小児漢方探求

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

未病の漢方:冷え性

2025年02月02日 09時05分43秒 | 漢方
喜多敏明Dr.の動画「未病シリーズ」、今回は冷え症です。
西洋医学では病気とは見なされず、当然治療法もありませんが、
漢方医学では「冷えは万病の元」と最重要視されています。

体調不良に「冷え」が隠れていると、まずそこから治療を考えます。
例えば、冬になるとしもやけで悩む方には、
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)という特効薬がありますが、
冷えが強くてその効きが悪い人もいます。
そのような人には、冬になる前から人参湯(32)でお腹を温め、
冬に備えるという治療を考慮します。
これが“未病を治す”という概念ですね。

実際に私が関わった患者さんで、
皮膚科で治療したけどよくならず相談され、
漢方薬をいくつか試したのですが手応えは今ひとつ、
結局、秋から人参湯を飲んだら解決した人がいます。

では備忘録としてのメモを残しておきます。
結論から云うと、

寒証+気虚 → 乾姜 → 人参湯(32)、大建中湯(100)
寒証+血虚 → 当帰 → 当帰芍薬散(23)、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)
寒証+水毒 → 附子 → 真武湯(30)、八味地黄丸(7)

になります。

▶ 冷えは万病の元
・“冷え”は未病、自然治癒力低下(免疫力低下)状態
・病気になりやすい、病気が治りにくい
(例)風邪、花粉症、がん
・冷えに伴う不調
 ✓ 頭痛、肩こり ・・・かき氷を急いで食べると頭が痛くなる
 ✓ 腰痛、関節痛
 ✓ 下痢、腹痛
 ✓ 月経不順(遅延が多い)、不妊
 ✓ 浮腫、肥満(水太り)
 ✓ 不眠

▶ 冷え性の原因となる病気
・西洋医学・漢方医学の関連とみると
 (甲状腺機能低下症)≒(寒証)
 (甲上腺機能亢進症)≒(熱証)

        (甲状腺機能低下症)(甲上腺機能亢進症)
甲状腺ホルモン      ⇩        ⇧
基礎代謝         ⇩        ⇧
体温          低い        高い
脈拍          遅い        速い
血圧          低い        高い
気分       気力低下・眠気    イライラ・不眠
顔色        蒼白(寒がり)   赤ら顔(暑がり)

・冷え症は甲状腺機能低下症の諸症状に一致する

▶ 寒冷に対する体の反応
1.熱の産生を増やす
・ふるえ
・交感神経緊張  → 代謝亢進  
2.熱の放散を減らす
・表在血管の収縮
・汗を止める(毛穴が閉じる)
・鳥肌が立つ(立毛筋の収縮)

▶ 冷え性の病態
・交感神経が緊張しても代謝が亢進しにくい → 熱の産生が増えない。
・熱の放散を減らすことしかできない。
 → 冷え症の症状・所見につながる。

▶ 熱の産生メカニズム〜その1:関係する臓器
・食事:炭水化物や脂肪を分解(異化)する過程でが発生する
・肝臓(化学工場):有害物質の分解・解毒を行う過程でが発生
・褐色脂肪細胞(肩甲骨・脊椎・腎周囲):漢方的には“太陽膀胱経”が走る部位、交感神経緊張なしでが発生(感冒罹患時など)

▶ 熱の産生メカニズム〜その2:熱が発生する活動
・食事 → ATP → 運動エネルギー → 筋肉(平滑筋・心筋・骨格筋)運動(仕事)でが発生
・食事 → ATP → 電気的エネルギー → 活動電位(神経・筋細胞の興奮)、静止膜電位(腎・尿細管での再吸収)でが発生

▶ 熱の産生メカニズム〜その3:熱の産生システムと五臓の関係
(脾・胃)食事〜ATP〜平滑筋(胃腸)
(肝・心)肝臓〜心筋・骨格筋・活動電位
(腎・肺)褐色脂肪細胞〜静止膜電位(Naポンプ)
※ 白色脂肪(体脂肪)は分解されてエネルギー(ATP)になるが、褐色脂肪はエネルギーにならず熱を産生するだけ。

▶ 熱の産生システム〜その4:五臓と冷えを3つに分類
1.脾・胃の陽虚:気虚を伴う → お腹〜全身が冷える
・栄養補給システム、消化器系の機能低下を伴う
2.肝・心の陽虚:血虚を伴う → 手足が冷える
・精神運動システム・循環器系の機能低下を伴う
3.腎・肺の陽虚:水滞を伴う → 下半身が冷える
・生体防御システム・泌尿器系の機能低下※ 陽虚 ≒ 寒証

▶ 冷え性(寒証タイプ)その1:寒証+気虚
・気虚 → 消化吸収低下、栄養補給低下
・症状:お腹〜全身が冷える
 ✓ お腹を冷やすとすぐに下痢する(腸管の吸収が悪い)
 ✓ 腹痛を伴う(腸管の動きが悪い → 便秘)
・適応症薬:乾姜(生姜に熱を加えて乾かした物)
・適応方剤:
 ✓ 人参湯(32) → お腹を冷やすとすぐに下痢する人へ
 ✓ 大建中湯(100) → 腹痛を伴う人へ(便秘系)
・養生:
 ✓ 腹巻き(冬も夏も)、カイロ、お灸
 ✓ 温める食材:ショウガ、ネギ
 ✓ とにかくお腹を冷やさない

▶ 冷え性(寒証タイプ)その2:寒証+血虚
・血虚:血液循環低下、精神運動低下
・症状:手足が冷える
 ✓ 手足の先が白くなる
 ✓ しもやけができる
・適応症薬:当帰
・適応方剤:
 ✓ 当帰芍薬散(23)
 ✓ 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)・・・しもやけの第一選択薬
・養生:
 ✓ エクササイズ、ストレッチ
 ✓ 日内リズム調整(規則正しい生活)

▶ 冷え性(寒証タイプ)その3:寒証+水滞
・水滞:泌尿排泄能低下、生活防御能低下
・症状:下半身が冷える
 ✓ 下半身が重い
 ✓ 下半身がむくむ
・適応症薬:附子(代謝亢進、熱産生亢進)
・適応方剤:
 ✓ 真武湯(30)
 ✓ 八味地黄丸(7)
・養生:
 ✓ 半身浴、インターバル速歩
 ✓ マグネシウムを多く含む食材(種実類、豆類、海藻類、ココアなど)
※ マグネシウムは酵素の減量となり、化学反応(≒代謝)を助ける

<参考>

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