漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

(拾い読み)腹診の全て(山田光胤)

2017年08月11日 14時07分09秒 | 漢方
「腹診の全てー腹診伝承ー」(山田光胤)
第60回日本東洋医学会 教育講演
日東医誌 Kampo Med Vol.60 No.6 573-582, 2009

腹証について確認したいことがあり、ネットで検索してたどり着いた文章です。
腹証とは、日本漢方で発達した病態概念で、腹診(患者さんのお腹をさわってその緊張状態や反射を評価する診察方法)による所見を意味します。
各漢方薬に対応する腹証が決まっており、それを守れば効果が期待できると云うことです。

著者(演者)は日本漢方界の重鎮。
以前、製薬メーカーからいただいた有名な先生方の腹診の様子を記録したDVDを見たことがありますが、この山田先生の方法が一番わかりやすい印象が残っています。
それを文章にしたものを見つけ、かぶりつくように読みました。

腹診の歴史からひもとき、腹診の方法論、所見の捉え方が一通り書かれています。
知識の整理・再確認として大変参考になりました。

<備忘録>

□ 腹診の歴史:
・腹診は「難経系」「傷寒論系」「折衷派系」の三系統に分類される。
①難経系:「腎間の動」という腹部大動脈の拍動と、腹壁全面を区分して五臓に配当した諸部位の様相とにより証を判定し、針灸術のよりどころ。とした
②傷寒論系:腹壁を形成する筋層の全面的な表現から虚実・寒熱を判定し、諸処に出現する種々なる腹壁反射を触知し、それらに関連する薬方を探るもの。腹壁に表れる種々なる反射相を腹証とよび、特定の薬方には対応する一定の腹証があることが経験的に集積された。
 現在行われている腹診は、主として傷寒論系腹診である。

□ 傷寒論系腹診の伝承:
後藤艮山(1659-1733)による「艮山腹診図説」
吉益東洞(1702-1773)による「東洞先生腹診候」「東洞先生腹診口伝」
六角重任による「古方便覧」(1782) ・・・東洞の門人
稲葉文礼による「腹証奇覧、四編」(1800) ・・・鶴 泰栄(東洞門下ではないが継承者)の弟子
和久田叔虎による「腹証奇覧翼8冊」(1809-1853) ・・・文礼の弟子
 明治以後、日本漢方が行っている腹診は「腹証奇覧」と「腹証奇覧翼」の二書に基づいている。
 明治期に和田啓十郎が「医界之鉄椎」を表し、これを読んで発奮し門人になって古方漢方を研究し復活させた医師が湯本求真であり、その書「皇漢医学」を読んで発奮し門人になって学技を継承したのが大塚敬節である。
 大塚敬節らによる「漢方診療の実際(※)」(1941)は腹診を記述し腹証を図解した。その増補改定版である「漢方診療医典」(1969)が現今の漢方腹診の根幹である。

※ 「漢方診療の実際」は日本漢方の三流派(古方派、後世方派、折衷派)による合作である。
(古方派)大塚敬節
(後世方派)矢数道明
(折衷派)木村長久
(薬学者)清水藤太郎

□ 胸脇苦満の伝承
 胸脇苦満とは、季肋下腹壁の、一種の抵抗と圧痛。
 大塚敬節によると「胸脇苦満は胸脇の部に患者自身が充満感を覚え、他覚的には医師が季肋下から母指を胸腔内に向かって押し込むようにし、胸脇苦満があれば指頭に抵抗を覚え、患者は息詰まるように感じ苦痛を訴える。この抵抗と苦痛は胸脇苦満の程度によって強弱がある」(漢方診療医典)。
1.胸脇苦満という症候名は『傷寒論』の小柴胡湯の条文(宋本96条、康平本94条)に記載されている。
2.後藤艮山は、胸脇苦満は自覚症状であって、他覚的症状を伴う腹証とはまだ認識していなかったようだ。
3.胸脇苦満を他覚的症状としての腹証であることを初めて解説したのは吉益東洞である。「小柴胡湯の腹は、先ず大抵胸脇苦満と云い、両方の脇骨のはずれの処にきっと手に触るものありて、按ずれば胸へこたえ痛むなり」(東洞先生家腹診論)。
4.稲葉文礼は「腹証奇覧」で東洞説を継承したと思われる腹証図を示している。

