かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 300

2024-08-18 09:59:31 | 短歌の鑑賞
  2024年度版 渡辺松男研究37(2016年4月実施)
     【垂直の金】『寒気氾濫』(1997年)124頁~
     参加者:S・I、泉真帆、M・S、鈴木良明、
         曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
       レポーター:泉 真帆 司会と記録:鹿取 未放

300 秋桜の逆光の路へ行くひとよまぶしき路はにんげんを消す

      (レポート)
(解釈)秋桜の背後から逆光がさしている。その光の海に向かう一本の路がある。しまいにはこの「まぶしき路」は「にんげん」を消した。
(鑑賞)「逆光の路へ行く」の構図の表現に注目した。まず読者の目に、秋桜の背後から照らす逆光線を見せる。このとき発句でイメージした秋桜の花々は、陽光の海原に覆われて消える。次いで、そこへ向っている一本の路をみせ、最後に路を歩いて行く人を光の中に消すという、映画のシーンのような技巧に驚く。また、この作者の歌に、光の集まる場所を霊の集まる場所としてとらえる歌があったが、この一首はむしろ、この「まぶしさ」の答えをここでは出さず、なんだろう?と、読者の関心を喚起する、連作の始まりの一首になっているのではないだろうか。(真帆)


       (当日発言)
★最初「ひと」と呼び、後で「にんげん」と置き換えています。異空間に入っていくよ
 うなイメージですね。人間は消えてしまったのですけれど、それは可視光線では見え
 ない。(石井)
★人間の存在って光と影があって出てくる。光だけになると存在感が消される。(鈴木)
★秋桜って逆光でなくてもはかない感じの花で、それを歌い出しに持ってこられたとこ
 ろがお上手 だなと思いました。(慧子)
★人間が秋桜の中に紛れていっちゃうという感じがします。(M・S)
★秋桜って何か宇宙のコスモスに通じるような気がするのですが。(石井)
★私ははじめ宇宙のコスモスとかカオスという言葉も連想しましたが、漢字だからやは
 り逆光の中 に咲く秋桜として解釈しました。(真帆)
★秋桜って聞くと秋の澄んだ空とその空気感を感覚的に思いますよね。人間も秋桜も映
 像化してお  いて消してしまう、見せ消(け)ちの手法ですね。(鹿取)
★後の方の歌を読んでいくと、このひかりはただごとならぬひかりなんだろうなって
 思います。それ 以上は曲解する気がして鑑賞はそこでとめましたが。(真帆)
★この歌、両側に秋桜が群生している一本の路を人が歩いている、道の向こうにおそら
 く沈もうとす る陽があって非常にまぶしいので、人間の姿がよく見えなくなる。そう
 いう現象は別に不思議なこと ではなくて、日常ふつうに経験することですよね。で
 も、こう表現されると何か存在の奥深いものを暗示されているような気がする。その
 辺りをレポーターは「『まぶしさ』の答えをここでは出さず」と いうように書いてい
 らっしゃるのだと思います。「光の集まる場所を霊の集まる場所としてとらえる 歌が
 あった」とレポートにあるのは、私がとても気になっている「まぶしさの中にかがや
 くまぶしさ」の歌がある「非常口」の一連だったと思うのですが。「まぶしい」と
 か「ひかり」というのが松男さんの 心を深いところというか異次元に誘う特別のもの
 なんだろうと思います。(鹿取)
   ひとつ死のあるたび遠き一本の雪原の樹にあつまるひかり  
   非常口からわれ逃げしときまぶしさのなかにかがやくまぶしさのあり
              (2首と「非常口」)

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