漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

「漢方学舎 白熱教室・入門編」(大野修嗣著)

2016年09月11日 10時50分01秒 | 漢方
源草社、2015年発行。



「インターネット漢方塾」でお世話になっている大野塾長の執筆した書籍です。
日本漢方と中医学を融和させた彼ならではの理論のエッセンスがちりばめられていて、大変参考になります。
さらに、そこに西洋医学的視点を導入することにより、より効果的な治療学を提唱しています。

よく誤解される日本漢方と中医学の「陰虚証」の概念の違いにも言及されています。
また、漢方の概念をまとめた図表が素晴らしい(永久保存版!)。
入門編という設定ですが、臨床経験を積む過程で何回も読み直すたびに、最初はピンとこなかった文章の意味がだんだんわかってきそうな気がする、奥深い内容だと思います。

漢方の考え方の一旦が以下の文言からにじみ出ていました。
・漢方医学も解熱剤(ヤナギから抽出)を見つけているが、それを使わなかった。体の免疫反応を十分発揮させることにより熱が下がってからだが楽になるという手法を選択したのだ。
・漢方には便秘に対する下剤も下痢に対する止痢剤も存在しない。病的状態にある腸を治すことにより、便秘や下痢が改善することを目標にした。だから、便秘に対する方剤を使いすぎても下痢にならないし、下痢に対する方剤を使いすぎても便秘にならない、これは西洋薬と大きく異なるところである。

<メモ・備忘録> 

・弛緩性便秘とけいれん性便秘
 弛緩性便秘には西洋医学と同様に大腸刺激剤である大黄剤が適応する。
 けいれん性便秘に対して大腸刺激薬を使用すると腹痛の出現、あるいはかえって便秘が増悪することがある。こんな時は腸管の痙攣を和らげて排便を促す芍薬の入った方剤(芍薬甘草湯など)がよい。
 大黄の薬能は第一義的には瀉下剤ではなく清熱剤で、瀉下作用は第二義的な取り扱いとなる。大黄は正常な腸内細菌の存在下でセンノサイドが分解されてレイン・アンスロンという活性成分が出現し、瀉下作用を発揮することが現代医学で証明されている。
 寒証と診断されても大黄が必要な場合は、芍薬を配合して腸管のけいれん性亢進状態を和らげることに配慮した麻子仁丸が有効。

・「痩せていて薄い舌、無苔、裂紋」からわかる体の状況
 痩せていて薄い舌(嫰舌:どんぜつ)→ 虚証
 無苔 → 虚証
 裂紋 → 虚証、気虚

・「病気に対する考え方」の東西比較
 「病気」とはそれらの病原体の感染と宿主側の状態が関与する複雑な状態と捉えられる。
 これに対し、西洋医学では病原体を認知して排除しようとする。
 一方の漢方医学では生体側の異常を可及的速やかに元の状態に戻そうとする。
 西洋薬と漢方薬をうまく組み合わせれば新たな治療学となり得る可能性を秘めている。

・漢方薬の欠点は抗菌薬(抗生物質)、抗ウイルス薬を持たないこと。

・釣藤散(47)は高血圧患者に使用されるが降圧剤ではない。
 漢方薬には西洋医学でいう降圧薬はない。釣藤散は、高血圧を惹起するようなある種の精神的緊張(頑固な性格で精神神経系の緊張を伴い、のぼせ、肩こりなどが出現する状態)が現れた病態に適応する。高血圧が常態になる前に役立つ漢方薬である。

・漢方の生薬は毒性の強さにより上品・中品・下品に分類されている(神農本草経)
 上品(上薬:無毒養命):人参、黄耆、茯苓、大棗 ほか120種
 中品(中薬:少毒養性):麻黄、葛根、芍薬、当帰 ほか120種
 下品(下薬:有毒治病):大黄、附子、巴豆(はず)、半夏 ほか125種

・西洋世界ではセイヨウシロヤナギ(Salix alba)から下熱鎮痛薬が始まり、漢方医もこれを承知していたが、漢方薬の世界では解熱鎮痛剤を使わずに熱性・疼痛性疾患に対峙することを選択した。
 解熱鎮痛剤がインフルエンザ性脳症を重症化させることが判明した現代医学にあって、その思想に注目すべきであろう。

・生薬の組み合わせで変化する薬能
 麻黄+経皮 → 発汗
 麻黄+杏仁 → 鎮咳
 麻黄+石膏 → 止汗
 麻黄+薏苡仁 → 利水
(例)麻黄湯は悪寒・疼痛を伴った咳嗽、麻杏甘石湯は発汗を伴った咳嗽に適応

・陰陽の捉え方
陽証:代謝の亢進した状態、熱を感じさせるようなある種の炎症状態 → 清熱剤(黄連解毒湯(15)、防風通聖散(62)、白虎加人参湯(34)など)
陰証:代謝の低下した状態 → 温補剤(当帰芍薬散(23)、補中益気湯(41)、桂枝加朮附湯など)

