FCC日記

子どもたちのクライミングスクールの活動記録と教育、スポーツ、そしてクライミングに関して想うこと。

ユースチームのオーストリア合宿 所感1 ~インスブルック~

2008-02-10 21:03:12 | クライミングレッスン報告
かつて「パフォーマンスロッククライミング」という本が出たとき、ジムでトレーニングするクライマーの姿を良く見かけたが、いつの間にか消滅。
登っているだけで十分トレーニングになる、という空気は日本には根強い。
それはコンペに出ているクライマーにおいても多くの場合例外ではないようだし、ジュニアの選手においても、その多くは同様だろう。

昨年、今年と2年続けてオーストリアに行く機会を与えていただき、その中で最も印象に残った点。それはコンペに出るジュニア選手は、はっきりとアスリートとしての生活が要請されている、という点であった。

選手たちは週に5日、ハードなトレーニングメニューをこなし、そのうち2日は学校が始まる前に朝練をこなす。

インスブルックでトレーニングしている子どもたち(D.ラマ君などもその一人)の多くは地元のスポーツギムナジウム(14歳から5年間の学校)に通っているが、学校は学業不振の選手については協会と連絡を取って競技会への参加を認めさせない場合もあるため、生徒たちは学校生活もきちんと送らなければならない。
あるスポーツで目覚しい活躍をしている選手でも、学業への甘えを学校は許さない。学業および学校生活と選手生活の両立。それを彼らはしっかりとこなさなくてはならないのだ。

クライミングの指導をしているライニ氏は子どもたち一人一人の生活のほぼ全てを把握。
彼らの一年間の出場コンペにあわせて年間のトレーニング計画を個別に立て、その年間計画に沿って日々のトレーニングメニューまでを緻密にスケジューリングする。
それには大まかな方法論が援用されるが一様ではなく、あくまで個別な対応がなされている。
トレーニングの内容はかなり激しい。
なので、選手が怪我やバーンアウトすることなくトレーニングをこなしていけるよう、個々の選手のモチベーションや私生活での精神状態、発育の状態など、実に注意深く観察・把握した上でトレーニングを実施している点が印象的であった。

さて、具体的なトレーニング内容であるが、はっきり言ってさほど目新しいものではない。部分的には私たち自身も経験したり、見たり聞いたりしたものがほとんどだと思う。
では何が違うのか?
取り組む姿勢である。
彼らは、実に真摯に、真剣にトレーニングと向き合っている。
コンペに出る選手はアスリートであり、インドアはあくまでトレーニングの場。彼らはトレーニングとクライミングを、しっかりと区分けして認識していた。

日本の場合、こうした姿勢は希薄であるように思われる。
クライミングはクライミング。インドアでもアウトドアでも何度も何度もテンションし、ムーヴを固めてレッドポイントをする。それがトレーニングになるのだ、と思っている。
インスブルックでは、まず今の自分のレベルを知ることからトレーニングはスタートする。
何度も何度もテンションするようなら、それは自分のレベルを正確に把握できていない証拠だ。

ジュニアのクライマーにとって、こうした姿勢でクライミングと取り組むことは大変有意義なことである、と私は考える。
まず今の自分を理解し、受け入れた上で真剣にトレーニングし、生活も律する。
それによって自分が強いクライマーとして成長していることが認識出来る瞬間が来る。
努力も才能のひとつであることを理解する。
こういったことを他のスポーツと同様、クライミングにおいても体感することが出来るのだ。
この経験によって得た自信はジュニアの選手にとって一生の宝となるだろう。

アスリートとしての意識の導入。こうした取り組みの姿勢が彼らを強くしているのだ、と私は思う。