抗NMDA受容体脳炎
今月9日の毎日新聞に掲載されたことによるのか
FB上で目にしました。
緩和医療では鎮痛目的で、
NMDA受容体ブロッカーを用いることがあるため、
受容体名に目が留まりました。
腫瘍随伴症候群の一つ
この記事を見るまで私は知りませんでした。
2007年の報告に始まり、
症例集積が2011年のLancetで報告され、
最近、概念が生まれてきた疾患ですが
古い映画のエクソシストが
本疾患だったのではないかと言われています。
また、自然軽快したり、発作と軽快を繰り返すこともあり、
悪魔付きとして古くは言われていた疾病ではないかとも
考えられているように
古くから存在していた疾患でもあります。
古くからある疾患で、最近になって、
原因がわかってきた疾患ということになります。
卵巣奇形腫に混在する脳組織に生体が反応し、
抗体を産生し、それが脳に運ばれて、
脳炎を起こすことで、意思とはうらはらに顔が動いたり、
からだがエビぞりになったりするジスキネジアや
精神症状を起こす、てんかん発作のほうな疾患です。
イオングルタミン酸チャンネルには
NMDA受容体
AMPA受容体
があり、
NMDA受容体には
NR1とNR2のサブユニットがあります。
そのうち、重要エピトープは
NR1上にあり、それにたいするIgG抗体が
本疾患に関与しています。
(NMDA受容体の中でも
一部分的なバインドを示す抗体)
卵巣奇形腫は、腫瘍の中に毛髪、皮膚、骨などを認めるものですが、
その中に脳組織が含まれるとそれに対する抗体が産生され、
卵巣の腫瘍から血中に入り、脳内に運ばれた抗体が
中枢のNMDA受容体に結合し、
機能が抗体により抑制されたり、
受容体数が減少することで
グルタミン酸作動性ニューロンや
ドパミン作動性ニューロンの
脱抑制状態となるものと考えられます。
そして、それによる不随運動(ジスキネジア)や
緊張性昏迷を呈するものと
思われます。
2013年の世界から収集された577例において
発症年齢8か月~85歳(中央値21歳)
18歳未満 37%
45歳以上 5%
女性 81%
腫瘍合併率 38%
女性で腫瘍合併している割合 46%
男性で腫瘍合併している割合 5%
腫瘍の94%は 卵巣奇形腫
腫瘍が認められれば、
外科的に腫瘍切除し、
すでに神経症状を呈していれば、
血漿交換やステロイドパルスで抗体除去と産生抑制をさせ、
保険適応外ではありますが、
リツキシマブの投与を行うと著名な改善を認めるようです。
腫瘍がない場合、今回の毎日新聞の記事となった方のように
腫瘍がないけれど卵巣を摘出し、劇的な改善を認めた方もいらっしゃるようです。
http://mainichi.jp/articles/20161208/k00/00e/040/262000d
それにしても、NMDA受容体ブロッカーであるケタミンで
不随運動を惹起させたと感じたことは一例もないのですが、
これは抗体が結合する部位やシグナルが異なるからなのでしょうか。
NMSA受容体ブロッカーである
薬物治療を行うとき、
こうしたことをもっと意識したいと思いました。
参考資料
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8A%97NMDA%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93%E6%8A%97%E4%BD%93%E8%84%B3%E7%82%8E
https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/054121098.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/clinicalneurol/49/11/49_11_774/_pdf