後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔199〕全米図書賞の多和田葉子さんは『わたしのなかからわたしがうまれる』の翻訳からスタートしたのは意外と知られていませんね。

2018年11月17日 | 図書案内
 芥川賞やドイツの「クライスト賞」など名だたる文学賞を受賞していて、ノーベル文学賞の呼び声高い多和田葉子さんが、アメリカで最も権威のある文学賞「全米図書賞」を受賞しました。最近の小説はそれほど読んでいない私ですが、この受賞には個人的な因縁があり、そこはかとない悦びを感じています。
 意外と知られていませんが、多和田さんの文学的なデビューはドイツ語の翻訳からスタートしたと言っていいと思います。

●『わたしのなかからわたしがうまれる』イレーネ・ヨーハンゾン著、子安 美知子、多和田 葉子共訳、晩成書房 1982/6

 編者のイレーネ・ヨーハンゾンさんは、当時ミュンヘンのシュタイナー学校の宗教の教師でした。様々な問題を抱えた十代の子どもたちに作文を書かせたのが本になりました。それを手渡された子安美知子さんは早稲田大学でそのドイツ語の本を学生たちと読み合いました。その中の一人が多和田さんでした。日本で出版するにあたって、まず多和田さんが翻訳し、それに子安さんが手を加えたということです。
 子安さんはミュンヘンのシュタイナー学校に娘さんを入学させた体験を『ミュンヘンの小学生』(中公新書)にまとめ大変な評判を呼びます。教科書も通信簿もない自由教育の学校としてシュタイナー学校に一気に注目が集まったのです。イレーネ・ヨーハンゾンさんとの出会いはその学校でのことでした。
 『ミュンヘンの小学生』は毎日出版文化賞を受賞します。授賞式でその隣に座ったのが冨田博之さんでした。日本演劇教育連盟の委員長で、主著『日本児童演劇史』(東京書籍)で同賞を受けるのです。子安さんを夏の集会にお呼びして講演をしていただいたり、「演劇と教育」にシュタイナー教育の記事が頻繁に載るようになりました。
 当時私は日本演劇教育連盟で常任委員をしていて、「演劇と教育」の編集委員でした。子安さんや娘さんの子安文さんとの接触もあったので、ひょっとして多和田さんともどこかでお会いしているかもしれません。

 受賞の情報をNHKは次のように伝えています。

■NHKニュース (2018年11月15日 18時11分)
《米最高権威の文学賞 芥川賞作家の多和田葉子さんが受賞》

 アメリカで最も権威のある文学賞「全米図書賞」の翻訳文学部門に、芥川賞作家で現在ドイツに住む多和田葉子さんの「献灯使」が選ばれました。日本語で書かれた本の翻訳がこの賞を受賞するのは1982年に樋口一葉の作品集の翻訳が受賞して以来36年ぶりです。
 ニューヨークで14日、ことしの全米図書賞の授賞式が開かれ、このうち「翻訳文学部門」に多和田葉子さんが日本語で書いた小説「献灯使」が選ばれました。
 多和田さんは東京生まれの58歳で、早稲田大学を卒業後、昭和57年にドイツに移り住み、平成5年に「犬婿入り」で芥川賞を受賞し、ドイツ語でも数多くの小説やエッセーなどを発表し、2016年にはドイツで最も権威のある文学賞「クライスト賞」も受賞しています。
 今回受賞した「献灯使」は、大地震や原発事故といった大災害に見舞われたあと鎖国状態になった日本が舞台の近未来小説で、100歳を超えて健康なまま生き長らえる作家と、歩くことさえままならないひ孫の姿を通じて、時代を覆う閉塞感(へいそくかん)を描写しています。
 全米図書賞には、1971年に川端康成の「山の音」、1982年に樋口一葉の作品集を、英語に訳した作品などが選ばれていて、日本語で書かれた本の翻訳がこの賞を受賞するのは、36年ぶりです。

●多和田さん「これを訳したいと野心起こる小説書きたい」

 多和田葉子さんは30年以上にわたってドイツで創作を続け、ドイツ国内でもこれまでに20冊を超える小説や詩集などを発表しています。
 1つの小説を日本語とドイツ語の2つの言語で同時に書き進めるなど実験的な創作手法をとった作品もあり、さまざまな言語表現の可能性を探ってきました。
 作品はこれまでフランス語や英語など10を超える言語に翻訳されています。
 多和田さんは15日と16日、母校の早稲田大学で行われるイベントなどに参加するために日本を訪れていて、受賞は式が行われたニューヨークからのメールで知ったということで、「翻訳者や友人の作家、出版社の社長らが喜んでいる写真がたくさん送られてきました。『献灯使』は暗いと言えば暗い話でして、アメリカというと私たちは “ハッピーエンド” を想像しがちですけど、それとはまるっきり逆の作品が受賞したというのは考えれば考えるほどうれしいです」と喜びを語っていました。
 そのうえで「『献灯使』という小説には日本語でしかできない言葉遊びがとても多いので、いろんな技を使って英語に訳してくれた翻訳者の功績が大きいです。こういう訳しにくい本を見ると情熱的な翻訳者は燃えるそうですので、これからも『これを訳してみたい』という野心を起こさせるような小説を書いてみたいです」と話していました。

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