       (陰)  (陽)
病位(表裏) 裏証   表証
病勢(虚実) 虚証   実証
病性(寒熱) 寒証   熱証


・用語解説「衛気」と「営気」
 衛気:生体防御機能
 営気:全身の組織を栄養する機能

・「陰虚証」の概念は日本漢方と中医学で異なる
日本漢方 ・・・「陰証で虚証」:冷えの傾向、寒がり、汗をかきづらい、温かい飲み物を好む、軟便傾向
中医学  ・・・「陰液の不足」:熱感、ほてり、乾燥傾向、便秘傾向
※ 中医学では「陰液」と「陽気」という概念があり、この二つがうまくバランスを取っているのが自然な健康状態。陰虚は「陰液の不足」と読み替える必要があり、相対的に陰液が不足すると陰液の清熱作用が低下して、のぼせ、ほてりなどの熱の病証が出現すると考える。

・虚実の各側面
            (虚証)        (実証)
(体質的側面)     虚弱体質        頑丈な体質
            風邪をひきやすい    風邪をひきにくい
            食が細い        大食傾向
            お腹が弱い       お腹が弱くない
            声が小さい       声が大きい
            消極的性格       積極的性格

(体力的側面)     疲れやすい       疲れ知らず
            体力の消耗状態     体力充実

(病勢)ー(病因)   弱毒性の病因      強毒性の病因
    ー(闘病反応) 穏やかな症状      激しい症状

(漢方的他覚所見)  舌:嫰舌、胖大、淡色  舌:老舌、紅色、舌体堅斂(けんれん)
           脈:弱脈、大脈、濇脈  脈:実脈、弦脈、緊脈
           腹:軟弱、心下振水音  腹:弾力に富む、緊張亢進


※ 中医学では、虚証とは精気の虚損、実証とは邪気(病因)が旺盛、と定義される。
※ 脈のいろいろ;
 濇脈(しょくみゃく):脈の立ち上がりがゆっくりなもの。渋脈ともいう。
 大脈:橈骨動脈に軽く触れて触知し、深く圧しても触知する場合
 実脈:脈を圧しても途絶えないもの 
 弦脈:実脈の中で押し返してくるような緊張感のある脈、さらに強く触知するものを緊脈と呼ぶ。

・便秘と虚実
 実証であれば大黄剤(大柴胡湯(8)、大承気湯、三黄瀉心湯)が適応し、体力眼区虚証と診断されれば大黄剤を避けて小建中湯(99)、大建中湯(100)、加味逍遥散(24)などを考慮する。
 虚証で大黄剤が必要な場合は、潤腸湯、麻子仁丸など大黄の副作用が軽減される生薬厚生をもつ処方を選択。
 (潤腸湯)当帰・地黄各4.0;麻子仁・桃仁・杏仁・枳実・厚朴・黄芩各2.0;甘草1.5;大黄1.0(適量)
 (麻子仁丸)麻子仁5.0;大黄4.0;芍薬・枳実・厚朴・杏仁各2.0;煉蜜
 
・温めると改善する病態を「寒証」、冷やす(清熱する)ことで改善する病態を「熱証」
※ 西洋医学には「寒証」に相当する概念が欠如している。

・寒熱
          (寒証)         (熱証)
(局所)      患部の冷感        患部の熱感
(全身)      寒がり、無汗       暑がり、多汗
          冷えると痛む       全身的に熱感
          皮膚の蒼白        赤ら顔
(胃腸)      下痢傾向         便秘傾向
(舌診)      湿潤舌・白舌苔      乾燥舌・黄舌苔
(脈診)      遅脈           数脈
(西洋医学的病態) 副交感神経緊張状態    交感神経緊張状態
          低体温          高体温
          けいれん性便秘      弛緩性便秘
(漢方薬)     人参湯          半夏瀉心湯、黄連解毒湯
          真武湯          五苓散、  白虎加人参湯
          当帰四逆加呉茱萸生姜湯  桂枝茯苓丸、大黄牡丹皮湯


・熱証には清熱剤:清熱剤はNSAIDsとは作用機序が異なる
 アラキドン酸カスケードを遮断しない
 血管を収縮させない
 胃腸を傷害しない
 腎機能を傷害しない

・寒証には温補剤:温補剤に相当する西洋薬はない
 附子は温めながら鎮痛する
 乾姜は身体内部(消化管)から温める
 当帰は血流を改善させながら温める

・関節痛と寒熱
 冷えて痛む → 表寒証:桂枝加朮附湯
 熱感を持つ → 票熱証:越婢加朮湯

・表裏と部位・症状
 表:頭部(頭痛)、筋肉(筋痛)、関節(関節痛)、皮膚(掻痒) → 発表剤(発汗を促す、麻黄/桂枝)
 半表半裏:口腔、肺(咳嗽)、食道(胸焼け)、胃・胆嚢(吐気) → 和解(柴胡剤)
 裏:腸管(下痢・便秘)、中枢神経系(せん妄・発熱)       → 瀉下(大黄剤など)

・日本漢方では熱性疾患ばかりでなく慢性疾患にも六病位の理論が応用されている。
 現在の中医学では、『傷寒論』の理論と、清代に始まった温病論を統合して熱性疾患に対する理論として用いられているが、日本では『傷寒論』を六病位の理論として急性熱性疾患ばかりでなく、慢性疾患にも広く応用している。

