漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

漢方薬原料「甘草」を日本国内で量産へ

2015年07月17日 07時27分29秒 | 漢方
 漢方の原料の8割は中国からの輸入です。
 すると、中国と仲が悪くなると意地悪されてレアメタルのような輸出規制がかかるというジレンマが発生しがち。
 日本でも自前で生薬を作る努力・研究が着々と進んでいるようです。

■ 漢方薬原料、国内量産へ…三菱樹脂、中国産「甘草」高騰で
(2015.7.16:読売新聞)
 三菱樹脂は15日、漢方薬の原料となる「甘草」を国内で量産する技術を実用化したと発表した。
 国内で使われる甘草のほとんどは中国から輸入される野生のものだが、世界的な漢方薬の需要の高まりで価格は上昇している。このため、製薬会社も自社で生産する動きを強めている。
 甘草は漢方薬の約7割で使われる。財務省の貿易統計によると、2014年の輸入量は1673トンで中国からが約9割を占めた。中国からの輸入価格は1キロ・グラムあたり986円で、10年前の3倍以上に高騰した。
 三菱樹脂は農業関連の新興企業と共同で、人工光による屋内栽培と屋外栽培を成長に応じて組み合わせることで、高品質な甘草の量産化にめどをつけた。収穫までの期間も従来の3~4年から約2年に短縮した。


 開発のハードルは「グリチルリチン含有量2.5%」のようですね。
 グリチルリチンは精製されたものが医薬品として販売されています(グリチルリチン、強力ミノファーゲンCなど)。
 昔聞いた製薬会社さんの話では「甘草は野生のモノを使うが、土地によって有効性が異なるのが悩ましい」とのこと。おそらくグリチルリチン含有量の問題だったのでしょう。
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2015.7.12 織部和宏先生の講演会を聴いてきました。

2015年07月15日 07時02分05秒 | 漢方
 先週末に高崎で行われた「群馬漢方ステップアップセミナー」に参加しました。
 講師は織部和宏先生で、私としては彼の講演を聴くのは2回目になります。
 織部先生は山田光胤先生のお弟子さんで、山田先生は大塚敬節先生の弟子、大塚先生は湯本求真先生の弟子、と日本漢方の大道を引き継いできた方。

 ご自身の自慢話に始まり、漢方のポイントを面白可笑しくお話しされ、興味の尽きない内容でした。
 腹診の実技の時に、
「心臓周辺の触診では振戦(thrill)を触れるかどうか、これは溶連菌感染症合併症のリウマチ熱の後遺症である弁膜症を視野に入れている」
 という解説があり、日頃から疑問の思っていることを質問してみました;
「溶連菌感染症を疑わせる記載はどのくらい前からあったのですか?」
 その答えは、
「“溶連菌”という言葉は昔の日本にはなかったので直接の記載はないが、診察学(腹診)のテキストには江戸時代からさきに述べたの記載があった」
 というものであり、勉強になりました。
 実技の際、参加している医師達の表情や外見から推察していろいろな健康問題を当ててしまう技を披露され、むしろこちらに驚かされました(笑)。
「あなたは右肩が下がっているから体が歪んでいる、つまり肩こりや腰痛に悩まされていますね」
 とか、
「顔色と唇の色が悪い瘀血の状態、血管系の病気に気をつけましょう」
 などなど。
 漢方を熟知すると「易者」が出来るのですね。
 実際に、見知らぬ町に出張へ行った際、土地のバーで「即席易者」を演じて場を盛り上げることもあるそうです。

<メモ>
 自分自身のための備忘録。

□ 古典を熟読し一字一句おろそかにせず、丁寧に勉強する必要がある。

□ 西洋医学は臓器別に分化する傾向があるが、それでよいのだろうか。咳が出る患者さんは呼吸器系の病気だけとは限らない。漢方では黄帝内経の咳論に「五臓六腑皆咳をなす」とあり、患者の全身を診る視点がある。

□ 今の西洋医学の治療はEBMによってなされるわけだが、どの薬剤も100%の有効率や副作用がゼロということはあり得ない。無効例や副作用が出た場合にどう対応していくかの詳しい記載がない。一方、漢方の『傷寒論』は誤治に対して実に丁寧に解説されている。これを学ぶと西洋医学的治療により起こったいろいろな合併症にも対応可能である。

□ 『傷寒論』における小青竜湯の条文は「傷寒表解せず心下に水気あり乾嘔して発熱して咳し、或いは渇し或いは利し或いは嗄し、或いは小便不利し小腹満し或いは喘する者」である。この方剤の主証は「乾嘔、発熱、咳」であり「或いは」以下の症状は客証であるので、主証が改善されれば消失する。

□ 参考書(古典)の紹介;各方剤の主証のポイントをまとめてあるのが吉益東洞の『方極』、条文と頭注を含め総合的処方解説書としては尾台榕堂の『類聚方広義』がある。

□ 中医学と日本漢方では虚実の意味が異なる;
・中医学の『黄帝内経』では「邪気盛実、精気奪則虚」とあり、“実”は邪気の有余すなわち攻撃因子、“虚”は精気の不足すなわち防御因子であり、その相対的な争いで病気の緩急が決まると考える。
・日本漢方では体力の虚実を強調している。
・和田東郭の『蕉窓雑話』には「治術の上にては病勢の盛衰激易は元よりにて、其の人の体の虚実と薬剤の軽重遅鈍を善弁すること肝要の努めなり」とあり、中医学で定義する虚実はもちろん十分理解した上で、実際の臨床に当たっては体力の虚実も参考にして治療に当たることが大事だと言っている。

□ 香蘇散の腹診のポイントとして、浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣』に「鳩尾にてきびしく痛」がある。

□ 交感神経緊張→ 「真熱仮寒」→ 柴胡+芍薬(四逆散など)・・・疏肝解うつ←肝気うっ滞

□ “頭汗”を証の中に示す方剤:大陥胸湯、柴胡桂枝乾姜湯、梔子鼓湯、茵陳蒿湯、防巳黄耆湯

□ めまいの処方:苓桂朮甘湯と沢瀉湯の鑑別;
・立ちくらみ・・・苓桂朮甘湯
・寝ている状態でもめまい・・・沢瀉湯(コタローのOTC)

□ お腹に溜まるガスの場所での使い分け;
・胃・・・人参湯、茯苓飲
・脾弯曲部・・・当帰湯(+大建中湯)

□ 慢性疲労症候群や線維性筋痛症に有効率の高い組み合わせは、四物湯+四逆散+桂枝茯苓丸

□ 鼻の漢方
・夏のアレルギー性鼻炎には麻黄は禁忌、では何を?
 → 桂枝加黄耆湯、苓甘姜味辛夏仁湯(クーラーで悪化する例によい)
・副鼻腔炎には、辛夷清肺湯+桂枝茯苓丸加薏苡仁

□ 風邪をひきやすい人には黄耆が合う:桂枝加黄耆湯+補中益気湯

□ 滲出性中耳炎には、柴苓湯+桂枝茯苓丸加薏苡仁

□ くすぐったがり屋を漢方的に考えると2つのパターン:
・解毒体質→ 柴胡清肝湯、荊芥連翹湯、竜胆瀉肝湯
・脾虚:皮膚が敏感
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