フランクおじさん(2020年製作の映画)Uncle Frank 製作国:アメリカ上映時間:95分
監督 アラン・ボール
脚本 アラン・ボール
出演者 ソフィア・リリス ポール・ベタニー ジュディ・グリア スティーヴ・ザーン スティーヴン・ルート
監督 アラン・ボール
脚本 アラン・ボール
出演者 ソフィア・リリス ポール・ベタニー ジュディ・グリア スティーヴ・ザーン スティーヴン・ルート
目次
- 四コマ映画『フランクおじさん』
- 1970年代のアメリカが舞台
- 「目新しいものがない」「何度と語られてきた」「大きな起伏がない」
- 父がフランクの遺した衝撃の言葉
- さて、
- ここまで書いといてアレなんですが、
- 四コマ映画の5コマ目
- ネタバレは以下に
1970年代のアメリカが舞台
監督は1999年には『アメリカン・ビューティー』の脚本でアカデミー賞とゴールデングローブ賞を受賞したアラン・ボール。
彼はゲイであることを公表していまして、『フランクおじさん』の主人公フランクはゲイであり年代的にも大きな食い違いがないので、監督の自伝的作品なのかなと思いきやそうではないらしい。
むしろフランクのキャラクターと人生は、監督の父親に部分的に基づいている、とIMDbに書いてあります。ムムムッ!
イントロがだいぶ不快だけどちょっと我慢して
イントロがだいぶ不快なんですけど停止ボタンを押さないでください。このシーンは田舎の人たちの雑さ、卑猥さ、暴力的な男性性を批判してるシーンです。
その対比として直後に、スマートでおしゃれでカッコよくて知的で人の目を見て話ができるフランクおじさん登場してきます。姪であるベスは憧れています。
ラストシーンとの強烈な対比にもなっています。
イントロのシーンは不快なシーンですが、大事です。映画館だと閉じ込められてるからほとんどの場合最後まで見ますけど、配信だとね、、止めちゃうよね。めっちゃわかりますけど。この映画のイントロはぜひ我慢して通り過ぎるのを待ってください。
「目新しいものがない」「何度と語られてきた」「大きな起伏がない」
もしかしたらこの映画を「目新しいものがない」「何度と語られてきた」「大きな起伏がない」と感じる人も多いかと思います。
ゲイであることに罪悪感を感じている主人公と、
「いつまでも何をゴチャゴチャ言ってんの!」と叱る女性キャラ(ベス)。
「いつまでも何をゴチャゴチャ言ってんの!」と叱る女性キャラ(ベス)。
主人公を支える明るいキャラのパートナー。
そして、宗教的問題でゲイである息子(家族)を憎んでしまう父。その父を止められない家族。
さらに、その父が亡くなったことでそれらの問題が一気に衝突し……という展開。
これらのキャラクターや展開はかなり典型的なものと言わざるを得ないですね。
父がフランクの遺した衝撃の言葉
ただ、父が残した遺書には家族それぞれに宛てた言葉がありまして、父がフランクに遺した言葉ってのがまぁ衝撃的で、、、これはちょっっっと予想しきれてなかった展開で、、、だいぶビックリしました。。
この遺書はすごいですよ。脚本監督がゲイであるからこそできた展開かと思います。この思い切り方、この攻撃性。「そんなに良い話になんかしてやんねえぞ」という怒りを感じますね。
さて、
「いつまでも何をゴチャゴチャ言ってんの!」とベスに叱られそうなので、僕の個人的な感想を。
あ〜ついにこの映画が来てしまったかという感じです。
この映画がめっちゃくちゃ好きなわけでもないし(『あのこは貴族』の方が好き)、
めっちゃくちゃ心打たれたわけでもないのですが(『燃ゆる女の肖像』の方が打たれた)、
初めて「この映画は俺を語ってる映画」と思えました。
めっちゃくちゃ心打たれたわけでもないのですが(『燃ゆる女の肖像』の方が打たれた)、
初めて「この映画は俺を語ってる映画」と思えました。
僕の場合は、うわ〜この映画ビンビン来るわ〜ハマるわ〜と思っても、描かれているのが男女の恋愛だったり、男女の夫婦だったりすると、無意識で自分用に変換しながら観ている。