・桂枝湯が適応となる発汗状態
 桂枝湯も麻黄剤と共に発汗剤であるが、ジトッとした不快な発汗に対して、穏やかにもう少し発汗を促してさっぱりさせる効果がある。

・太陽病期に適応する方剤の使い分け
桂麻各半湯:虚実間証:麻黄湯を使いたい症候があり、すでに軽度の発汗が現れた場合に適応
桂枝二越婢一湯:虚実間証:症候が太陽病期(本来は悪寒・悪風)を示しているのに熱感の方を強く訴え、発汗している場合に適応
小青竜湯:虚証:水様性鼻汁・喀痰
参蘇飲:虚証:悪寒、咳嗽、項のこりがあり、胃腸虚弱もあって虚証と診断される患者さんの感冒のshきに最も頻用される方剤が参蘇飲。葛根湯を使いたいが、麻黄が心配というときに役立つ。

・四逆散(少陽病期/虚実間証)は黄岑が入らない柴胡剤。 

・柴胡桂枝湯(虚証)は小柴胡湯と桂枝湯の合方で太陽病期と少陽病期の併病に適応する。
 頭痛と食欲不振が同時に現れた病証

・柴胡桂枝乾姜湯(少陽病期/虚証)は柴胡剤の中で最も温める力の強い方剤。
 陽病期は一般的には清熱を期待するが、少陽病期の他の特徴を備えて、なおかつ寒証にある病証に適応がある。

・建中湯類は太陰病期の方剤
 太陰病は「裏寒証」だが、寒証が少し表にも「微寒」として現れている病態。
 熱性疾患で罹病期間がやや長くなり、気力減退と「裏寒」に基づく悪心・嘔吐、腹部膨満、下痢、腹痛など消化器症状が前面に出てきた病証。
 「少陽病期」の病証にも悪心・嘔吐、心窩部不快感が現れるが、原則的に胸脇の「熱証」であり、太陰病期は熱感がなく冷えに傾いていること、下痢がよりはっきりしていることで鑑別可能。
 腹皮拘急(腹直筋攣急)が認められれば桂枝加芍薬湯類(桂枝加芍薬大黄湯、小建中湯、当帰建中湯、黄耆建中湯、帰耆建中湯)が適応。

・小青竜湯は太陽病期の方剤
使用目標:薄い鼻汁、軽い咳嗽
備考:弱い去痰、弱い清熱作用

・少陽病期に用いる(意外な)風邪の漢方
五苓散:小児の発熱・嘔吐に有効
辛夷清肺湯:感染後の急性副鼻腔炎
※ 白虎加人参湯(陽明病期)と五苓散(少陽病期)の使い分け:白虎加人参湯は尿量が保たれ、五苓散は尿量減少。

・桔梗湯(太陽病期)の使い方
 咽頭痛専門薬。アズレン製剤でうがいをした後に桔梗湯を濃いめに溶かして咽頭に置くように含むと咽頭の炎症に効果的。

・参蘇飲(太陽病期)の使い方
 葛根湯証で、高齢者、胃腸虚弱の方に向いている。高熱や激しい症状には効果が期待できない。
※ 曲直瀬道三は「感冒の治療に葛根湯を用いるのは、鶏を裂くに牛刀を以てするようなものである」といって参蘇飲を推奨した。

・咳嗽に対する漢方は痰の量で使い分け
(痰が少ない)麦門冬湯、麻黄附子細辛湯、柴朴湯
(痰が中等度)
 麻杏甘石湯:熱感/発汗、膿性痰が多量にある場合には病態を悪化させかねない
 五虎湯:麻杏甘石湯+桑白皮で鎮がい作用を強化。痰をさらに喀出困難の方向に導くことがあるので注意
(痰が多い)小青竜湯(鎮がい作用は弱い)、清肺湯(甚だしい膿性痰

・「気逆」の漢方
桂枝加竜骨牡蛎湯:寒証・虚証・気逆(動悸・不眠)
抑肝散:精神的に過緊張があり、攻撃的な精神状態。腹皮拘急、弦脈
※ 柴胡加竜骨牡蛎湯:気うつ・実証

・頭痛の漢方治療:気逆に対する方剤が多く使われる
寒証・気逆:呉茱萸湯(四肢の冷え) ・・・継続服用で効果が得られれば、その後は頓用でも有効
寒証・脾虚:呉茱萸湯、半夏白朮天麻湯(めまい/立ちくらみ)、桂枝人参湯(軟便)
気逆・熱証:釣藤散(のぼせ/めまい)、黄連解毒湯(顔面紅潮/イラつき)、抑肝散(神経過敏/イラつき)
水毒:五苓散(口渇/尿量減少/浮腫)
気虚・水毒:半夏白朮天麻湯
瘀血:桂枝茯苓丸

・不眠症に対する漢方治療
まずは不眠恐怖症を回避させる指導を;
①昼寝は15分
②眠くなったらベッドに入る
③4-5時間で覚醒しても焦らない
漢方薬が有用な状態;
①神経症性不眠、神経質な性格を持った患者さんの不眠
②習慣性やふらつきなど西洋薬で副作用が出現した場合
③“足が冷えると眠れない”など明らかな漢方医学的病証が存在する場合
※ 精神病的不眠は西洋薬を優先
第一選択薬は酸棗仁湯、気うつ傾向がはっきりしていれば香蘇散を合方

