闇夜を走る小田急線の車内でじっくりコトコト揺られながら、目指しているのは終点、新宿だ。
二十二時をまわった頃の車内は普段の喧騒も嘘のように空いていて、少し寂しい。
夜行での旅と言うのはいい。
一度寝て、リセットした状態から旅に挑むのではなく、日常と地続きの状態から旅は始まる。
気持ちが日常生活から非日常的な旅へとゆるやかに切り替わっていく。
毎日のように帰宅時に眺める闇夜の多摩川。
車窓から見る大きな川は一日が終わる「おかえりの風景」。
しかし今日だけは「おはようの風景」だ。
世間では相変わらずの一日が終わろうとしているというのに、何処か遠くを見ている自分がおかしい。
すれ違う疲労と安堵を詰め込んだ下り列車には、いつもの自分がいるような気がした。