA)、対照群NAで、同様に漢方群のほうが短い傾向にあった(HR:3.73、95%CI:0.46~29.98、p=0.1763)。ワクチン未接種の漢方群のHRは4.17(95%CI:0.52~33.64、p=0.1368)であった。
・競合リスクを考慮した共変量調整後の補足的評価において、息切れの消失は漢方群のほうが対照群よりも有意に早かった(HR:1.92、95%CI:1.07~3.42、p=0.0278)。ワクチン未接種の漢方群では、発熱(HR:1.68、95%CI:1.00~2.83、p=0.0498)および息切れ(HR:2.15、95%CI:1.17~3.96、p=0.0141)の消失が有意に早かった。
 これらの結果より、研究グループは「軽症~中等症IのCOVID-19患者に対する漢方治療の分析において、すべての症状の評価においても各症状の評価においても、対照群よりも漢方群のほうが早く症状が消失していた。これらの結果は、急性期のCOVID-19患者に対する漢方治療の利点を示すものである」とまとめた。

<原著論文>
<参考文献>


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「起立性調節障害」の漢方治療 by 幸井俊高Dr.

2023年08月14日 16時45分03秒 | 漢方
診療に難渋する思春期の起立性調節障害。
不登校の合併率も高く、小児科医の手に余る例が多いのが現状です。

私は心身一如という概念で診療する漢方医学に活路を見出すべく、
いろいろ調べています。
日本漢方では気血水の異常と捉えて、
それを補正する漢方薬を使うことが基本です。

さて、現代の中国医学である中医学ではどう捉え、
どう治療しているのか、興味があります。
その深遠な世界を覗いてみましょう。

紹介する記事を書いている幸井俊高Dr.は、
日本の医師免許はお持ちでないようですが、
中国の中医学の医師免許を持っている貴重なDr.です。

以前から時々、疾患解説を覗かせてもらっていますが、
中医学の五臓論が出てくるので煙に巻かれて混乱して理解にたどり着かないことが多いので、実は苦手です。

<ポイント>
・起立性調節障害を(栄養)や(エネルギー)の不足異常な水液によるものと考えます。そこで関係するのが、脾と、痰飲です。
は消化吸収や代謝をつかさどり、気血の源を生成します。起立性調節障害で不足しがちな血や気の元を作っているのが脾です。
痰飲は、人体の正常な生理活動に必要な水液である津液(しんえき )が、水分代謝の失調などにより異常な水液と化した病理的産物です。立ちくらみ、めまいなどは、この痰飲が人体への負担となって生じているものです。
・食欲不振、腹痛などの症状が見られるようなら「脾気虚(ひききょ)」証です。飲食物の消化吸収や栄養代謝機能が低下しているため、体内の気血が不足し、血圧が下がると、起立性調節障害になります。
・疲労倦怠感や食欲不振、手足がだるいなどの症状がみられる場合は、「中気下陥(ちゅうきげかん)」証で、中気下陥とは気の機能の1つである固摂(こせつ)作用が低下している状態(平滑筋など筋肉の緊張低下に近い状態)です。
・立ちくらみ、めまいなどの症状が顕著で、大きな舌、白く湿った舌苔が見られるなら、「痰飲」証です。
・動悸、息切れ、疲労倦怠感、めまいなどの症状がみられる場合は「心気虚(しんききょ)」証です。血液循環障害や慢性的な疾患、体調不良、心身虚弱などで心気を消耗すると、この証になり起立性調節障害となります。
・漢方では、主に五臓の脾の機能を高めたり、体内の痰飲を除去したりすることで治療を進めます。

(治療例1)痰飲証
・立ちくらみ、動悸、大きな舌、白く湿った舌苔 → 苓桂朮甘湯(39)
・口渇、尿があまり出ない、頭痛、むくみ → 五苓散(17)
・胃腸が弱く、めまいが生じやすいタイプ → 半夏白朮天麻湯(37)

(治療例2)脾気虚
・食欲不振、腹痛 → 四君子湯(75)
・吐き気、咳、喘息、べっとりと厚い舌苔 → 六君子湯(43)
・腹痛を起こしやすく、お腹が冷えるとすぐ下痢をする → 小建中湯(99)

(治療例3)気虚中気下陥
・血圧を保てない、手足がだるい、胃下垂 → 補中益気湯(41)

(その他)心気虚
桂枝加竜骨牡蛎湯(26)

病態をまとめると、
血虚 (← 脾気虚)
気虚 (← 脾気虚):中気下陥(固摂作用低下):疲労倦怠感や食欲不振、手足がだるい 
痰飲:めまい、立ちくらみ
脾気虚:食欲不振、腹痛
心気虚:動悸、息切れ、疲労倦怠感、めまい

もっと整理すると、
脾気虚血虚気虚 → 血圧低下 → OD
痰飲(水毒)
心気虚
に集約され、各患者さんにより各要素のバランスが違う、
と言えそうです。

※ 「痰飲」は日本漢方では「水毒・水滞」が近いと思います。
※ 「中気下陥」は気の固摂作用低下ですから、気虚ですね。
※  五臓の心は、心臓を含めた血液循環系(血脈)と、人間の意識や判断、思惟などの人間らしい高次の精神活動(神志:しんし)をつかさどります。
※ 「固摂作用」は臓器を定位置に保持し、血液が脈管外に漏れ出るのを防ぎ、汗・尿・便・精液などがけじめなく漏れないように統制する機能です。