□ 胸脇苦満の諸相
・胸脇苦満は柴胡剤用いるべき腹証である。
・この腹証は、顕著にわかりやすく現れることもあるし、微弱でわかりにくい腹壁反射のことも少なくない。
・出現時期;
(急性症)発病後5-6日を経た時期に現れる。疾患が治癒するに及んで、胸脇苦満は消失する。胸脇苦満は陽証で出現し、陰証では出現しない。
(慢性症)出現する時期は特定できない。疾患が軽快するに従って、胸脇苦満の強さが減弱する傾向がある。
・左右差:両側に同じ強さで現れることは少ない。右側が顕著で左側が弱いことが多い。右側のみに現れることが最も多い。左側のみに現れることは希である。この現象と臨床との関連は不明である。
・胸脇苦満の強さと、柴胡剤に配合される柴胡の分量は、必ずしも関係がない。
(大柴胡湯)6g
(柴胡加竜骨牡蛎湯)5g
(小柴胡湯)7g
(柴胡桂枝湯)5g
(柴胡桂枝乾姜湯)6g。

□ 心下痞硬の諸相
・心下部・腹壁の中心部に、少し硬い抵抗を触れ、自覚的には胃部不快感を訴える腹証。
・胃炎が腹壁に反射したものと思われる。
(実証)大柴胡湯証などでみられる。腹壁全面の腹筋筋張力が強いので、反って心下痞硬がわかりにくい。
(虚実間証)半夏瀉心湯証が代表的。
(虚証)六君子湯、四君子湯、人参湯証など。心下部の抵抗の現れ方も微弱であり、慎重に按圧すると他の部位よりわずかに硬く触れる程度。

□ 心下部振水音(胃内停水)の諸相
・腹壁を軽打・振動させると水の音が聞こえる証(拍水音ともいう)。
・飲んだ水分と分泌した胃液が停滞している状態。
・消化・吸収・運動力の低下があり、臓腑筋層の止汗を伴うもので、虚証であって、胃下垂や内臓下垂が存在することが多い。
・茯苓、朮、沢瀉、猪苓などの利水剤が配合された薬方や、虚証に対応する薬方の証。
(虚実間証)茯苓飲、茯苓沢瀉湯、五苓散、苓桂朮甘湯
(虚証)六君子湯、四君子湯人参湯、真武湯など

□ 腹部動悸(腎間の動)の諸相
・健康人は、平素は腹壁上に腹大動脈の拍動は伝播しない。
・傷寒論系腹診:心下悸、臍上悸、臍傍悸(基本的に臍の左側、まれに右側)、臍下悸
・意義:
①虚証:虚証では腹壁の筋層、脂肪層が菲薄なことが多く、腹腔内のは工藤が腹壁外で触知される。
 ⇒虚証に対応する諸種方剤
②自律神経失調:この腹証を呈する患者は精神不安、情動不安等を呈する。
 ⇒実証なら柴胡加竜骨牡蛎湯、虚証なら柴胡桂枝乾姜湯(11)、加味逍遥散(24)、桂枝加竜骨牡蛎湯(26)などを用いる。
③腎虚:特に下焦・身体下部の機能が減退した場合の臍下悸。
 ⇒八味丸証であるが、胃腸虚弱の脾虚証には対応しない。

□ 腹皮拘急(腹直筋緊張)の諸相
 両側の腹直筋緊張が緊張して硬く触れる腹証。体気・体力気力が衰えた場合で、虚証であって、腹痛やけいれん性便秘を伴う場合が治療対象となり、小建中湯、桂枝加芍薬湯などの証が多い。