柴胡加竜骨牡蛎湯:神経質、小心、煩驚(はんきょう)、胸脇苦満
酸棗仁湯:心身疲労時の不眠、嗜眠、多夢
抑肝散:精神的緊張、小児の癪、腹皮拘急
黄連解毒湯:気逆、のぼせ、顔面紅潮、心下痞硬
帰脾湯:全身倦怠感、胃腸虚弱、冷え、不眠
加味帰脾湯:帰脾湯証でほてり、胸脇苦満
桂枝加竜骨牡蛎湯:神経質、小心、煩驚、臍上悸、胃腸虚弱

・「水」の概念、中医学と日本漢方
中医学では生理的な水分を“津液”と称し、喀痰、過剰な胃液、さらに悪心・嘔吐などの病的な水分を“痰飲”と称し、区別して論じる。
日本漢方では生理的水分の過不足・停滞・異常分泌が生じたときに“水毒”“水滞”と呼ぶ。

・便秘
西洋医学的認識では便秘の反対側に下痢があると考えがちだが、漢方医学では便秘と下痢は全く異なる事象の疾病と捉える。
弛緩性便秘:熱証:清熱作用のある方剤(大黄)
痙攣性便秘:寒証:温補作用のある方剤(建中湯類・・・膠飴の主な成分はマルトースというオリゴ糖)
※ 西洋薬では痙攣性便秘に対応する薬物が少ない。

潤腸湯:当帰・地黄各4.0;麻子仁・桃仁・杏仁・枳実・厚朴・黄芩各2.0;甘草1.5;大黄1.0(適量)
・・・穏やかな下剤で、西洋薬でいえば酸化マグネシウム(=カマ)に近い効果がある。カマと違い、血中のリン上昇を惹起することはない。大便の秘結による便秘に適応する。大黄が配剤されていることから弛緩性便秘に有効であるが、痙攣性便秘にも使用可能、さらに地黄・当帰などが配剤(血虚の四物湯の構成薬)されて全身、とくに皮膚に対する滋潤作用が期待できる。
麻子仁丸:麻子仁5.0;大黄4.0;芍薬・枳実・厚朴・杏仁各2.0;煉蜜と皮下kすると麻子仁5g→ 2g、大黄4g→ 2gと作用が穏やかであり、よりコロコロな硬い便に適している。

麻子仁丸:麻子仁5.0;大黄4.0;芍薬・枳実・厚朴・杏仁各2.0;煉蜜
・・・麻子仁はリノール酸、リノレン酸、オレイン酸、杏仁はオレイン酸などの脂肪油を含み、これらの油性成分が腸管からの水分の吸収を緩徐にすることにより便を軟らかくしてボリュームを増大させ、便を滑らせて排便を促す。
気うつに対する枳実・厚朴は精神的緊張を緩和して自律神経系を副交感神経優位の状態に導き、腸管のぜん動運動を補佐している。大黄で大腸を刺激するが、刺激しすぎて腸管が痙攣するのを芍薬が予防している。
主に弛緩性便秘に適応するが、痙攣性便秘にも一部有効。

・下痢
下痢を止める西洋薬、腸管を治す漢方薬。
急性の下痢は生体の防御反応であり、下痢は病原微生物を排除して生体防御を担う意味があるので、下痢を安易に止めないことが生体にとって有利になることが多い。
  (西洋医学的病態)ー(対応生薬)ー(代表処方)
痢疾ー感染性 ー大黄・黄岑・黄連ー大承気湯、大黄牡丹皮湯、半夏瀉心湯
泄瀉ー非感染性ー蒼朮・茯苓・沢瀉ー人参湯、啓脾湯、真武湯
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二宮文乃先生「漢方による20年間アトピー治療の集大成」

2016年09月11日 06時31分58秒 | 漢方
漢方医学新聞第3号:1997

 アトピー性皮膚炎の漢方治療ではすでにカリスマの域に達している二宮文乃(ふみの)先生。
 使用している方剤はあまり変わらないのに、彼女の診療は成功率が非常に高くマジックとさえ言われています。
 そのエッセンスを学ぼうと彼女の書いた本を読んでも、どうもピンときません。
 まあ、私の理解力不足なんでしょうが・・・(^^;)。

 約20年前の記事を見つけました。
 繰り返し読んで噛みしめ、理解に努めたいと思います。

●アトピー性皮膚炎の特長
(1)消化器系のバリア機能異常が主要因
(2)成人のアトピーは外因子が50%
(3)主に虚証・病期は進んでても陽明期
 皮膚、気道粘膜、胃腸粘膜のバリア機能の先天性脆弱が主要因と考えられる、過敏性皮膚炎と合わせ双方で疾患全体の80%を占める。
胃腸が弱いため偏食になりがちで、皮膚炎を助長する傾向に。従来は、大人になって胃腸が丈夫になると自然に治ったが、環境の変化により、一旦治癒したかに見えてたびたび再発する例が顕著。

●漢方による診断のポイント
(1)上部の湿潤に治頭瘡一方+桔梗・石膏
(2)その後、全身の治療を行う
(3)抑肝散でイライラを押さえる
(4)下半身の冷えを暖める
(5)小建中湯で弱った胃腸を回復
 アトピー性皮膚炎を治療する場合、標治療を優先させ、その後本治療に取りかかる必要がある。
標治療には漢方薬だけではなく、西洋薬との併用が効果的。
酷いときには精神を安定させて、症状をいくらかでも軽くする。
抑肝散や柴胡剤を使い様子を見て、荊芥連翹湯などを使って全身の症状を軽快させると、本人の気持ちも晴れて協力的になり、以後の治療が進めやすい。