頭の中で自分用に変換することが当然だった頃は感じなかった違和感というか、めんどくささというか、不平等感みたいなものを感じるようになってきました。
めっちゃハマっても「言うても俺とは違うんだよなぁ…」という諦めが脳内にフワッと浮かんで、、なんかテンションが下がる。。
年間150本以上の映画を観ていてそのほとんどで「言うても俺とは違う」とちょっと感じてしまってた。
もちろん、自分とピッタリズッポリ合致する映画なんて存在し得ない(おそらく自伝的映画を撮った監督でさえも)のはわかってますよ。
でも、恋愛とか夫婦とか家族という大きなテーマで毎度毎度「言うても違う」と思っちゃうってのは、さみしい。
じゃゲイ映画ならば「最高!俺にピッタリズッポリ!」って思うかと言うと、そうでもない。むしろゲイ映画でそんなに好きな映画はないんよね、そう言えば。
近いからこそ違和が強調されちゃうのかもしれない。作品として「よくできてる」とか「好き」とかはあるけど、「あ〜も〜俺の映画」っていうゲイ映画はパッとは思い浮かばない。
ここまで書いといてアレなんですが、
『フランクおじさん』と僕がどれほど合致しているのかって言うことをここでツラツラ描く勇気はないです。。
ま、、、フランクおじさんほど僕はセクシーでも知的でもないけれど、年齢はかなり近いですね。
家族に割と真面目なキリスト教徒がいる、と言うのも同じですね。
あんなに豊かな髭はないけれども、長年同居しているパートナーがいるってのも同じですねぇ。
30代くらいからお互いの家族というものにも向き合って行動してきたし、40代になって、お互いの家族も歳をとって、死やそれに近いものを迎えるフェーズになってきて、おそらく『フランクおじさん』で描かれていることと近い何かが起きることでしょう(あんな激しいことは起こり得ないと思いますが…)。
ここまでの合致、というか、こういう合致の仕方をする映画って今までなかったもので。。。
四コマ映画の5コマ目
四コマ映画と言いつつ5コマ目があったりするのですが、これは映画の中でフランクが母親から言われるセリフです。
言われたことのない全ての人に。
言われたことないかもしれないけど、あなたはこのセリフを言われる価値がある人だということは揺るがない事実だよ、と。
ネタバレは以下に
父の葬式。弁護士が父の遺書を読み上げる。
家族それぞれに遺すものを読み上げるが、一向に長男であるフランクの名前が出てこない。
最後の最後でやっとフランクの名前が出てくる。弁護士はすでに内容を知っているので相当な覚悟で読み始める。
「そして私の長男。フランシス・マッケンジー・ブレッドソーJrには、男と不潔で不自然な倒錯的行為への嫌悪感と私の名前を継がせたことへの恥辱の念のみを遺すものとする。」
家族みんなショック。
ショックっつっても、フランクの兄は「え?俺の兄貴ゲイなの?」とビックリしていて、
母や姉、義理の妹は「最後の最後までフランクをこんなにも苦しめるなんて!」という悲しみ。
母や姉、義理の妹は「最後の最後までフランクをこんなにも苦しめるなんて!」という悲しみ。
フランクは逃亡。若い頃に初めて付き合った(?)同年代の男の子(サム)を苦しめた後悔の念もあって、その男の子との思い出の湖へ。
その湖はサムが自殺(?)した場所。フランクはずっとそのことに苦しんでいた。
心配してフランクを探すベスとウォーリー(フランクのパートナー)。
湖に行くもフランクの姿はもうない。
翌朝、フランクは死んでしまったのか…という空気の中、酔っ払ったフランク登場。
責めるウォーリー。爆発するフランク。
フランク「お前はオカマ!変態!ホモ野郎!」とウォーリーに叫ぶ。
フランク、ウォーリーを殴って外出。
フランク、父の墓の前。
フランク「面と向かって言えなかったってことだろ。腰抜けめ。」
父の墓前に備えてある花を奪って、サムの墓に備える。
フランク、泣き崩れる。「僕はなんてことを。許してくれ」
フランクはサムに対して父親から言われた言葉をぶつけてしまった過去がある。フランクは父から「お前はオカマ!変態!ホモ野郎!」と言われた。それをサムに言ってしまった。その後、サムは湖で死んでしまった。
