「ソラリスの陽のもとに」(スタニスワフ・レム著、1961年)を読んだのは、高校生の頃だっただろうか。
当時SF少年と自称し、海外のSF小説を読みあさっていた私も、その内容に面食らった。
なんだこのSFは?
宇宙に向かって広がるストーリーではなく、人間の心の奥底に切り込んでいく展開なのだ。
混乱させられた。
でも、言葉にできない不思議な余韻とともに、私の記憶の中に沈殿していった。
「深層心理小説」とでも名づけたい、ファンタジー。
(私の持っている文庫の表紙はこれ)
そしてタルコフスキー監督の映画(1972年)も見た。
暗い海が穏やかに波立ち、何かを語りかけるよう・・・それが永遠に続く映像が目に焼き付いている。
その後、ジョージ・クルーニーを主演に迎え、ソダーバーグ監督によりもう一度映画化された(2002年)。
<内容>(amazonより)
惑星ソラリス――この静謐なる星は意思を持った海に表面を覆われていた。惑星の謎の解明のため、ステーションに派遣された心理学者ケルヴィンは変わり果てた研究員たちを目にする。彼らにいったい何が? ケルヴィンもまたソラリスの海がもたらす現象に囚われていく……。人間以外の理性との接触は可能か?――知の巨人が世界に問いかけたSF史上に残る名作。レム研究の第一人者によるポーランド語原典からの完全翻訳版。
SF映画「禁断の惑星」(1956年、アメリカ)という作品も忘れられない。「潜在意識が実体化する」同系統のストーリーだ。
人間のダークサイドを扱ったこれらの映画作品は、この後「スターウォーズ」シリーズに形を変えて受け継がれていった。
NHK・100分de名著シリーズの2017年12月は「ソラリス」。
■ ソラリス(100分de名著71)
遺伝子操作、iPS細胞による再生医療……生命科学の進歩はとどまるところを知りません。AIや脳科学の飛躍的な進歩は「人間の意識」の解明に新たな光を当てようとしています。しかし、そもそも「生命とは何か」「意識とは何か」というより根源的な問いの解明については、人類はまだその入り口に立ったばかりです。そんな現代的な問いを予見するように問うた小説が今から半世紀も前に書かれていました。スタニスワフ・レム「ソラリス」。SF作品の歴代ランキング一位に常時ランクインし、世界30数ヶ国語にも翻訳されている作品です。また、二度にわたって映画化も果たし、ポーランド文学の最高傑作のひとつに数えられています。「100分de名著」では、科学の限界、人間存在の意味、異質な文明との接触の問題を鋭く問うこの作品を取り上げます。
惑星ソラリスの探査に赴いた科学者クリス・ケルヴィンは、科学者たちが自殺や鬱病に追い込まれている事実に直面。何が起こっているのか調査に乗り出します。その過程で、死んだはずの人間が次々に出現する現象に遭遇し、自らの狂気を疑うクリス。やがて惑星ソラリスの海が一つの知的生命体であり、死者の実体化という現象は、海が人類の深層意識をさぐり、コミュニケーションをとろうする試みではないかという可能性に行き当たります。果たして「ソラリスの海」の目的は?
この作品は、人類とは全く異なる文明の接触を描いているだけではありません。ソラリスの海が引き起こす不可解な現象は、人間の深層に潜んでいるおぞましい欲望や人間の理性が実は何も知りえないのではないかという「知の限界」をあぶりだしていきます。ロシア・東欧文学研究者の沼野充義さんは、レムは、この作品を通して「人間存在の意味」を問うているのだといいます。
さまざまな意味を凝縮した「ソラリス」の物語を【科学や知の限界】【異文明との接触の可能性】【人間の深層に潜む欲望とは?】【人間存在の意味とは?】など多角的なテーマから読み解き、混迷する現代社会を問い直す普遍的なメッセージを引き出します。
第1回(12月4日放送)未知なるものとのコンタクト
人間とは全く異なる「未知なるもの」と遭遇したとき人間はどうなるのか? 「惑星ソラリス上で不可解な自己運動を繰り返す海は果たして知的生命体なのか?」 理解不能な事態に直面し、人類は「ソラリス学」という膨大な知の集積を続けてきた。そして、登場人物たちも、海がもたらす想像を絶する事態に巻き込まれ、あるいは現実逃避、あるいは自殺へと追い込まれていく。主人公クリス・ケルヴィンは、自らの狂気を疑うが、ぎりぎりの理性の中でそれが現実にほかならないことをつきとめる。第一回は、人間の理性の可能性と限界を見極めようとする認識論的寓話として「ソラリス」を読み解く。
第2回(12月11日放送)心の奥底にうごめくもの
既に死亡した人物が、実体をともなって再び出現するという恐るべき状況。しかも、彼らは、忘れがたいが悲痛さのため心の奥にしまいこんだはずの記憶の中の人物だった。自分自身が自殺に追いやってしまったかつての恋人ハリーと遭遇するクリスは、その現実を受け入れられず、ロケットで大気圏外に射出することで葬り去ろうとする。しかし、ハリーは再び忽然と出現する。やがて過去の探検隊の記録から、彼らは、ソラリスの海が人間の潜在的な記憶を探り、不可解な力で実体化したものということがわかっていく。ソラリスの海は、いったい何のために、このようなことを行うのか? 第二回は、抑圧された記憶や欲望を抉り出す精神分析的な物語として「ソラリス」を読み解く。
第3回(12月18日放送)人間とは何か? 自己とは何か?
