読む日々

テーマばらばらの読書日記

トオリヌケキンシ

2018-04-28 | 小説・現代
加納朋子「トオリヌケキンシ」



何かしらの病気が出て来る、あったかくてホロっとする短編6つ。

※注意
ネタバレありあり。


・トオリヌケキンシ
トオリヌケキンシと書かれた道の奥は、クラスメイト女子の家だった。おやつ目当てに通う日々。そして引越しをした自分は途中で躓き引きこもりに。そこへ数年ぶりに女子がわざわざ訪ねて来てくれる。今度は自分があなたを救うばん、と。女子は、場面緘黙症だった。彼に救われたのだと。
人はあずかり知らぬところでひとを救っていたりするのだなぁ。人と人との関係は一方からはわからない。

・平穏で平凡で、幸運な人生
同じようなものの中から、特定の物を探すのが得意だった主人公。それを、共感覚というのだ、と教えてくれたのは生物の教師。彼は夏休みに南米で墜落した飛行機事故の犠牲者として新聞に載っていた。10年経ち、幼子を連れて沖縄旅行へ行く主人公夫婦。なんとレンタカー毎、幼子が誘拐されてしまう。教師のエピソードはどうした?と思ったら。なんか、このお話、キュンとした。

・空蝉
幼稚園の頃、豹変した母親に虐待された過去を持つ大学生。いつも自分を励まし導いてくれたのは自分が作り出した想像上の友達だった。継母に心を開けずにいた主人公に、1つ上の先輩がしてくれた種明かし。母は脳腫瘍で人格が変わっていたと。そして想像上と思い込んでいた友達の正体は。母の気持ちが切ないお話。

・フー・アー・ユー
人の顔が覚えられない、相貌失認という障害を持つ男子と、醜形恐怖症の女の子の恋。
ハッピーエンドで微笑ましい。

・座敷童と兎と亀と
40代主婦兎野さんがひょんなことから関わった亀井さんというお爺さん。陽気な奥さんを亡くした亀井さんちに、なんと座敷童が出ると。
実は亀井さん、脳梗塞の後遺症で左半分が見えてなかった。そして、亡き息子の彼女が産んでいた少女が住み着いていた!
ご近所ネットワークの暖かさに涙が出てがたくさん出て来たお話。

・この出口のない、閉ざされた部屋で
大学入試に体調崩して失敗した引きこもり男子。親友はうえで出てきた兎野さんちの息子か?
完全に引きこもる前に公園のベンチで出会った緑野優芽という少女を、好きだと思っていた。
夢の研究に余念のない主人公、完全に病んでる?と思ったら引きこもりではなく、無菌室に入院していた白血病患者だった。緑野さんは隣のお部屋の患者さん。退院の際医師より手紙を渡される。
これは少女が切なかった。最後の詩?句??が良かったなぁ。夢は緑野を、ただ駆け巡る。

満足度100

八月の六日間

2018-04-23 | 小説・現代
北村薫「八月の六日間」



とある女性編集者の山登りの記録風小説。山登りと山登りの間に人生が進んでる感じ。

最初が九月の五日間。
槍ヶ岳に登るんだけど、読み聞かせで槍ヶ岳山頂という本を読んでいたので、すごくリアルに感じられた。ここでぐいっと掴まれた。

二月の三日間はツアーで裏磐梯の雪山散策。
これ、参加してみたい!

十月の五日間、五月の三日間、八月の六日間と続く中で、幼い頃からの友人の死や、さきしょの槍ヶ岳で知り合った女性との再会、編集者としてのスキルアップやら、昔の恋人との思い出、まさかのパラオでの再会の様子などが語られる。

読みやすく面白く、そして山へ行きたくなる一冊。

満足度100

BUTTER

2018-04-19 | 小説・現代
柚木麻子「BUTTER」



図書館で順番を、待って待ってやっと読めた一冊。

婚活連続殺人事件の木嶋佳苗をモデルに、その犯人を取材し続ける女性記者を主人公にした小説。


犯人の食への拘りに関心を見せたことからだんだん犯人の術中にはまり込み周囲との人間関係も微妙に変化して行く。

が、犯人の出身地新潟へ、親友と取材旅行に行ったあたりから、逆に犯人の気持ちを翻弄さるやうに。

その後もどんでん返し等ありながらも、犯人との接触を通し主人公もさまざまなトラウマや自分の内面と向き合い乗り越えて行く。

その変化の過程に料理があり、その描写が具体的ですごい。


新潟の食を絶賛してくれてありがたいなぁ。


また、ハッとする言葉もたくさん散りばめられていた。

以下文中でハッとした部分の抜き書き。


なんだかねぇ、あなたと向き合っていると、心が砂漠みたいになるのよ。投げ出すみたいに生きている人を見ると、こっちが責められている気がして疲れちゃうのよねぇ。

甘えなかったけど、それは同時に周囲の甘えを封じることでもあったと思う。

自分を粗末にすることは、誰かに怒りをぶつけていることだと思うから。


満足度90

わたしのげぼく

2018-03-29 | 小説・現代
「わたしのげぼく」上野そら作 くまくら珠美絵



インスタでお友達が絶賛していたので購入。
上から目線の猫が語る飼い主の男の子との日々。

泣ける!!帯にある通り、涙が止まらない。

絶対おすすめ。何度でも読んで泣けます。

満足度500

水に立つ人

2018-03-03 | 小説・現代
香月夕花「水に立つ人」



短編集

・やわらかな足で人魚は
孤児院でそだった女子高生。遠い日、心を通わせた年上の男の子との記憶。その記憶は書き換えられていて。なんだかドラマのanoneが思い出された。

・岸辺で私は歌を待つ
ペット探す探偵の、若い女性が体験した過去。何かを探すことに感じる安らぎ。

・彼女の海に沈む
中学校教師の落ちた罠。けれどそれは自分の深層心理の引き寄せなのか。

・水風船の壊れる朝に
災害で大勢が亡くなった地域で花屋を営む女性。本店を復活させるために売った分店を買う女性とのあれこれ。天真爛漫に見える女性の辛い過去。

・水に立つ人
辛い育ちの小学校教諭の女性と、学校向けの写真館に入社した男性。似た者同士なのか、3回話しただけで理解しあうが、彼は行方不明に。


どれも、ヤバいやつだ!心理描写が半端ない。泣けて泣けて泣けた。
ちょっとひねくれざるを得ない育ち方をした人には突き刺さるお話ばかり。

満足度100