●治癒のポイント
(1)初診時に必ず少しでも改善
(2)皮膚科医と協力して治療
(3)本人の食生活・習慣の改善努力を促す
(4)夏季・冬季の症状の違いに注意
 患者は長患いに加えて、それまでの治療でかえって悪化させているケースが多く、極度の医療不審を抱いている場合が少なくない。
少しずつでも症状を改善していけば、患者の治そうという意欲もわく。
また、夏と冬の気候の違いによる病態に注意、冬に効いた処方が夏に効かなくなり途中で投げてしまう例も。

 幼児のアトピー性皮膚炎は、ほとんどの場合皮膚、気道、胃腸粘膜の先天的機能障害。小建中湯黄耆建中湯を投与し、2週間ほどで寛解する例が多い。
より深刻なのは、小児から成人にかけての罹患。長患いにより、様々なアレルギー症状を併発、従来は平気だったものまで、どんどんアレルゲンへと転換する。
一旦軽快したように見えても、何年か経って再発したりする。
内因子、外因子ともに複合、複雑化してくるためで、アレルゲンも多岐にわたってくる。
一つ一つの病態を克服していくことで、徐々に疾患の本体を突き止めていく努力が必要となる。
 標治療をしてから、本治療に移るプロセスだ。
治頭瘡一方+石膏桔梗で、上半身、特に首から上の皮膚症状は改善される。
顔を最初に治すのは、毎朝顔を見る度に幻滅し、女性の場合特に外出できず、化粧もできないでイライラが助長させられるため、これを軽快させることで本人の意識を高めるという意味合いもある。
 次に、全身の皮膚症状を寛解させる。
ほとんどが虚証で冷える例が多く、下半身の冷えを取る処方をするとほとんどの症例で全体症状が軽快する。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯などで冷えを取る。
物理的に足を暖めるだけで軽くなることさえある。全身が酷いときには白虎加人参湯や、麻黄の入った処方を使うが、2週間程度の様子見にとどめる。
それ以上の強い薬は使わない。
 症例の多くで荊芥連翹湯が奏功した。
また、夏の暑い時期に汗をかくと酷くなる例や、冬の乾燥時に悪化することもある。
暑い時期に酷くなる例には桂枝加黄耆湯を、冬の乾燥時には温清飲当帰飲子などを用いた。
 全身の痒みが収まり、酷い痒疹が目に見えて軽快してくると、気分も楽になり、社会生活も復帰できる。 こうなると後は生活習慣の改善も促され、寛解は近い。


【乳児期】
頭部・顔面の湿潤 → 治頭瘡一方
全身の皮膚炎 → 小建中湯、黄耆健中湯、五苓散、抑肝散加陳皮半夏

【幼小児期】
頭部・顔面の湿潤 → 治頭瘡一方
苔癬、乾性皮膚炎 → 補中益気湯、柴胡清肝湯、六味丸、小建中湯、当帰飲子
湿潤と紅斑 → 消風散、桂枝加黄耆湯、黄耆健中湯、抑肝散加陳皮半夏

【思春期・成人期】
顔面紅潮 → 白虎加人参湯、治頭瘡一方加桔梗石膏、黄連解毒湯
紅斑、苔癬、痒疹 → 温清飲、荊芥連翹湯、柴胡桂枝湯、竜胆瀉肝湯、十味敗毒湯
湿潤、糜爛 → 越婢加朮湯、消風散、排膿散及湯、治頭瘡一方、桂枝加黄耆湯
乾性皮膚炎 → 当帰飲子、四物湯





<参考>大野修嗣先生によるアトピー性皮膚炎に対する漢方治療

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山田光胤先生が語る「漢方医学の学び方」

2016年09月11日 06時05分04秒 | 漢方
「最高のものに接し、一流に学ぶ」(山田光胤先生)
「漢方医学新聞」創刊号:1996/11/25

 製薬会社のツムラさんから漢方の名医達の腹診の動画DVDをいただいたことがあります。
 大塚敬節先生をはじめ、書籍状でしかお目にかかれない大御所の腹診の様子を見ることができる貴重なDVD。
 その中で一番わかりやすくしっくりきたのが、この山田光胤先生の診察でした。



<経歴>
●金匱会診療所・所長 医学博士:山田光胤先生(本名 山田照胤)
 1924(大正13)年東京生まれ。
 幼少期に慢性病に苦しみ、現代医学の病院で見放され、最後に大塚敬節氏によって救われる。
 第二次世界大戦中、陸軍士官学校に学ぶ。
 戦後、医学を志し1951年東京医科大学卒業。
 1958年東京医科歯科大学にて医学博士の学位取得。
 東京医科歯科大学では宮本璋教授について生化学を学び、島崎敏樹教授について精神医学を修める。漢方医学の師は大塚敬節氏。大学より在学中より指導を受ける。宮司の資格を持つ神主でもある。
 現在、医療法人金匱会診療所所長、日本東洋医学会名誉会員、日本漢方医学研究所理事
 著書は「漢方処方 応用の実際」(南山堂刊)他多数