□ 正中芯の諸相
 腹壁の菲薄な虚証に現れ、小建中湯、人参湯、真武湯などの証である。
 大塚敬節先生が提唱した腹証で古医書の傷寒論系腹診書には記載がない。

□ 「胸脇苦満+腹皮拘急」の解釈
・柴胡桂枝湯証で、急性症には少なく、慢性症で多くみられる。
・「腹証奇覧」にはなく、大塚敬節先生が初めて「漢方診療医典」に記載した証である。
・その後、近似した証が四逆散(35)と抑肝散にも現れることを口述している。四逆散(35)と抑肝散(54)証は、柴胡桂枝湯の腹証に対比すると、胸脇苦満が強く表れ、かつ、腹直筋上部がより顕著に緊張しているという違いがある。また、四逆散(35)と抑肝散(54)の腹証はよく似ていて、その相違は筆述し難い。外症と、対応する病症の違いに従って使い分けなければならない。
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漢方生薬の毒性について

2017年08月03日 08時07分57秒 | 漢方
 「漢方薬って副作用がないんでしょ?」と捉えがちですが、医薬品である限り副作用と無縁ではありません。
 古くは「小柴胡湯による間質性肺炎」が問題になりました。
 最近目にした記事を紹介します。
 該当漢方方剤を妊婦さんに処方しないよう、気をつけます。

■ 漢方生薬、記載のない重大リスクも 〜発がん、流早産の危険性に予防措置を
2017年08月02日:メディカル・トリビューン
 薬剤の染色体毒性により、知らないうちに流早産・不妊・先天奇形などのリスクにさらされているかもしれない。筑波大学名誉教授の内藤裕史氏は、第39回日本中毒学会(2017年6月30日〜7月1日)の特別講演で「添付文書では注意喚起されていない漢方生薬の発がん性、流早産・不妊・先天奇形の可能性がある医療用漢方製剤が17種あり、これらの危険性について周知させ、直ちに予防的措置を取るべき」と述べた。

◇ 特別な注意喚起はない
 1976年に漢方生薬のエキス剤が安全性試験の審査なしで健康保険の適用となって以来、生薬の染色体毒性に関心が払われることなく現在に至っている。内藤氏は「近年、漢方生薬の副作用として、生殖毒性と直接結び付く発がん性が明らかになってきた」と述べた。
 添付文書の「使用上の注意」に"流早産の危険性(可能性、恐れ)がある"と記載されている生薬は、大黄(ダイオウ)、牡丹皮(ボタンピ)、桃仁(トウニン)、牛膝(ゴシツ)、芒硝(ボウショウ)、紅花(コウカ)の6種である。6種のうちいずれかを含有するのは全医療用漢方製剤(148製剤)中30製剤(20%)ある。6種の生薬の添付文書では、子宮収縮作用、臓器や胎盤の充血作用、子宮緊張亢進などにより"流早産の危険性がある"とされているが、いずれも根拠は不明であった。
 これら6種の生薬を成分として含む一般用市販薬はさらに多く、979種に上る。これらの「使用上の注意」には「妊婦または妊娠していると思われる人は服用前に医師、薬剤師または登録販売者に相談してください」とあるが、いずれも第2類医薬品の添付文書に記載されているもので、6種の生薬の危険性について特別な注意を喚起するものではない。

◇ TopoⅡ阻害によるDNA傷害が原因
 内藤氏は「添付文書に含まれない部分に発がん性と染色体毒性が潜んでいる」と述べた。2010年にMaらが黄連(オウレン)の毒性成分についてベルベリンをはじめとするベルベリンアルカロイドと特定した(J Ethnopharmacol 2010; 128: 357-364)。黄連はキンポウゲ科オウレン属植物の根茎で、ベルベリンを4.2%以上含む。
 米国で売り上げが急増していた民間薬ヒドラスチス根(キンポウゲ科植物の根茎)には問題となるベルベリンアルカロイドが含まれている。米国立環境衛生科学研究所(NIEHS)と米国国家毒性プログラム(NTP)の試験により、ヒドラスチス根の粉末はラットとマウスに肝細胞腺腫、肝細胞がんを発生させ、明らかな発がん性が認められた。
 ヒトのベルベリン代謝は齧歯類と類似しており、発がん機序は共通すると見られている。そのため、NIEHSの報告ではヒドラスチス根は肝がんの外因性原因物質である①アルコール②塩化ビニル③アフラトキシン−に続く第4の物質として、他の要因との相乗作用について調査する必要があるとされた(Toxicol Pathol 2011; 39: 398-409)。
 米国立毒性研究センター(NCTR)は、ベルベリンの発がん機序について「トポイソメラーゼ(Topo)Ⅱの阻害によるDNAの損傷が原因で、損傷の程度はベルベリン濃度と直接相関する」と報告した。TopoⅡの阻害作用はベルベリンが最も強力で、次いでパルマチン(ベルベリンアルカロイド)である。

