私は小児科開業医で、小児科専門医とアレルギー専門医の資格を持っています。
そして漢方薬を多用する珍しい小児科医です。
アレルギー疾患の中では、花粉症診療に漢方薬が大活躍しています。
西洋医学の抗アレルギー薬はどうしても眠くなる傾向があり、
車の運転をする方に処方可能な西洋薬は限られてしまいがち、
眠くならないタイプは効果が今ひとつ・・・。
最近登場したディレグラ®は覚醒する交感神経刺激薬が入っていますが、
長期使用は避けるように言われています。
そんなジレンマの中、
私は西洋薬の抗アレルギー薬に漢方薬を併用することで、
“眠気を飛ばして効果2倍”という処方を長年してきました。
手応えは十分。
毎年花粉症シーズンになると、
「またあの薬の組み合わせでお願いします」
と患者さんがリピートします。
喘息に関しては、
ガイドライン通りに診療すると症状のコントロールができるようになることがほとんどなので、
漢方薬の出番は花粉症ほどはありません。
でも、西洋薬の手応えがない患者さんが一部存在し、
それは心因性の発作と思われることがしばしば。
つまり、“喘息発作を味方にしている”ため、
喘息と縁が切れないのです。
これを“疾病利得”と呼びます。
そのような患者さんには漢方薬が著効することがあります。
なぜかというと、
漢方薬には“気”の乱れに効く生薬が入っているからです。
特に「柴胡剤」と呼ばれる一群は、
ストレス反応でつらくなっている心をやわらげてくれます。
私の尊敬する漢方の大家、大野修嗣先生が喘息と漢方について書かれている文章を見つけました。
抜粋、整理してみます。
■ 漢方オンラインレッスン:第1章 症状・疾患別漢方治療「喘息」
解説:大野クリニック 院長 大野修嗣 先生
(2021年12月:漢方スクエア)より一部抜粋(下線は私が引きました);
▶ 寛解期の喘息に対する漢方薬
・・・喘息に用いる漢方薬を寛解期、発作初期、発作期にわけて紹介します。
寛解期には咳嗽、喘鳴の出現以前に将来のリスク回避を使用目的とした漢方薬を用います。
【柴朴湯】《本朝経験方》:柴胡7;半夏5-8;生姜1-2;黄芩3;大棗3;人参3;甘草2;茯苓4-5;厚朴3;蘇葉2-3
・咳嗽、喘鳴の出現以前に将来のリスク回避を使用目的とした漢方薬。
・柴朴湯は小柴胡湯と半夏厚朴湯を合わせた漢方薬。
(柴胡、黄芩)清熱薬で炎症を軽減。
(半夏、生姜)燥湿袪痰作用があり鎮咳・去痰に働く。
(生姜、大棗、甘草、人参)補脾益気の薬能をもち胃腸機能の改善と気力を益す。
(厚朴、蘇葉)理気作用で気うつの状態から回避させる。軽度の咳嗽に対する効果もあり、心理的問題からの気管支喘息の発症を予防する。
【苓甘姜味辛夏仁湯】《金匱要略》:茯苓1.6-4;甘草1.2-3;半夏2.4-5;乾姜1.2-3;杏仁2.4-4;五味子1.5-3;細辛1.2-3
・麻黄剤が不適、冷え症で、水様性喀痰を伴った気管支喘息発作前期に適応する。
(半夏、杏仁、乾姜、細辛、五味子)温性薬に分類され寒冷刺激から身体を守る。
(半夏、杏仁、五味子、細辛)鎮咳、去痰作用がある。
(茯苓)利水、健脾、安神作用があり、体液の分布異常、胃腸虚弱、不安感に対応する。
▶ 発作初期の喘息に対する漢方薬
発作初期は軽度の症状が出現した時期で、発作の増悪が予見され、抗アレルギー作用のある麻黄、柴胡などが配合されている漢方薬が使われる。
【小青竜湯】《傷寒論》:麻黄2-3.5;芍薬2-3.5;乾姜2-3.5;甘草2-3.5;桂皮2-3.5;細辛2-3.5;五味子1-3;半夏3-8
