日々雑感

読んだ本やネット記事の感想、頭に浮かんでは消える物事をつらつら綴りました(本棚7)。

五木寛之「人はみな大河の一滴」

2017-09-30 14:59:05 | エッセイ
 人気作家によるエッセイの語りおろしCD集を聴きました。



 五木氏は「闇を見つめる作家」だと思います。

 日の当たらない人々や歴史に向けたまなざしは、私の波長とよく合うのです。 
 放浪の旅に明け暮れた若かりし頃の作品も好きですし、
 民俗学的な視点を持ったエッセイ集も好きです。

 CD集を一通り聴き終えて、彼の原点は戦争の引き揚げ体験であることがわかりました。

 優秀な人材もあっという間にいのちを奪われてしまう戦争。
 彼の父は平壌で師範学校の教師をしていました。
 戦争に負け、朝鮮半島から日本へ撤退・帰国する際に、ロシアによる略奪や非人道的行為を目の当たりにしました。

 デカルトの「われ思う、故にわれあり」という文言は有名ですが、実はそれ以前に某宗教家の「われあり、故にわれ思う」という文言があったそうです。
 五木氏は某宗教家の文言の方に惹かれるというのです。
 人生で何か成し遂げて初めていのちに意味があるのではなく、命があること自体が尊いのではないか。
 そうでなければ、戦争で若くして散っていったたくさんのいのちが救われない。

 戦後、日本人は努力し前へ進むことを善とし、立ち止まり後ろ向きになることを悪とする傾向がありました。
 ポジティブ思考を良しとし、ネガティブ思考を「根暗」とからかう風潮は私の時代にもありました。

 しかし五木氏は、物事の明るい面だけ見続けるだけでよかったのだろうか、と疑問を投げかけます。
 人間は喜びと悲しみの両者を経験して初めて感情が完成する。片方だけでよいということはない。本当の悲しみを経験した者だけが本当の喜びを知るはずだ、と云います。

 明るい面だけを見る風潮の弊害として、人間の心の闇が地下に深く広く浸透してしまった。
 それがいじめであり、不登校・引きこもりであり、自殺者の増加である、と。


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