※ ●金匱会診療所(所在地◆中央区八重洲1-6-2)
 1957年、当時衰退していた漢方医学の再興を願う中将湯(現ツムラ)の津村重舎社長(当時)が自社ビルにもうけた「中将湯ビル診療所」が発祥。初代所長は大塚敬節氏。その後、診療所を現住所に移転し、名称も金匱要略からとった現名称に替え、山田光胤氏が跡を継いだ。


 記事は、山田先生のインタビューです。
 目にとまったコメント。

・オススメの書籍
1.「漢方診療医典」南山堂刊、大塚敬節、矢数道明、清水藤太郎共著
2.「漢方医学」創元社刊、大塚敬節著

・古方派と後世派の両方を勉強するとよいでしょう。
 漢方には大きく二つの流派があります。一つは古方派と呼ばれ、1800年前の中国漢代に成立しました。当時の書物「傷寒論」「金匱要略」は現在でも漢方医学の原典として読まれています。主に薬物による療法を表した物です。もう一つは後世派と呼ばれる物で、約1000年前、宋、金代に確立しました。鍼灸の理論の基にもなっている物です。両方を勉強するのがいいでしょう。

・漢方をマスターする最短の道は、良い師に学ぶこと。
 漢方を学ぶ本当に良い方法は、良い医師について最低10年ほどはじっくり手法を学ぶことです。しかし縁がないとなかなかそういった環境に恵まれません。そもそも本当の漢方医がまだ少ない。日本の医者の8割が漢方薬を処方しているといわれますが、本当のところ専門医と呼べるのは全国でも100人ほどではないでしょうか。

・よい生薬を見分ける方法はやはり「経験」
 生薬が良くなければ、いくら処方しても効きません。性質が安定している現代の化学薬品とは異なり、漢方の世界で生薬の品質は忘れられてはなりません。漢方を志す上で、いい物を見分ける目は養わなければなりません。良い物は見た目や香りでわかりますがやはり経験です。以前に美術品の鑑定士に聞いたことがあるのですが、美術品の真贋、善し悪しを見分けるのには、とにかくいい物をたくさん見ることだそうです。そうすれば自ずと良い物の見分け方がわかるといいます。生薬もこれと同じことがいえるようです。


 私は神社にも興味があり、あるとき「行事宝典」をいう書物を古本で手に入れました。著者は「山田照胤」とあります。あれ、漢方の大家と似ている名前だな、と思って調べたら、何と本人でした。不思議な縁です(^^)。
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「和漢診療学」(寺澤捷年 著)

2016年09月04日 14時03分43秒 | 漢方
岩波新書、2015年発行



漢方界の大御所(韓国ドラマ『チャングムの誓い』の日本語版監修も手がけました)による入門書・啓蒙書です。
昨今はやりの、漢方医学の小難しい概念を省略して西洋医学の言葉で漢方を語ろう、という類いの書物とは一線を画し、彼の提唱した「気血水スコア」をはじめ、漢方医学の基礎から説き起こしています。
そして、彼の目指した「漢方医学と西洋医学の融合による新しい医学」を説く良書でもあります。

西洋医学は科学的思考(分解的な思考)を採用し、漢方医学は「全体性」の中で考える(構造主義)。
西欧医学では診断名が着かない・検査で異常がないと治療薬が決まらないが、漢方医学では『証』が決まれば治療可能である。
西洋医学では専門家が細分化され、例えば耳鼻科では目の症状を訴えてはいけないと患者さんは考えがち。
しかし漢方医学では「困っている全てのこと」を訴えてよい、医師は全てを受け入れ、体の歪みを正すという視点で治療を考え、全ての症状を改善できる可能性がある。
診療に漢方医学的視点を導入することにより、患者さんのQOLがさらに上がる可能性を指摘しています。

薬剤に関して、単一成分に精製した西洋医学と複数の生薬の組み合わせの漢方医学の違いを、「その根本は一神教の世界と多神教の世界との相違によるものではないか」と考察している下りも面白い。

漢方の証を科学的(西洋医学的)に解明した実績も紹介されています;
・「胸脇苦満」は「横隔膜の異常緊張」によるもの
・「心下痞硬」は「延髄と脊髄の二つの反射回路」によるもの
・「瘀血」の患者さんの眼底微小血管を観察すると、赤血球の塊を形成して文字通りドロドロとして流速が低下し、駆瘀血剤で改善すること
等々。
興味深く拝読しました。

<メモ> ・・・気になった箇所の覚え書き

・偏頭痛の西洋医学治療
 予防薬としてカルシウム拮抗薬(ミグシス®等)、ひどい発作を起こしたときはトリプタン製剤(アマージ®等)の頓服が有効とされるが、このような治療で偏頭痛が治まる人は70%、偏頭痛そのものから解放される人は半数以下。

健康な人では額と足先の温度差は2℃以内。

「虚弱体質」は添付文書の効能・効果に不適切?
 ・・・WHOの国際疾病分類に「弱質」(debility)があることがわかり用いてよいという結論になった。

過敏性腸症候群には桂枝加芍薬湯
 この方剤を便秘の時に服用すると便通があり、下痢の時に服用すると下痢が止まる。つまり、この薬は下剤でも下痢止めでもなく、腸の運動リズムの調整剤である。
 この方剤に膠飴(餅米を蒸して麦芽で糖化させた飴)を加えた方剤は小建中湯。この麦芽糖は腸内細菌に作用すると推測され、腸内ガスの異常な発生を減らす。