ウォーリー登場。
フランク「僕に家族はいない」
ウォーリー「僕が君の家族だ」
抱き合う2人。
そこにベス。
ベス「どんな人間になるかは自分自身の意思だって私に言ったけど、あれは嘘?あの言葉が私の人生を変えた。でも今は周りの人に否定されたら本当の自分になれないって言ってるじゃない」
フランク「僕の家族に一緒に会いに行かないか」とウォーリーに。
フランクとウォーリー、家に戻る。
弟「何も問題はない。兄さんは兄さんだ。俺にとってはそれだけだ」
兄弟、抱きしめ合う。
フランク「紹介するウォーリーだ」
ウォーリーが弟をハグする。
弟「……問題ない」
キティ(弟の妻)「この出来事のおかげであなたのことをもっと好きになったわ。私の美容師もゲイよ。今度ぜひ紹介させて」
フランク「ウォーリー、義理の妹のキティだ」
ウォーリー、キティの頬に挨拶のキス。
キティ「あなたってすごく良い匂いがするわ。他の人もみんなそう?」
フランクとウォーリー「…………そう!」
ネヴァ(フランクの姉?)「ウォーリー!ずっと会いたいと思っていたのよ!」
ボー(ネヴァの夫)「悪いが失礼するよ」と去っていく。
ネヴァ「あの…」
フランク「良いんだ、どうってことない」
おば(父の姉)「昔ね、ダンス教師をやってる男がいたの。ラテン系だかメキシコ人だか。確かカルロスだかアントニオだかそんな名前だったと思うけど、みんな彼のことをこう呼んでた、チビのプレッツェル。なんとオカマだったの。オカマはあなただけじゃないのよ。最近その手の人が多いそうね。みんな地獄に堕ちる。そうよね」
フランク「わかってるよ、今のが一番おばさんにとって控えめな言い方だってことがね」
おば、キョトーンとして何もわかっていない表情。自分で何言ってんのか、何やってのかわかってない人。
フランクの母「フランク、お前は私の大事な宝物。この先も永遠に変わらないわ。」
母に抱きついて泣くフランク。
母「大丈夫よ、フランク。お父さんはずっと恐れてたわ。そうなんじゃないかって。お父さん、ジャズパーおじさんを嫌ってたの覚えてる?」
フランク「ジャズパーおじさんが?」
母「ええ、そうなの。だからもしかしたらあなたも、と。」
フランク「知ってたの?」
母「母親だもの」
母「あの人は?」
フランク「こちらはウォーリー」
ウォーリー「ずっとお会いしたいと思っていたんです。ブレッドソーさん、この度はお気の毒でした。」
母「ありがとう。顔の髭の量が髪の毛と同じね」
ウォーリー「ブレッドソーさん、あなたにプレゼントが」とブレスレットをプレゼントする。
母「お母さんと呼んで」
ウォーリー「お母さん」
母「フランク、あなたは外して。」母とウォーリーが2人で仲良く話し始める。
フランク、庭へ。
途中の廊下でネヴァとボーの会話。
ネヴァ「私の弟よ。間違ってない」
ボー「聖書では罪と書かれてる」
ネヴァ「聖書では奴隷の使用が正当化されてるじゃない!今は20世紀よ」
フランク「元気かい」
ベス「ええ、おじさんは?」
フランク「まぁまぁ」
その後、裏庭で家族集まってほのぼのと笑顔で会話。
冒頭での不快な家族の集まりとは天と地ほどの差がある。
ベス「私たち一人一人がいつも望んでいた本当の姿がこの午後のひとときの中に。この裏庭にあった。」
おわり
自分が望んでいた本当の姿になれたのはフランクだけではなかった。
母は息子に「そのままの姿で愛してる」と言える自分になれた。
弟は、父をマネて暴力的な男性性を発揮した自分から脱却できそう。
キティ(義理の妹)は弟や義理の父の手前、フランクに愛情を示すことができてなかったけど、ストレートに愛情を示せるようになった。
姉はもしかしたら今まで夫に歯向かえてなかったけど、弟を守るために夫婦対等に戦える自分になれたのかも。
ベスも、今では家族をどこか見下して諦めていたけど、それぞれが愛すべき人物だと知ることができた。
ウォーリーも2年に一度国に帰っているけど、偽の妻の写真を持って帰っていた。そのウォーリーもついに嘘をつくことなく家族を得ることができた。