…なんだか「虚」の塊のようです。
思春期の起立性調節障害患者さんは、
“エネルギーの固まり”という思春期のイメージからかけ離れ、
心身共に消耗・憔悴しきっているのですね。
これを治すのは大変そう。


▢ 起立性調節障害に効く漢方(1)起立性調節障害の考え方と漢方処方
幸井 俊高=薬石花房幸福薬局(東京都千代田区)代表、薬剤師、中医師
2023/03/27:DI online)より抜粋;
 起立性調節障害(OD:Orthostatic Dysregulation)は、自律神経系の失調により、循環器系の調節がうまくいかなくなる疾患です。起立時の血圧低下や、心拍数の上昇の調節に時間がかかり、立ちくらみ、朝起きられないなどの症状が生じます。小学校高学年から高校生(10〜16歳)に多く見られます。
・・・
 よく見られる症状は、朝起きられない、立ちくらみ、疲れやすい、長時間立っていられない、立ち上がったときに気分が悪くなる、午前中は調子が悪い、顔色が青白い──などです。だるさ、めまい、頭痛、動悸、失神、息切れ、食欲不振、腹痛、乗り物酔いしやすいといった症状も見られます。
 症状は、立位や座位で増悪し、臥位(がい:寝た状態)で軽減します。また、午後や夜になると元気になる傾向があります。ただし、重症例では臥位でも症状が重く、起き上がれないこともあります。朝起きられないために遅刻や欠席が増え、不登校や引きこもりになる割合が多いことが知られています。
 原因としては、自律神経系の失調が挙げられます。人は起立すると重力により血液が下半身に集まり、血圧が低下します。このとき自律神経系の1つである交感神経が興奮して下半身の血管を収縮させて心臓へ戻る血液量を増やし、血圧を維持します。この自律神経系の機能が低下すると、血圧が低下したままとなり、様々な症状が表れます。
 小学校高学年から高校生という第二次性徴期のホルモンバランスの変化や、精神的、肉体的な変化も関係していると考えられています。精神的なストレス、特に学校や家庭でのストレスも、大きな要因の1つです。季節や気候の変化、生活リズムの乱れ、無理なダイエットや摂食障害による筋肉量の低下なども関係してきます。
 治療法について、西洋医学では、主にミドドリン塩酸塩(商品名メトリジン他)などの昇圧薬を用いて血圧を上昇させる対症療法が行われます。一方、漢方では、起立性調節障害を血(栄養)や気(エネルギー)の不足と異常な水液によるものと考えます。そのため、自律神経系を整え、血や気を増やし、血圧の低下が起こらないように体質を強化することで、治療していきます。そこで関係するのが、脾(ひ)と、痰飲(たんいん)です。
 脾は五臓の1つで、消化吸収や代謝をつかさどり、気血の源を生成します起立性調節障害で不足しがちな血や気の元を作っているのが五臓の脾です
 痰飲は、人体の正常な生理活動に必要な水液である津液(しんえき )が、水分代謝の失調などにより異常な水液と化した病理的産物です立ちくらみ、めまいなど起立性調節障害で生じる症状の多くは、この痰飲が人体への負担となって生じているものです
 従って漢方では、主に五臓の脾の機能を高めたり、体内の痰飲を除去したりすることで、起立性調節障害の治療を進めます
 食欲不振、腹痛などの症状が見られるようなら、「脾気虚(ひききょ)」証です。五臓の脾の機能(脾気)が弱い証です。飲食物の消化吸収や栄養代謝機能が低下しているため、体内の気血が不足し、血圧が下がると、起立性調節障害になります。漢方薬で脾気を強めることにより、起立性調節障害の治療を進めます。
 疲労倦怠感や食欲不振、手足がだるいなどの症状がみられる場合は、「中気下陥(ちゅうきげかん)」証です。中気下陥とは、気の機能の1つである固摂(こせつ)作用が低下している状態です。固摂作用は、臓器を定位置に保持し、血液が脈管外に漏れ出るのを防ぎ、汗・尿・便・精液などがけじめなく漏れないように統制する機能を指します。平滑筋など筋肉の緊張低下に近い状態です。ベースには「脾気虚」証があります 。固摂作用が弱いため、血圧を維持できず、起立性調節障害が生じます。気の固摂作用を高める漢方薬を用いて、起立性調節障害を治療します。
 立ちくらみ、めまいなどの症状が顕著で、大きな舌、白く湿った舌苔が見られるなら、「痰飲」証です。痰飲が人体への負担となると、起立性調節障害になります。痰飲を取り除く漢方薬を用い、起立性調節障害の治療にあたります。
 動悸、息切れ、疲労倦怠感、めまいなどの症状がみられる場合は、「心気虚(しんききょ)」証です。五臓の心(しん)の機能(心気)が弱い体質です。心は、心臓を含めた血液循環系(血脈)と、人間の意識や判断、思惟などの人間らしい高次の精神活動(神志:しんし)をつかさどります。血液循環障害や慢性的な疾患、体調不良、心身虚弱などで心気を消耗すると、この証になり起立性調節障害となります。寝ている間に夢をよく見て、興奮しやすいようなタイプです。この証の場合は、心気を漢方薬で補うことで心の機能を強化し、起立性調節障害を治療します。
 日常生活では、規則正しい生活を送ることが大切です。眠くなくても夜更かしせず、就寝が遅くならないようにしましょう。食事は、旬の新鮮な食材を中心に、バランスよく摂取しましょう。十分な水分と適度な塩分摂取も大切です。またウオーキングなどの運動により、下半身の筋力低下を防ぎ、さらに筋肉をつけるようにしましょう。

