さなえのうた

歌いながらあちこちに出没します♪

カルメン~エロスvsアガペ

2020-08-13 | オペラ研究
カルメンについて書いた記事にアクセスがあったので、
少し書きたいと思います。

以前、ミカエラを歌った時の記事
ギロー版とアルコア版について書いた記事、
大天使ミカエルについて書いた記事などがあります。

オペラ『カルメン』では、ミカエラを数回、歌わせていただきました。
日本語訳およびフランス語の原語で、です。
フラスキータも何度か歌っています。
学校公演では、数百回の出演になると思います。
コーラスの一員としてが多いですが、時にはミカエラやフラスキータとして、
日本全国で公演をしました。

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ミカエラを歌った時に楽屋で撮った写真です。



 

オペラ『カルメン』を理解するためには、
エロスとアガペという2種類の愛のカタチを知っておくことが大事です。


~二人の女性…エロスとアガペ~

カルメンは、エロスの愛を象徴しています。
肉体的な意味でもあり、自分の欲求です。

彼女は、一目で男たちを虜にします。
男好きなのではなく、男たちがその魅力にハマるのです。
壇蜜さんとか深キョンとか・・・そんな感じでしょうか。

ミカエラは、アガペの愛を象徴しています。
精神的な意味でもあり、与える愛です。

八千草薫さんとか、樹木希林さんとか、
『日本のお母さん』と称されるようなイメージでしょうか。
将来、いいお母さんになるんだろうなと思わせる女性です。

 
~ホセの転落~


アガペの愛が用意されていたホセですが、
エロスの愛と出会い、道を踏み外します。


ホセはアリアの中で、『Je t'adore.』と言います。
跪いて『崇拝したい』と言っているのです。
下から上を見上げる目線です。

それを聞いてカルメンは、
『Tu ne m'aime pas.あんたは私を愛しちゃいない』と言い放ちます。
愛するって、そういうことではないでしょう?…
愛しているなら手に手を取って、野山を駆けまわろう…と誘います。
目線は同じ位置にあります。
どちらが上でも下でもなく、同じ目線で、
欲求に従って生きる…これがエロスです。

3幕、ミカエラがホセを探しに来ます。
ミカエラはホセのことを『かつて愛していた人』と呼称するので、
もう愛していないことがわかります。

ミカエラは聖母マリアの象徴である青いスカートを履き、
エロスを感じさせないお下げ髪をしています。
ソドムの街を破壊した大天使ミカエルと同じ名前でもあります。

母の伝言を伝えに来たミカエラは、
母の愛を与えに来たのです。
自らの愛によってではなく、母の愛によってやって来たミカエラ…。
上から下に与える目線はアガペの目線です。
『Je t'adore.』と言っているホセは、与えられる目線を欲していたはずでした。

4幕、カルメンを殺した後も、ホセは『Je t'adore.』と跪きます。
エロスによりアガペを見失った男の物語が、ここで幕を閉じます。



エロスとアガペ…これだけを抑えて置けば、
どんなキャラクターを作るのか、どんな歌を歌うのか、
簡単に答えが見つかると思います。