2024年版 渡辺松男研究23
【眉間】『寒気氾濫』(1997年)79頁
参加者:泉真帆、かまくらうてな、渡部慧子、鹿取未放、
S・Iと鈴木良明は紙上参加
レポーター: 泉 真帆 司会と記録:鹿取 未放
185 土がにおい汗ぼうぼうの扇状地 農に痩せいし祖父の鳩尾(みずおち)
(レポート)
扇状地を農地として使うには、想像を超える苦労があるのだろう。農業を営む作者の祖父は、鳩尾がくぼむほど痩せている。そんな姿を上句の「土がにおい」「汗ぼうぼう」が引き出す。作者は群馬県に住む。ここは大間々扇状地かもしれない。(真帆)
(紙上意見)
◆農作地としては厳しい扇状地を開拓しつつ、農業を営んだ祖父を、鳩尾に滴り落ちる汗や、褪せた姿と視覚で捉えている。「ばうぼう」という濁音が、草が茫茫と生え乱れている様と、汗が滂沱の如く流れ落ちる様と,二重に用いられ、農に塗れた無骨な祖父の姿を浮かび上がらせる。(S・I)
◆「扇状地」は川が山地から平地へ流れる所にできる地形である。祖父は痩せて、「土がにおい汗ぼうぼうの扇状地」と形容されるような鳩尾をしつつ、苦労して長く農業を営んできた。(鈴木)
(当日意見)
★扇状地のイメージを鳩尾に転換したテクニックが面白い。ただ3句と結句で体言止め
になっていて違和感を感じる。私は前登志夫のファンで、こういう構造の歌があるか
どうか彼の6冊の歌集を調べました。そしたら1首か2首しかなかった。他の人の歌
集にも極めて少ない。だからこの構造の歌はやらない方がよい。でも逆にいうとこう
して並べることで扇状地と鳩尾が自分の言いたいポイントだということがよく分か
る。ここはポイントが明瞭に伝わるので成功していると思う。(うてな)
★確かに一般的には3句と結句で体言止めにすると、ぶつ切れになってなめらかな律を
損なうし失敗することが多いですけれど、これはいい歌だと思います。扇状地と鳩尾
という形態的にイメージの似たものを衝突させて、しかも抒情性を保っているし、祖
父への思いも滲んでいる。余談だけど、松男さんの造型したおじいさん像というのが
私はどの歌をとっても好きです。(鹿取)
【眉間】『寒気氾濫』(1997年)79頁
参加者:泉真帆、かまくらうてな、渡部慧子、鹿取未放、
S・Iと鈴木良明は紙上参加
レポーター: 泉 真帆 司会と記録:鹿取 未放
185 土がにおい汗ぼうぼうの扇状地 農に痩せいし祖父の鳩尾(みずおち)
(レポート)
扇状地を農地として使うには、想像を超える苦労があるのだろう。農業を営む作者の祖父は、鳩尾がくぼむほど痩せている。そんな姿を上句の「土がにおい」「汗ぼうぼう」が引き出す。作者は群馬県に住む。ここは大間々扇状地かもしれない。(真帆)
(紙上意見)
◆農作地としては厳しい扇状地を開拓しつつ、農業を営んだ祖父を、鳩尾に滴り落ちる汗や、褪せた姿と視覚で捉えている。「ばうぼう」という濁音が、草が茫茫と生え乱れている様と、汗が滂沱の如く流れ落ちる様と,二重に用いられ、農に塗れた無骨な祖父の姿を浮かび上がらせる。(S・I)
◆「扇状地」は川が山地から平地へ流れる所にできる地形である。祖父は痩せて、「土がにおい汗ぼうぼうの扇状地」と形容されるような鳩尾をしつつ、苦労して長く農業を営んできた。(鈴木)
(当日意見)
★扇状地のイメージを鳩尾に転換したテクニックが面白い。ただ3句と結句で体言止め
になっていて違和感を感じる。私は前登志夫のファンで、こういう構造の歌があるか
どうか彼の6冊の歌集を調べました。そしたら1首か2首しかなかった。他の人の歌
集にも極めて少ない。だからこの構造の歌はやらない方がよい。でも逆にいうとこう
して並べることで扇状地と鳩尾が自分の言いたいポイントだということがよく分か
る。ここはポイントが明瞭に伝わるので成功していると思う。(うてな)
★確かに一般的には3句と結句で体言止めにすると、ぶつ切れになってなめらかな律を
損なうし失敗することが多いですけれど、これはいい歌だと思います。扇状地と鳩尾
という形態的にイメージの似たものを衝突させて、しかも抒情性を保っているし、祖
父への思いも滲んでいる。余談だけど、松男さんの造型したおじいさん像というのが
私はどの歌をとっても好きです。(鹿取)
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