ソラリスの海が実体化したはずのハリーは、クリスとの交流の中で、より人間らしい自意識を育んでいく。クリスもそんなハリーを、元の恋人とは別の新たな人格として愛し始める。彼らの交流を見つめていると、「自己とは何か?」「他者とは何か?」という鋭い問いをつきつけられる。記憶をもとに造形されたハリーは単なるコピーではない。他者との関わりの中でオリジナルな自己を育んでいく存在なのだ。そして、クリス自身もそんな彼女に影響を受けていく。そして、ハリーは、これ以上クリスを苦しめたくないと、自ら「自殺」を選択するのだ。第三回は、「ソラリス」を通して、「人間存在とは何か」という根源的なテーマを考えていく。
第4回(12月25日放送)不完全な神々のたわむれ
ソラリスの海が引き起こす謎の現象は、自分たちに向けての何らかのコンタクトではないのか? クリスたちは、潜在意識ではなく、はっきりとした自己意識を記録しX線に載せてソラリスの海に照射する実験を行う。しかし、海からの応答はなく、不可解な自己運動を繰り返すだけだった。最後の最後まで人間の理解を絶したままの絶対的他者「ソラリスの海」が暗示するのは、それが私たちにとっての「世界」や「神」のメタファーではないかということだ。クリスたちの体験は何も特別なものではない。私たちも、時として「なぜ?」「どうして?」としかいいようのない不条理な出来事に遭遇するものなのだ。第四回は、SF作家・瀬名秀明さんをゲストに招き、「ソラリス」にこめられた巨大なメッセージを、解き明かしていく。
当時SF少年と自称し、海外のSF小説を読みあさっていた私も、その内容に面食らった。
なんだこのSFは?
宇宙に向かって広がるストーリーではなく、人間の心の奥底に切り込んでいく展開なのだ。
混乱させられた。
でも、言葉にできない不思議な余韻とともに、私の記憶の中に沈殿していった。
「深層心理小説」とでも名づけたい、ファンタジー。
(私の持っている文庫の表紙はこれ)
そしてタルコフスキー監督の映画(1972年)も見た。
暗い海が穏やかに波立ち、何かを語りかけるよう・・・それが永遠に続く映像が目に焼き付いている。
その後、ジョージ・クルーニーを主演に迎え、ソダーバーグ監督によりもう一度映画化された(2002年)。
<内容>(amazonより)
惑星ソラリス――この静謐なる星は意思を持った海に表面を覆われていた。惑星の謎の解明のため、ステーションに派遣された心理学者ケルヴィンは変わり果てた研究員たちを目にする。彼らにいったい何が? ケルヴィンもまたソラリスの海がもたらす現象に囚われていく……。人間以外の理性との接触は可能か?――知の巨人が世界に問いかけたSF史上に残る名作。レム研究の第一人者によるポーランド語原典からの完全翻訳版。
SF映画「禁断の惑星」(1956年、アメリカ)という作品も忘れられない。「潜在意識が実体化する」同系統のストーリーだ。
人間のダークサイドを扱ったこれらの映画作品は、この後「スターウォーズ」シリーズに形を変えて受け継がれていった。
NHK・100分de名著シリーズの2017年12月は「ソラリス」。
■ ソラリス(100分de名著71)
遺伝子操作、iPS細胞による再生医療……生命科学の進歩はとどまるところを知りません。AIや脳科学の飛躍的な進歩は「人間の意識」の解明に新たな光を当てようとしています。しかし、そもそも「生命とは何か」「意識とは何か」というより根源的な問いの解明については、人類はまだその入り口に立ったばかりです。そんな現代的な問いを予見するように問うた小説が今から半世紀も前に書かれていました。スタニスワフ・レム「ソラリス」。SF作品の歴代ランキング一位に常時ランクインし、世界30数ヶ国語にも翻訳されている作品です。また、二度にわたって映画化も果たし、ポーランド文学の最高傑作のひとつに数えられています。「100分de名著」では、科学の限界、人間存在の意味、異質な文明との接触の問題を鋭く問うこの作品を取り上げます。
惑星ソラリスの探査に赴いた科学者クリス・ケルヴィンは、科学者たちが自殺や鬱病に追い込まれている事実に直面。何が起こっているのか調査に乗り出します。その過程で、死んだはずの人間が次々に出現する現象に遭遇し、自らの狂気を疑うクリス。やがて惑星ソラリスの海が一つの知的生命体であり、死者の実体化という現象は、海が人類の深層意識をさぐり、コミュニケーションをとろうする試みではないかという可能性に行き当たります。果たして「ソラリスの海」の目的は?
