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今年の米国臨床腫瘍学会(以下、ASCO)2022で、スタンディングオベーションの発表がありました。
●方法
〇対象患者さん:転移性乳がん患者でHER2低発現(+1~+2)
557例
〇抗HER2抗体薬物複合体トラスツズマブ‐デルクステカン(T-DXd)投与群
VS
コントロール群(主治医が選択した化学療法)
〇プライマリーエンドポイント(この研究の一番みたい目的):
無増悪生存期間(PFS)ー進行が止まっている期間
全生存期間(OS)
●結果:
557名中
ホルモン(H)陽性494名+Her2Low PFS 10.1か月
コントロール群 PFS 5.4か月
(hazard ratio for disease progression or death, 0.50; P<0.001)
ホルモン(H)陽性494名+Her2Low OS 23.4か月
コントロール群 OS 16.8か月
(hazard ratio for death, 0.64; P = 0.001)
グレード3以上の副作用
ホルモン(H)陽性494名+Her2Low 52.6%
コントロール群 67.4%
Her2受容体陽性の乳癌の患者さんでも、再発時や抗Her2薬治療を継続している内に、Her2が低発現に変化していくことは少なからず経験します。
術前化学療法後に手術をして受容体発現を見たところ、588名中33名に陽性から陰性化が認められたという報告もありました。
(Yoshida A, Hayashi N et al, ESMO 2012)
(Yoshida A, Hayashi N et al, ESMO 2012)
今回のASCO2022の発表は、Her2低発現(低発現は、陰陽でいえば、陰性に含まれる)に対しても、Her2抗体にデルクステカンをくっ付けた薬剤(抗原に抗体はくっつくため、陰性の癌には効かないと思われていた)は、有意な生存期間の延長ーそれも中央値で5か月、7か月といった差を認めたことが報告されました。
ASCOで発表があった日の同日、The New England Journal of Medicineに発表されています。
(この同日発表は、ASCOもNEJMも放したくない研究結果だったということでしょう。先に発表されたものをNEJMは絶対アクセプトしてくれませんし、NEJMが発表したものを他で発表することを認めてくれません)
国内では、この対象薬はすでに、以下に保険適応が条件付き早期承認されています。
エンハーツ®
○化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能又は再発乳癌(標準的な治療が困難な場合に限る)
○がん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃癌
○がん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃癌
これだけの延長、ターゲット療法のターゲットが低発現になっても効果が得られたこと、この結果はこれから先の抗がん治療の選択に変化をもたらせていくことになると思います。
この薬剤は、トリプルネガティブ(エストロジェン、プロジェステロンのホルモンやHer受容体発現がいずれも陰性)への効果の期待が述べられていましたが、国内で臨床試験を開始したのではないかと思います。
この発表はオンラインで見ていました。
最後に、関係者と多くの乳癌患者さんに対する謝辞が述べられ、終わった時、スタンディングオベーションが起こりました。会場の患者団体の方々は涙を流されていたと現地にいた方から聞きました。
日本からも多くの病院がこの臨床試験に参加されていることもNEJMから読み取れました。
患者さん達と作り上げた結果が次のがん患者さんに大きな恩恵が引き継がれていくことに胸熱くなりました。
現地に行ってみたかったです。
これからの動向に期待です。
そうなんです。
国際学会で、一部立って拍手をしている人を見たことはありますが、座長が鎮めようとする言葉をかけるほどのものは初めてでした。
今後の薬剤開発にも影響がありそうですか?
aruga