緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

その処方。どこを目指していますか?

2019年10月07日 | 医療
時々、他院の患者さんのことで
相談を受けたり、
講演に招かれたときの症例などで耳にするのですが、
こんな感じの処方・・・・
実は、少なくありません。



例えば・・・
70代前半、抗がん治療は終了し、
主に症状緩和を行っている患者さん。

食事は数口
輸液はビーフリード500ml
CRPが高いので、セフェム系抗生剤点滴で1日2回投与とのこと。

採血では、アルブミン1.5、CRP15
予後見通しを医療スタッフに聞くと3か月・・・
ケアゴールを尋ねると
「う~ん、始めて聞く言葉です。」






ケアゴールという言葉は、
英語圏の緩和ケア医療者がよく使うのですが、
日本語でいうゴールとは
意味合いがちょっとちがってくるかもしれません。
日本語では、最終的な到達地点のような意味になりますが、
ケアにおける短期目標、長期目標にわけながら、
チーム医療スタッフが、
皆で同じ方向を向き、
患者さんのケア計画の
段階的な次の目標をさします。


アルブミンは、1.5というのです。
かかわっていた医療者は、
予後はかなり楽観的に考えているのではないかと思われ、
それで、ケアゴールを聞きたかったのです。





ビーフリードは末梢輸液です。
500mLあたりアミノ酸15g(窒素として2.35g)、
非蛋白熱量として150kcal
ビタミンは、ビタミンB1のみで0.96mg
です。

短め週単位くらいの
(3日ごとに病状が変化するような
残った時間としては2,3週間)
予後の患者さんであれば、
こうした輸液もよいと思います。

高カロリー輸液を用いると、
体が使い切れないたんぱくなどで
尿素窒素が高値になってしまいますから。

日単位、時間単位で病状が変化するような場合、
残った時間は数日となれば、
肝、腎、ほぼ代謝はされなくなりますから、
アミノ酸は含まれていないものの方が
むしろよいわけです。

一方で、本当に数か月の見通しあるなら、
高カロリー輸液を検討すべきです。
数か月の予後にもかかわらず、
アルブミン1.5なら、in不足を疑います。
しかも、抗生剤を投与しているのですから
どの程度治す治療をし、
その治す治療とかみ合った
カロリー、栄養素、ビタミン、ミネラルなどを
十分検討しなければいけません。



参考までに、ビタミンB1が欠乏すると
乳酸アシドーシスのリスクが増加します。
さらに、ウイルニッケ脳症のリスクも増加し、
せん妄の原因となったり、
意識レベルにムラを作ってしまったり
することがあります。

ちなみにビタメジンには
100㎎のB1が含まれています。
せん妄のことを考えれば、
ビーフリードのB1 1㎎弱では
足りなくなることも予測できます。

つまり、輸液は消極的で
抗生剤は積極的な処方となっていて、
ちぐはぐな印象を受けるわけです。





ある薬剤の使い方は、Withdrawな引き気味の使い方、
ある薬剤は攻めの使い方、
 ・
 ・
 ・
ではなく、
同程度の傾斜に薬剤の使い方をそろえることが、
患者さんが徐々に衰弱していく過程に
無駄なものを蓄積させず、
必要なものは投与することで、
落ち着いた時間を作りだすことに
つながるのです。

上手な症状緩和は、
けして、薬剤をどんどん追加投与すればよいものではありません。

加えすぎてもいけないし、
加えなくてもいけないし、
その下限をちぐはぐにならないように
そろえていく。
ここが、専門的緩和ケアの腕の見せ所なのです。





これは、がんだけではなく、
様々な疾病のEnd-of-life careでも
同じことが言えます。
がん、心不全、腎不全、肝不全など
代謝状況が変わり、
なおかつ、予後見通し・・
つまり、疾病の軌跡の角度がそれぞれ異なることになります。

疾病ごとの傾斜に合わせた
疾病ごとのさじ加減が求められ、
これは、非がんを含めるようになってきた緩和ケアの
さらなる難しさであり、醍醐味でもあるといえましょう。

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2 コメント

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Unknown ()
2019-10-09 07:16:42
有賀先生
こんにちは、先日シンポジウムで久しぶりに先生の講義聴講させていただきました。こちらの記事もですが、先生の講義をお聞きするともっと学びたいとワクワクする気持ちと学び続けなければと気が引き締まります。勝手ながら先生の講義が支えになってます。ありがとうございます。
返信する
Unknown (e3693)
2019-10-21 08:25:21
春さん
講義が支えと言って頂き、その言葉にこそ励まされます。こちらこそ、ありがとうございました。
返信する

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