この作品は、人類とは全く異なる文明の接触を描いているだけではありません。ソラリスの海が引き起こす不可解な現象は、人間の深層に潜んでいるおぞましい欲望や人間の理性が実は何も知りえないのではないかという「知の限界」をあぶりだしていきます。ロシア・東欧文学研究者の沼野充義さんは、レムは、この作品を通して「人間存在の意味」を問うているのだといいます。
さまざまな意味を凝縮した「ソラリス」の物語を【科学や知の限界】【異文明との接触の可能性】【人間の深層に潜む欲望とは?】【人間存在の意味とは?】など多角的なテーマから読み解き、混迷する現代社会を問い直す普遍的なメッセージを引き出します。
第1回(12月4日放送)未知なるものとのコンタクト
人間とは全く異なる「未知なるもの」と遭遇したとき人間はどうなるのか? 「惑星ソラリス上で不可解な自己運動を繰り返す海は果たして知的生命体なのか?」 理解不能な事態に直面し、人類は「ソラリス学」という膨大な知の集積を続けてきた。そして、登場人物たちも、海がもたらす想像を絶する事態に巻き込まれ、あるいは現実逃避、あるいは自殺へと追い込まれていく。主人公クリス・ケルヴィンは、自らの狂気を疑うが、ぎりぎりの理性の中でそれが現実にほかならないことをつきとめる。第一回は、人間の理性の可能性と限界を見極めようとする認識論的寓話として「ソラリス」を読み解く。
第2回(12月11日放送)心の奥底にうごめくもの
既に死亡した人物が、実体をともなって再び出現するという恐るべき状況。しかも、彼らは、忘れがたいが悲痛さのため心の奥にしまいこんだはずの記憶の中の人物だった。自分自身が自殺に追いやってしまったかつての恋人ハリーと遭遇するクリスは、その現実を受け入れられず、ロケットで大気圏外に射出することで葬り去ろうとする。しかし、ハリーは再び忽然と出現する。やがて過去の探検隊の記録から、彼らは、ソラリスの海が人間の潜在的な記憶を探り、不可解な力で実体化したものということがわかっていく。ソラリスの海は、いったい何のために、このようなことを行うのか? 第二回は、抑圧された記憶や欲望を抉り出す精神分析的な物語として「ソラリス」を読み解く。
第3回(12月18日放送)人間とは何か? 自己とは何か?
ソラリスの海が実体化したはずのハリーは、クリスとの交流の中で、より人間らしい自意識を育んでいく。クリスもそんなハリーを、元の恋人とは別の新たな人格として愛し始める。彼らの交流を見つめていると、「自己とは何か?」「他者とは何か?」という鋭い問いをつきつけられる。記憶をもとに造形されたハリーは単なるコピーではない。他者との関わりの中でオリジナルな自己を育んでいく存在なのだ。そして、クリス自身もそんな彼女に影響を受けていく。そして、ハリーは、これ以上クリスを苦しめたくないと、自ら「自殺」を選択するのだ。第三回は、「ソラリス」を通して、「人間存在とは何か」という根源的なテーマを考えていく。
第4回(12月25日放送)不完全な神々のたわむれ
ソラリスの海が引き起こす謎の現象は、自分たちに向けての何らかのコンタクトではないのか? クリスたちは、潜在意識ではなく、はっきりとした自己意識を記録しX線に載せてソラリスの海に照射する実験を行う。しかし、海からの応答はなく、不可解な自己運動を繰り返すだけだった。最後の最後まで人間の理解を絶したままの絶対的他者「ソラリスの海」が暗示するのは、それが私たちにとっての「世界」や「神」のメタファーではないかということだ。クリスたちの体験は何も特別なものではない。私たちも、時として「なぜ?」「どうして?」としかいいようのない不条理な出来事に遭遇するものなのだ。第四回は、SF作家・瀬名秀明さんをゲストに招き、「ソラリス」にこめられた巨大なメッセージを、解き明かしていく。