◇ 黄連にはベルベリンもパルマチンも
 TopoⅡはDNAの複製の際に生じるねじれを解消するために二本鎖DNAを切断、再結合する。この機能が傷害されるとDNAは著しい損傷を受ける。その結果、細胞分裂は細胞周期のDNA合成準備期または細胞分裂準備期で停止する。二重鎖DNAの再結合が阻害されるため、細胞はアポトーシスを起こす(Cancer Chemother Pharmacol 2008; 61: 1007-1018)。
 黄連とヒドラスチス根はともにキンポウゲ科の植物で、発がん成分(ベルベリンアルカロイド)も共通しており、発がん性も同様と考えられるが、黄連の方がより危険であるという。黄連にはヒドラスチス根には含まれないパルマチンが含まれており、ベルベリン含有率もヒドラスチス根(3.89%)より黄連(4.2%以上)で高い。ベルベリンは生薬の黄柏(オウバク、ミカン科のキハダの樹皮)にも1.2%以上含まれている。黄連、黄柏の黄色の濃さはベルベリンアルカロイドの含有量と相関する。
 DNAの損傷が細胞のアポトーシスにつながるため、TopoⅡ阻害薬は抗がん薬としても使われる。エトポシド、ドキソルビシン、ダウノルビシン、teniposideなどである。エトポシドもteniposideも抗がん薬でありながら、同時に悪性の白血病を起こすとして世界保健機関(WHO)国際がん研究機関(IARC)の発がん物質のグループ2(ヒトに対して発がん性がある)に分類されている。
 TopoⅡ阻害薬は細胞分裂の特定の時期にしか作用しないため、がん細胞を全て死滅させるためには持続投与する必要がある。これに対して、発がんや染色体毒性の場合、DNAが1個でも損傷を受け修復が障害されれば、影響が顕在化する可能性がある。内藤氏は「ベルベリンのような染色体毒性発がん物質は、少量短期間の摂取で受精卵の成長を阻害し、流早産を引き起こし、がんを発生させる可能性がある」と述べた。

◇ 直ちに予防的措置を取るべき
 哺乳動物の避妊薬開発を目的に研究が行われ、マウスではベルベリンによる受精卵の胚盤胞(胞胚)への成長の阻止が認められた。また、妊娠後のメスマウスでも胚盤胞への成長率の低下、生存胎仔数の有意な減少も見られた。この結果は、そのままヒトにも当てはまることが想定される。ベルベリンが哺乳動物の避妊薬として有望だということと同時にヒトでも受精卵の成長が阻害される可能性が示唆された。
 内藤氏は「黄連、黄柏を含む漢方薬またはベルベリン製剤を服用し不妊治療を受けるのは、避妊薬を飲みながら不妊治療を受けるようなもの」と強調。流産は全妊娠の10〜15%に発生し、その70%は染色体の異常によるといわれているため、少子化対策の観点からも重要な問題といえる。
 前述の抗がん薬エトポシドは漢方生薬八角蓮(ハッカクレン)の成分ポドフィロトキシンから合成されたもので、ポドフィロトキシンもTopoⅡ阻害作用を有する。ポドフィロトキシンも八角蓮も流産、さらには先天奇形を起こすため、妊婦には禁忌とされている。
 2014年度の黄連の使用量は4万4,563kg、黄柏は18万7,243kgで、ベルベリン含有量を計算すると4,119kgのベルベリンがパルマチンとともに医薬品として消費されていることになる。ヒトではベルベリン200mgで受精卵の成長阻害が見られることを考えると、2,000万人以上の女性が流早産を起こす量である。黄連、黄柏を含む医療用漢方製剤は17種(表)あり、注意が必要と思われる。しかし、添付文書における黄連、黄柏の発がん性、生殖毒性についての注意喚起は欠落している。

