時代劇がコマーシャルになりました。
食事もちょうど終わっています。
今が最大のチャンスです。
私はそっと他のチャンネルに移すと、
すぐに立ち上がりやっぺいちゃんを誘いました。
「やっぺいちゃん、そろそろみんなのところへ行こうか」
と声をかけました。
しかし、「いいよ。今日は行かないよ」
とつれない返事。
私はやっぺいちゃんの片手をとって、
「さあ、行こう!」
と引っ張りましたが、まったく動きません。
まるで岩のようです。
焦った私はますます力をこめて腕を引っ張りますが、
やっぺいちゃんも根が張ったかのように動きません。
「行こう!」「行かない!」
「行こう!」「行かない!」
とまるで押問答のようになってきました。
ここで私ははっとしました。
「押してもダメならひいてみな」
という言葉を思い出したのです。
すぐに私はリビングを出ていったん離れました。
そして、台所のお盆を取り出すと、
「はなのやまが~たあ~」と
花笠踊りを歌いながら踊り始めました。
しかも派手に踊りました。
するといとも簡単に(というか単純に)、
やっぺいちゃんも立ち上がって踊り始めました。
そして踊りながら私のところへやってきました。
2人で踊りながら玄関へ向かいました。
「あら、車が止まっている」
何度も説明したのに、初めて見たかのように言いました。
「んだらば、乗って行くべ!」
と靴を履き出しました。
そして、すうっと開いていたドアから乗り込みました。
あっという間の出来事でした。
この日から食事中は私はリビングに入らず、
入口に立って歌ったり踊ったりして誘い出すようにしました。
こちらの作戦にまんまと引っかかって、
やっぺいちゃんは自ら立ち上がり楽しそうに踊りながら
送迎車に乗ってくれるのでした。
一瞬の機転が功を奏したのでした。
やっぺいちゃんのお話はまたいたします。
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