■ 症例1
「小学校6年の娘が起立性調節障害になりました。朝起こしに行くと、体がだるい、頭が重い、と言ってなかなか起きなくなりました。頑張って学校に行っても、動悸や立ちくらみがひどく、保健室で横になることも多いようです」
 午前中は気分が優れませんが、午後になると元気が出てきて、友だちと遊んでいます。活動的になるのが午後からと遅いせいか、夜は目がさえて、なかなか眠れないようです。舌は淡紅色で大きく、白く湿った舌苔が付着しています。

 立ちくらみ、動悸、大きな舌、白く湿った舌苔などが見られることから、この患者さんは、「痰飲」証です。痰飲が負担となり、起立性調節障害になったのでしょう。

 痰飲証の場合は、痰飲を取り除く漢方薬を用い、起立性調節障害の治療にあたります。この患者さんには、苓桂朮甘湯を服用してもらいました。服用を始めて2週間後、動悸や立ちくらみが減ってきました。1カ月後、朝の頭痛がずいぶん減りました。2カ月後、朝起きられないことはほとんどなくなりました。
 同じ痰飲証でも、口渇、尿があまり出ない、頭痛、むくみなどの症状がみられるなら、五苓散を用います。胃腸が弱く、めまいが生じやすいタイプには、半夏白朮天麻湯を使います。

▢ 起立性調節障害に効く漢方(2)集会中に倒れた起立性調節障害の中学生
2023/03/30:DI online)より抜粋;
・・・
■ 症例2
「起立性調節障害です。目が覚めても頭痛や腹痛で、なかなか布団から出られません。全校集会などで立っていると立ちくらみが生じやすく、先日とうとう集会中に体育館で倒れてしまいました」
 中学3年生の男性です。起きた直後は食欲がなく、時間がたってからでないと食事ができません。病院で処方された昇圧薬を服用して、なんとか登校できていましたが、このところ遅刻する日が増えてきました。受験を控えているので心配です。疲れやすく、声に力がないタイプです。舌は腫れぼったくて白く、その上に白い舌苔が薄く付着しています。

 食欲不振、腹痛が見られることから、この患者さんの証は「脾気虚」です。脾気が弱いため体内の気血が不足し、起立性調節障害になったのでしょう。
 この体質の場合は、漢方薬で脾気を強めることにより、起立性調節障害の治療を進めます。四君子湯を服用してもらい、服用を始めて2週間後、朝の食欲が出てきました。1カ月後に腹痛の頻度が減り、3カ月後には、頭痛や立ちくらみもほとんど生じなくなりました。
 同じ脾気虚証で、吐き気、咳、喘息、べっとりと厚い舌苔などの症状もあるようなら、六君子湯を用います。また、腹痛を起こしやすく、お腹が冷えるとすぐ下痢をするようなタイプには、小建中湯が向いています。

■ 症例3
「起立性調節障害で、朝は2台の目覚まし時計を使っていますが、なかなか起きられません。学校に遅刻することが多く、休むことも少なくありません」
 16歳の女性です。めまいが強く、体調が良くないときは頭痛もあります。手足がだるく、息切れしやすく、食欲がなくて人より小食です。便は慢性的に軟らかく、よく下痢をします。胃下垂です。月経周期は短めで、経血量がかなり多いのも悩みです。舌は淡紅色をしています。

 この患者さんの証は、「中気下陥」です。気の固摂(こせつ)作用が弱いため、血圧を維持できず、起立性調節障害が生じたのでしょう。手足がだるい、胃下垂などはこの証の特徴です。
 この証の場合は、漢方薬で気の固摂作用を高め、起立性調節障害を治療します。患者さんには、補中益気湯を服用してもらいました。服用を始めて1カ月後、めまいが減りました。2カ月後、食欲が出てきて、以前よりたくさん食べるようになってきて、下痢することも減りました。3カ月後、ふらつきや息切れをしなくなり、遅刻や欠席が減ってきました。5カ月後、月経の周期、経血量ともに安定してきました。8カ月後には血圧が正常域にまで上がり、朝も普通に起きられるようになり、遅刻や欠席することなく通学できるようになりました。久しぶりに会う人に、顔色が良くなったね、と言われたようです。

 今回紹介した症例のほかに、「心気虚」証には、桂枝加竜骨牡蛎湯など、心気を補う漢方薬で心の機能を強化し、起立性調節障害を治療します。

今回の幸井Dr.解説は、すんなり頭に入ってきました。
ただ疑問点があります。
最初に「脾気虚が原因で気血両虚証になる」と述べている割には、
血虚の治療薬に言及がないのはなぜ?
脾気虚を治療すれば、おのずと血虚も改善するという意味なのでしょうか。

