がんになったとき、子供たちも治療の輪に（２）

お母さん、死んじゃうのかなって思ったこと・・・・・


がんと聞くと、誰でも、頭によぎることです。

どんなに早期でも、
完治が約束されるほどのものでも。



子供たちに伝えれば、
親にとっては、そう思われてしまうことも辛いことですし、
子供たちにとっては、そう聞くのも憚られることかもしれません。

でも、辛そうにしているお母さんをみると、
聞きたくても聞けないことでもありますし、
それを口にすると、本当にそうなってしまう。。
と感じるかもしれないので、
大人の感覚でいえば、縁起でもない・・
というような感覚を無意識に持つかもしれません。



ちょうどS-1が出たころの話でした。
治療主科から、治療方針を確認していました。

新しい薬がね、使えるようになったのよ。
口から飲む薬。
だからね、症状をとって、飲めるようになったら退院できるの。
お母さん、頑張ってるのよ。




でも、状況からすると、
一度は退院できるけれど、
治し切ることは困難と思われました。

初回のことでしたから、
治るとも、治らないとも伝えず、
事実だけをそのまま話しました。




ぽろぽろと涙がこぼれていました。

でも、こうした時間を一緒に持つことが
とても、意味のある時間だと、
みんな理解してくれました。




予定通り、患者さんは症状コントロールができ、
内服ができるようになって、
S-１導入後、副作用も大きくないことが確認でき、
退院されました。





数か月後・・・
腹水がたまり、黄疸が出て、入院されました。

退院は難しい状況でした。

日中は、学校があるので、
中々お子さんにはお目にかかれませんでしたが、
会うと色々話をしてくれました。

学校の様子を患者さんが教えてくれることもありました。




だんだん意識が低下されていく中でも、
お子さんは、足を運んでくれました。

従兄さんに、
お母さんが死ぬかもしれないということを
話し合うことはありますか？
と尋ねたこともありました。

直接言葉にすることはないけれど、
たぶん、死ぬと思っているだろうと思います。
と、お話しくださったように記憶しています。

日々の生活は大丈夫です。
退院していた時の、お母さんの姿をよくみていたと思いますから。




死ぬか、死なないか最初の時には、
触れていませんでしたが、
退院して、最初は元気だったのが、
段々と弱弱しいお母さんになっていくのを、
自分で感じていたのでしょう。

この数か月の彼の姿が、
なんとなく、見えるようでした。





後、数日で最期を迎えられるような時、
後で、お父さん（夫）からジャンケンの話を聞きました。

日曜日に面会にいらっしゃったそうです。
声をかけても、ほとんど反応がない状態の患者さんに
普段通りに、普通に話かけたりしていたのだそうです。

（これは、本当にすごいことだと思いました）

そこに、従兄さんもいらっしゃって、
お子さんたちとジャンケンを始めたのだそうです。

じゃんけん、ぽん

と賑やかにしていたとき、
お母さん（患者さん）が確かに、
じゃんけん・・
っておっしゃったのだそうです。

もう、ほとんど、意識がない中で・・
そのことを、お子さんも、ずっと話してくれたそうです。




死を前にしつつ、
共に過ごす時間があって、
それが、今の時間を作っているのでした。

最初だけ、がんという病気の話をしましたが、
その後は、お父さんや従兄さんと一緒に歩み続け、
退院したお母さんがいて、
数か月過ごす間に、
お子さん自身の感じ方の中で、
病気があること、いつかお別れがくることなどを
今という現実に近い感覚を持つことができたのだろうと思います。



こどもたちにも、きちんと病気の話をすること。
質問から逃げないこと。
最初に、その時を持てば、
その後は、質問はいつでも引き受ける姿勢だけを持っていれば、
こどもたちなりに、感じ、理解し、決心していく様を経験しました。

横でずっと見守っていて、
その力強さに、何て愛おしいものなのかと
感動しました。

じゃんけんの話が、
それを物語っていました。





今頃、このお子さんは、
おいくつになられているのだろう。
お仕事などは、どうなさっているかなあと
雨の中、散りゆく桜を見ながら、
ふと思い出しました。