緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

苦痛を最小限にしようとする医療は、治癒を目指す医療と同じだけプロフェッショナルであるべきものなのです

2018年07月08日 | 医療

日本緩和医療学会が発刊している
専門医受験のためのテキストの
緩和ケアの総論の原稿依頼を受けてから、
もう一度、緩和ケアの歴史をだどったり、
文献を読んだりしていました。





思い起こすことが多く、
その後、執筆した単著著書の序文の中で、
なぜ、世界に緩和ケアの概念が生まれたのか・・
その原点に改めて触れながら、

私が緩和ケアに転向しようと思った頃
そして、緩和ケア病棟に勤務していた頃

よく聞かされたことを
思い出していました。






高度な医療の反省に立ち戻り
患者の人としての権利を取り戻すために、

疾病を治癒させることが困難だと診断された患者さん達が、
医療の谷間に落ち込んでしまわないように、

大切な一人の人として最大の配慮がされるために、

緩和ケアが生まれたことを。

 

===============

高度な発展によって疾病を克服し
寿命を伸ばすことこそが善であった過去、
臓器や疾病に目がいき
患者を一人の人として看るべき視点が
忘れられていた時代がありました。

20世紀半ば、
いかなる時も
患者は苦痛に配慮された医療を受ける権利がある
とした市民運動が、
英国から世界中に広がっていきました。

その象徴ともいえる
南ロンドンのセント・クリストファー・ホスピスは
1967年に設立されました。

しかし、2013年、
まだなお多くの国で苦痛が放置されているとして
欧州緩和ケア学会は、
「プラハ憲章(The Prague Charter)」
“Palliative Care: a human right in 2013” (1)
を公表するに至っています。

病や死を前にして、人は苦悩します。
避けることができない老いや病にあっても、
人はその苦悩を意味あるものに変え、
死に至るまで成長し続けることができる存在です。

しかし、
痛みをはじめとする苦痛症状は
その成長を阻害し、
相乗的悪循環をもたらすため、

その緩和は重要ですが、
単なる苦痛の減少だけが目的ではなく、

その先にある患者の生きる望み
-ある患者にとっては家族と共に過ごす時間、
ある患者にとっては抗がん治療の完遂かもしれません-

それらを現実にできるよう、
生きる意味を見出すエネルギーを得て、
患者自身が自分を取り戻すための
症状緩和であることを
大切にしたいと思います。

そして、
それは治癒治療と並ぶ専門的スキルであり、
すべての医療者が持つべきプロフェッショナリズムの構成要素でもあるのです。

(後略)
スキルアップがん症状緩和 序文より(最後の一文加筆あり)
=============================

(1) The Prague Charter
PDF:http://www.eapcnet.eu/LinkClick.aspx?fileticket=YGvfGW2iln4%3D&tabid=1871



TVドラマなどから受ける
疾病に立ち向かう医師の姿は、
あたかも敵を倒すような勇敢さを感じます。

でも、このQOLを維持・向上することに注視する医療(緩和ケア)も
また、それと同じだけの価値があるものであり、
静かな情熱をもったゆるぎないものを感じるのです。





本来、緩和ケアは、
このような人の権利を取り戻すために
生まれたものだったのですが、
日本の中で普及していかないのは、
この市民運動を経ていないことが
理由の一つとも言われています。
緩和ケアにいち早く、
政策医療が注目してくれたことは、
大変ありがたいことです。

この原点を私達医療者は忘れないで、
患者さんの権利を守る視点をもって、
症状緩和に取り組んでいきたいと思います。





この序文を掲載した拙書
スキルアップがん症状緩和」は
先月の日本緩和医療学会学術大会の書籍で
売上トップだったと聞きました。
手に取ってくださり、皆様、本当にありがとうございます。

今日も患者さんの役に立ちたいと思う医療者の方々の
僅かな一助となれば、これ以上ない喜びです。


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