日本漢方では、頭痛を気逆と捉えることが多いのですが、
それにも言及がありませんでした。

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小柴胡湯と派生処方について整理してみました。

2023年08月13日 10時08分12秒 | 漢方
漢方の勉強方法はいろいろありますが、
系統的に古典を学んだり、
師匠について勉強したりという機会がない私は、
迷走しながらはや20年、未だに初級者の域を出ておりません。

近年は“生薬”を理解し、そこから“方剤”を理解する、
という方法が自分には合っているのではないかと思うようになりました。

そんな中、アップル薬局さんの「漢方薬を学ぶ」というサイトがとてもわかりやすく、
時々覗かせてもらっています。

今回はその中の「小柴胡湯と派生処方」を自分なりに整理したいと思います。
小柴胡湯は柴胡剤の基本であり、代表です。
柴胡剤とは柴胡・黄岑という二つの生薬の組み合わせを含む方剤で、
六病位の“少陽病期”、表裏証の“半表半裏”に適応します。
また、五臓論の“肝”の異常を治します。

柴胡剤は新型コロナ禍の際に注目されました。
ご存知のように、西洋医学では新型コロナに対する“抗ウイルス薬”がなかなか開発されず、
手をこまねいていました。

漢方薬は2000年も昔から数々のパンデミックをくぐり抜けてきた歴史があり、
その際に活躍したのが「柴葛解肌湯」(さいかつげきとう)という方剤です。
これはエキス剤にはありませんが、
「葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏」で類似処方となります。
この方剤が効く原理は、
葛根湯の中の“麻黄”という生薬がウイルス増加を抑制し、
柴胡剤である小柴胡湯がサイトカインストームを予防する、
と考えられています。

“新型コロナに柴葛解肌湯が効く”と話題になってから、
アッという間に葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏が市場から消えてしまい、
ふだんから使っている私は困ってしまいました。

前置きが長くなりました。
本題に戻りましょう。

▢ 六病位と表裏
・太陽病 → 表証
・少陽病 → 半表半裏
・陽明病 → 裏証

▢ 小柴胡湯
(構成生薬)柴胡、黄芩、半夏、生姜、大棗、人参、甘草
(配合法則)
1.柴胡+黄芩:この組み合わせは胸脇苦満を治すために欠かせない。黄芩は柴胡の作用を強めるとともに副作用も防止する。
2.半夏+生姜:ここでは柴胡の副作用防止と少陽病期での食欲不振のために半夏が加えられている。そして半夏が入る方剤には半夏の副作用を除くために、必ず、生姜が組み合わされる。
3.生姜+大棗:いずれも補性薬。多くの方剤に副作用防止と作用緩和のために配合される。
4,人参:補性薬の代表で、これが入っているということは虚証向きの方剤。

ここで前項目の竹越哲男Dr.による小柴胡湯の解説を振り返ってみます。

・消炎:柴胡、黄岑
・鎮咳去痰:半夏
・鎮吐:半夏、生姜
・健胃:生姜、人参、大棗、甘草
・向精神薬:柴胡、半夏、大棗、甘草

鎮咳去痰としての半夏、それから向精神薬としての柴胡・半夏ほかが加わっていますね。
このように、漢方薬の解説はバリエーションが多く、
初学者には混乱の種になります。

▢ 小柴胡湯の方意
・少陽病期
・半表半裏証:往来寒熱、胸脇苦満
・適応症状:食欲不振、全身倦怠感
投薬時の注意点)
・手足のほてりやのぼせといった陰虚の症状があるときには使わない。その症状がひどくなる。
・空咳(肺陰虚)には用いない(間質性肺炎などの副作用が出やすくなる)。
・禁忌;
1. インターフェロン製剤を投与中の患者
2. 肝硬変、肝癌の患者
3. 慢性肝炎における肝機能障害で血小板数が10万/mm3以下の患者[肝硬変が疑われる]

▢ 小柴胡湯と派生処方
No.9 (小柴胡湯)  :柴胡、半夏、黄芩、人参、甘草、生姜、大棗
No.10(柴胡桂枝湯) :柴胡、半夏、黄芩、人参、甘草、生姜、大棗、桂枝、芍薬
No.8 (大柴胡湯)  :柴胡、半夏、黄芩、        生姜、芍薬、枳実、大黄

▢ 小柴胡湯と派生処方の方意
少陽病             → 小柴胡湯
少陽病+太陽病(表寒症の自汗) → 柴胡桂枝湯
少陽病+陽明病(裏熱から便秘) → 大柴胡湯

…これこれ、この比較が知りたかったんですよね。
 これがわからないと使い分けができないのです。

▢ 柴胡桂枝湯
・小柴胡湯(少陽病、半表半裏)と桂枝湯(太陽病、表寒証)の合剤
・半表半裏と表寒証(自汗あり)の両方に効果を発揮する
  → 微熱が続く(自汗)、食欲不振、疲れやすいなどに効果がある。
・柴胡+芍薬:自律神経調節作用、鎮痛作用。
・芍薬+甘草:鎮痙・鎮痛作用を増強。
  → これらにより不安やイライラ、関節痛・身体痛に効果がある。
(投薬時の注意点)
・手足のほてりやのぼせといった陰虚の症状があるときには使わない。その症状がひどくなる。
・桂枝・人参が入っているので、高血圧で赤ら顔の人には注意が必要。