表. 黄連、黄柏を含む医療用漢方製剤

温清飲(ウンセイイン)
黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)
黄連湯(オウレントウ)
荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)
柴陥湯(サイカントウ)
柴胡清肝湯(サイコセイカントウ)
三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)
清上防風湯(セイジョウボウフウトウ)
竹筎温胆湯(チクジョウンタントウ)
女神散(ニョシンサン)
半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)
竜胆瀉肝湯(リュウタンシャカントウ)
滋陰降火湯(ジインコウカトウ)
梔子柏皮湯(シシハクヒトウ)
七物降下湯(シチモツコウカトウ)
清暑益気湯(セイショエッキトウ)
半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)

 同氏は「染色体毒性発がん物質はその性質上、ヒトでの発がんや流早産・先天奇形が立証されるまで待つべきものではなく、学会、行政とも直ちに予防的措置を取るべきである」と主張。「並行して、がん患者や、流早産を起こした女性、原因不明の不妊の女性の服薬歴聴取を詳細に行い、その際に黄連、黄柏を含む医療用漢方製剤17種を含めることが必須である。また、肝がんと黄連、黄柏を含む漢方製剤との関係についての疫学調査も必要である」と述べた。


<参考>
■ 「漢方薬の生殖毒性,遺伝子毒性,発がん性」筑波大学名誉教授 内藤裕史
(2014年07月10日:メディカル・トリビューン)
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(拾い読み)「子どもの呼吸器疾患に対する漢方治療」(伊藤晴道先生、生和堂医院)

2017年08月01日 15時53分59秒 | 漢方
シンポジウム「子どもの急性疾患に対する漢方療法」
「呼吸器疾患に対する漢方治療」(伊藤晴道先生、生和堂医院)
日本小児東洋医学会誌(年号不明)より

 参考になるところをメモ。
 漢方エキス剤服用率が80〜90%という高さに驚きました。
 飲ませる工夫の問題点では、何に混ぜても何か問題点があり、やはりそのまま飲むのが一番、ということになりますか。

<備忘録>

□ ウイルス性上気道炎に関しては、脈による発表剤の使い分けを行い、夏のエンテロウイルスには清熱剤(白虎加人参湯、升麻葛根湯)を用いる。夏のエンテロウイルス属による感染症は温病という考え方もあるが、ごく短い寒気の時期もあることから、短い太陽病期に続く陽明病期と考えてもよいのではないか。

□ 麦門冬湯 vs コデイン
 炎症の存在しないメサコリンによる咳に対し、両者を比較した場合、コデインは強い鎮咳作用を発揮するのに対し、麦門冬湯はほとんど鎮咳作用が見られない。しかし、炎症を起こした後の反応では、麦門冬湯の方が鎮咳作用が強くなる。

□ 漢方薬服用率
(80%)問題なく飲める、あるいはごく一部の方剤を除いて飲める。
(10%)あまり飲めないので飲みやすい処方に限って処方。
(10%)全くダメ。

□ 飲ませ方の工夫の問題点
・砂糖を加えることは方意の面からあまり推奨できない。
・ヨーグルト/アイスクリームなどの乳製品とエキス剤を混じることは、乳脂肪による漢方薬顆粒剤とのミセル化による吸収阻害の懸念がいわれていて、あまり推奨できない。
・ココアもアレルギーや砂糖、乳製品の混合である点で、問題はあろう。

□ 子どもの感染症における舌診
 色調で紅色調が強いときの炎症の存在、急性期の白苔は太陽病期を過ぎた所見、として捉えるくらいで十分かと思われる。
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