78回転のレコード盤◎ ~社会人13年目のラストチャンス~

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◎『聲の形』は「いじめ問題」の本質に向き合った稀有な作品

2016-09-24 14:15:47 | ほぼ週刊サンマイ新聞
『君の名は。』の感動からまだ一ヶ月も経っていないというのに、当方はまたしてもスクリーンで泣きそうになるほどのカタルシスを得るのだった。京都アニメーションの最新作となるアニメ映画『聲の形』である。まさかの興収100億円を突破し絶賛の声が多い『君の~』に比べ、こちらは賛否両論になると思う。だがそのどちらかを決めるのはあなた自身であり、一部の批判意見に惑わされず一度その目でご覧いただきたい。
 当方は原作未読なのでこの映画を100%理解したとは言い切れないが、それでも大いに感動したことは事実だし、3つの点において正面から向き合ったことを賞賛したい。

(以下ネタバレあり)

 1点目は「いじめ問題」である。この手のものを取り扱った作品は『ライフ』など数多くあるが、『聲の形』はその本質に向き合った稀有な作品であると言いたい。中学時代にいじめられていた当方が今になって思うのは、確かに悪いのは加害者だが、被害者もいじめの原因を客観的に考え、改善しないことにはいつまで経っても成長できず、どこへ行ってもいじめられる可能性があるということ。そしてそれを怠ったまま高校生になってしまったのが西宮硝子なのだ。彼女は小学時代、聴覚障害であるが故にコミュニケーションを上手く取れず、石田将也を始めとするクラスメイトからいじめを受けるが、上手く言えないながらも「ごめんなさい」と謝るばかりで、自身のコミュ力という原因に向き合おうとしない。最終的には将也と取っ組み合いの喧嘩になり再び転校することに。補聴器を破損するなど最も過酷ないじめを犯した将也は、今度は自身がいじめられる立場になり、こちらも成長できないまま高校生になってしまう。教室では孤立しクラスメイトの顔を見ない、話を聞かない、あえて耳(心)を塞ぎ“聞こえない”ようにしていたという意味では西宮に似た境遇とも言える。その二人が笑い合い、涙し、時には家族や友人までも巻き込みぶつかり合いながらも心を開いていく物語なのである。

 そして2点目は「手話の描写」と向き合ったこと。元々京アニはクオリティーの高さに定評があったが、リソースを大きく割くと言われているこの難解なシーンを丁寧に描いてくれたことでまた一つ伝説を作った。締切が12回も訪れる1クールのTVアニメではなく、短い尺に多大な準備時間を費やせる劇場版という選択にしたのも正解だった。もちろん他にも喧嘩シーンや背景など作画における見所は細部にわたり数え切れない。3点目は「発音」。聴覚障害という難しい役を指導した方々と、それを受けて見事に演じきった早見沙織に賛辞を送りたい。

 いじめられたトラウマといじめた後悔、それぞれが消せない過去と真剣に向き合いながら成長するという新たな切り口で「いじめ問題」の本質を描いた『聲の形』。いつの時代もいじめが存在するこの国だからこそ、永遠に語り継がれる作品であって欲しい。

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