▢ 大柴胡湯
・小柴胡湯を以下のようにアレンジ;
 ー(人参・甘草)…補性薬
 +(芍薬)…平肝止痛薬
 +(枳実)…理気薬
 +(大黄)…瀉下薬
・半表半裏+裏熱を改善する
・補性薬(人参・甘草)を除き、瀉性薬(枳実や大黄)を加えたことで、実証向きの方剤へと変化。
・裏熱(胃腸に熱がある)と便秘になる(陽明病)。裏熱は経絡に沿って上へと駆け上がり、めまいや頭痛などを引き起こす。
・半表半裏症で便秘があるときは、小柴胡湯や柴胡桂枝湯ではなく、大柴胡湯が適している。
(投薬時の注意点)
・虚証(体力がない、下痢傾向)の方には向かない。
・下痢や腹痛など胃腸障害時は中止する。

次は、六病位・表裏ではなく、五臓論の“肝”の視点からのバリエーションです。
そう、漢方には病態を表現する“ものさし”がいくつもあり、
これも初学者が混乱する原因です。

逆に、単独のものさしにこだわり過ぎると応用が利かないので、
スキルが上達しないとも言われています。

▢ 小柴胡湯の派生処方:肝の失調
No.9 (小柴胡湯)    :柴胡、黄芩、半夏、生姜、大棗、人参、甘草
No.11(柴胡桂枝乾姜湯) :柴胡、黄芩、甘草、桂枝、乾姜、牡蛎、瓜呂根
No.12(柴胡加竜骨牡蛎湯):柴胡、黄芩、半夏、生姜、大棗、人参、桂枝、茯苓、竜骨、牡蛎

▢ 小柴胡湯の派生処方の証
小柴胡湯(9)     :半表半裏
柴胡桂枝乾姜湯(11) :肝鬱化火(かんうつかか)・胃寒
柴胡加竜骨牡蛎湯(12):心肝火旺(しんかんかおう)・脾気虚・湿痰

▢ 柴胡桂枝乾姜湯
(生薬構成からみた適応病態)
・柴胡+黄芩なので柴胡剤ではあるが、小柴胡湯からはかなり崩れている(生姜も乾姜になっている)。
・桂枝・乾姜・牡蛎・甘草と虚証用の薬が多く入っており、より虚証向きの方剤となっている。
・瓜呂根は潤性薬(体内の水分を保留し、身体を潤す薬)で、牡蛎には鎮静・止汗作用がある。
・この処方、半表半裏証に発汗や瀉下を施し、いわゆる誤治によって生じた病態に対する処方らしい。つまり発汗過多による脱水や瀉下による腹部の冷えや痛みに効果がある。
・もともと「胃寒(冷たいものがダメ)」な人で「肝の失調」が見られる場合に適応する。柴胡・黄芩の寒性を桂枝・乾姜の温性によって弱めている(だから生姜が乾姜になっている)ので、小柴胡湯などで胃が痛くなる症例にも使える方剤になっている。
(証)肝鬱化火(かんうつかか)・胃寒
(適応症状)
・胸脇苦満やイライラ、発汗過多などの症状に、腹部の冷えや痛みを伴う場合。 
(投薬時の注意点)
・手足のほてりやのぼせといった陰虚の症状があるときには使わない。その症状がひどくなる。
・陰虚証には用いない(柴胡剤の共通の注意点)。

▢ 柴胡加竜骨牡蛎湯
(生薬構成)小柴胡湯を以下のようにアレンジ;
 ー(甘草)
 +(竜骨)…鎮静・動悸・不眠
 +(牡蛎)…鎮静
 +(茯苓)…鎮静・めまい・動悸
 +(桂枝)…のぼせ
  → 半表半裏証に「肝の失調」を伴うものに適している。
※ 竜骨+牡蛎 → 裏虚証で、神経症状のある場合に、鎮静の目的で用いられる。
(証)心肝火旺(しんかんかおう)・脾気虚・湿痰
・肝に異常をきたすと、イライラ、怒りっぽい、驚きやすい、精神不安などの兆候が表れる。
・肝は「心」に影響を与えるので、不眠や動悸などもおこる。
(適応症状)
・イライラ・動悸・驚きやすい・精神不安・不眠といった症状で胃腸が弱く疲れやすい方に、
 自律神経の調整や鎮静を目的に使われることが多い。
(投薬時の注意点)
・手足のほてりやのぼせといった陰虚の症状があるときには使わない。その症状がひどくなる。
・血圧が低い人には用いない。
・陽症(実、表、熱の要素の強いもの)に用いる。同じような症状でも陰症(虚、裏、寒の要素の強いもの)には、No.26(桂枝加竜骨牡蛎湯)を用いる。

ここでいきなり、“肝欝化火” “心肝火旺”という聞き慣れない四文字熟語が登場しました。
これは五臓論の用語で、日本漢方より中医学で用いられる病態用語です。
上記解説を読んでも今ひとつイメージが沸きません。
「肝の異常とは何ぞや?」について書いていないのです。
このようなことに出会うと、
「漢方はわからん」と挫折してしまいがちなポイントなんですけどね。
わかりやすいアップル薬局の解説でも言葉足らずの印象が無きにしも非ず。