・アトピー型喘息に応用され、アレルギー性鼻炎などを合併している喘息に適応がある。
・薄い鼻汁が出現して軽い咳嗽および薄い喀痰の排出を見た場合に適応します。
(麻黄、桂皮、芍薬)抗アレルギー作用が報告されている。
(麻黄、五味子、半夏)喘鳴を伴った咳嗽に対応する。
( 半夏、乾姜、細辛)燥性薬で水様性鼻汁、薄い痰に対応する。
【柴陥湯】《本朝経験方》:柴胡5-8;半夏5-8;黄芩3;大棗3;人参2-3;甘草1.5-3;生姜1-1.5;栝楼仁3;黄連1-1.5
・発作の前兆として胸部・上腹部の張りと重苦しさ(陥胸)が出現した状態に使用する。
・咳に誘発された胸痛、胸部絞扼感がある場合に適応する。
(柴胡、黄芩、半夏、人参、大棗、甘草、生姜)=小柴胡湯で気管支粘膜の炎症に対応する。
(半夏、黄連、栝楼仁)=小陥胸湯であり、清熱化痰の効能があり、鎮咳、去痰の効果がある。
▶ 発作期の喘息に対する漢方薬
・麻黄が配合された漢方薬が適応となる。麻黄の主成分はエフェドリンで、抗炎症、気管支拡張、鎮咳、抗アレルギーに働く。ICSとの併用で相乗効果が期待できる。
【麻黄湯】《傷寒論》:麻黄3-5;桂皮2-4;杏仁4-5;甘草1-1.5
・喘鳴を伴った喘息発作に適応する。
・発作の急性期に咳と喘鳴を軽減する目的で使用する。
(麻黄、杏仁)喘鳴を軽減して呼吸機能を改善させるという意味の「宣肺平喘」の薬能を持つ麻黄と鎮咳作用をもつアミグダリン (amygdalin) 成分の杏仁と組んで鎮咳・去痰の効果が増強される。
(桂皮、甘草)降気薬で気分を落ち着かせる。
【麻杏甘石湯】《傷寒論》:麻黄4;杏仁4;甘草2;石膏10
・喘息発作の初期で喘鳴、咳嗽、熱感の出現時に適応がある。
・感冒等に誘発された気管支喘息に対して、発熱、咳嗽、喀痰などを軽減させて、喘息発作に対応する。
(麻黄、杏仁)鎮咳去痰に働く。
(石膏)最も清熱作用が強力な生薬の1つで、また粘膜を滋潤して去痰を補助する。
【五虎湯】《万病回春》:麻黄4;杏仁4;甘草2;石膏10;桑白皮1-3
・主症状が乾性咳嗽・呼吸困難である場合に適応する。
・喀痰が多量の場合や、去痰が困難な場合には二陳湯を合方して五虎二陳湯とする。
(麻黄、杏仁、甘草、石膏)=麻杏甘石湯で、これに桑白皮を加味した構成になっている。
(麻黄・杏仁・桑白皮)鎮咳袪痰に働く。
(麻黄、石膏)麻黄は消炎効果と解釈できる清熱薬である石膏と組んで、気管支粘膜の炎症を改善させます。(桑白皮)桑白皮が加わることによって麻杏甘石湯よりも鎮咳作用が優れている。
【神秘湯】《外台秘要》:麻黄3-5;杏仁4;厚朴3;陳皮2-3;甘草2;柴胡2-4;蘇葉1.5-3
・精神的状態が気うつ傾向である症例で乾性咳嗽、呼吸困難、胸脇苦満を伴った喘息に適応がある。
・麻黄剤でありながら柴胡剤であることが特徴であり、咳嗽、息苦さなど典型的な喘息症状に適応する。
( 麻黄、杏仁、厚朴)の組み合わせが鎮咳・止痰に働く。
(柴胡、蘇葉、厚朴、陳皮)気うつを調整し、気分を穏やかにする。
(陳皮、甘草)健胃薬として働き、麻黄の胃に障る症状を軽減します。
<まとめ>
・近年、喘息は西洋薬での病態コントロールが飛躍的に改善しています。ただ患者さんの訴えに対応した漢方薬の出番も少なくありません。
・喘息の寛解期には咳嗽、喘鳴の出現以前に将来のリスク回避を目的として柴朴湯や苓甘姜味辛夏仁湯を用います。
・発作初期には麻黄が含まれる小青竜湯、柴胡が含まれる柴陥湯を症状に応じて使い分けます。
・発作期には麻黄剤である麻黄湯、麻杏甘石湯、五虎湯、神秘湯を使い分けます。ICSとの併用で相乗効果も期待できます。