・医学教育の新カリキュラムに漢方医学が導入されたのは2001年。薬学教育の新カリキュラムにも2002年に導入された。

・漢方医学は血液検査やレントゲン写真などが存在しない時代の医術であり、人間の五感を研ぎ澄まして患者さんの心と体を「全体性」の視点で詳細に観察し、そうして捉えた心身の歪みを治す具体策も書き残してくれている。

麻黄湯は「発熱促進剤」
 インフルエンザの時に高熱が出るのは、血液中のプロテアーゼ(たんぱく分解酵素)や、ウイルスを食べて消化するマクロファージんどの働きを高めるためであるが、麻黄湯はこの発熱が十分でないときに最適な体温にまで温度を上昇させる。そして目標とする体温を維持し、闘いに勝利した時点で、発刊による成散熱によって放熱し、体温を平常に戻す。

胸脇苦満は横隔膜の異常緊張である。
 胸脇苦満は肩甲骨にある棘下筋のしこり(硬結)に鍼を刺してゆるめると消えてしまう。
 棘下筋と横隔膜の支配神経は第五髄節が共通している。
 胸脇苦満のある人では呼吸機能に異常が出て、棘下筋に鍼を刺すと改善する。具体的には肺活量が増える。
 さらに、人間の情動(喜怒哀楽)に関係する大脳辺縁系からの交感神経の刺激信号が、このサインの発現に関与する。

小建中湯の証
 太陰病期、脾胃の虚弱、腹直筋緊張がピーンと緊張している(腹皮攣急)或いは軟弱
 心下痞硬を表すことはなく、胃のもたれなどの上腹部の症状は伴わない

香蘇散と半夏厚朴湯の使い分け(花輪壽彦Dr.による)
 香蘇散が効く患者さんは訴える症状が曖昧で、自分でその不調をなんと表現してよいのかわからない
 半夏厚朴湯が効く患者さんはメモ用紙に細々と不調を列記してくる

五臓論:西洋医学の臓器名と概念が異なり、相互制御メカニズムの概念が特徴的
臓器)ー(役割)ー(失調状態

肝臓)ー(精神活動を安定化、新陳代謝、血を貯蔵し全身に栄養を供給、骨格筋の緊張度をコントロール)ー(精神が不安定となり怒りやすくなる、栄養状態悪化、筋肉がこわばり肩こりや痙攣を起こす

心臓)ー(意識水準を保つ、喜びの感情をコントロール、睡眠・覚醒リズムを調整、血を循環)ー(湿疹、不眠、動悸、口内炎
   
脾臓)ー(食物を消化吸収、気の量を増す、こだわりの感情をコントロール、血の流通をなめらかにして血管から漏れ出るのを防ぐ、骨格筋の量を保つ)ー(些細なことにこだわって思い悩む、皮膚に皮下出血が起こる、筋力が低下

肺臓)ー(呼吸により外界からの流動的エネルギー(気)を取り込む、憂いの感情をコントロール、皮膚の健全性を保ち外界からの侵入を防ぐ)ー(憂鬱な気分をもたらす、鼻炎/感冒に罹りやすくなる

腎臓)ー(成長と発育、成人では生殖能力を維持する、水分代謝を行う、骨と歯を健全に保つ、恐怖感をコントロール)ー(不安感が起こりやすくなる、骨折や歯の不具合、成人男子においては勃起不全

・・・喜怒哀楽の感情のコントロールがそれぞれの臓器に割り当てられているのが不思議というか興味深いですね。怒りは肝臓、喜びは心臓、こだわりは脾臓、憂いは肺臓、恐怖感は腎臓・・・といわれてもやっぱりピンときません(^^;)。
 筋肉に関しては、緊張をコントロールするのは肝臓、筋肉量を保つのは脾臓。
 皮膚に関しては、皮下出血を起こさないのは脾臓の役割、皮膚の健全性を保ち外界からの侵入を防ぐのは肺臓。


舌診のポイント
 舌の色が紫色→ 瘀血
 舌裏静脈が太く腫れている→ 瘀血
 舌苔が暑く黄色を帯びる→ 胃の不具合
 舌苔の乾燥→ 体内に熱が籠もっているとき、体内の水(津液)が減少しているとき
 後咽頭壁の乾燥→ 体液不足(津液枯燥)

聞診のポイント ・・・聞診は耳で聞くのではなく、嗅覚による情報収集である
 口臭→ 胃に熱を持っている
 汗が臭う→ 体内部に熱を持っている
 便のニオイがきつい→ 陽の状態

問診のポイント
 西洋医学の診断にはまったく役立たない「つまらない」訴えが、漢方医学では非常に重要である。
 「疲れてやる気が出ない」という訴えへの対応は、
 (西洋医学的)「歳のせいですよ」「血液検査では異常がなく心配要りませんよ」と半分無視
 (漢方医学的)気虚の病態かもしれない、と目を輝かせる

脈診のポイント
 脈拍数:1分間に80以上を「数脈」(さくみゃく)、60以下を「遅脈」
 脈の力:充実したものを「実脈」、弱々しいものを「虚脈」(弱脈)
 脈の太さ:太いものを「大脈」、細いものを「細脈」(さいみゃく)
 脈の伝わる速さ:あてがった三本の指に順次触れてくるような脈が「渋脈」で陰を示し、素速く伝わる脈を「滑脈」と呼び、体の内部に熱のマグマがたまっている
 血管の緊張度:異常にピーンと張っている脈を「弦脈」(弓の弦に触れるようだという意味)、緊張が極端に強いものを「緊脈」、その反対を「緩脈」(?)
(例)麻黄湯は「浮・数・実」、桂枝湯は「浮・数・虚」、当帰四逆加呉茱萸生姜湯は「虚・細・緊」