次は六病位(少陽病期)・表裏(半表半裏)に気血水の要素を加えたバリエーションです。

▢ 小柴胡湯の派生処方:気血水編
No.9(小柴胡湯) : 柴胡、黄芩、半夏、生姜、大棗、人参、甘草
No.96(柴朴湯) : 柴胡、黄芩、半夏、生姜、大棗、人参、甘草、厚朴、茯苓、紫蘇葉
No.114(柴苓湯) : 柴胡、黄芩、半夏、生姜、大棗、人参、甘草、沢瀉、茯苓、猪苓、蒼朮、桂枝

小柴胡湯の派生処方の証
小柴胡湯(9):半表半裏
柴朴湯(96):半表半裏、気滞、気逆
柴苓湯(114):半表半裏、水毒

▢ 柴朴湯(96)
・小柴胡湯と半夏厚朴湯の合方剤が「柴朴湯」。
・重複生薬は半夏と生姜。適応は両剤を足したものと考えてよい。
・胸脇苦満に咳や喘息、ヒステリー球がある場合に用いる。
肝鬱気滞型の自律神経失調症(胸のつまりや溜息、涙もろい、のどの異物感、精神不安、うつ傾向)にも用いられている。
(投薬時の注意点)
・手足のほてりやのぼせ、寝汗など陰虚の症状がある場合には用いない。
・喘息や咳に用いるが、小柴胡湯が入っているので、空咳には適さない。

▢ 柴苓湯(114)
・小柴胡湯と五苓散の合方剤が「柴苓湯」。
・重複生薬はない。よって適応も2つの適応を足したものとなる。
・胸脇苦満に尿量減少やむくみ、口渇、頭痛、嘔吐、下痢があるような場合に用いる。
・臨床では、腎炎や糖尿病性腎症などで胸脇苦満がある方に応用されている。
(投薬時の注意点)
・手足のほてりやのぼせ、寝汗など陰虚の症状がある場合には用いない。
・皮膚がカサカサになったり、発疹、かゆみが見られる場合は中止。全身倦怠感が見られる場合も中止する。

以上、小柴胡湯とその派生処方についてみてきました。
登場した方剤は9つ。
まとめてみると、

▢ 小柴胡湯と派生処方のまとめ
小柴胡湯(9):少陽病(半表半裏)
 が基本。
 他の方剤は、少陽病(半表半裏)+(以下の証)で使い分けるべし!
大柴胡湯(8)     :+陽明病(裏熱)
柴胡桂枝湯(10)    :+太陽病(表寒)
柴胡桂枝乾姜湯(11)   :+肝欝化火・胃寒
柴胡加竜骨牡蛎湯(12):+心肝火旺・脾気虚・湿痰
柴朴湯(96)      :+気滞、気逆
柴苓湯(114)    :+水毒

これで明日から使い分けができるでしょうか。
個人的には、肝の失調として出てきた用語、
 肝欝化火
 心肝火旺
 肝欝気滞
の理解がないと、今ひとつという印象です。
あ、昔のブログに解説を見つけました。


<参考>
■ 漢方薬を学ぶ 「基本8処方とその派生処方」(アップル薬局)
1、基本処方① : 小柴胡湯
 小柴胡湯(9)、大柴胡湯(8)、柴胡桂枝湯(10)
 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、柴胡桂枝乾姜湯(11)
 柴朴湯(96)、柴苓湯(114)
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咳止め漢方レクチャー by 竹越哲男Dr.

2023年08月06日 19時57分41秒 | 漢方
耳鼻科医で漢方の伝道師でもある竹越哲男先生の、
咳に関するWEBレクチャーを視聴しました。

私は小児科医としては珍しく、ふだんから咳に漢方薬併用をしています。
風邪の始まりから数日の咳には小柴胡湯、
ゼーゼーして気管支炎になっている場合は五虎湯、
長引いてのどが過敏になり乾いた咳、痰が切れそうできれない咳が止まらないときは麦門冬湯、
が基本です。

竹越先生はたくさんのバリエーションを示してくれました。
大変参考になりましたので、メモを残しておきます。

まとめていて気になったのは、
今ひとつ内容が整理されていないこと。
同じようなことが繰り返されたり、
概念の羅列がバラバラだったり・・・(^^;)。
でもまあ、勉強になりました。

▢ 漢方薬は言語に似ている
1.構成生薬は単語→ 意味を持つ
2.生薬は意味を複数持つ→ 状況により意味が変わる
3.生薬が複数組み合わさると異なる意味を持つ→ イディオム

▢ 漢方処方は生薬による「文」
・漢方エキス製剤は148種類、生薬は139種類
→ 139の単語しか使わない148の文章
・重要生薬(重要単語)は10〜30程度
・基本の「文(生薬構成)」が同じ物が多い
→ 基本骨格が同じ

▢ 生薬の例

【桂枝】
・体を温める→ 止痛、発汗
・精神安定

【芍薬】
・鎮痙作用
・血虚(栄養不足の改善)

【麻黄】
・水を捌く
・温める

【葛根】
・肩こり、首の張りを治す
・軽い発汗作用
・解熱作用

▢ 生薬の組み合わせの例

【大棗・生姜・甘草】
・大棗:甘みで脱水を防ぐ
・生姜:体を温め、発汗を促す
・甘草:諸薬を調和する、甘みで脱水を防ぐ

【麻黄+桂枝】
・発汗させる効果が増強
・体を温める効果が増強

▢ 病気の進展のステージ分類「六病位」

陽病期】…熱が出る時期
 太陽病期:寒気や頭痛・・・風邪の引き始めのような症状
 少陽病期:咳、食欲不振、往来寒熱・・・こじれた風邪のイメージ
 陽明病期:高熱(身体深部)・潮熱/稽留熱、病変は裏(腹部膨満・便秘)、激しい口渇、黄色舌苔・・・全身くまなく熱が満ちている状態(「全身火の玉」 by 寺澤捷年Dr.)

