緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

ある病棟で

2008年12月28日 | 医療

1)オピオイド
  ・リン酸コデイン 60mg(力価)   分3
  ・塩酸モルヒネ内用液 15mg  分3
2)非ステロイド性抗炎症薬
  ・ロキソプロフェン 180mg    分3

を内服している患者さんの疼痛コントロールの依頼がありました。
極めて神経近傍の腫瘍、炎症度も強く
患者さんから、NRS7~8/10の持続性の疼痛と聞くことができました。
合併症に慢性呼吸器障害がある高齢の方でした。

リン酸コデインは肝臓でモルヒネに 6~10:1で置換されますので
モルヒネに統一して総量を計算します。

現在60mgなので、6~10mg相当です。
最大量をとって、10mgとし、
ここに塩モヒ 15mgを加えると
一日量は、25mg。

診察時、腹部を触診するとあまり腸の動きは良くない印象。
加えて、呼吸器障害があるので、
モルヒネからフェンタニル貼付剤に変更してみることとしました。

フェンタニル(デュロテップ)MTパッチ(2.1mg)1枚は
モルヒネに換算すると 約30mg
ですので、一日総量25mgをこの30mg変更しても
オピオイドを十分増量したことにはあまりなりません。

ここで、パッチの一つ上の4.2mgにするか
鎮痛補助薬を加えるか
ステロイドを検討するか
こうした選択を行います。

患者さんの腫瘍は神経近傍でしたので、
神経障害性疼痛は混在していました。
加えて、患者さんが何度も何度もおっしゃっていた
かつての治療時の痛みの話を聞くと
多分、治療による神経の影響や疼痛に関する辛い記憶なども
今の疼痛に影響を与えていると推測できました。

ためらわず、鎮痛補助薬としてガバペンチンを選択しました。

したがいまして、私の推奨処方は、

1)オピオイド
 定時薬
  ・フェンタニルMTパッチ(2.1mg)1枚/72時間毎貼り替え
(貼付した後、12時間は今までのモルヒネは併用とし、以後はレスキューのみの対  応。リン酸コデインは中止)

 レスキュードーズ
  ・塩酸モルヒネ内用液(5mg)1包/回
    
2)非ステロイド性抗炎症薬
  ・ロキソプロフェン 180mg    分3

3)鎮痛補助薬
  ・ガバペンチン(200mg) 1錠 分1

としました。

で・・・
翌日・・・

病棟に行き、受け持ちと思われる看護師さんに声をかけると・・・

「患者さん、いいんですよ。
 入院して初めて笑ってくれました」

NRS 2/10 まで、改善していました。
辛さとしては、疼痛のことは少なくなり
呼吸のことや治療してもなかなかうまくいかないもどかしさなど
複雑な心境をご自身の言葉で語ってくださいました。
看護師さんがよくやってくれてという感謝の言葉も話され
痛みが改善すると
自分の中に抱える問題点を良い点、悪い点
両方から整理できるエネルギーがでてくるものです。


クリーンヒットでした・・

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8 コメント

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痛みが緩和されると (Chiyomi)
2008-12-29 01:31:45
 私たち看護師は、医師の処方によって、患者様の身体的な苦痛がまず緩和されると、本来の看護ケアが発揮できます。この患者様は、痛みから解放され、基本的欲求に対する様々なケアを十分に受けて、満足されることだと思います。複雑な患者様の心境を言葉で語ってくださると心理的な面のケアもできます。嬉しいなと思ったのは、医師からきく患者様の言葉です。そこにチームケアを感じるし、信頼関係も感じます。
 推奨処方に至るまでの説明は、わかりやすくて、とても参考になります。このまま写して、私はいつも持っている『さらに上級なスキルをめざす がん疼痛緩和』に追加しておきます。
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新しい部署で (おさる)
2008-12-29 14:29:20
先生いつもブログを拝見させていただいてます。先生が異動され、新たな場所で活躍されていることを知り、自分も頑張らなければならないと思いました。
私は今の部署に配属されて1年目です。認定の資格をとり、何から始めたらいいか悩んだ一年でした…。手探りでスタッフと勉強会を開いたりしてきました。しかし何も達成されていなく自分の未熟さが思い知らされました。
人を巻き込んで、その人に合わせたコンサルテーションが今後の課題です。できるかわからないですが、今自分ができることを、できるだけやってみたいと思っています。
先生のブログからたくさんヒントをいただいてます。新しい所でのリフォームはとても骨が折れそうです…お身体を大切に、良いお年を。
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さじ加減 (えび)
2008-12-29 15:40:30
まさに こんな処方とかを
匙加減というのでしょうね

知合いが闘病中で、ここしばらく
疼痛コントロールと嘔吐に悩まされて居たようです
「我慢しないで済む量を使って、
楽になったら徐々に減らせばいいんだよ」と
言われて それで良いんだぁって思ったとか

手のうちにどれだけ応用が効かせられるものを
持っているのか、日々の勉強と経験の賜物なんですね
まさにアート
返信する
コメントありがとうございます (aruga)
2008-12-31 00:35:03
Chiyomiさん
医師の役割を果たせていますねって言っていただいているようで、とても、励まされます。
さらに上級の~お手元に置いてくださり、本当にありがとうございます。使い込んでくださっている様子がわかり、本当にうれしいです。

おさるさん
一年間試行錯誤されながら、次の課題を見つけていらっしゃるようですね。素晴らしいです。そして、できることをやっていこうとされている・・今まさに進行形の同志ですね!病院は違っても、仲間に支えられていると思うと、勇気がでます。

えびさん
この上ない言葉を頂き、本当に嬉しい!
お知り合いの方も、よい言葉をかけて頂けて、お幸せです。また一年、積み上げていこうと思います。
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ブラボー (takako)
2009-01-06 21:19:55
ガバペンチンの威力に、私も嬉しくなったことが
ありました。
さすが・・・・・と、感動でした。
この処方はいいですね。

昨年末から緩和ケア外来を始めました。
問い合わせが多いのですが、まだ病棟が開設
されていませんので、全部受けられません。
これから頑張ります。
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コメントありがとうございます (aruga)
2009-01-06 22:38:21
takakoさん
やっぱりですか。ピッタリくると本当によく効きますよね。

病棟開設前の緩和ケア外来はベットを持たない外来だから、外来にぎりぎりの状態で通っていらっしゃる方をどうするか(見てあげたいのだけれど、入院ベットの確保をどうするか)というようなことが難しくないですか?ここで、かかりつけ医とよい関係の方であれば、まだよいのですけれども・・
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さじ加減 (ビタースイーツ)
2009-01-14 20:35:04
昔、母がPCUに入院していた時、担当医が不眠だった母の眠剤の調整を、私の意見も聞きながらやって下さいました。試行錯誤を繰り返した後、金ハルを1/2にロヒを1/4に割って乳糖と混ぜることで、やっといい結果が出ることになったのですが、毎晩この作業を繰り返して下さった看護師の方々には、本当に頭が下がる思いです。大げさも知れませんが、自分もこんな病院で死にたいと思いました。QOLに重点を置くPCUにこそ、医療の本来あるべき姿を見たような気がします。
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よい出会い (aruga)
2009-01-15 23:05:13
よい眠りで楽な一夜を過ごしてもらおうと一生懸命なスタッフの姿が見えてくるようです。心も温かになりました。
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