腹診のポイント
「心下痞硬」→ 陽の状態であれば三黄瀉心湯、半夏瀉心湯、陰の状態であれば人参湯や呉茱萸湯の証
※ 心下痞硬を認める患者さんでは傍脊柱筋(背骨に沿った筋肉)にしこりを認めることが多く、このような場合は鍼治療が有効である。
「心下支結」(胸骨剣状突起と臍の中間点を指先で押すと痛むもの)→ 柴胡桂枝湯
「腹直筋緊張」→ 陽の状態であれば胸脇苦満を伴うことが多く四逆散の証、陰の状態であれば小建中湯/黄耆建中湯/当帰建中湯

甘草の副作用「偽性アルドステロン症」
 漢方エキス製剤を服用して3-4週後に現れることが多い副作用(体がむくみ、血圧が高くなり、血液中のカリウムが低くなる)。
 アルドステロンというホルモンが高いときに揃う所見だが、測定しても高くなっていないので「偽性」と呼ぶ。
 これは甘草という生薬の中のグリチルリチンが原因である。グリチルリチンは腸内細菌により代謝されるが、ある種の腸内細菌を持つ人では、その代謝物が体内に蓄積されてしまい、これがアルドステロンに似た作用を持つので、この副作用が現れる。

田代三喜と曲直瀬道三と吉益東洞
 室町時代の最先端医学は、明に留学した医師達によってリードされた(それ以前は禅僧が担っていた)。室町中期に明に留学した田代三喜(1465-1537)は帰朝後に足利学校(当時の関東地方における最高レベルの教育学府)で医学教育に従事したが、ここに学んだのが曲直瀬道三(1507-94)であり、息子の玄朔(1549-1631)とともに江戸時代の医学会の本流を作った。
 しかし陰陽五行論を中心とした考え方は、江戸時代に流行した梅毒の治療に立ち向かえず、この曲直瀬道三流の医学に疑問を持つ医師達が現れ、『傷寒論』に回帰しようというルネッサンス運動が起こった。その急先鋒が吉益東洞(1702-73)である。彼の業績は日本漢方の特徴である「方証相対論」を確立したことにあり、医学の既成概念をキャンセルした点ではオランダ医学の導入を容易にした点も評価できる。事実、彼の孫弟子である華岡青洲(1760-1835)は西洋外科学を学び世界初の全身麻酔による乳がん手術に成功した。

近代日本漢方の潮流
吉益東洞・・・・・奥田謙蔵→ 藤平健、小倉重成、和田正系(まさつぐ、和田啓十郎の長男)→ 寺澤捷年
浅田宗伯・・・・・細野史郎→ 坂口弘(娘婿)、細野八郎(長男)
大塚敬節→ 山田光胤(てるたね、娘婿)、大塚康男(長男)、寺師睦宗(ぼくそう)、松田邦夫
※ 北里研究所東洋医学総合研究所の歴代所長
1.大塚敬節
2.矢数道明
3.大塚康男

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気象病と五苓散

2016年09月04日 13時34分36秒 | 漢方
 『気象病』という言葉を時々耳にするようになりました。

■ 大型台風接近で「体調不良」が続出 頭痛に不眠...「気象病」にご用心
2016/8/29:J-castヘルスケア
大型の台風10号が2016年8月29日、東日本に近づいてきた。東北地方に上陸する恐れがあり、大雨や強風、沿岸部には高波による被害が懸念される。
台風はさらに、私たちの体調にも悪影響をもたらす。「気象病」と呼ばれる症状だ。
台風のような低気圧が接近すると、頭痛や関節痛といった持病がひどくなったり、うつ病、神経痛、さらには心筋梗塞や脳梗塞の症状を悪化させたりする。これが、気象病だ。
原因として挙げられるのが、気圧の急激な変化による自律神経の乱れ。体が活動しているときに活発になる交感神経と、リラックスしているときに優位になる副交感神経のバランスが崩れてしまうと、気象病を引き起こす。めまいや耳鳴り、難聴に悩まされるメニエール病も、自律神経の乱れによるものだ。武田薬品工業の「タケダ健康サイト」によると、解決策のひとつとして「精神的なストレスに強くなる」。同時に、適度な運動をしたり、睡眠を十分にとるなど生活習慣を見直したりしてみる。もちろん、体調不良が続けば医師の診察を受ける必要がある。
8月29日のツイッターを見ると、「台風が近づく気配を頭痛で感じる」「気圧下がると体調不良になりやすい気がする」「頭痛が止まらない 台風のせいか?」といった投稿が数多く並んでいる。日本全国の広い範囲で、気象病に悩まされている人が多いのだ。


 漢方的には低気圧による体内水分の偏り(水毒)と捉え、一部の症状に五苓散が有効です。

気圧低下に伴う頭痛・片頭痛(後藤学園HP)
台風がくると具合が悪くなる?そのメカニズムと簡単な対策とは(Woman Money)
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