陰病期】…元気がなくなり冷える時期
 太陰病期:下痢、体の冷え
 少陰病期:疲れて横になりたがる
 厥陰病期:重篤な状態

▢ 表裏の概念
・急性熱性疾患の経過観察の中から導き出されたもの
・病邪は体表→ 半表半裏→ 裏、と進展していく

▢ 病気の進行は、表→ 半表半裏→ 裏

】体表部に闘病反応の結果が表出
・体表部付近:皮膚・四肢
・頭痛、悪寒、発熱、項背筋のこわばりと痛み、四肢の関節痛・筋肉痛

半表半裏
・胸郭内症状:咳嗽、胸満感、胸痛、胸内苦悶感
・上部消化器症状:悪心、嘔吐、口苦、心窩部痛、季肋部痛

・身体深部:消化管付近
・消化器症状:腹部膨満、下痢、便秘
・身体深部の熱感、稽留熱、せん妄

▢ 表裏の概念に対応する治療の考え方

】→ 体表から侵入しようとしている「寒邪」を発汗して追い出す(発汗解表)
(例)麻黄湯、葛根湯、桂枝湯 ・・・ジワッと気持ちの良い汗をかいて下着を3回取り替えるくらいで内服終了

半表半裏】→ 追い出せないので病邪を抑制(抗生剤のイメージ)
(例)小柴胡湯

】→ 便秘で病邪が消化管に留まる場合は下して追い出せ!

▢ 小柴胡湯の構成生薬と薬効
(構成)柴胡・黄岑・半夏・生姜・人参・大棗・甘草
(証)半表半裏
・消炎:柴胡、黄岑
・鎮咳去痰:半夏
・鎮吐:半夏、生姜
・健胃:生姜、人参、大棗、甘草
・向精神薬:柴胡、半夏、大棗、甘草

▢ 小柴胡湯加桔梗石膏の構成生薬と薬効
(構成)小柴胡湯+桔梗・石膏
・桔梗石膏:消炎・抗化膿、去痰、排膿
(証)半表半裏
(適応病態)
・扁桃炎の漢方、気管支炎・肺炎にも有効
・副鼻腔炎(副鼻腔は半表半裏)・リンパ節炎にも使える
・膿性痰・粘稠痰を伴う咳
・+半夏厚朴湯→ 咳・痰を減らす(柴朴湯)

▢ 半夏厚朴湯の構成生薬と薬効
(構成)半夏・高木・茯苓・生姜・蘇葉
・半夏:化痰(消炎酵素剤のイメージ)、鎮咳
・厚朴:平滑筋鎮痙作用→ 痙攣性咳嗽
・半夏・厚朴茯苓・生姜・蘇葉:利水作用
(適応病態)
・声帯炎(生体の軽度の浮腫)、嗄声、気管支炎に
・「コンコン咳が出る。痰は絡む感じがするけど出てこない」
 → 咽喉頭異常感症

▢ 目が飛び出すような咳に有効な越婢加半夏湯
越婢加朮湯+半夏
→ (半夏の代わりに半夏含有方剤を追加)
  +小半夏加茯苓湯
  +小柴胡湯
  +半夏厚朴湯
  +柴朴湯
小柴胡湯+五虎湯(松田邦夫先生ご愛用、錠剤で対応可能)
・小柴胡湯+麻杏甘石湯

▢ 小柴胡湯+五虎湯の構成生薬と薬効
(構成生薬)
・小柴胡湯+五虎湯:消炎→ 膿性痰
・柴胡:胸が苦しくなる咳(胸脇苦満)
・麻黄:気管支鎮痙作用
・去痰:分泌物減少、粘液溶解
(適応病態)
・(膿性)痰の出る激しい咳

▢ 小柴胡湯加桔梗石膏+五虎湯の構成生薬と薬効
(適応病態)
・消炎作用が強力→ 膿性痰が多い咳
・越婢加半夏湯の生薬構成を含んでいる
・かつ、小柴胡湯よりさらに消炎排膿が期待される

▢ 柴朴湯の構成生薬と薬効
(構成生薬)半夏厚朴湯++小柴胡湯
・「三日以内に70-80%の症例が効果を実感する」(内薗明裕)

▢ 咳止め治療の視点
1.感冒の関与:熱の有無・性状で生薬を選択
・往来寒熱→ 柴胡
・発熱→ 石膏・柴胡
2.鼻症状の有無:鼻閉・鼻漏・後鼻漏
・麻黄で鼻閉・鼻漏の改善
3.痰の状態:有無・透明/膿性/粘稠
・半夏:粘液溶解、分泌物減少・・・乾かす漢方
(例)半夏厚朴湯、柴朴湯、五虎湯
4.咽頭乾燥〜口呼吸・・・目が覚めたらのどがカラカラで水を飲みたい
・潤す漢方の使用
(例)麦門冬湯、滋陰降火湯、滋陰至宝湯
5.アレルギー性鼻炎の有無
・麻黄製剤が補助的に:五虎湯
6.咳?咳払い?痰は絡むけど出てこない?
・痰の絡み感:咽喉頭異常感症
(例)半夏厚朴湯、柴朴湯
8.「咳をしてはいけない」と意識するほど咳が出る!
・脳が気管支に直結!
(例)柴朴湯、神秘湯、半夏厚朴湯、
   小柴胡湯、竹筎温胆湯、参蘇飲

▢ 咳の漢方治療:

<咳のみ>
・第一選択:柴朴湯+五虎湯・・・激しい咳、(膿性)痰の出る咳でも
・第二選択:神秘湯+麦門冬湯・・・乾性の激しい咳(麻黄)
 → 麻黄剤のため、高血圧・前立腺肥大に注意
・麻黄が使いにくい場合:
 柴朴湯+麦門冬湯・・・乾性の激しい咳
 半夏厚朴湯+麦門冬湯・・・乾性の咳

<咳+発熱>
・消炎作用のある柴胡・石膏などが必要
(柴胡・石膏含有方剤例)
 小柴胡湯(柴胡)
 小柴胡湯加桔梗石膏(柴胡・石膏)
 小柴胡湯+五虎湯(柴胡+石膏)
 小柴胡湯加桔梗石膏+五虎湯(柴胡+石膏増量)
(処方例)
 柴朴湯+五虎湯・・・(膿性)痰の出る激しい咳
 柴朴湯+麦門冬湯・・・乾性の激しい咳
 小柴胡湯加桔梗石膏+五虎湯・・・膿性痰の咳
 竹筎温胆湯+五虎湯・・・膿性痰の咳
 参蘇飲+五虎湯・・・頭痛、発熱、悪寒、咳、痰、悪心、嘔吐

<咳+発熱+カゼ症状>
 参蘇飲+五虎湯・・・頭痛、発熱、悪寒、咳、痰、悪心、嘔吐
 竹筎温胆湯+五虎湯・・・こじれた風邪
・小柴胡湯証
 柴朴湯+五虎湯
 柴朴湯+麦門冬湯
 小柴胡湯加桔梗石膏+五虎湯 

▢ 咳止め漢方の視点から生薬を分析
① 麻黄:≒エフェドリン、気管支拡張作用
② 柴胡:消炎作用、胸脇苦満(※)、往来寒熱
③ 半夏:咳・嘔気を止める、痰を減らす
④ 消炎する生薬:柴胡、黄連、黄岑
⑤ 潤す生薬:麦門冬、天門冬、知母
⑥ 乾かす生薬:柴胡、半夏、黄岑
⑦ 精神安定の生薬:柴胡、半夏、素養、陳皮
※ 胸脇苦満:咳で胸が苦しければOK。

<以降は構成生薬から見た咳止め効果分析>

▢ 小柴胡湯
(① 麻黄)
② 柴胡
③ 半夏
④ 消炎する生薬
(⑤ 潤す生薬)
⑥ 乾かす生薬
⑦ 精神安定の生薬

▢ 小柴胡湯+五虎湯
① 麻黄
② 柴胡
③ 半夏
④ 消炎する生薬
(⑤ 潤す生薬)
⑥ 乾かす生薬
⑦ 精神安定の生薬

▢ 小柴胡湯加桔梗石膏
(① 麻黄)
② 柴胡
③ 半夏
④ 消炎する生薬(強力)
⑤ 潤す生薬(石膏)
⑥ 乾かす生薬
⑦ 精神安定の生薬

▢ 半夏厚朴湯
(① 麻黄)
(② 柴胡)
③ 半夏
(④ 消炎する生薬)
(⑤ 潤す生薬)
⑥ 乾かす生薬
⑦ 精神安定の生薬

▢ 柴朴湯
(① 麻黄)
② 柴胡
③ 半夏
④ 消炎する生薬
(⑤ 潤す生薬)
⑥ 乾かす生薬
⑦ 精神安定の生薬(強力!)

▢ 柴朴湯+五虎湯
① 麻黄
② 柴胡
③ 半夏
④ 消炎する生薬
(⑤ 潤す生薬)
⑥ 乾かす生薬
⑦ 精神安定の生薬

▢ 神秘湯+麦門冬湯
① 麻黄
② 柴胡
③ 半夏
(④ 消炎する生薬)
⑤ 潤す生薬
⑥ 乾かす生薬
⑦ 精神安定の生薬(強力)

▢ 麦門冬湯+柴朴湯
(① 麻黄)
② 柴胡
③ 半夏
④ 消炎する生薬
⑤ 潤す生薬
⑥ 乾かす生薬
⑦ 精神安定の生薬

▢ 麦門冬湯+半夏厚朴湯
(① 麻黄)
(② 柴胡)
③ 半夏(増量)
(④ 消炎する生薬)
⑤ 潤す生薬
⑥ 乾かす生薬
⑦ 精神安定の生薬

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